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 5人そろって団体戦もできるようになったし、合宿までやるなんて本当に部活動っぽくなってきたかな。
 部活からの帰り道。キリノは、そんなことを考えながら家路を辿っていた。
 手に提げた袋の中には、破裂したコジロー人形の破片が詰め込まれている。
あとで、修復しなくちゃと思いながら歩いていると、いつの間にか家についていたようだ。

「ふう、疲れた~」
 部屋に入って一息つくと、キリノはちらりと机の脇を見る。そこには、等身大の打ち込み人形が立っていた。
 胴衣はもちろん、室江高剣道部のもの。そして、そこに刺さっている人形の頭は、
リアルな、というより微妙に美化されているコジローのものだった。
 それは、手提げ袋に入ったいい加減なコジローの人形とは違い、部活で使ったような
リアルなキリノたちの人形同様に、細部まで手が込んでいる打ち込み人形だ。

「作るの飽きてきちゃって~なんて、言ったけど実は作ってあるんだよね……」
 なぜ、人形がここにあるのか。乙女心といってしまえば簡単なのだろう。
 要は、人形をリアルに作りすぎたためか、なんとなく打ち込ませるのがイヤだと
思ってしまったのである。
「ごめんね、ミヤミヤ。ダンくん打ち込まれるのがイヤっていうのもわかる気がしたわ~」
 キリノは、どうせ、聞こえないけれどとりあえず謝っておいた。
「リアルすぎて、なんか打てないよね。確かに」
 コジロー人形の頭をなでながら、キリノは1人感想を述べる。
「キリノ! お前の弁当をわけてくれないか?」
「もー、またですか先生~。そうだ、その代わり先生からも大事なものを頂いちゃいますよ」
「お、おお。仕方ないな……なんでもいいぞ」
「そーですねー、じゃあ貞操を頂いちゃいますよ~、なんっちゃってアハハハハ」
 キリノは、誰も見ていないことをいいことに、人形相手に1人芝居をした。
 しかし、1人芝居とはいえ大胆すぎたようだ。急に、恥ずかしくなってキリノはうつむいた。
しばらく下を向いて顔のほてりが治まると、今度はゆっくりとコジロー人形を観察する。
 それにしても、と彼女は思う。この人形は我ながらよく出来たと思う。たまにしか見せない
精悍な顔つきのコジロー先生を、記憶の限りを絞って現実に再現した似姿の最高傑作。
これ以上によく出来た人形をもう一度作れるだろうか、いや作れない。
 じっと見ていると、コジロー先生の声が聞こえてくるようでなんだか恥ずかしくなってくる。
「キリノ、お前のために剣道を頑張るからな!」……いやいや、そんなこと言ったことないけれど。

 キリノは、コジロー人形の顔をそっとなでた。
「ふふ、かわい~顔してますね、先生って。高校生みたい」
 そういいながら唇に手を当てる。人形なのになんだか、背徳感を感じてしまうようだ。
「誰も見てないしいいよね……」
 キリノは、そのまま唇から手を離すと自分の顔を人形に近づける。
そして、顔を真っ赤にしながら人形の口に自分の口を……。

「おねーちゃん、いやらし~」
 人形の山の中から、声が聞こえてきてキリノは飛び上がった。
「ひゃあ!」
 声のしたほうを振り向くと、そこには犬を抱えた妹がにこにこと笑っている。
「あ、あんた。いつからいたの!」
「お弁当わけてくれ、あたり」
 キリノは、聞かれてはいけないことを聞かれてしまったと後悔した。
もちろん、いまさら遅いのだが。
「み、みんなには黙っててね。お願い」
「え~」 ニヤニヤとこの年頃の女の子特有の好奇心を示す妹。
「じゃあ、アタシにそのコジロー先生のことを~もっと話してくれたらいいよ~」
「む、むう。仕方ないなあ」
 それくらいなら仕方ない、といいつつも嬉しそうにキリノは喋りだした。
コジローとの出会い、部活で先生がやる気をだしてきたこと…・…。
コジローのことを話すキリノの顔は、ひまわりのような明るい幸福感に満ちていた。

終わり