部活帰り、キリノにスーパーの特売に付き合って貰ったコジロー。
買い物を済ませ、アパートの近くに着いたあたりから急な雨に見舞われる。

「どひゃー!急に土砂降りになっちゃいましたねぇ」
「ずぶ濡れだな。大丈夫か?」
「むー。風邪引いちゃいそうです。すいませんがお風呂借りて良いですか?」
「かまわんが…着替えは俺のを貸すしかないぞ」
「ぜんぜんおっけーっすよ。それじゃお借りします~」

そう言いながら風呂場に向かうキリノ。
脱衣所のドアを開けたところで何かを思いついたかのような表情で振り返り
着替えの用意のためタンスに向かっていたコジローに声をかける。

「せんせー」
「ん?」
「一緒に入る?」

---どがしゃーん。
その音はコジローがコケた音だったか、それとも理性の回路が破損した音か。

「ア、アホかー!!」
「えー。花の女子高生のシャワーシーンっすよ。興味ないんすかー?」
「さっさと暖まって来い!着替えは用意しておいてやるから。」

キリノが笑いながらドアを閉めるのを確認して、コジローはほっと息をつく。
興味ないわけがない。というより、先程までの姿だけでも充分刺激的なのだ。
つまり、シャツが濡れて。その下にあるものが…

---黄色とオレンジのチェック柄…意外に可愛いデザインだったな…
っと、いかんいかん!えーっと、着替え着替え…

---Yシャツ、、、これじゃ流石に大きすぎるな。
そういえば、小さい方だとは思ってなかったが
思っていた以上に胸も大きく…
ってちがーう!余計な事を考えるな。しっかりしろ俺!

---そうだ、俺は教師!そしてキリノは生徒で!
ああ、そういえば俺が戻ってきた日に抱きつかれた時なんかは
びっくりしたけどシャンプーの良い香りがして…

「…んせー?」

---のし掛かられてもやっぱ軽くて、
活発な奴だけどやっぱりつくづく女の子なんだよなぁ

「せんせーってば」

キリノの声ではっと我に返るコジロー。
声につられて脱衣所の方へ顔を向けると、キリノが半開きのドアから顔を覗かせていた。
そして気付く。
そうだ、俺はまだ着替えを用意してないじゃないか、と。

つまりドアの向こうのキリノは………。
思わずその姿を想像してしまい、息を呑む。

それでもなんとか平常心を保ちながら
「あ、ああ。すまん。着替えはいま・・・」
と、言いかけるが

「あ、いいっすよせんせー。このまま出ますから」
というキリノの信じられない言葉に遮られる。
そしてそのまま脱衣所のドアが開かれようとする。

「ちょ、ちょちょちょちょっと待てキリノ!」
思わず後ずさるコジロー。
見てはいかん、見たら色々な意味で大変なことになる。
だが、理性の呼びかけとは裏腹に目はキリノの動作を追ってしまっている。
キリノは躊躇のない動きでドアを開け、脱衣所からその姿を…

「もー。慌てすぎですよ先生」

…そこには。
コジローのシャツを着たキリノの姿があった。

「あ、あれ?」
「声かけたんですけど返事無いから、籠にあったシャツを借りちゃいました」
「あ、ああ、そうか。だがそれって」
洗ってないぞ、と言おうとするコジローに

「えへへ、先生のにおいするっすよ」

と、キリノが満面の笑みで返してくる。

「だから、なんのフェチだお前」

と、いつもの文句で返すコジローだが
正直あたまのなかがぐらぐらする。
風呂上がりの女性、男物のシャツ1枚。
何ともフェティッシュな格好だ。

「ちょっとはせくしーっすか?」
そんな思考を見透かすかのようにキリノが言う。
「大人をからかうんじゃないぞ」
「ちょっと心配だったんですよ」
「なにがだ?」
「あたし女の魅力ないのかなーって」
「何を…」
「剣道一筋の高校生活ですからね」

コジローはキリノのその口調、その表情から
言葉の本当の意味に気付いてしまった。
キリノは笑ってはいたが、その瞳には寂しさと不安の色が隠しきれずに溢れて出てきていた。

正直言うべきか迷った。
だが、教師としてとか大人としてとか以前に
石田虎侍として言うべき言葉があった。

「お前は充分に魅力的だよ、だから焦るな」
「…安心しました。待ちますよ、あたし」
「悪いな」
「卒業まで…もう半年くらいへっちゃらですよ」
「…ホント、悪かったよ」
「えへへへへ」

幸せそうに笑うキリノの瞳には、少しばかりの涙が浮かんでいた。
それはキリノがこれまでに流したいろんな涙、
コジローが戻ってきた日に流した涙とも
また違った意味を持つ物だった。
最終更新:2008年04月24日 01:15
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