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「あ……あの……キリノ先輩ってコジロー先生のことが好きなんですか?」
「ぶほーっ!!」
 タマキが申し訳なさそうにおずおずと、しかし、はっきりとそんな質問を投げかけたため、
キリノは思わず飲んでいたお茶を噴出してしまった。
「げほっ! タ……タマちゃん。何でそんなこと聞くの?」
「え、それは、その、サヤ先輩が……」

 キリノがこぼれたお茶を吹きながら聞き返したところによると、
どうやらサヤがいつもの暴走を起こしているらしい。
 いわく「もう、アタシみてらんないの! こうダンくんとミヤミヤみたいにくっつくんだったら
くっつけっていうのよ。え? キリノとコジロー先生のことに決まってるじゃない」だとか。
「はあ、タマちゃん。別にその、あたしはコジロー先生と」
 コジロー先生と男女の関係になりたいわけじゃないよ、と言おうとして、
キリノは、そこではたと考える。
 ん、あれ、あたし別に、うん、そうだよね。恋愛とかじゃなくて、う~ん。

「ど、どうしたんですか、先輩?」
「アタシが先生おかえりなさいで、なでなでで、ん~」
「せ、先輩?」
 あれ? あたし何でこんなにドキドキしてるんだろう。
キリノは、考えれば考えるほど正常な思考を保てなくなってきたようだ。
「先輩、大丈夫ですか。ワタシ、何か変なこと言っちゃったんじゃ……」
「わかった!!」
「!!?」
 突然、キリノが叫んだのでタマキは小動物のようにビクッと小刻みに震える。

「な、何がわかったんですか」
「うん、あたしね」
 キリノが何かを言いかけたまさにそのとき、部室の入口から着替えが終わった
コジローがタイミング悪く現れた。
「お前ら、着替えないで何やってんだ。もう道場閉めるぞ」
「あ、コジロー先生」
「す……うきゃー!」

 コジローと顔をあわせた途端、キリノはよくわからない言葉を叫んで道場の外へ駆け出した。
「あれ、おーい、キリノー。あいつ、どうしたんだタマ?」
「え、と、なんか聞いてはいけないことを聞いてしまったようです」
「はあ? 何だそりゃ」


翌日

「ねーねー、タマちゃーん。昨日、キリノとコジロー先生に何かあったの?
キリノの様子がすっごく変なんだよねー」
「はあ」
 1年の教室にやってきたサヤが、目をキラキラさせながらタマに話しかけた。
「え、とキリノ先輩にコジロー先生のことが好きなんですかって聞いたんです」
「えー! もー、そういうことはアタシのいるときにしてよー、それでそれで」
「す……うきゃー! って叫んでかけていきました」
「は?」
 
 2年の教室に戻りながら、サヤは腕組みをして思案をめぐらせる。
「んー、やはりタマちゃんじゃ駄目かー。ミヤミヤはこういうことけしかけると
 人の恋路の邪魔するなって怒るしー、サトリンはドジるからなー」
ニヤリとサヤは笑う。ろくでもない企みを思いついた悪役のような顔で。
「よし、こーなったらアタシが一肌脱ぎますか!」
もちろん、彼女の行動が禄でもないことを引き起こすのだが……。





「キーリノッ! キリノっ! キッリッノ!」
 昼食の時間、キリノのクラスへとやってきたサヤは、
お弁当を広げて手ボーっとしているキリノに上機嫌で話しかけた。
 キリノの親友である短髪の少女が、心ここにあらずなキリノに代わってサヤに応える。
「ねえ、なんかあったの? 今日、ずっとこんな感じなんだけど」
「ふっふっふっふ、キリノも恋する乙女ということなのだよー」

 その言葉を聞いて、クラス中の男子がざわついた。
「恋する乙女だってよ」
「千葉が? くそっ、誰だよ。コジロー先生か?」
「少なくとも、俺じゃないだろなあ」
「千葉……」

