「タマちゃん、帰ろうか」
もう夕日で赤くなった空は、彼と彼女を照らしている。
「うん」
彼女は彼にそう返事をすると、自転車に乗った。

もうすぐ曲がり角。ここで自分と彼女は分かれる。
「あ・・・」
「どうかした?」
彼女は何かを思いついたみたいに自転車を止めた。
彼も同じように彼女の横に止める。
「学校に宿題忘れてきちゃった」
彼女は口元に手をあてて、困ったような表情をする。
「あちゃーー。でも、剣道部が最後だったから、もう門閉まってるしなぁ~」
彼は頭をクシャッと手でかきわける。
二人は考えると、ユージが手を叩く。
「それじゃあ今から俺んちくる?宿題ってあの英語のプリントでしょ?
 俺も一緒だし、コピーして部屋で一緒にやろうよ」
なんていい案だろう。
と俺はそう思ったが、タマちゃんはあまり気のりしなかったのか、あぶら汗を
かいていた。
「え・・・・っと・・・それは・・ちょっと・・・」
「どうして?」
不思議に思った彼は予想外の言葉にビックリする。
「ご、ごめん。その・・・ファックスにして送ってきてくれないかな・・・?
 きょ、今日はちょっと、見たいテレビがあって・・・」
彼は彼女の様子にまだ疑問を浮かべていたが、まぁいいか、と思い
わかった。帰ったらファックスで送るよ。といって、彼女と別れた。

ブッブッブッとファックスを送っている音が聞こえる。
「ん~~~~~」
新聞を何度見てもタマキが見そうなアニメやテレビ番組はどこにもない。
「なんで、ウソついたんだ?」
彼は天井を見上げて眉をひそめている。
「どう思う?母さん」
彼は茶碗を洗っている母親にふる。
「そりゃぁあれでしょ。あんた部屋で一緒に勉強しようって言ったんでしょ?
 男として見てるんでしょ?タマちゃんはあんたのこと」
少しニヤついた表情でユージのことをみる。
彼は母親のその結論に一瞬固まったがすぐに笑い飛ばす。
「あはは!ありえないよ!タマちゃんが俺を?ないない。ありえないって」
手を横に振って完全否定。

「あんたねぇータマちゃんも女の子なのよ?たとえあんただとしても、あんたは男。
 タマちゃんだって異性として思うことは不思議じゃないわよ。意識することもあるだろう
 し、だから断ったんでしょうが」



意識?タマちゃんが?俺を?
ピーーーっと効果音をならし、ファックスが終わった音がする。
「あ、終わった。上いって宿題しよ」
彼はそこで話をきりあげ、さっさと自分の部屋に入っていった。
「まったく、誰に似たのかしらね。あの鈍感息子は」
ため息混じりに母はそうつぶやいた。

ユージは部屋に上がってもまだ考えていた。
宿題も手が入っていない。
母親の言葉が頭をよぎる。

意識・・・か・・・

彼は宿題をするのをやめて、ベットに腰掛けてクッションをいじくる。

まぁタマちゃんも変わってないといえばウソになる。

『タマちゃんはやめて』とか『つまんないかな』とか、女の子が気にする
(?)ようなことをちらほら言っていたきがする。

「タマちゃんも女の子なんだよなぁ」

ん?

彼は自分の言葉にビックリする。

あれ?今もしかしておれ、タマちゃんのこと女として見てた?

「いやいやいや!違うから!そういう意味じゃないから!」

いやまぁでも、キレイになったとかも少しは

「いや!だからちがうって!」
自分の考えに自分で否定するが、どうもそんな考えにいきついてしまう。
彼はあきらめたようにボフッとクッションに顔をうずめる。
クッションの隙間から目を細めてつぶやいた。

「母さんがあんなこというから意識しちゃうじゃないか」
また自分の言葉に驚きクッションを投げつけた。
「だから意識なんてしてないって!」
「うるさいわよユージ!」



「はぁ」
彼は、土曜日の朝練にむかおうと自転車をこいでいた。

昨日はあまり眠れなかった。

「はぁ」
またため息をつく。
すると、ため息の原因。
タマキがユージの隣にやってきた。
「おはようユージくん」
彼女の姿に、ちょっと驚いて、ぎこちなく挨拶してしまう
「おはよ・・・」
「?」
そんな彼に疑問を抱く彼女だが、そのこととは関係ないことを話す。
「昨日はファックスありがとう」
彼女はほのかに笑った。

