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「もうすぐバレンタインデーだよね~。タマちゃんは誰かにチョコあげるの?」
今日の部活が終わり、更衣室で着替えながらキリノが尋ねた。

「はい。お父さんとユージくんに上げます。」

4人が驚いて珠姫を見る。

「えっと・・・それは義理チョコ?」
都が恐る恐る聞く。

「はい。小学校では上げてました。」

4人ともやっぱり義理だよな~というため息を吐く。

「中学では渡さなかったんですか?」
サトリが疑問を口にした。

「・・・中学校になってからは、あんまりユージくんと一緒にいることがなくなりましたから。
原因は明白だ。勇次が道場をやめて部活を始めたから。ただそれだけ。
思い出してから少しだけ嫌な気分になった。どうしてそれで嫌な気分になるのかはわらないが・・・。

「今年はあげるんだ~?」
「へ~」
キリノとサヤがいじわるをするように言う。

「・・・?はい。ユージくんには足の怪我をした時に送り迎えをしてもらったりしましたから。」
二人の様子を不思議に思いながら、珠姫は答える。

「タマちゃんはいつもバレンタインのチョコは買って渡してたの?」
都が聞いた。

「はい。自分で作るのは大変そうなので。」

「そんなことないわよ。私もダンくんのために初めてチョコ作るんだけど、 すっごく簡単だし、本見ながらやれば絶対失敗しないって友達が言ってたわ。」

「う~ん」
簡単ならやってみようかなぁ。失敗したら買えばいいんだし。

「それにユージくん、タマちゃんの手作りって知ったらきっとすごく喜ぶと思うわよ。」

勇次が喜ぶのはすごく良い。喜んでほしい。だから決めた。
作ろう、チョコレート。

「うん。宮崎さん、私作ります。」



道場を出たところで勇次が声をかけてきた。

「帰ろっか、タマちゃん。」

「あの、ごめんユージくん。私、この後宮崎さんと本屋さんに行くから先に帰ってて。」
これから都と明後日のバレンタインで渡すチョコレートの本を買いに行くのだ。

「宮崎さんと?ふ~ん、何かほしい本があるの?」
珍しい組み合わせだなぁと思いながら聞いてみる。

チョコレートを作るための本だと答えようとしたところで、都が割って入った。

「タマちゃん!ダメよ言っちゃ~。」
珠姫を引き寄せて勇次に聞こえないようにして続ける。

こういうことは秘密にして、あとでビックリさせるのよ。」

ビックリという言葉を聞いて勇次が驚いている光景が浮かんで、珠姫は楽しくなった。

そして都の言うことに従って、勇次には教えないことにした。

「えっと、やっぱり秘密。」

「・・・?わかった。」
珠姫の様子を変に思いながらも、勇次はそれ以上追及しなかった。

本屋に行く途中で、明後日の驚く勇次を想像してつい笑ってしまいあわてて口を引き結んだ。




一方こちらは残された男二人組。

「タマちゃんとミヤミヤ、一緒に帰っちゃったね。僕らも帰ろうか。」

「そうだな~。帰ろうぜ~ユージ~。」
段十郎は徒歩。勇次は自転車で、それぞれ校門を出た。

「さっきのタマちゃん、変だったよね?」
横断歩道の手前で止まり、勇次が口を開いた。さっきは詮索しなかったが、やはり珠姫の様子は気になった。
「ミヤミヤと二人だけで帰るなんて珍しいし、ダンくんはミヤミヤに何か聞いてる?」
顔を斜め下に向ける。

「いや~オレは何も聞いてないぞ~。でも~」
信号が変わり歩きだす。
「女に秘密はつきものだからな~」

「そっか・・・。」
タマちゃんの様子が気になる。何で秘密なんだろう?

