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「すべて終わったけど、これからだよね…」
「ああ、そうだな。よろしくな。奥さん。うーん、あわんな。よろしく。キリノ。」
そう言いながら、コジロー先生はあたしの頭をくしゃくしゃとなで回した。
あれ?ついつい先生と考えていた。名前の呼び方を考えた方がいいのかな?
コジロー…なんか違う。旦那様…もっと違う。あなた…せっ、背中が…
やっぱ、せんせーでいいかな?うん。いいや。これでいこう。

 そう。ちょうど今あたしたちの結婚式を終えて、一息ついたところなのだ。
「おい。何身体をクネクネさせているんだ?荷物もまとまったし、帰ろうか。」
先生はそう言うと、キャリーバッグを引っぱり出した。あたしも手提げ袋を
持ってついていく。

 駐車場について車に乗り込む。
「何かと金が掛かるから、新車というわけにはいかんよなぁ。」
先生はそう言ってエンジンをかける。
「ねー、先生。」
「なんだ?」
「帰る前によりたいところがあるの。」



「なんでまた学校に…」
先生はそうぼやいて車を降りる。二人並んで歩き出す。部活帰りだろうか。
通りかかった生徒が先生に声をかける。
「せんせー。彼女っすかー?」
先生が何かを言う前に、あたしが指に光るものを見せていう。
「ちがうよーっ、嫁だよーっ。」
「やるーっ!お幸せにーっ!」
笑いながら手を振ってくれる。そんなことをしているうちに道場に着いた。

「4年前だったかな?あたしが入学して…」
「俺とここで出会ったわけだな。」
「あたしはやる気があったのにその頃の先生は…」
「まぁ、言わないでくれ。あの頃はどういったらいいのかな?
テンションが上がらない時期だったからな。」
「でも、あたしが部長になった頃から、急にやる気になってくれてうれしかったな。
先生のやる気に答えるためにも。あたしはもっとがんばれたんだよ?」

 あたしがそう言うと、先生は少し複雑な表情を浮かべた。
「でも、それが空回りして、みんなには迷惑をかけたな…特に、キリノ。お前には…」
そう言ってあたしを抱きしめる。しばらく先生の胸に顔を埋める。十分先生のぬ
くもりを
堪能したあたしは、顔を離すと先生を見つめて言った。

「でも、あたしたち今日から夫婦なんですよね。離ればなれにならないよね。」
「もちろんだ。お前こそ、俺を置いて消えるなよ?」
そう言って二人は顔を見合わせた。あれ?少し涙が出た。

 その涙を拭って、先生に言う。
「ねぇ先生。二年前はホント、寂しかったんだよ?みんなの前ではがんばってこれたけど、
一人の時にはさびしくてさびしくて…」
「すまなかったな。でも、もう大丈夫だ。なんの心配もいらないぞ。」
そう言って先生は再びあたしを抱きしめて、今度は唇を重ねてきた。

 自然と離れた後、あたしは言った。
「二年前の、さびしくてさびしくて泣いていた、あたしに教えてあげたいです、
『あたし、せんせーと結婚するんだよー』って。泣かなくてすむんだよって。」
「そうだな。俺も二年前の俺に、『大切な女を泣かせんじゃねーっ』って、
怒鳴りに行こうかな。」

 そう言って二人は自然と笑顔となった。そのまま手をつないで歩き出す。
「カギを返しに行くから、お前は待ってろ。」
そう言って先生は職員室に向かって走っていった。あたしは手持ちぶさたなので、
久々に校舎の周りをウロウロする。懐かしいな、この雰囲気。そこへ絶叫が。



「野球部のボールが!!」
「あっちからはテニス部のボールも!」
「ラグビー!」
「教頭が3階から足滑らせたー!!」

 先生が何か叫ぶ声が聞こえたけど、あたしは衝撃とともに気を失った。

 気がついたあたしは周りを見渡す。えーっと、ここって道場の更衣室?
何でこんなところに?普通そう言うときは保健室では?と考えながら立ち上がる。
「めまいは…なし。手も、足も動く。首は…」
と動かして、更衣室の入り口を見る。そこにはカレンダーがかけてあるのだが、
えー?これ二年前のもの?あわてて更衣室の入り口に立つ。やっぱり二年前。
まさかタイムスリップ?とパニックになっていると、扉が開いて『あたし』が入ってきた。
そう。二年前の制服姿で。

(えっ、えっ、えええええー!)
声にならない声をあげているあたしを後目に、『あたし』は、そのまま
あたしを通り抜けて更衣室に入ってくる。そして荷物を置くと着替え始める。
(あわわわわわわわわわわ)
『あたし』はブレザーを脱いでハンガーに掛ける。そしてリボンを…
でも、あたしには気づいていないみたいだ。

(これはもしかして幽体離脱+タイムスリップってやつかな?)
少しは冷静に考えられるようになってきた。そうこうしているうちに、
『あたし』は胴衣を手にする…けども、ため息を吐いて固まっている。
「いつも手にするのはあたしの胴衣ばかり…先生の胴衣は、もう…」

 そうだ。昔は洗濯当番があって、みんなが交代で胴衣を洗っていたっけ。
あたしも先生の大きな胴衣と格闘したよなぁ…
「先生…せんせぇ…」
『あたし』は静かに泣く。あたしも二年前を思い出して、一緒に泣きそうになる。
そこをこらえて、叫ぶ。
「泣かないで!!」
「え? だれ、今の…」
『あたし』が、ビクッと顔を上げて、周りを見渡す。あ、しゃべっちゃった。
声だけは聞こえるのなか?

「だれもいない?でも?あたしの声?」
「そう。あたしはあなただし、あなたは、あたし。」
「そ、そんな…」
「大丈夫。泣かないで。あたしは2年後のあなた。」
「2、2年後…」
「大丈夫。あなたがあなたと先生を信じてがんばっていれば、神様はきっと。」
「え…」
「一ヶ月後か半年後か一年後か二年後かは言わないけれど、信じてさえいれば…」
「信じる…」
「そしてね、二年後には…」



 そこで目が覚めた。気がつくと白い天井。右手にはぬくもりが。どうやら
保健室に寝かされていて、先生があたしの手を握りしめていたようだ。
「気づいたか、キリノ。」
そう言って先生はあたしの顔をのぞき込む。軽くうなずいて答える。

「心配したぞ…前みたいにタマがいないから、今度はお前は全部直撃を受けて、
気を失っていたんだ…」
「ゴメンナサイ…心配させて…」
「ああ。『俺を置いて消えるなよ』っていっただろーが。」
「うん。でも、先生がついていてくれたんだね。幸せだな。
目が覚めたら先生がそばにいるなんて…」
「な、何を言うんだよ…」
そう言って先生は顔を背けた。あ、そういえばアレは夢だったのかな?

「せんせー。」
「なんだ?」
「あたしね、結局言えなかった。」
「何を?」
「でもね、元気はあげられたと思うんだ?」
「だれに?」
「あの世界のあたしも幸せになって欲しいな。」
「なんのこっちゃ?」

 先生はわけがわからんという顔をしている。ウン。そうだよね。
でもいいんだ。全部言っちゃったら、お楽しみがないもんね。
あの世界のあたしにも、あの日の感激と今日の幸せと未来の夢を…