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「なんか、外が騒がしいな」
コジローが素振りをしながらつぶやいた。
「知らないの?コジロー先生。あのコアミルクのアイドルがウチに撮影に来てるのよ」
サヤがそう返すと、コジローの顔がゆるむ。
「え、あのかわいい子かー、見に行きたいな」
何気なくつぶやいたコジローの一言で、タマキは凍り付いた。
なぜなら、その視線の先にいるキリノが
今まで見たことのない形容しがたい形相でコジローを睨んでいたからだ。

「どうしたの、タマちゃん?なんか、幽霊でも見たの?震えてるよ」
その様子に気づいたユージが、タマを気づかう。
「鬼……いや、デスアーマーです」
「は?」
タマの視線の先にいるキリノは、いつも通りニコニコしている。

表面上は。

「ひえひえ、うまうまー」
のんきに歌うコジローは、まだこのあとに訪れる恐怖を知らなかった。



「お、やってる。やってる」
コジローが人だかりを見ながらつぶやいた。
「じゃあ、あたしとCMに出たい人!」
コアミルクのアイドルが放つ声にあわせ、周りから一斉に手があがる。
「お、はーいはいはい。俺も出たーい」
コジローが無邪気に手を上げると
「ん、そこのお兄さん好みかもー」
なんと、コアミルク本人に指名された。
「じゃあ、あたしと一緒にひえひえ、うまうまーっていってね」
腕をコジローの体にからめながらアイドルが説明する。
「ひえひえ、うまうまー」
「ひえひえ、うまうまー」

部員たちは、その様子を呆れつつ見ている。
タマキはキリノに視線を移した。
「ひ、ひえーっ!」
「ど、どうしたのタマちゃん」
ユージは気づいていない。
タマキは背筋もひえひえになるような、キリノの憤怒の表情を見ていたことを。
せ、せんせいが。こ、ころされちゃう。
多分、後にも先にもこのようなキリノを見ることはないだろうが。
不幸なタマキは、その日、夢でうなされたという。



【翌日】

「お、いただき」
いつものごとく、キリノのエビフライを摘むコジロー。
見慣れた光景に、キリノの友人たちは呆れ顔だったが
「ぶほー!」
コジローがエビフライを吐くような勢いでむせだした。
「な、なんだこの甘いエビフライは」
「コアミルクっすよ」
「は?」
「せんせー、好きですよね。コアミルク」
「え」
「はい、コアミルク入りメンチカツ」
「キ、キリノ?」

友人たちがひそひそささやく
「先生。キリノと喧嘩した?」
「い、いや」
「怒ってるよキリノ」
「な、なぜだ?」

ふ、とキリノを見るコジロー。
「はい、先生。デザートはコアミルクっすよ」
「ひ、ひえーっ!」

そのとき、彼とクラスメイトは、初めて見た。
レアなキリノの憤怒の表情を。



【放課後】

「キリノ、何怒ってるんだ?」
「怒ってないですよ」

キリノが一人になるのを見計らってコジローが尋ねた。
次の瞬間

「怒ってなんて、怒ってなんて!」
キリノがいきなり泣き出した。
「もしかして、嫉妬したのか?アイドルに」
「違います!」
キリノが泣きながら答える。
「別に、先生とつき合ってるわけでもないですし、嫉妬なんてしません!」

ああ、そうか。とコジローは理解した。
彼は、アイドルを可愛いと言ったことに嫉妬したのだと思っていたが
「俺は、どこにもいかないよ、キリノ」
キリノはコジローをとられることが怖かったのだ。
「な、何言ってるんですか!」
「ぷっ!」
コジローは思わず吹き出す。
「お前、かわいいな」
「な、コジロー先生ー」
もう、すっかり機嫌はなおったようだ。
「ごめんなさい」
「ごめんな」

なぜか、二人同時に謝っていた。
「先生、明日はちゃんとしたエビフライ作ってくるね」


ちなみに、キリノの形相を見ていたタマキは学校を休んでいた。
それを聞いたサヤいわく
「あたしなら、二週間は休むね」
というキリノの憤怒の形相が出ることは、もうなかったという。