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 ある日の昼休み。その日も皆で昼食会だったのだが。
「ちょちょ、ちょっと! 大変っていうか、ニュースだよニューーース!」
 けたたましく叫びながら道場へとやってきたのは鞘子である。
「あ、サヤ遅かったねー。もう食べようかと思ってたトコだよ」
「キリノ…すまん、俺もう腹減って死にそうだわ…」
 先程からキリノの持参した無闇に巨大な弁当箱にじーっと視線を注いだまま、虎侍が泣きそうな声を上げたものの、鞘子はそんなことはどうでもいいと言わんばかりの勢いだった。
「今さ、購買の前通ってきたんだけど…なんか面白いのが貼ってあったんだって! なんだと思う? ねえ、なんだと思うみんな?」
 と言われても、わかるはずがない。全員で顔を見合わせた後、代表して紀梨乃が問いかけた。
「なーにサヤ? そんなに面白いもんだったの?」
「モチのロンよ! お昼は後にして、ちょっと見に行かない!?」
「ふんふん。じゃ、みんなで行ってみよっかー」
 全員がぞろぞろと立ち上がり、道場を出て行く。
 …ただ一人。
「キリノー…メシ…俺の…」
 顧問一人を除いて。

 さて、場所は変わってここは校舎の中。先程鞘子の言っていた、購買からすぐ近くの廊下である。
 そこの壁に、でかでかと掲示されている張り紙が生徒達の視線を独占していた。
「先輩…面白いものって、これっすか?」
 聞いたのは苦笑い気味の勇次である。なんというか、しょうがないなあ、とでも言いたげな様子だ。
「えっと…『当人達には内緒で集計しました、室江高名物カップル特集』…?」
 原色ばりばりで目に優しくなさそうな配色をされたトピックを都が読み上げる。
「はー…こんなの、いつの間に作ってたんだろうねー。新聞部の人達?」
 室江高新聞部責任編集、と書かれた隅っこの部分を紀梨乃が目敏く見つけていた。
「え? あの、知らなかったんですか? 確か、ちょっと前にアンケート取ってましたけど」
「そーそー。あたしも答えたよ?」
 聡莉の言葉に、鞘子がうんうんと頷きながら告げる。
「へー、全然気づかなかったなあ。タマちゃん、知ってた?」
「ううん。あたしもちっとも」
 周辺の生徒に押されてはぐれないよう、勇次の制服の袖を掴みながら珠姫が首を横に振る。
「で、これがどうしたのサヤ?」
「ほらほら、あそこ!」
 鞘子が張り紙の上の方、かなり大きめに、しかも写真添付で紹介されているカップルへと指を向ける。そこには…
「あ、宮崎さんとダンくんですね」
 聡莉の言う通り、二人で手を繋いで下校するところを撮られたのだと思しき都と段十朗の写真が載っていた。
 紀梨乃が記事の内容を読み上げる。
「えーとなになに…?
『今年入学したばかりの一年生カップルであるこの二人、D・EくんとM・Mさん。なんでも中学時代からアツアツぶりを発揮していたらしく、周囲の空気を省みないイチャつきっぷりは既に見知っている方も多いと思われる。
なにゆえこの二人が恋人同士となりえたのか、首を捻る読者も多いであろう。しかしこの二人の間に発生する時空を目の当たりにすれば、そんな疑問は異次元の彼方にでも置き去りにするしかなくなってしまうに違いない。
正しく、キングオブバカップルの名を冠するに相応しい二人である』
…だって」
「まぁ、アツアツだってダンくん。困っちゃうわね」
「気にすることないぞミヤミヤー。俺たちの愛は誰にも邪魔できないんだからなー」
 周囲の視線などまったく気にせず、早々と二人の世界を作り出す都と段十朗。そこに口を挟もうとする輩はこの場にはいなかった。
「なるほどねー。確かにミヤミヤとダンくんなら、こういうのに取り上げられても不思議じゃないよねー」
「ほんとにねー。見てて暑っ苦しくなるくらいだもんね」
 紀梨乃の言葉に、しみじみと頷きながら鞘子が追随する。

