(そもそも、何で好きだったんだろう)

竹刀を見ながら、ふと思った。
何となくそんな予感がしたから。

(待ってたってダメなのは、分かり切ってたのに)

向こうは教師、自分は生徒。わかっていたのに…
ちゃんと居てくれてた時でさえ、その箱庭の喜びに…浸り過ぎていたのは、自分の方。

(下らない事言って、困らせて…)

何故、信じてあげられなかったんだろう。
何故、心から―――笑えなかったんだろう、あの時。
目の前の竹刀に問い掛ける。竹刀は何も喋らない。答えてはくれない。

(きっと、まやかしなんだよね…)

もう何度目の「予感」だろう。
この半年間ほど、自分のカンを信じられなくなった事はない。
諦めるのも、嫌いになるのも、忘れるのも―――何もできない。
たまらずに竹刀を手にして立ち上がる。

(振れば…答えてくれるの?先生…)

そんな情けない自分を、叱るでもなく無視するでもなく、ただ見守っていてくれた。
その先生が学校に置き忘れていった、ただ一振りだけの竹刀を――――振り、あげると。



――――がしゃん。


「ありゃ…」
「お母さ~ん、蛍光灯余ってない?」
「割っちゃったの?もう、しょうがないわねえ」
「えへへ…」

困った事なのに、何故だろう。
割れた破片を拾い集めながら、微笑んでいる自分。

なんでだろう。
ただそれだけのことで。



今日の予感は――――――当たる気が、した。



おわり
最終更新:2008年06月10日 00:29