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「♪ふんふふ~ん、ん~ん~」

そびえるDVD棚の山間を、鼻歌を刻みながら闊歩するキリノ。
今日は月一で決められている”レンビの日”。

――――家族で計5本まで、譲り合いの精神で。
その千葉家のルールを定義したお母さんをお留守番に残し、
お父さんの配達車で少し遠い”メテオン”というビデオ屋さんまで。

来るなりたっくんはミュージックDVDのコーナーへ、
妹はどうぶつ関係のファミリービデオが置いてあるコーナーへとばらけ、
キリノもまた自分の趣味である時代劇のコーナーを探しに山間を抜けようとしていた―――
がしかし、ふと目にした物につい足が止まる。そこに書かれた見出しは…

「恋愛もの、ねえ~?」

……恋する乙女じゃあるまいし。
自分が他人のそういうロマンティックな光景を観てその世界に浸れる、
どうしてもそんなイメージが沸かなくて、今迄無意識的に避けてきたジャンルではある。

(まあ、相手がアレじゃあね…)

ロマンスの欠片もありゃしない。……別に、不満があるわけではないけど。
ともあれ、自分だって女の子なんだから、こういう物に興味持ってもいいでしょ?
と、どこか…居もしない誰かに言い訳でもするかのように心の中で呟くと、
とりあえず青春剣道ものらしいという事で目に付いた一本を手にとってみる。

「ほむほむ、”肩揉みと竹刀タコ”…変なタイトルだなぁ?」

愚痴を零しつつ見ると、まずそこにある、夥しい量の解説文に目が行く。
パッケージ裏にとてもとても細かな字で記載されたそれは、
下手をすれば内容を殆ど喋ってしまっているのでないか…
と思うだけの文章量で余白を埋めている。

その内容は、かいつまんで言えば…
近々ある決戦の日を控えた主人公とヒロインが、
ほんのささやかな交流を持つ事で心を通わせる、というものらしい。

(―――――ん…似て、る…かな?)

まあ、こういう事なら、自分たちにだって起こり得ても不思議ではない。変に境遇もいっしょだし。
そして俳優さんもよく見るとどこか…ヒロインは、自分がこんなに可愛いとは思わないけど、主人公の…
一枚絵でもわかる、どこか頼りなげな雰囲気は、かなり……近い。そう思わせられるだけのものがあった。
ふと興味をそそられ、その隣のタイトルも。

「”先生っ、大好きっすよっ”…う、うわぁ…」

こちらはヒロインの女の子が、日々の暮らしの何気ない出来事に隠れた他人との繋がりに感謝をし、
それをもたらしてくれる主人公に本当の気持ちを打ち明けるお話。

(ん…あれ?でも、これって。)

かなりタイプの異なるその2つの作品は、キャストが同じ……
と言うよりその棚にある物がほとんどその二人の共演によるもののようだ。

「お…オムライスっていうんだっけ?何だろうこれ…」

……正しくはもちろん、オムニバス。
パッケージにはサブタイトルの方が目立っていたため気付かなかったが、
どうやら連続したシリーズ物のようではあるけど、関係性は各巻ごとに微妙に変えてあるらしい。
そのまま続けて、手にとってみたものは――――”Black or white?

「あはは、なんだか皆みたいな人達までいるんだ…」

それはタイトル通り、いつまでもはっきりしない態度の主人公とヒロインに、
仲間が一丸となって彼等をくっつける事に腐心するという、お話。
ヒロインの親友の暴走により、事態は思わぬ方向に傾いてしまうというのだが―――

(まあ、幾らサヤでもこんな風には……な、ならなくはない、のかな。)

今度内緒でお酒でも、飲ませてみようかな。
そんな策士の一面を覗かせながら、次々と棚をチェックしていくと…
ある場所を境に、パッケージのデザインが変化している。

「…2!?続編まで出てるの?」

バン○ーブ○ード2 第1話 おやじとおふくろと
舞台設定は1の時代の数年後。前作の主人公とヒロインの間には子供が生まれており、
その長男を中心に、前作の登場人物の子供たちが織り成す奇妙なドタバタハートフルコメディー。
帯には―――「時代は、また繰り返す」と書かれている。