「…って、あれ? ここ、キリノ先輩も載ってますよ?」
「…へっ? あたし?」
 勇次が張り紙の端の方を指差しながら言うと、紀梨乃はじめ全員の視線が集中した。
 そこに載っていたのは…
「って、キリノ先輩とコジロー先生!?」
 仰天した様子で聡莉が声を張り上げる。
「え、えー? あたしとコジロー先生? そ、それはまいったなー。そんなふうに見られちゃってたのかー」
「…キリノ、顔ニヤけてるよ?」
 鞘子がジト目で指摘する傍らで、勇次が記事の内容を読み上げる。
「えーと。
『続いて紹介するのは、教師と生徒という禁断のカップルであるこの二人、T・I先生とK・Cさん。この二人は部活の顧問と部長という間柄でもあり、昼休みなどには一緒に食事をしている姿などが目撃されている。
目撃者(主にK・Cさんのクラスメート)によると、しばしばT・I先生からのスキンシップが確認されており、K・Cさんの方もそれを嫌がっている様子がないことからこの二人が実は付き合っているのでは? という噂が流れ出した。
実際に調査を行ったところ、物証を掴むまでには至らなかったが、この二人が教師と生徒という枠を超えて親しいことは明白であり、特にK・Cさんの好意は明らかに異性へと向けられたものである』
…だそうですよ、キリノ先輩」
「ええー? そ、そんなふうに思われてるんだ? いやー、まいったなー」
「だからキリノ、顔ニヤけてるってば…」
「っていうかこれ、スキャンダルですよね、ある意味。こんなに堂々と張り出しちゃっていいんでしょうか…?」
 聡莉のつぶやきに、ニヤニヤしている紀梨乃(と、二人の世界から帰ってこない都と段十朗)を除いた全員が顔を見合わせる。
「んー…でもまあ、事実っちゃあ事実だし」
「ですよね。コジロー先生の方はともかく、キリノ先輩がどう思ってるかはあの顔を見れば一目瞭然ですし」
「だよねえ。大体、普段からあの二人も割と周囲の目を気にしないことやってるしねー」
 教師と生徒という関係であることへの緊張感などカケラも持たず、鞘子と勇次は結論づけた。
「いやー、しかし凄いね。うちの部から二組も…って、あ」
「どうかしましたか桑原先輩?…って、あ」
「? サヤ先輩に東さん?」
「い、いや…タマちゃんにユージくん、ここ」
「…はい?」
「今度は誰ですか?」
 呆然とした様子の鞘子と聡莉が指し示した箇所を、珠姫と勇次が覗き込む。
 そして、目を丸くした。
「…って、へ? なんで?」
「…あたしと、ユージくん?」
 実は先程から都や段十朗、そして紀梨乃と同じく周囲から妙な視線を向けられていたことに全く気づいていなかった二人が、驚いて首を傾げる。
 聡莉がそこに書かれている記事の内容を読み上げた。
「え、えっと…
『最後に紹介するのは、やはり一年生同士のカップルであるY・NくんとT・Kさん。一見するとまるで兄妹のようだが、その実ラブラブっぷりでは今回紹介した他のどの組み合わせにも負けていないカップルである。
信頼できる筋から入手した情報によると、この二人は幼馴染みであり、その付き合いは幼稚園の頃にまで遡るとのこと。小中高と進路もずっと同じだったらしく、正しく絵に描いたような王道幼馴染みカップルと言えよう。
その仲睦まじさも筋金入りであり、登下校はもちろんのこと、ことあるごとに二人でいる姿が度々目撃されている。恋人というか最早夫婦の域、という意見すら寄せられている程である』
…ということらしいです」
 記事を読み終えて、聡莉が振り向くと。
「…なんでそんなふうに思われるかなあ。俺にもタマちゃんにもそんなつもりないのに」
 腑に落ちない様子の勇次と。
「え、いえ、あの…そ、そういうつもりは…」
 顔を真っ赤にして俯いている珠姫がいた。
 鞘子と聡莉は顔を見合わせて、
「…でも、書いてあること自体は間違ってないよね」
「全部事実ですよね…」
 しみじみと、そうつぶやいたのだった。

 ちなみにこの張り紙、どうやら新聞部が学校側の許可を取らずゲリラ的に貼り出したものらしく、噂を聞きつけた教師達によって即日撤去された。内容が内容だけに仕方がないところだが。
 しかし当然というか、しばらく剣道部に対する周囲の視線は生暖かいものだったらしい。
「さとりん…世間の風が身に染みるねえ…」
「人の噂も七十五日ですよ、桑原先輩…」
 若干約二名を除いて。