ドキッ

彼はその笑顔に見入ってしまった

ドキッてなんだ!?ドキって!
ブンブンと頭を振る彼に、彼女はクエスチョンを浮かばす。
「????ユージくん・・・?」
「あ、いや!なんでもない!」
彼はごまかし風にそういうと前を向いて自転車をこいだ。

「おはよーー」
キリノが朝から二人で登校のタマキとユージに挨拶する。
「おはようございます」
「おはようございます」
二人も同じように挨拶をして、いつもどおり、更衣室で着替えた。

お昼
「あ!そうそう!あしたって夏祭りあるよね!」
サヤがガツガツとご飯を食べながら言った。
「そういやそうだね!あ、じゃあさ!みんなで夏祭り一緒にいこうよ!先生も!」
キリノの提案にみんなは賛成する。
「俺もか?」
コジローはやや不満げにいうため、キリノが説得する。
「やーーでも、あそこただ酒とかあるし「よし!明日の6時!祭りのところにある時計台集合!」
キリノの言葉で行く気満々になったコジローであった。



部活の帰り道。

タマちゃんとお祭り・・・小学生いらいだな

とか思いながら自転車をこいでいたユージはほのかに顔を赤らめる。

「あーーー!もーーー!なんなんだこの間から!」
口をへの字に曲げて自分の考えに疑問を抱く。
「わからない」
しかし、その答えは彼自身にもわからない。

して、夏祭り―――
ガヤガヤとあたりが騒いでいる。
まぁ、お祭りだからであるのだからであるが。
「遅いなぁあいつら」
男性軍はもう時計台の下についていた。
女性軍は、私たちはちょっと用意しなきゃいけないから、と言って自分たちを待たせている。

ユージは喉が渇いたため、待っている間ジュースを飲んでいた。
時に、男性軍の服は(どうでもいい人はスルー)
コジローは真っ黒なTシャツに、ジーパン
ダンは白Tシャツに漢と書いた服と、同じくジーパン
ユージはカッターシャツに、数字が入ったTシャツと動きやすそうなクロズボンだ。

「おまたせぇーーー!」
キリノたちが、やっと来た。
「遅いぞ」
コジローが腰に手をあてて、起こり気味そういうと、キリノは手をあてて
ごめんごめんと誤る。

「おおーー!ミヤミヤ綺麗だぞぉ~~」
ダンが都の浴衣姿を褒める。
ユージもジュースを飲みながらタマキをみた。

「ブハッッ!」
吹いた。
「ゆ、ユージくん大丈夫!?」
ジュースを吹いた彼に歩み寄るタマキ。
咳き込んでいる彼の背中をさする少女の格好は
『バンブーブレード四巻 35話表紙のタマの浴衣姿』である。
「ごほっごほ」
まだ咳き込んでいるユージに、タマキは本気で心配する。
「ゆ、ユージくん。大丈夫?どうしたの?」
タマキはユージに顔を近づけた。
彼はタマキの顔が真近にきたので、顔を赤ら固まってしまう。
「顔真っ赤だよ?熱でもあるの?」
そう言って彼女はユージのおでこに自分の額をくっつける。



ユージは、その場で真っ赤になり、ピクリとも動かない。
「ユージくん・・・?」
「あ・・・ぁ・・な、ななななんでもないって!」
ユージは明らかに動揺を隠しきれていないが、なんとかタマキから離れた。
「そお?ならいいんだけど」
タマキの方を見ず、そっぽを向いている方向にはニヤニヤしたコジローたちがいる。

「ち、違いますよ!?」
「俺たちまだなにも言ってないぞぉ?」
「いってないぞぉ?」
明らかに楽しんでいるような目はユージを追い詰める。
「た、タマちゃん!い、行こ!」
そういって、タマキの手をとり、さっさと屋台を回ろうとする。
タマキは引っ張られるようにユージについていく。

彼女の目先は握られた手。

それを見ると頬を赤らめながらうつむく。
うつむくと自分の着ている浴衣。

変だったのかな・・・・?

