サヤ「おぃーす。あれ? 二年生まだ誰も来てないの? んー、ま、いっか。先に着替えちゃおっと」
 ふー、三年生ともなると、毎日がままならないねぇ。
サヤ「進学したらしたでまた色々あるんだろうけど……あれ? 用具室に誰か……っ!?」

コジ「タマ……じっとしてろ」
タマ「……はい」

サヤ「っ!? な、なななっ!?」
 タ、タマちゃんとコジロー先生が二人きりでな、な、何をしてるんですかっ!
 そんなに顔を近づけてって……え? なんで? 何があったの!?
サヤ「お、思わず道場の外まで逃げてしまったけど、どうしよう。あ、いや、どうもこうも……」
 学生と先生かぁ、まあ王道と言えば王道だし、タマちゃんが色恋ねえ……想像できん!
 ユージくんならともかく、まさか先生とだなんて有り得ないと……まあ、タマちゃんも女の子だし。

 それに、剣道一筋できてただろうから、目に入った異性にそのままコロリというのもなくはないっちゃーか、でもなあ。
 しかし先生もいくらなんでもタマちゃんはないでしょ。年の差以上に犯罪の匂いがプンプンですよ。
 しかし先生も元々モテなさそうだし、脈ありそうだった吉河先生が先生の先輩に持ってかれちゃって益々脈がなさそうだったから、もしタマちゃんから押しがあったら負けちゃうかもなあ。
 剣道でも勝てないし。いやそれは関係ないか。でもタマちゃん、押しは極端に強いから、あの突きの時ような勢いで攻められたら誰でもなあ……うーん、でもなあ。想像できないわ。やっぱり。
 やっぱり見間違いか何かじゃいやいやいや、思いっきり見つめあってたし!
 じゃあなんだ、やっぱりアレか。タマちゃんが凹んでて立ち直った際に先生と何かあったみたいだったしその頃からかコロリは。
 いや待て、待てよ。あの後先生は一旦辞めているわけで、その間離れ離れになっていたわけだからやっぱり何もない筈。
 でも逆にちょっと間が空いてしまったからこそいない間に思い出が美化されて急にコロリという流れも!
 コリノじゃなかったキリノだってもう先生が戻ってきた時は、あんなに感情爆発させてたもんなあ。
サヤ「うんうん、そうキリノだって……はっ!?」
 待てよ、桑原鞘子。大事なことを忘れてないか。

サヤ「キリノは……どうなるんだ」
 ひょっとしていやしなくてもその前提はタマちゃんよりキリノに当て嵌まっていないか。
 というか、やっぱり確定ですよねー、あれ。妙に納得しちゃってたもん、私。
 だとするとこの状況は物すっごくマズくないか。ねえねえねえ!
 先生がいない間ずっとキリノ無理しちゃってて、「あたし、大丈夫だから」とかなんとかな寂しい笑顔はもう二度とさせねーと誓っている私としてはこのイベントはかなりマズい! 知られるわけにはいかない!
サヤ「ま、まずはキリノにこの事を知られないようにしないとマズ……」
キリ「おーい、サヤ。道場の前で何してるの?」
サヤ「うひゃひゃぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
 うわーびっくりしたびっくりしたびっくりした! お約束過ぎるっ!
キリ「? 今日は随分と……あ、いつも通り元気だねえ」
サヤ「今の私の反応がいつも通りの範疇に収められちゃうんだ! アンタの中の私って絶叫ルーレットですかっ!」
キリ「まあまあ、そう騒いでないで早く道場入ろ? ちょっと遅れちゃったから皆いるかなあ」
サヤ「おおおおおおおお、お待ちになってお待ちくだされぇぇぇぇぇいっ!」
キリ「わ、わ、サヤ、急に腕を引っ張ってどーこーにー?」
サヤ「わからないけど、まだ見ぬ夕焼けとかに向かってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

