※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

キリノート。
それに記された情報は数多あれども、
”特記事項”と記されたページだけは、書いた本人である彼女以外、誰も見た事が無いという。
しかして今日も、練習の合間にはそのページを見てふふふ、と微笑を浮かべる彼女の姿があった、のだが―――


―――起床時間は、7時。
―――好きな揚げ物は、コロッケ。
―――あと好物はカレーライス。
―――好みのタイプは…


ぱたん。

「…女の子のノートを見たがったりしちゃ、ダメっすよ」

いつのまにか覗き込む視線に気付き、瞬息にてページを閉じる。
視線の主は―――そのままそのページにおける、著述の対象。

「なんでだよ、減るもんじゃないんだろ?」

どれどれ、といういつもと変わらぬ調子で覗き込んだものの。
いつになく露骨な反発に、逆に不快感を顕にする視線の主…すなわちコジロー。
確かに減るもの、ではないのだが―――

「減る…んんん、減る部分もありますなー…」
「何だそりゃ。俺が消しゴムでもかけるってのか?…っと」
「よっ。ダメですってば」

軽妙な会話を重ねながら、掴み取ろうとする手と、ひらひらと逃げるノート。
柔道の組み手争いにも似たそれが熾烈を極めんとしていたとき。

「………あ、沢宮エリナ。もう来たのか」
「お、え、ちょっ、マジですか?………あ。」
「いっただきー!」

古典的な手口でノートを奪取し走り去る…顧問。
しかし向こう見ずなその走り方はすぐさま肉の壁によって跳ね返される。ばいん。

「でえッ!」
「痛ったぁ~~、もう、何慌ててるんすか」
「サヤ、なーいす!」

コジローの顔面を弾いた、巨大な双丘をその身に携える少女―――
すなわちサヤは、ぱし、と空に飛んだノートを手に取ると、しかし…
キリノの安堵を嘲笑うかのように、ひとつタチの悪い微笑を浮かべると。

「……ごっめーんキリノ、実はアタシもここ、気になってたんだよね」
「え、ちょっ、ダメだってば!サヤぁ!」
「親友に隠し事はナシだよねー♪」
「ダメーっ!」

ページを開こうとするサヤの手にいきおい、掴み掛かろうとするキリノ―――
しかしその左足の脛に謎の力がかかり、つんのめって倒れてしまう。

「顧問にも…隠し事はよくないんじゃねえか…?」
「せ、センセー…違うんですってばあ!」
「いいや、お前こないだだって勝手に休んで心配かけたろ…
 先生はちゃんと、生徒の管理ができてないとな。サヤ、読み上げろ!」
「こんな時だけ権威をカサに着ないでよー!もぉ!」

そのまま顧問と部長の組んず解れつを横目に見ながら、ニヤニヤとページを開いていくサヤ。
――――しかし。

「…」
「……」
「…………」

数分後、その表情から完全に余裕が消え失せると、ぽつり。

「…ごめん先生、あたしにゃ読めないわ…」
「なんだぁ?大した事じゃなかったのか?…ぶべっ!」

消沈するサヤを訝しむコジローの鼻に、少し遅れてキリノの踵がめり込む。
そのまま立ち上がり、きっ、とサヤの方を睨むと―――
おずおずとノートを差し出すサヤ。

「ごめんよキリノぉ…」
「ううん、分かってくれればいいんだよー」

そのまま、キリノに泣き付くサヤを横目に、蹴られた鼻を抑えつつ立ち上がると。

「痛つつ……大した事じゃないんなら、俺にも読ませ…」
「…コジロー先生は読んだらダメ!」
「そうだよ!センセーはダメ!」
「な、なんだあ?……んじゃまあ、いいよ…」

何故か倍増した抵抗の数に降参の白旗を揚げ、すごすごと立ち去る顧問。
ついぞ、彼が見る事の叶わなかったその内容、とは―――


―――ビールは夕日。
―――実家はコンビニ。
―――足の裏はぷにぷに。
―――起床時間は、7時。
―――好きな揚げ物は、コロッケ。
―――あと好物はカレーライス。
―――好みのタイプは…松本アナウンサー。

―――でも、いつかはきっと……「千葉 紀梨乃」。


流石にこれは読ませられるわけないわね、とサヤが胸の内で呟くと、同時に湧き出る疑問がひとつ。

「…でもさ、いつから?あたし、全然気付かなかったけど…やっぱり”前から”だったの?」
「………ほへ?なにが?何の話?」
「いや、だからさ…」
「???」

とぼける様子でもなければ、バカにしたような表情でもない。その反応に。

(――――この期に及んで……まだそんなとこなのかいっ!!)

サヤのずっこける音が道場中に響き渡ったことは……言うまでもない。