「え、マジ?」
 短髪の少女が小声で聞き返す。
「なんか、コジロー先生と進展あったの?」
 同じく親友である長髪の少女がそれにつづいた。
「いやー、別に何かあったわけじゃないんだけどー。もしかしたら、自覚したのかなー」
 サヤがニヤニヤしながら答えていると、ガラッと扉を開けてコジローが入ってきた。
「エビエビ好き好きー。おっ、キリノ、今日も予想通りエビフライか」
 そのまま、ボーっとしているキリノの背後に回ると
フォークに刺さってるエビフライを摘み上げる。
 すると、突然キリノが顔を真っ赤にして外に駆け出した。
「あ、お、おいキリノ? どこいくんだよ!」
「あ、あげます! お弁当、それ全部どうぞ!」

 いつもと違う反応にポカンとしながら、頭をかいて教室から出て行くコジロー。
 いつもと違うが、それはそれでムカムカする男子たち。
 はあー、なるほどねーと何やら納得するキリノの親友たち。
「あちゃー、こりゃ重症だわー」
「ねえ、何で急にああなったの?」
「ん、なんか、思うところあったみたいよー」
 ニヤニヤしっぱなしのサヤは、ふと思い出したようにキリノの机に駆け寄った。
「いけない、いけない。忘れてた」
 机の中にそっと封筒を忍ばせるサヤ。
「何やってんのサヤ?」
 呆れた顔で短髪の少女が尋ねる
「仕込み」
 口元を押さえながら、サヤが答え返した。
「んじゃーね! また明日ー」
 ニコニコしながら、サヤは教室から出て行く。
「さて、次は職員室のコジロー先生の机ーっと」

 こうして、サヤによる余計なお節介の第1段階は終了した。





 キリノが封筒を開けて、中身を確認する。
「愛するキリノへ。部室の裏にある木の下に来てくれないか。大事な話がある」
 コジローが封筒を開けて、中身を確認する。
「大好きなコジロー先生へ。部室の裏にある木の下に来てくれませんか。大事な話があります」

「……サヤだな」

 余計なお節介の第1段階は三秒でばれた。
 キリノは封筒を丸めると、ため息をついて「まあ、一応……」と部室の裏へと向かった。
 無論、その頃コジローも同様の行動をとっていたのは言うまでもない。
だが、しかし、そんな2人とは別のところで事は大事になっていたのである。

 時間は少しさかのぼり、場面は印刷室に移る。
そこでは、ちょうど1年の東が掃除当番の担当としてコピー機の周りを掃除していた。
そこは、サヤが例の手紙を印刷していたコピー機である。
さらに運の悪いことに、そこにはサヤの元原稿が残っていた。
天然不運少女は当然コピー機に向かってすっころび、その原稿は大量に印刷される。
間の悪いことに、それを拾ったのが噂好きの女子だった。

 あっという間に広まるラブレター(偽)。
 あれよ、あれよという間にそのラブレターは学校中に広まってしまった。

 怒り狂う隠れキリノ派の男子。
 恋路を邪魔するなと、立ち上がる女子連合。
 噂が噂を呼び、気がつくと道場裏は満席状態に。

 さて、その頃キリノとコジローは体育館に向かう渡り廊下でばったりと出くわしていた。
 なぜか恥ずかしくなり顔をうつむかせるキリノ。
「お、おい、キリノ。この手紙なんだけど……」
「そ、それはたぶんサヤです」
「あ、ああ、やっぱりそうか……あのさ」
「では、これで!」
「待てよ、キリノ」
 だっと駆け出そうとするキリノの腕をつかんでコジローが引き止めた。
「いったい、どうしちまったんだよ。昨日から顔を合わせてくれないし、
何か酷いことやっちゃったかな」
「……アタシ、わかったんです」
 キリノの目には涙がたまっている。
「あのとき、先生にオカエリなさいって抱きついたときも本当はわかってたんです」
「キリノ……」
「先生……アタシ……」

 唇がサ行とカ行の二文字を発音した。

 ここから、先は話すと野暮になるというものなので省略させていただくが
コジローは、にこにこと笑う少女との関係を取り戻し、彼女を家まで送っていったそうだ。

 一方、道場裏では今か今かと人々がひしめき合っていた。が、いつまでたっても来ない。当然来ない。
 あまりに来ないので、ヤジ馬は暴徒と化し暴動が発生。怒りの矛先はなぜか2人に向かうことに。

 翌日、何も知らず登校してきた2人は全校生徒から問い詰められる。
 あせる教師。ニコニコ笑いがひきつるキリノ。
 そこへ何も知らずやってきたサヤ。

 その日、室江高校にサヤの悲鳴が響き渡った。