「コジロー先生、ネクタイ曲がってますよぉ」
「えっ?そうか?むむ…」
「あーもう、あたしが直してあげますよー」
「おう、すまんなキリノ」
おもむろに結び目に指をかけつつ………じーっ。
目立たないけど、よく見るとよれよれの服。セットもしてない頭。
背はそこそこ高いけど…顔は無精ひげだらけでぼっさぼさだし。
鍛えてるから体型はスレンダーだけど、でも足の裏はぷにぷにだし。
じゃあ、性格?…お世辞にもいいとは言えないよねえ…
う~ん…あたし、何でこの人の事好きなのかなあ。
「なんだ?顔にもなんかついてるのか?」
「な、何でもないっす、あはは…」
あぶないあぶない。いつの間にか見入っちゃってた?
ていうか今、この構図…なんか、だらしない旦那としっかり者の奥さんみたいだねえ。
うわぁ、今、顔赤くないかなあたし?…なんか、今度は、顔があげられないよう。
でもどうせコジロー先生は…なんも考えてないんだろうけどねえ。うう…この朴念仁めぇ。
…………なんて思ってたら、ネクタイ、出来ちゃった。少し名残惜しいけど。
「はい!出来ましたよ。これでデートもばっちりだぁ!」
「しねーよ! ………しかし、何か、こうしてるとさ」
「なんですか?」
「なんか俺らって、だらしねー旦那としっかり者の奥さんみたいだよな」
「…は?」
……自分の考えを見透かされたようで、その恥ずかしさはあたしの体温を一気に上昇させる。
あー、うー、茹でダコさんだぁ。こんな顔絶対見せらんない!見せらんない!
ほとんど反射的に顔を伏せた、その時に。
(ぽんっ。)
「わぷ。」
「…なんてな。冗談だよ冗談。じゃあな、ありがとなキリノ」
…………行っちゃった。
一瞬、頭上に置かれたその手の余韻に浸りながら。
なんだ冗談かぁ、まあ当たり前だよねえ、あっはっは、なんて自嘲もしながら。
そう言えば、あの大きくて温かい手は少し好きだったかも、なんて事を思い出してたり。
”だらしない旦那と、しっかり者の奥さん”
――――まぁ、そのうちきっと、ね?
[終]
最終更新:2008年04月20日 17:23