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鎌崎高校との練習試合から数ヶ月が過ぎたある日──。

「というわけで、今回は鎌崎高校のほうから練習試合を申し込んできたんだが……」
 練習試合、という言葉に部員が目を輝かせる部員たち。
 だが、なぜかコジローが口ごもったのをキリノは見逃さなかった。
「どーしたんすか、せんせー。なんか、不満そうですけど」
「む、ばれたか……。ああ、じつは俺の先輩、石橋先生がこの間のリベンジに燃えててなあ」
「ああ~」
 サヤが生暖かい目をしながら相槌を打つ。
「ぶっちゃけ、めんどいと」
「ああ、というか……」
 コジローがおもむろに携帯を開いて部員たちに見せた。
 キリノが携帯を覗き込むと、そこには石橋からのメールが大量に。
「って200件!? えっと、題:コジローへ。この間の試合は、あれはそう冗談だって冗談。
 マジ、突っ込まないからさー。思わず2刀で……うっわ、長っ!」
「うわー、ひくわー。ものすごい長文メール」
 ドン引きしているサヤに、いや、メール長いのはあんたもでしょと
突っ込みたい気持ちを抑えつつ、キリノはコジローに語りかける。
「いいんじゃないですか、せんせ~。返り討ちにしちゃいましょーよ」
「ん、まあ。なんにしろ、練習試合は多いほどいいから受ける気ではいるけどな」

「鎌崎ですか……。たしか、部長は岩堀って人ですよね」
 タマの相手をしていたユージが、仲間の輪に加わってきた。
「いい機会じゃないですか。彼とは一回、剣で語り合ってみたかったところですし」
 そう語りながら目を輝かせるユージ。
「ね、タマちゃん。きっと、彼はタマちゃんに勝つために特訓とかしたのかもしれないよ」
「え、あ、あたしは。あの人、その……苦手……かな」
 いきなり、話を振られてタマが挙動不審気味にあわあわと受け答えた。
「まあ、というわけで今週の日曜日に鎌崎高校と練習試合を行う。
 各自、試合に備えて練習、練習」
「はーい!」
 パンパン、と手をたたいてコジローは再び部員たちを練習に戻らせた。

「しかし、あれだよね。キリノ~、なんか最近、コジロー先生変わったよね~」
 素振りをしながらサヤがキリノに話しかける。
「なんだか、真面目すぎて違う人間に見えない?」
「何言ってるの? コジロー先生は昔からあんな感じだよ?」
 何を聞いているのか、といった感じでキリノが答える。
「ふ~~ん。いえいえ~、うん、そ~ね~」
 そんなキリノに、サヤはニヤニヤしながらあいまいな返事をかえした。
「ん~、なんか変かな~?」
「いえいえ、オホホホホホ」
 ニヤニヤがとまらないのを抑えつつ、これは日曜日が楽しみだとサヤは考えていた。





「おはようございます! 本日はよろしくお願いします」
「あ、ああ。こちらこそ今日はよろしく」
 礼儀正しく威勢の良い挨拶をされて、コジローは思わず戸惑った。
 これが、この間の岩堀と同じ人間なのか、と挨拶をした少年をじっと観察してみる。
腐っていた目は情熱に燃え輝き、その顔は何かしっかりとした意思を感じるようだ。
どうやら、いい成長をしたようだ、とコジローは我が事のようにうれしくなった。
 見ると、ほかの部員たちも真剣な目をしている。いい傾向だ、とコジローは感じた。
つい数ヶ月前までは、近本という副部長くらいしかやる気を感じなかったのに。
あの練習試合は、彼らにとってもいいきっかけになったようだ。
「えっと、石田先生。あたしたちは、どこで着替えればよろしいのでしょうか」
 顔を赤らめながら、近本という副部長が申し訳なさそうに聞いてきた。
「お、悪い悪い。女子はこっちの女子部室を使ってくれてかまわないぞ。男子はあっちな」
「あ、はい。みんな、行こう」
 近本は、女子部員を先導して部室へと向かった。
「よし、俺たちも行くか」
 コジローも、岩堀たち男子部員を男子の更衣室へと案内するべく歩き出した。

