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”うっ、ううむ……わからん。”

「センセー一応大学出てるんでしょー?こんなのもわからないのー?」
「……けっ、俺ゃどうせ役に立たねーよそっちの方は」
「…一体何で役に立つんだか」
「うるせえよ受験生」

――――カツカツと、ピロピロ。
狭い部屋に鉛筆の音と、ゲームの電子音が混じって響く。
道場の次に落ち着くから、という理由で選ばれたコジローの下宿での勉強会。
「会」とはいえ参加者はもちろんキリノ一人。ゲームの合間にやけに嘴を突っ込みたがる教師を除けば、
ひどく安定した環境でキリノの勉強は、進む―――少し教師を、小バカにしながら。

▽▽▽

―――――数時間後。
コジローがひとつ、あくびをして手を止めると。
さっきまで勢いよくカツカツと響いていた鉛筆の音がしない。
寝ているわけでもなく、休んでいるわけでもなく、真面目に勉強はしているキリノだが…
どうも今、取り組んでいる科目だけは歯切れが悪いようだ。
心配したコジローが声を掛けると。

「おい、どーした?見てやろうか?」
「い、いいです…」
「…何だ、じゃあトイレか?場所知ってるだろ、その扉…」
「…違いますってば!もう、先生あっち行ってて!」

――――けんもほろろ。
流石に苛立ったコジローが黙って自分がトイレに立つと、
ほっと胸を撫で下ろし……ではなく、複雑な表情を見せるキリノ。

――――教師との付き合い方と言うのも、これで中々に難しいものらしい。

▽▽▽

「なんだそりゃ…ここ、俺んちだっつうの…」

ブツクサ愚痴りながら用を足し終え、手を濯いでドアを開けると…
テキストを抱えて恥ずかしそうに俯きながら、立っているキリノ。
出会い頭、と言うのはあるのだろうが、コジローとても声は出ず、ぱくぱくと口を動かすのみ。
赤い顔を更に真っ赤にしながら、何か呟くようにキリノが喋りだす。

「………センセー…あの…」
「…あんだよ?」
「勉強…えっと…」
「お前な、さっきあれほど俺は役に立たんと…うん?」

よく見るとキリノが抱えているのは自分でも見覚えのある…担当科目のテキスト。

「…なんだ、政経がわかんねえのか?」
「………うん」
「早く言えよな、そんな事は…」
「だって、聞きにくくて…ごめんなさい…」
「しょーがねえな、見せてみろよ」
「…えへへ」

キリノが笑顔になると、コジローもまた思うさま顔を綻ばせる。それも当然のこと。
―――――先生とはいつだって、生徒に頼りにして欲しいと思うもの、なのだから。

[おわり]