キリ「全く、サヤの強引さも相変わらずなかなのものですな」
サヤ「はぁ、はぁ、はぁ、ど、どうも……」
 感心されてる。まあいいけど。
キリ「ともあれ落ち着きたまえ。まあお茶を一杯」
サヤ「ありがとー」
 二人してベンチに何故か正座して茶を一服していた。
 いや私が連れてきたわけですけど。
キリ「で、一体どんな用事だい? どうやら内密のことっぽいけど」
サヤ「あ……」
 な、何にも考えてなかったっっっ!
キリ「?」
 ま、ままま、まずい。兎に角、鉢合わせしないようにってしか考えてなかった。
 ど、どどどどど、どうしよう。
キリ「サヤ?」
サヤ「い、いやー、それがですね」
 取り出した扇子でペチンと自分の頭を叩いてみせるものの、何も思いつかない。
サヤ「きょ、今日はよいお日柄で」
キリ「うん、そーだねー」
 うぉぉぉぉぉぉぉ、そののほほんとした表情にわたしゃ、参ったよ。
 代わりにホレちゃいそうだよ。先生なんか放っておいてコクっていいですかねぇ!

サヤ「あ、あのですね!」
キリ「うんうん」
サヤ「先生なんか忘れ…じゃない! 何口走りかけてるんだっ!」
キリ「ふえ? 先生? コジロー先生がどうかしたの?」
サヤ「いや、コジロー先生がどうとかじゃないんだ! その私がええと……」
 先生としか言ってないのに、どうしてコジロー先生と出るんだ。くそぅ、その愛にいきなり負けそうだっZE。
キリ「んー、コジロー先生じゃなくてサヤが……んー?」
サヤ「そ、そうじゃなくてですね、ええとなんと言いましょか、はい、あのー」
キリ「はっ、もしや……」
サヤ「ひぃぃぃぃぃぃ」
 これだけのヒントで気づくかぁ? 学年二十位ともなるとそこまで違うんですかぁっ!?
キリ「サヤ、もしかして先生のこと」
サヤ「それだけはないっ!」
 おもいっきり誤解されたーっ!
キリ「そっかー。うんうん」
サヤ「違うから、違いますから!」
キリ「大丈夫、大丈夫」
サヤ「違うから! 違いますから!」

サヤ「うううう、ごーかーいーされたー」
 凹むなぁ。無茶苦茶凹むなぁ……だが、負けてられない!
サヤ「先生! お話があります!」
コジ「ん? サヤ、お前今日はいつになく集中できてなかったなぁ、受験勉強疲れか?」
サヤ「大事なお話があります!」
コジ「お、おお」
 くっ。この顔で女殺しとかマジありえん! が、それはさておくぅっ!
サヤ「タマちゃんと付き合ってるんですか」
コジ「ブッ! お、お前なんて……」
サヤ「付き合ってるんですか!」
コジ「んなワケないだろう……無茶苦茶言い出すなあ」
サヤ「だったら今日のは!」
コジ「は?」
サヤ「今日、用具室でタマちゃんと抱き合ってたじゃないですか。見てたんですよ!」
コジ「おいおい、抱き合ってなんて……って、ん? ひょっとしてあれか?」
サヤ「やっぱり隠しだてしてないではっきり言ってください! でないと私……私……」
コジ「目薬入れてた時のか」
サヤ「……め、目薬だとぉ! 飲み物に混ぜることで有名な目薬だとぉ!」
コジ「いや、そうじゃなくて」

コジ「どうした?」
タマ「目にゴミが……」
コジ「おいおい、手で擦るな。目薬あるからタマ、じっとしてろ」
タマ「……はい」

サヤ「畜生! 王道ですねぇ!」
コジ「何、喚いてるんだお前。まあ、そういうワケだから……」
キリ「およ、先生にサヤ」
コジ「おお、キリノ」
サヤ「キリノぉぉぉぉ!?」
キリ「あ、邪魔しちゃったかな?」
サヤ「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
コジ「ムンク好きなのかサヤ?」
サヤ「今、私の苦悩をその呑気な顔面にぶつけてぇぇぇぇぇ!」
キリ「うっわー、その過激な愛情はほどほどにねぇ」
サヤ「違うから! いやマジで違いますからキリノ、誤解しないでぇぇぇぇぇぇ!」

コジ「やれやれ、なんだかんだで仲いいなあいつら」
最終更新:2008年06月02日 23:22