※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 紆余曲折しまくって珠姫と勇次は恋人同士になったが、付き合い出したというのにデートの一つもしていないのだ。
 それには理由があり、珠姫が休日に遊びに行こうとしても勇次が用事があるといって断り続けているのだ。
 そんな感じが続いて早一ヶ月、幸いにも道場は二人っきりだったので珠姫は勇次に事の真偽を尋ねた。

「ねぇユージくん、あたしたちってその、こ、恋人同士だよね?」
「うん、そうだよ。急にどうしたのタマちゃん?」
「じゃあどうしてお休みの日はいつも用事があるの? あたしと遊びに行くのがイヤなの?」

 真剣な珠姫の問いかけに勇次は困ったように指で頬をかいた。
 しかし意を決した勇次は、休みの日の件についての真実を話す決意をした。
 恥ずかしがりながらも勇次は珠姫の目をジッと見据えて、珠姫に話し出した。

「実は俺、成明高校に行って林先生に稽古つけてもらってるんだ」
「どうして?」
「……強くなりたいんだ。タマちゃんを、惚れた人を守れるくらいに」

 理由を聞いた珠姫は嬉しさ半分、寂しさ半分といった感じだった。
 自分を守ってくれる為に強くなろうとしてくれるのは嬉しいが、それなら自分に相談の一つもして欲しかった。
 なおも勇次は自分の思いを珠姫に伝えようとしたが、それは珠姫に遮られた。

「ユージくん、わかってないよ……」
「タマちゃん?」
「あたしはもうユージくんにいっぱい守ってもらってるんだよ、色んなことから」
「タマちゃん……」
「それにあたしだってそんなに強くない。ユージくんに会えない日は寂しくてしょうがないの。……不安になるの」

 勇次は自分の強さを求めるあまり、珠姫の心を考えていなかったことを激しく後悔した。
 珠姫の寂しげで今にも泣き出しそうな表情を見て、自分の不甲斐なさを痛感した勇次は、珠姫を優しく抱きしめた。

「ゴメン、ゴメンねタマちゃん。俺、自分のことしか考えてなかった。タマちゃんを泣かせるなんて本当にダメな奴だよ」
「本当に、本当に悪いと思ってる……?」
「うん。強くなるならタマちゃんと一緒に。タマちゃんの笑顔は絶対に絶やさない。休みの日はいっぱいデートする。この誓いをタマちゃんに捧げるよ」
「じゃあ誓いの証として、しばらくこのままでいたい。……ダメ?」

 珠姫の問いに勇次は頷くことで答えるとしばらくの間、勇次は珠姫を抱きしめていた。
 勇次の腕の中にいる珠姫は勇次にしか見せることの無い、極上の笑顔を浮かべていた。
 そして勇次が珠姫を離すと、言ってはいけない不用意なことを言ってしまった。

「本当は今週も行く予定だったけど、林先生に断りの電話を入れないとダメだな。メイちゃんにも謝らないと」
「……ユージくん。メイちゃんってどうゆうこと?」
「うん、実は林先生に頼まれてメイちゃんの相手もしてたんだ。素人だから教えがいもあるんだよ」
「どうしてメイちゃんって親しげに呼んでるの?」
「メイちゃん本人がそう呼んで欲しいって言ったからで、別に深い意味は無いよ」
(……そうだよね。ユージくんはそんな人じゃないよね)
「たまに夜遅くなるから家まで送っていったり、メイちゃんの家でご飯をご馳走になったり、一人じゃ心細いからって言うから2人で買い物しただけだから」

 勇次の悪意が全く無い物言いに珠姫は固まってしまった。
 芽衣に対して勇次がしたことは全部、珠姫が恋人としての勇次にしたいこととしてもらいたいことだった。
 しかも厄介なのは、勇次本人に悪気が一切無い、この点だろう。
 無自覚に他の女の子とデートをし、あまつさえそのことを恋人である珠姫に堂々と打ち明けた勇次に珠姫は、

「ユージくんのバカ!! 大っキライ!!」

 怒りを露にし、涙を流しながら道場を飛び出して行った。
 その話をした勇次は部員全員から責められて、ようやく自分のしたことの愚かさを自覚した。
 慌てて勇次は珠姫の後を追いかけて、珠姫の家まで押しかけてひたすら謝り倒して何とか許しを得たのだった。
 その際、珠姫の父に大量の塩や熱湯をかけられたりしたのは珠姫の怒りと比較すれば些末事である。