「おい、キリノ。ちょっとそれとってくれ」
がっしりとした体格の老人が、金髪の女の子を呼び止めた。

「んもー、おじいちゃんったら。あたしは、おばあちゃんじゃないってば」
「お、悪い悪い。あまりに似てたもんで、つい、な」
「あらあら、また、あたしと間違えたんですか」

部屋の奥から穏やかな顔をした老婆が、ゆっくりと歩きながら、老人に話しかけた。

──おじいちゃんは、あたしの自慢のおじいちゃん。
剣道が大好きで、教士7段の実力者。
大人の強さを持った素敵なおじいちゃんだ。
そして、キリノおばあちゃんも、やさしくてチャーミングで、
年をとったらこんなおばあちゃんになりたいと思える素敵なおばあちゃん。
あたしは、そんなにおばあちゃんの若い頃に似てるのかな。

祖母に間違われた孫娘は、二人の姿を見ながらそんなことを考える。

「まったく、どうしていつも間違えるのかしらねえ」
「そりゃ、若いときのキリノに似て美人だからなあ。
まあ、キリノのほうが もっと、美人だったがな」
「もう、いやですよ。恥ずかしい」

笑って、この年でのろけあえるなんて、本当に素敵な夫婦。
すごくうらやましい、と孫娘は素直に思った。

「あたしも、おばあちゃんたちみたいな素敵な夫婦になれるのかなあ」
「そうねえ、ふふふ。でも、駄目よ。この人みたいに寂しがりやの男の人だと」
「おいおい、いつ俺が寂しがったんだ?」
「もう、ほら。室江高校剣道部に仮面を被って戻ってきたときがあったじゃないですか。
 あのとき、アタシに抱きついてスリスリしたでしょ?」
「あ、あれ? そうだったか。よく覚えてないが……なんか違うような」
「マスコットもって泣いてたじゃないですか?」
「んんん……そ、そうだったかなあ? それはキリノじゃ……」
「あれ?それはアタシでしたっけ? まあ、どっちでもいいじゃないですか」

二人にしかわからない思い出を語りながら、嬉しそうに笑いあう老夫婦。

二人は、縁側に腰を下ろすと、日本茶をすすりながらぼーっと雲を眺める。
思い出話を語りながら、お茶をすすって、
時折おじいちゃんが照れくさそうに笑っている。
──この光景が、アタシは大好き。
二人の姿を見ながら、彼女は不思議な幸福感を感じていた。

「ほら、そこに立ってないでおいで。あなたのぶんのお茶もあるわよ」
老婆にすすめられて、孫娘も縁側に腰を下ろす。
「そうだ、2人の馴れ初めを聞かせてよ」
ふと、孫娘はそんな言葉を切り出した。
「そういえば、話したことはなかったな」
「そうですねえ、どこから話しましょうか」
「んー、そうだな。タマに出会ったところから始めるのがいいかな」
「そうですね。それが一番いいですね」と老婆は老人ににこやかに答える。

「きっかけは、そう”竹ぼうきと正義の味方”が始まりだったな」
「え?なにそれ」孫娘は目をキョトンとさせつつも、話に興味を示す。
「それはな……」

BAMBOO BLADE 第1話に続く
最終更新:2008年05月02日 22:07