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「先生っ、大好きっすよっ」

勇気を振り絞って、
想いの全てを託して告げた言葉。
あなたはどう受け取るんでしょうか…。




土曜日の午後の武道館。
屋根越しに伝わるのは、刺すような夏の日差しではなくて包み込むような秋のそれ。
開けっ放しの扉から時折り吹き込む10月の風がちょっぴり汗ばんだ肌に触れ心地いい。
ずっと、こんな季節が続けばいいのにな、ってそう思う。


「キリノー、戸締り頼んじゃってゴメンっ!!」

声の主は自転車に跨り、私に手を合わせながら叫んでいる親友。
早く用事を済ませてきても大丈夫なのに、律儀に何度も謝る彼女にちょっと苦笑する。
だから、"気にしないでいいんだよ"って意味を込めて、負けないくらい大きな声で返す。

「おうよ! 任せといてっ!」





サヤも帰って、私以外だあれもいなくなった武道館。
耳に届くのは遠くから微かに聴こえる、他の運動部のランニングの掛け声くらい。
竹刀が竹刀を弾く破裂音もしなければ、賑やかなおしゃべりの声も聴こえない。

少し前まで当たり前だったこの静けさが、今はとても寂しく感じる。
早く明日になればいいのに、
みんなで"わいやわいや"と竹刀を振れればいのに。

今、こんな風に心もとなく、切なく感じるのは、
私がいつも仲間に支えられているからなんだろうなぁ、ってそう思う。
私が私らしく振舞っていられるのは、みんなのお陰だからであって、
私がみんなを支えてるんじゃなくて、みんなが私を支えてくれてるんだ、って。
長年私なんかに連れ添ってくれるサヤ、
頼りない私を"先輩、先輩"って慕ってくれる後輩たち、
そして、なんだかんだでいつも目をかけてくれる―――、




「なんだ? まだいたのか?」

屋内の静寂を破るその声にびっくり。
振り返ると、呆れたような表情のあなた。

「うぉぅ? 先生…?
お休みの日に先生が道場に来るなんて珍しいですねー。」

なんとなく、恥ずかしくて。
ちょっと憎まれ口を叩いてみたり。

「そうか? 最近はよく寄ってるつもりだったんだけどなぁ」

そんなことは、誰よりも私がよく知ってる。

「んー、まぁー昔に比べたら"ちょっとは"、ですねっ」

たった今、心の中であなたに感謝していたことを伝えたら、
目の前のあなたはどんな反応を見せてくれるんでしょうか。

「どういう意味だよ、それ」

ちょっと困ったような顔。

「どういう意味でしょうねぇー。
まぁ、それはさておき、私も、戸締りして帰りますねっ」



室内の窓を閉めるために踵を返し、背を向ける。

「おぅ、キリノ気をつけて帰れよ」

私の名前を呼ぶあなたの声に、胸が高鳴る。
誰にも言ったことはないし、言えないけど、何よりもしあわせな瞬間。

でも、私だけがドキドキするなんて悔しいから。

息を大きく吸い込んで、一瞬振り向き、思いを告げる――。


「先生っ、大好きっすよっ」




後ろは振り返らない。

あなたは今、どんな表情をしているんだろうか。
生徒のからかいの様な冗談に苦笑い?
それとも、ちょっとは意識なんかしちゃったりして頬を赤く染めてくれているんだろうか?
それとも――――。




ある秋の日の午後の、

ほんのひと時のしあわせ。

来年も再来年もずっと、

あなたの隣に私がいれますように。