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「う、う~ん、もう朝か……」
外で鳴くカラスの声で目が覚めるとコジローは大きく伸びをした。
そして、隣をみて固まる。
そこには裸のキリノが穏やかな顔で眠っていた。
猫口をむにゃむにゃさせながら、なにやら幸せそうに夢を見ている。

しばらく、固まってからコジローは辺りを見渡す。
もちろん、そこは、自分のアパートだ。
待て、冷静に考えるんだ。きっと、これはよくあるギャグでなんか
色々変なことがあって偶然こうなったんだ。そうだ、きっとそうだ。
酔っ払って、倒れちゃったとかで……
そんな風に、コジローはグルグルと思考をめぐらせて血の気が引いた。

「駄目だ。どう思い出しても……完全にやっちまった」

もう一度、コジローは思い返す。
たしか、サヤとキリノがついに剣道部から引退する時期になったので、
お祝いにどこかで飯でもおごってやるってことになったんだ。
そしたら、サヤのやつ「あたしはいいですから、キリノといってきてください」とか
余計な気を使いやがって……。そしたら、キリノは俺の家で何か作るから外食はいい、
とか言い出したんだよな。
それで、まあ、キリノにビールを勧められて、思わず飲みすぎたんだ。
酔った勢いでキリノの真似してせんせぇ~とか言いながら押し倒しちまって、
そしたら、あああああ、やばい。やばいぞ。これはやばい!

コジローは、布団をそっとめくった。キリノの上半身は……裸だ。
そっと布団をかけなおし、今度は布団の下のほうをめくる。
そこに広がる光景を見て、絶望的になった。
「駄目だ……これは、言い訳ができん」

いや、待てよ。うん、さすがに避妊してるハズだとコジローは布団の横を見る。
ゴミ箱には、未開封の大人のゴムが突っ込まれていた。
そうだ、確かキリノのやつがなんか「いらないっすよー」とかいって投げ捨てたんだっけ。
「子はかすがい」とかなんとかも言ってたような気がするな。
コジローの心臓は、破裂しそうなほど音を立てている。
とりあえず、気を落ち着けようと立ち上がろうとするが、
左手をしっかりキリノが握り締めて離さないため、立ち上がることもできない。

「タマやサヤが見たら、俺になんていうかな……こりゃ」

頭をかきつつ考える。まだ、8月だ。キリノは卒業すらしていない。
いや、そもそも教師と生徒だ。俺ってやつはなんてことをしてしまったんだ。
右手で額を押さえながら考えていると、キリノが目を覚ました。

「あ、おはよ~ございます。せんせい」
照れながら、キリノが語りかける。
「あ、大丈夫ですよ。アタシ、サヤのところに泊まることになってますから」
「いや、そうじゃなくて……」
キリノが、申し訳なさそうに離す。
「すいません、先生、迷惑でした? あたし、初めてだったんで何かうまくできなくて」
「はじめてって……その、スマン! あやまってもどうしようもないがスマン!」
「やだなあ、どうしたんですか? 何で謝るんです」
「その……俺って駄目な先生だよなあ」
「ええ~、いまさら~」
キリノが、このこのーとヒジでコジローの頭をつついた。



「せんせーは、アタシとじゃいやだったんですか?」
キリノが悲しそうな目をして、こちらを覗き込む。
「そ、そんなわけないだろ! むしろ、うれしい。いや、うれしいんだが……」
「だが?」
「お前は、まだ学生なんだ、未来がある。そんな未来がある学生の将来を
 俺は、奪っちゃうかもしれないようなことをしちまったんだぞ」
 フフフ、とキリノが笑う。
「せんせー、本当にいろいろと真剣に考えるようになったんですね」
「笑うなよ。俺はだらしないけど、そういうことはキチンとしてるつもりだぜ」
 グッと指を突き出して、キリノが応える。
「でも、大丈夫ですよ。悪い可能性にはなりません!」
「あ、安全日だったのか」
「バッチリ、危険日です」
「おい!」
「もともと、アタシは一つの可能性しか考えてなかったですよ? 聞きたいですか?」
「いや、わかるような気がしたから、いい」
「責任とってくださいね? せんせー」
 コジローは、苦笑いしながら頭を抱えた。
「出来ちまったら、もちろんとるさ。いやいや、そうじゃなくてやっちまったこと事態の責任も
 必ず、どんなことをしても取る。でも、学校にばれたら……子供の父親がクビに」
「ばれませんよ。もし、バレたら家のそうざい屋で働けばいいっす」
 キリノがけらけらと笑いながら、コジローの顔をなでた。
「お前なあ、そう簡単にいうなよ」
「……もう、せんせーが、あたしの前から消えるのはいやなんです」
 キリノが泣きそうな顔でこちらを見た。
 俺は、こいつにここまで心配されるほどだったのか、とコジローは改めて思う。
「しかし、ビールでこんなに酔っちまうとはなあ」
「あ、あれ。途中から中身ホッピーと焼酎です。めっちゃ度数たかいっすよ」
「え」
「これ、サヤの案なんです」
 コジローは、サヤのにやにやしている顔が頭に浮かんだ。
「ゴムもか? せっかく買っておいたのに」
「それは、ミヤミヤがいざとなったら捨てろって」
 コジローの頭の中に、ミヤミヤがダンの前で同じことをしている姿が浮かんだ。

「あ、あいつら……」
「でも、せんせーのほうからアプローチしてくれるとは思わなかったです」
「すまんな……。押さえが利かなかったみたいだ」
「でも、うれしいです」
キリノは、モジモジとしながら布団から抜け出した。
「先生、お風呂貸してください。その後に何か、朝ごはん作りますね」
「あ、ああ。すまん」
 コジローはキリノの後ろ姿を見ながら、もう一度深く考える。
 キリノが風呂に入ると、携帯が鳴った。
 コジローが出てみると、それはサヤからのメールだった。
内容は、あまりに長いメールなので要約すると「卒業までは黙っててあげるよ」ということだ。
 同じようなメールがミヤミヤからも来たあと、さらに、ユージからもメールが来た。
「先生は男子だから、そういう衝動も仕方ないですし、キリノ先輩も寂しそうだったので
 部員一同で先生が戻ってきた日から考えてたんです。黙っていてすみませんでした。
 あ、でもタマちゃんと東さんには刺激が強いので、何も話してませんから安心してください」
 メールには、そう書かれている。

「……」

 明日、休み明けにどんな顔をして皆に会うべきか。
 コジローは久々に重い課題を突きつけられたような気がして再び額を押さえる。
「♪♪♪急に~♪♪」
風呂場からは、やたら上機嫌なキリノの歌声が聞こえてくるのであった。