(結婚…しちゃうんだ…へええ…)

何となく自分の将来を見てしまったようで…
嬉しい事は嬉しいのだが、結局自分ではない、と思うと何とも複雑な感情が胸を流れる。
ともあれ取り敢えず一段落ついた足で、時代劇のコーナーに向かおうとすると…
そこに横から突然現れる、見慣れた影。

「セッ、せんせ?」
「…お、キリノか?悪い今ちょっと急いでて…」

裏返る声を皮切りに……キリノの脳細胞が、急ピッチに回転を始める。
先程まで読んでいた甘い甘い恋愛ストーリーの主人公とヒロインが、まさにそこに雁首突き合わせているのだ。

(どうしようなんで先生がこんなところにいやでも先生だってそりゃ男の人だ
 しこういう所を利用したい時もあるでしょ男には抑えられない衝動があるんだ
 しでもなんだかムカッとしちゃうのはなんでだろうそういえばそんな内容のDVD
 もさっきあったようなでも先生の事だし案外アニメとか特撮とか子供っぽいも
 の借りてるとかそういうオチとかじゃあたしなに考えてるんだろう今?)

――――――その間、僅かに0コンマ数秒。
その回転動力によりほぼ擬似トランス寸前のキリノの思考が、
コジローの手に抱えるDVDのタイトルに注視されるまでに更に、数瞬。


更にその裏に書かれた細かな細かなあらすじ書きを読み上げるまでに―――
研ぎ澄まされた集中力をもって、以上の行動は驚いたコジローの瞬きがゆっくりと閉じ、そして開かれるまでの間に行われる。
しかしてその光景を目の当たりにしたキリノの脳が下した決断は。

「!!!???」

――――脱兎。という以外の何者でもありはしなかった。
急に逃げ去ったキリノを目で追いながら、呆気に取られたコジローが深く嘆息をつく。

「なんなんだあいつ……ったく。おーい、あんた。コレ落としましたよー」

そう言ってコジローが拾い上げたDVD箱を掲げると…
その視線の先でオロオロとしていた初老の紳士は、
あわててコジローの手からそれを引っ手繰るようにして奪い、サササと姿を消してしまう。

「…こっちもこっちで、何なんだよ、全く」

学校でタマに強烈に薦められた「嵐の山の鉄巨人」を目当てに…
ただなんとなく見てみるか、と軽い気持ちで今日このレンタルビデオ屋を訪れた彼にとっては、
今日と言う日はただ災難にあっただけの日、だったかもしれない。
ただその一方で、そそくさと車に引きこもった少女の方は、というと。


▽▽▽


(……先生の持ってたのも、あたしの見てたのと同じシリーズだった…けど…)

――――相変わらず、あさっての方向目指して逆走を続けていた。

(でもあの内容…あれは、ちょっと。)

先生が、あのDVDを…どういう思いで見るのか。
やっぱり、自分を重ねてくれたりするのだろうか…あのヒロインに。
しかし、そう想像するにもあの内容はキリノにとっては生々しすぎた。

「あ~、頭イタいよぅ~~」

たまらずに声に出すと、外から窓をノックする音。
弟たちがDVDを選び終え、帰って来たらしい。

「ねーちゃん大丈夫?急に出てっちゃったし」
「ねつあるの~?」

流石に弟たちにまでこんな弱ってる様は見せられない。

「ううん、大丈夫大丈夫…ビデオ、借りれた?」
「うん、でもねーちゃんの分まだだけど…」
「あたしは…いいわ。好きなのもう一個借りといでー」
「ホントに!?…んーでも…わかったよ、じゃあ借りてくるから、ちょっと待ってて!」
「いってらっしゃ~い」

そういうや否や、父のサイフを借り再び店内に戻るたっくん。
それがあっ、という間に帰って来たかと思うと、右手には一個だけのレンタル袋を大事そうに抱えている。

「ほら、ねーちゃんの!」
「へ?あたしの?」

それを突き出し、照れ臭そうに鼻をこすると。

「ねーちゃん、時代劇好きだろ?テキトーだけど、それでよかった?」
「え、え、え、え…」


――――――袋の内側の、レシートに記載されたDVDのタイトルは…