さっきのおかしなユージの様子に不安になってしまう。
その理由で咳き込んでしまったのか訊きたかった。
「ユージくん」
「な、なに?」
彼を見上げて言った。
「この浴衣、どう?変かな・・・?」
そう不安げに訊くと彼はえ・・・、と言って立ち止まる。
「え・・・き、キレイだよ」
彼女は目を見開いた。
「浴衣」
最後の言葉に落胆。
どうしてこの幼馴染は一言多いのだろうか。
「そう・・・浴衣・・浴衣がキレイなんだ」
ふくれっ面で前を見るとユージの手を放してしまう。
「・・・・」
ズキッ
ユージの胸の奥が痛んだ。

なんで手離すんだよ。



ユージはまたタマキの手を握った。

「え・・・」
「人ごみが多いんだから」
彼の言葉にまたふくれっ面をすると、怒り気味で彼女はごめん、と誤る。

なぜ彼女が怒っているのかはちょっと想像がついた。

口を尖らせている彼女が、少し面白かった。
ふっと笑うと彼女は何笑ってるの、と不機嫌そうに質問する。

「タマちゃんも可愛いよ?」
そういうと彼女は見る見るうちに顔を真っ赤にする。

しかし、今思うと、自分の言葉に顔を赤くする。

何をいってるんだ。俺は。

左手で口を押さえ、赤面した顔を隠すように上をむくと、
さっきより握っていた彼女の手が強くなったように感じた。

チラッと見てみると、彼女も自分と同じような表情をしている。

しかし俺は、その表情も嬉しかったが、さっきみたいに
手を放さず、強く握ってくれたことが、何よりも嬉しかった。

「ねぇタマちゃん。射的しようか射的」
射的の屋台び指を刺した彼に彼女も賛成する。

「うん!する」
元気よく返事をした彼女は屋台のおじさんにお金をだして、
狙いの商品を撃とうとする。



むなしくもタマキのタマは全はつ外れた。

「あ~あ残念。彼女。」
おじさんが残念そうに言っていない顔でタマキを見つめると、
少しシュンっと頭を下げて悔しそうに目をつむる。
そんな彼女を見て彼はおじさんにお金をだした。
「はい。おじさん。一回」

「お!今度は彼氏かい?いいよ!はいよっ」
そういって弾と銃をわたすと、ユージがタマキに視線を移す。
「あれだよね」
「え・・・う、うん」
彼がタマキが何度も挑戦して失敗した商品に銃を構える。
剣道では面で見えない彼の真剣な目に、タマキは彼の方に見とれてしまう。

パンッ
「お・・・」
「はい、タマちゃん」
彼はそう言って、タマキに商品を渡した。
一発であてた。
「おおーーー!今時熱いカップルだなぁーー!」
おじさんの余計な言葉に周りのみんなはユージとタマキに視線をうつす。

その場はまだユージがタマキにプレゼントを渡そうとしている最中だった。
「あ・・・ありがと・・ユージくん」
その視線に顔を真っ赤にしながら受け取るタマキ。
同じく顔を真っ赤にしてあげるユージ。

ユージとタマキはその辺いったい、チラチラ視線を向けられて歩く。

「はぁ・・・」
やっと落ち着いた視線に彼は息をつく。
「あ・・・もう九時・・・」

「あーー本当だ。そろそろ帰ったほうがいいね」
ユージも自分の携帯を見てそうつぶやく。
「じゃあ俺からキリノ先輩にメールするよ」
そう言って彼はメールをうつ。

彼はメールを打ち終わると、行こうかといって歩き出す。
これといってかなり気まずい帰り道。
彼も彼女も何か話題を探すがうかばない。

二人とも違う方向を向いたまま、帰って行く。

というか、心臓にいたい。
彼はそう思いながらチラッと彼女を見てはそっぽを向き、の繰り返し。
彼女はずっと前を向いている。
前だけを見ている。

「た、タマちゃん」
いきなり話しかけられた彼女はビクッと肩を震わす。
「な、なななに?」
動揺を見せて彼にふりむくと、彼は違う方向をみて赤い頬をポリポリと人差し指で
かきながら、いいにくそうに言った。

「ら、来年は・・・二人でいこうか」
言ってからものすごく赤くなった彼は恥ずかしさを隠すように空を見上げた。

「うん」
笑って返事をした後、ユージとタマキは一緒に手をつないで帰った。

END
最終更新:2008年05月04日 21:38