今日も授業が終わり、だらだらと教務室に向かう途中の角を曲がりかけたところだった、

「千葉、俺おまえのことが好きだ、付き合ってくれっ」

(うわぁ、エラいトコに遭遇してもうた…)

反射的に来た道を引き返し、他の道から教務室へ。

(…キリノって案外男子からの人気あるのな。まぁ器量もいいし、性格も悪くないしモテる要素は持ってるよな…。)

そして部活。

(しかし気になる…。あれからなんて返事したんだ。…て、どうして俺こんなにキリノ意識しちゃってるわけ。あーイライラする…。)

するといつもと違う何かを感じとったのか練習の輪から抜け出し、トテトテとキリノが近くまで寄ってきた。

「せんせー、なにか考え事でもしてるんすかぁ?」
「あ、いやっ…、夕食の算段してんだよ。カップラーメン買ったら財布の残りが…ブツブツ」
「ふーん、変なのっ。いつものことっちゃあいつものことですけど。」

顔をしかめ、歩いてみんなの輪に戻っていくキリノ。

(あー、変に意識しちまうじゃねーか、なんなんだよ俺の馬鹿。)

自惚れているわけじゃないが、コジローにはキリノが自分に好意を寄せてくれているというある一定の自信があった。
だが、はっきり確認したわけでなし、自分が復職できた時に飛び付いて喜んでくれたのも、あくまで“顧問として”かもしれない。
そんなモヤモヤを抱えたまま練習は終わり、道場、着替え室の掃除をしている。

(あーっ、気になって仕方がない時はやっぱ本人に聞いてみるしかないだろ。うまいことキリノが一人になったタイミングを狙うか…)

道場の掃除も終わりに差し掛かり、キリノ以外のみんながゴミ出しに行き、キリノは壁に寄り掛かって何か考えるように立っていた。

「よ、よぉ、キリノ。」
「なんすか。改まって…。」
「あの…、その…だな。…今日廊下で」
「断りました。」
「……………
そか。」
「あたし、他に好きな人がいるから。」
「……………そうか。」
「その人、ちゃらんぽらんでダメダメなんですけど、どこ好きになっちゃったんすかねぇ……」
「…あぁ。」
「見てたんすか?」
「…あぁ。」
「……少しは心配でした?」
「…すごく。」
「………なら安心しました?」
「…………すごく。」

みんなが帰ってくるまでの少しの間。夕暮れの風を感じながら、目はそらしたまま、どちらともなく手を握りあう二人、壁を背に、並んでもたれかかっていた。

「日が長い…。もう時期、夏ですね。」
「……あぁ。」
最終更新:2008年05月12日 00:03