―――放課後。いつもの時間、いつもの道場にて。

サヤ「……皆、ちょっといい?」
ユージ「なんですかサヤ先輩?」
サヤ「うん、みんなに協力して貰いたい事があるんだけど…」
ダン「いよいよ、先生さがしにいくのかぁ~?それなら、おれたちも手伝うぞ~、なあミヤミヤ?」
ミヤ「うん、もちろんよダンくん」
サトリ「私も、出来る事ならなんなりと!」
サヤ「ううん、そうじゃなくって……逆、なんだ」
タマ「………逆?」
サヤ「うん、今日―――キリノは吉河先生の所に顧問のお願いに行ってて、まだ来られないんだけど…」
サヤ「……お願いっ!キリノの…あの子の前で、コジロー先生の話はしないであげて欲しいの」
サヤ「”迎えに行こう”だとか、”探そうよ”だとか、励ます言葉も―――ダメ。やめてあげて」
ミヤ「……なんでですか?先生が居なくなって一番悲しむのは…」
ユージ「………キリノ先輩、ですよね」
ダン「そうだぞぉ~、なんでだよサヤ先輩~」
サヤ「……わかってなかったの」
一同『???』
タマ「―――何を、ですか?」
サヤ「あたしが……一番、あの子と先生の近くにいた筈なのに…何にも」
サヤ「あたしは、あの先生がそこまでするなんて……思いもしなかった…」
サヤ「だから、その先生が居なくなった今―――今度こそ本当にあたしが、先生の代わりに、あの子を守ってあげなくちゃ…」

サヤ「(そう、思えば……あたしはキリノの事だって何も分かってなかった―――)」
サヤ「(あの子が「泣いてもいいんだよ?」なんて言われて泣くような、そんな素直な子なわけがないじゃない…!)」

サヤ「だから……だから、皆にお願い」
サヤ「……あの子がどんなに無理して笑ってても、そのままにしてあげて?」
サヤ「決して、慰めたり励ましたり……しないで。みんなにも、辛いとは思うんだけど…」
サヤ「あの子が、気持ちの整理をつけて、先生の事を諦めるか……それか、もしも奇跡があるのなら―――その日まで」
サヤ「きっと、黙っていてあげて……お願い」

―――そう言いながら俯き、涙を浮かべているサヤ。

タマ「―――わかりました」

―――タマに合わせるように一同がうんうん、と頷くと。そこに戻って来るキリノ。やはりその声は元気ではあるものの…どこかが違う。

キリノ「たっだいまーっ!吉河先生OKだって!剣道着が届いたら、面倒見てくれるって!」
ユージ「ほ、ホントですか!?キリノ先輩」
キリノ「ほんとほんとー、ふっふっふ……部長のあたしに不可能はないっ!……ってあれ?サヤ…」
キリノ「どうしたのー?顔が赤いよ?熱でもあるんじゃ…?」
サヤ「……な、何でもないよ!」
キリノ「…ふーん?まあいいや……さて!皆、待たせたねっ!」
キリノ「ケイコだっ!」
一同『お…おお!』

―――一人の更衣室。道着を着込み、髪をまとめながら、キリノは考える。

キリノ「(……ヘンじゃ…なかった、よね?)」
キリノ「(あたし、上手に笑えてる、はずだよね―――ねえ、先生?)」
キリノ「(でも、ひどいよね……皆も少しくらい、”大丈夫?”とか”探しに行こうよ”だとか、言ってくれれば、いい、のに―――)」

―――ぐすっ。

キリノ「(……駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だダメダメ!あたしが落ち込んでて、どうするの…)」
キリノ「(そんな事したら皆も余計に気を使って……使っ…て…?)」

―――珍しいユージの焦り顔、少し躊躇いがちの「おお!」、そして……あれはきっと泣いていた、サヤ。

キリノ「(……もしかして…)」
キリノ「(………”もう”、なのかな。)」
キリノ「(…………それっ、て……)」
キリノ「(……不器用な気の使い方だけど、先生と同じ―――サヤ…)」

―――自然、目からあふれだすモノ。でも、悲しいばかりのものではない。

キリノ「……ぐすっ……うええっ……ううっ……!」
キリノ「せんっ……せえっ…!」
キリノ「うわぁぁぁん……!」

―――声を殺し、泣く事数分。ようやく気持ちの整理がつくと。

キリノ「(サヤ……ごめんね。ありがとう)」
キリノ「(あたし、もう少しだけ―――ここで待ってみる。)」
キリノ「(皆にはいっぱい、迷惑掛けちゃうかも知れないけど……)」
キリノ「(先生は、きっとあたし達を見ててくれてる。そんな気がするから―――)」



おわり
最終更新:2008年05月15日 22:04