「あ~わかったぞユージ~。」
少し進んだところで段十郎が声を上げた。

「え、ダンくんホント?」
さすがダンくんだと感心しながら斜め下に顔を向ける。

「ああ~。ユージ~、今日は何日だ~?」
わかるだろう?という感じで斜め上を見上げる。

「・・・?12日だよね?それがどうかした?」

「も~すぐバレンタインデーだろ~?おまえも鈍いな~。」
少し呆れ気味に言う。しかし勇次は理解していない。

「あ~。そういえば明後日だね。でも・・・それとタマちゃんと何か関係あるかな?」

「・・・まぁ~い~さ。おまえのそ~いうところ、オレは嫌いじゃないぜ。」
段十郎が言ってることを理解できずに悩む勇次であった。




都と本屋に行き、二人で一冊のバレンタイン特集の雑誌を買ったあと、近くのファーストフード店に寄った。
彼女はチョコレートケーキを作るようだ。自分はお菓子など作ったこともないので、
溶かして固めるといったシンプルなものにすると伝えると、
「タマちゃんならもっと色んなのを作れるわよ。この雑誌タマちゃんが持って帰っていいから、もっと探しみて。」

「え、でもそれだと宮崎さんが本を見れませんよ?」

「大丈夫よ。あたし自分が作るやつはちゃんとメモとったから。あ、でも一応明日持ってきてくれる?」
都は自分が作るケーキの材料や作り方などをノートに書き写していた。それからもう1つ付け加えた。

「それからこの本ユージくんには見せちゃだめよ。」

「はい。秘密にします。」

珠姫の真剣な表情に都は笑ってしまった。
「作る物決まったら明日教えてね。それじゃあ出ましょう。」

「宮崎さん、ありがとう。」
珠姫はお礼を言って雑誌を鞄にしまい、都と店を出た。
勇次に秘密にするということが、なぜだかうれしかった。




 辺りはすっかり暗くなり、いつもの河原道にさしかかったところで、向こうから自転車が向かってきた。
避けるためにハンドルをきろうとしたとこらで名前を呼ばれた。

「タマちゃん!」
勇次が反対方向から現れた。

「ユージくん。どうしたの?」
なぜこんな時間に彼がこの道を通るのだろ?

「どうしたのじゃないよ。いったいどこに行ってたのさ?」
少し怒っているようだ。でもなぜ彼は自分がまだ帰ってないことを知っているのだろう。

「えっと、宮崎さんと本屋に寄った帰りにファミリーレストランに行ったから・・・ユージくんこそどうしたの?」

「さっきタマちゃんのお父さんから家に電話がかかってきたんだよ。まだ帰って来ないんだけど何か知ってるか?って。それでオレも探そうと思ったんだよ。」
そうだったんだ。でもどうしてだろう?

「そうなんだ。でもなんでユージくんが私を探すの?」
何か用だろうか?

「え?それは心配だったからだよ。こんな時間に女の子一人じゃ危ないし。」
自分は彼に心配をかけたのか。それは申し訳がないと思い
「ごめん、ユージくん。心配かけて・・・。」

「いや、無事ならいいんだよ。早く帰ろう。お父さん、すごい心配してたよ。」
勇次は少し照れていた。

「うん。」
彼にチョコレートを渡す理由がまた1つ増えた。お父さんに謝らないと。
そんなことを考えていると、勇次が不意打ちのような質問をしてきた。

「そういえばタマちゃん、何で本が秘密なの?」
ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「・・・。」
まさか聞かれるとは思っていなかったので答えにつまった。ここで言ってしまうと明後日彼をビックリさせられなくなってしまう。
どうしよう・・・

「タマちゃん?どうかした?」
学校を出る時も様子が変だったし、いったいどうしたのだろう?

どう答えようか迷っていると、いつも彼と別れる辺りにたどり着いていた。
ここは強引に隠し通そうと思い。

「じゃあね、ユージくん。」
と言って逃げようとしたが、

「え、タマちゃん?だからなんで秘密なの?」
勇次は何としても答えを聞きたいようだ。嘘をつくのは正義の味方にあるまじき行為なので・・・

「・・・秘密だから秘密なの。」
とだけ答えて、その場から逃げ出した。

「タマちゃん・・・答えになってないよ・・・。」
その場にとり残される勇次であった。



「ただいま。」
勇次から逃げ出すようにして自転車を走らせ、珠姫は家に帰ってきた。

「おかえり珠姫、心配したよ。いったいどこへ行っていたんだ?」
父親が玄関まで顔を出した。よほど心配したのだろ。

父が自分を心配していたことなど、さっきの勇次との出来事ですっかり忘れていた。

心配かけたことを謝らないと。
「お父さん、ごめんなさい。友達と本屋に寄ったあと、また寄り道しちゃって・・・。」

娘のシュンとした様子にあわてて
「い、いや、いいんだよ。おまえももう高校生だ。すこしくらい遅くなることもあるだろう。」
まだ8時を少し回った頃だし、少し心配しすぎたかな・・・いやいや、珠姫は女の子だ。心配しすぎということはないだろう。今日だって彼と一緒なのかと思ってしまい、つい電話してしまった。明日聞かれたときのために言い訳を考えておかねば・・・。