「えっと、ここでいいのかな」
 近本は女子更衣室を不安げに覗き込む。
そこでは、着替え中のキリノが1人でぼーっと椅子に座っていた。
お互いの視線があって、キリノは近本に気づく。
「あ、ごめん。気づかなくて。えっと鎌崎の近本さんだっけ? ここが更衣室だよ」
「……近本鳴海。ナルミでいいよ」
「ナルミちゃんね。今日はよろしくね~」
 ニコニコと笑いながら、キリノは近本に語りかけた。
「ずいぶんとうれしそうね」
 浮ついた感じのキリノを見て、近本は何か親近感を感じる。
そういえば、前の練習試合の日。うちの先生とこっちの先生が試合をしてたときも
この子すごく嬉しそうだったっけ、と近本は思い返した。
誰も見てなかったけど、なんだかその時だけ妙に嬉しそうだったので覚えていたんだよね。
「……そういえば、あなた。石田先生の試合のときすごくうれしそうにしてたっけ」
 言わなくてもいいのについ、近本は口走ってしまった。
その言葉を聞いたとたん、キリノは顔を真っ赤にしてバタバタとあわてふためく。
「え? 何? 見てたの、じゃなくて別になんでもないよー」
 あ、この子。石田先生が好きなんだな、とさらに余計な勘繰りをしてしまう近本。
「あなた、先生のこと好きなのね」
 思わず、口に出していた。
「ほおっ!」
 図星をつかれて変な声をあげるキリノ。
「そ、そういうあなたこそ岩堀君が好きなんじゃないの~」
 キリノは思わず、仕返しをしてしまった。彼女が岩堀を好きなことくらい態度を見ていればわかる。
なんというか、倒れた岩堀に向けた笑顔なんかは、
いもーとの持っている漫画本で見たツンデレ? という感じを受けた。
「な! そ、あ、あんなやつ好きなわけないじゃない。
そりゃ、最近は昔みたいにやる気を取り戻したけど……って違うわよ!」
 すごい、ツンデレだ。と、キリノは思った。
 うう~、とうなる近本。やがてキリノはぷっと吹き出した。
「ごめんね、あたしたち何か似た者どうしだね」
 キリノの言葉に、近本も我に返り吹き出す。
「ほんとにね」

「おい! お前ら何やってるんだよ! 早く試合始めるぞ!」
 更衣室の外から岩堀が叫んだ。
「もう! 女の子は着替えが長いもんなんだよ。バーカ!
 急にやる気出したフリしちゃってさ」
「な、近本。てめえ~!」

そのヤリトリにふたたびキリノは吹き出した。

「あのさ、えーと」
「キリノでいいよ」
「キリノちゃん。あとで色々話たいことがあるんだけど、いいかな」
「うん、あたしも。聞いてみたいことがあるんだ~」
「あ、じゃあ。あそこいきたい! 来る途中にあった喫茶店なんだけど……」

 まるで、長年の親友のようにじゃれあいながら更衣室から出てくる2人を見て、
岩堀はポカンと口を開けていた。
「あいつら、いつの間に意気投合したんですかね?」
 隣にいたコジローに岩堀がたずねた。
「ん、まあ。女の子はすぐ打ち解けられるんじゃないか?」
 コジローも、キリノのはしゃぎっぷりに首をかしげていた。
 あいつ、なんであんなにはしゃいでるんだろうか、と。

 そんな女子2人をじっと見るコジローと岩堀に気づいたキリノたちは、
お互いに顔を見合わせたあと鈍感な男子のほうを向いてクスクスと笑った。
「ほんと、2人ともバカだよね~」
「え? お、俺たち?」
 わけがわからない、といった顔でコジローと岩堀が頭をかく。

「お互い苦労するね、こりゃ」
「ふふ、そうね~」
近本とキリノは、そんな2人を見ながらずっとクスクスと笑っていた。

おわり