つかつかつかつか。

「むむむ、お尻の形、よし…!」

じゃなかった。あたしは室江高校2年、剣道部部長の千葉キリノ。今日はある人を尾行しているのだ。
その相手は、東ちゃんのクラスの副担任・吉河先生。目的は…あたしのキリノートにある1項を付け加えるべきかを判断する為。

"――――コジロー先生と、付き合ってるのか否か?"

あたしのこれまで集めた情報をまとめたキリノートによると…吉河先生の受け持ちは1年3組で、
健康的な美人で割と巨乳、加えて優しい雰囲気を持つタイプらしく、生徒からの受けもかなりいいらしい。
さらにゲームも詳しく、下半身からの攻めには定評がある…てアレ?こんなのいつ書いたんだろ、あたし。
まあいいか…で、肝心のコジロー先生とは、ゲーム友達で、事によるとお泊りし合ったりする程の仲だとか。

…もう、そんなの確定でいいじゃん、なんて想いもあるのだけど…まあとにかく!あたし的にはこの目で確かめないと気が済まないのだ。
何せ、あの…けちんぼで、足の裏がぷにぷにで、お世辞にもカッコいいとは言えなくて、性格もちょっと…の、あの!コジロー先生に春が来てるかも知れないんだから!
つまりこれは純粋な探究心。けっして、個人的な関心からではないんだからねっ!(ずびしっ!)
…………まぁ、探せばちょっとくらいはいい所もあるんだけどねぇ? ……なんて考えてたら、見つかっちゃった?

「あのぉ…千葉さん、ですよね?コジロー先生の、剣道部の…私に何かご用?」
「いやぁ、あの…あは、あっはっは~良い天気ですねえ」

先手を取られたっ…くっそぉ、おとぼけキャラのようで、意外とやるなあ、吉河先生。それじゃあ、正直に。

「実は吉河先生に、折り入ってお尋ねしたい事があるんですよぉ」
「あら、何かな?じゃあ、後でお昼休みに、職員室でお話しましょ。おいしいお茶とお菓子があるのよ」
「お茶っ…はい♪よろしくお願いしまっす!」

はっ…あーもうバカバカ、完全に向こうのペースに乗せられてどうすんのあたしゃ。
しかしこの人こんなマイペースな人だったのね…ちぇっ、負けないぞお!

  *     *     *     *     *

「え、私とコジロー先生が?」
「…どうなんすか?」
「……う~んとぉ……」

出たとこ、直球勝負!…でもこの反応は、やっぱりそうなのかな……
……って何落ち込んでるのよあたしは?知的探究心、知的探究心! ……でもちょっと、吉河先生の反応もヘンだよね?

「んむむむむ…」
「そ、そんなに悩まなくても…あたし、誰にも言わないですからっ」
「……千葉さん。ううん、キリノちゃん?」
「は、はい?」
「質問に質問で返すのは申し訳無いんだけど…私の質問に、先に答えてくれる?」
「な、何っすかあ?」

質問?…吉河先生があたしに?なな、何だろう?

「キリノちゃんって、コジロー先生といつも一緒にいるけど…」

あ、あたしが?先生と一緒に?…まあちょっとは思い当たるフシも無くはないけど。
でもでもそれは、部員が居なかった頃の話で、今は違うんですよ~って、言っても詮無いかな?
なんだかさっきからずっと歯切れの悪そうな吉河先生は一呼吸置くと、真剣な表情で、周囲を窺いながら。

「………二人は、お付き合いしてるんじゃないの?」
「…は、はぃぃ??」

意外な返答…と言うか、オウム返し?面食らい過ぎて二の句が告げられないあたしに、吉河先生が続ける。

「だって、何か他の生徒に聞いたけど、お弁当あげたり、仲良いって聞くし…」
「お、お弁当はアレですよ、あたし惣菜屋の娘ですし、コジロー先生っていつもほら、お腹空かせてるからっ!」

それに………それに、特別先生となにか、なんて、あった事一度もないし………
……ううう、何だかコジロー先生にムカついて来たなあ?なんでだろう?

「それに、何よりね?コジロー先生、いつも楽しそうに部長さんのお話してるから」
「えっ……」

な、何さっきの今でこんなに嬉しくなってるのよあたし?えぇっと、ニヤケるのストップ!ストップ!

「それでね、私としては…その、やっぱり先生と生徒でね?そう言うのは………」
「…そう言うのは……何ですか?」
「うん、やっぱりね、ちょっとどうかな、って思ってて…」

う~、何だろうこの気持ち。誤解されてるのは勿論嫌だけど、なんだか吉河先生の言い方もイヤ。
あたしとコジロー先生がもし付き合ってるのなら、なんで吉河先生がそんな事言えるのかな?かな?
…………ああもう面倒くさい、言いたい事全部言ってやる!

「……もし、そうなら、その事自体は吉河先生と関係なくないですか?」
「え、だってそれは先生と生徒だし… それにコジロー先生は、そういうの、しっかりしてる人だと思うから…」

―――少し、吉河先生の言葉の調子が変わったのを現在トランス中のあたしは見逃さない。

「"コジロー先生は""しっかりしてる人"だなんてそんな事、わざわざ先生に言われなくてもあたし、知ってます」
「じゃあ、なおさら……」
「……もしかして。妬いてるんですか?先生」
「なっ…そんな事、あるわけ………ないでしょう?」

……図星だったみたい。あちゃあ、もしかしてこれって、藪をつついて蛇出しちゃったって事なのかなあ?

―――――なんて考えてる内に、第三者…ううん、最大の元凶がそこに。

「おっ、失礼しまーす。ズルイですよ吉河先生、僕を差し置いてキリノとお茶だなんて」

空気読めない能天気な元凶…コジロー先生にあたしと吉河先生の煮詰まり切った視線が刺さる。

「な、なんか険悪だねぇ?あは、あはははは。…何だか分からんが、ケンカはよくないですよ吉河先生?なあキリノぉ?」

(…ぷつっ。)×2

「「………あんたが、ゆーなっ!」」
「ふごあっ!」

あたしの突き(貫手)と吉河先生の平手が同時に入り、部屋の外まで吹っ飛ぶコジロー先生。

「あ…あれれ?中々やりますね、吉河先生?」
「ふっふっふ、私、これでも高校までは空手習ってたのよ?」
「すっごーい、キリノートに書いておかなきゃ」
「あら何?皆の事が載ってるの?見せて見せて~」
「どうぞどうぞぉ~」

こうしてまた一項、コジロー先生の項目に「KY」と言う2文字を加え……あたしのキリノートは更なる充実を迎えるのであった。

(―――――その後、すっかり意気投合したその女教師と生徒が喫茶店で談笑するのを見たというM.MさんとD.Eくんの証言があるが、定かではない。)


[終]
最終更新:2008年04月20日 17:31