父親が何やら考えこんでいるのを横目に自分の部屋へと向かう。

着替えをすまして台所に立ち、手早く晩ごはんの準備にとりかかる。
お父さん、お腹ペコペコだろうなぁ。


食事の最中、ふと気になったことを父に聞いてみた。
「お父さん、どうしてユージくんの家に電話したんですか?」

「!?」
なぜ珠姫は私が中田さんのところに電話したのを知っているんだ?明日学校で彼に電話のことを聞いてからなら不思議はないが・・・?まずい、何て言えばいいんだ。まだ考えていないぞ・・・。

「お父さん・・・?」
固まってしまった父を疑問に思いながら、きゅうりの漬け物を口に運びモグモグ。

「・・・珠姫。どうして私がそのユージくんの家に電話したのをしっているんだ?」
質問に質問でかえしてやりすごした。
珠姫は漬け物を飲み込んでから
「さっき会ったからです。私を探してくれていました。」
特に表情を変えずに言う珠姫に、父はあせった。
おのれ中田勇次・・・そこまでやるとは・・・!
だがそれ以上に問題は珠姫だ。まるで彼の珠姫に対する行動を、当たり前のように受け取っている。そこまでの関係なのか・・・?このままでは珠姫が・・・・・・。

どうしたんだろう?お父さん。まぁいいや、お風呂入ろ。
「ごちそうさま。」
眉間にシワを寄せてうなっている父を残し、珠姫は居間を出た。



お風呂あがりでバスタオルを頭に被せたまま、自室で宿題を済ませ、
ベッドに寝そべって都と買った本を開く。カラフルな本のページには、様々なお菓子が
描かれている。
都はケーキを作ると言っていてので、同じものはやめておこうと思う。
チョコレートか・・・クッキーも良いし・・・迷う・・・。
ベッドの上をゴロゴロと転がりながら、ふと昔の記憶がよみがえる。

あれは中学1年の時。紀梨乃たちには言わなかったが、自分は勇二にバレンタインデーの
プレゼントを渡した。しかしそれはチョコレートではなく、カルメ焼きであった。
ちょうど理科の実験で作ったのだ。自分はプレゼンのつもりで渡したのだが、彼はそうは思わなかったようだ。渡す時に、これ・・・、としか言わなかった自分が悪いのだが、
でも、勇二は確かにありがとうと言った。それなのに・・・
気分が沈んでいく。あの時ほどではないが。
時計の見ると、0時を少し回っていた。もう寝よう、とつぶやき、電気を消してベッドに潜り込む。結局何を作るか決まらなかった。でも、投げやりな気持ちには不思議とならなかった。やっぱり勇二をビックリさせたい。そう思いながら、珠姫は目を閉じた。

一方で・・・。
時刻は深夜1時。自分が寝ることを告げるために、娘の部屋のドアを開ける。
電機が消えていて、ベッドの中で眠る娘を見て、おやすみ、と告げた。
だがドアを閉めようとして気が付く。机の上にある雑誌に。
「バレンタインデー特集?」思わずつぶやき、そして閃く。父である自分のために、
ついに娘が手作りのチョコレートを!毎年既成品であったが、ついに今年!
歓喜の叫びを押し殺し、涙を流して、しかしまた閃く。これは私のためだろうか・・・?
娘がチョコレートを渡しそうな男がもう一人いる。その名は、「なかたゆうじ・・・」
声の抑揚がなくつぶやく父の顔に表情はない。竹刀といわず、いっそ木刀で勇二の頭を
叩き割る光景を想像し、不気味な笑みを浮かべる。
だがまた閃く。やっぱりこれは私のためかもしれない、と。父は悩む。一体どっちのためなのか?私か・・・あの男か!?自分の寝室で布団に入っても、なかなか寝付けなかったようだ。