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―――――お昼休み。
今日もキリノの机には色取り取りのお弁当が並ぶ。
3人分…いや今日はあたしもいるから、4人分。キリノの机一個だけだと狭いくらいだ。

『いただきまーすっ!』

いつも通りに、元気な声で両手を胸の前に合わせお辞儀をするキリノ。
小学校の頃からこの習慣はちっとも変わらないみたい。
……感心してる場合じゃなくて。
まず今日は、わざわざキリノのクラスにやって来た目的を果たさないといけない。

「ねーねーキリノ、今日ね、あたしお弁当自分でこさえたんだよ~」
「おおっ、そりゃえらいねえ。どれどれ味見してあげようっ!」

今朝は4時起きだ。指も3ヶ所切ったし、お母さんには「…雪でも降るのかしら?」と心配された。
それもこれも昨日友達が貸してくれた小説の食事のシーンがやけに美味しそうだったから。
口の中で旨みを湛えた肉汁が迸り落ちる… 噛み締める毎に滋味深い美味しさがじんわり…
…料理だ!これからは料理なのよ!ってコトで、惣菜屋の娘相手に、まずは試し斬り。いざ!

「お願いします、先生っ! …んじゃ、はい、あーん?」
「あーん…ぱくっ」

あたしの作ったスコッチエッグがキリノの口の中に吸い込まれる。
一方、他の友達の方を見やると…何故か、こちらも口をあんぐりさせていた。
やがて他の友達2人のうち、髪の短い方が、ウンザリしたように言葉を発する。

「あんたら…本当仲良いよねー…」

付き合いも長い友達に、いまさら呆気に取られたような表情で
そんな事を言われると何だかこっちも変に意識してしまい、恥ずかしくなる。
しかし、そんな事を意にも介さずにキリノは。

「おいしー!サヤ、やるじゃん!これは負けてられないね…」

そう言って闘志を燃やすと、皆のお弁当箱に自分のおかずを一品ずつ押し込む。

「ほいほい、それじゃあ惣菜ちばからも、皆におすそわけだよ~」

というわけで、あたしの弁当箱に放り込まれたベーコン巻きのロールキャベツを一口。
……お、おいしい。久し振りに食べたけど…流石は本物だ。
一体どうしたらこんなまろやかな塩味が出せるってのよ?

「んー!このカレーコロッケおいしい!」
「メンチカツも…またおいしくなったんじゃない?」

周囲からも、賞賛の声があがる。

「えへへ~ そう言ってもらえると、あたしも嬉しいな!」

無邪気に喜ぶキリノに、軽い羨望の気持ちも交えつつ尋ねる。

「ホント、おいしいよね、キリノん家の惣菜」
「サヤもそう思う?いや~照れるねえ」
「…やっぱり、褒められると嬉しいもんなの?」
「当然だよ!自分の家のことなんだから」

「…でも、昔は嫌がってた時もあったじゃん。普通の家がいいって」

惣菜ちばのロールキャベツを口の中ではむはむしながら、ふとそんな昔のことを思い出した。

「あー……そんなこともあったね」

キリノが、少し困ったように笑う。
あたしら2人の雰囲気に、さっきまでとは違う意味で困惑する友達2人。

「???」

       ◇       ◇       ◇       ◇       ◇

―――――昔の、まだ小学校の頃の話だ。
運動会があって、クラスの友達の家族もみんな応援に来ていた。
だけど、キリノのお父さんとお母さんは来られなかった。
後で聞いてみると、たっくんや妹ちゃんがまだ手のかかる時期で、お店の方も大忙しで、どうしても来られなかったそうだ。
もともと、日曜日に出かけた事がほとんどないと言って、キリノは、自分の家がお店をやっている事があまり好きではなさそうだった。
いつも元気なキリノは、その日は一人で隅に座って、身の丈ほどもありそうな大きな重箱を広げて、黙々と食べていた。
あの時のキリノは、丁度、そう…この間の大会で、お母さんの具合が悪かった時。あの時のような瞳をしていたかも知れない。

あたしは自分の家族や、クラスの友達の家族と食べていたが、どうしてもキリノの事が気になった。
いつもなら自分から輪を作るキリノが、今日は周りの輪に押し潰されそうになっているのを、見るに耐えなかった。
だけど、クラスの友達の女子が何人か声をかけたものの、キリノはいいから、いいからと言ってその場から動かなかった。

それを見ていたあたしは、居ても立ってもいられず、いきなりキリノににじり寄り、弁当箱からメンチカツを取り上げた。

「おょ? …な、何するのサヤ?」
「とりかえてよ」

あたしはキリノの口に、無理矢理自分の出し巻き卵を捻じ込んだ。

「ふぐっ」
「…いいよね、キリノは。自分の家のお弁当、毎日食べられて」
「えっ」

そう言って、あたしはキリノの隣に座った。

「だって、おいしいじゃない、キリノの家のお惣菜」

そして、今度は小さな野菜巻きに手を伸ばす。

「だ、ダメだよ!あたしのごはんがなくなっちゃうじゃん!」
「好きなんだってば」
「ひへっ?な、なにが?」

キリノの顔が少し赤くなる。

「…ち、違うわよ!お惣菜だよ、お惣菜?」
「わ、わかってるってば、そんなこと!」
「…こんなところで一人で食べてるから、独り占めしてるのかなって」
「ひとりじめ…?」

キョトンとするキリノに、更にせがむ。

「いじわるしてないで、もっと貰っちゃっていいでしょ?」
「だ、ダメだよ!出し巻き一個とメンチカツに野菜巻きとじゃ、ぜんぜん釣り合わないんだから!」
「ダメ?」
「ダーメッ!」

キリノは、本当に取られると思ったのか、慌ててもう一つのメンチカツを頬張った。

「…………」
「いいなー、おいしそうで」
「……うん。ホントにおいしいもん」
「いいよね、おいしいごはんが食べられて」
「……うん、良かった」

キリノは、食べながら一々うなづいていた。

「よかったね、いいお父さんとお母さんで」
「……うん」

隣で、少し鼻をすする音が聞こえた。

「大好き」

キリノは、本当においしそうにお弁当を食べていた。
その後、キリノはうちの家族がいるところへ来ると、いつも通りにみんなで一緒に盛り上がった。

       ◇       ◇       ◇       ◇       ◇

「昔の話だよ」

キリノも、自分のお弁当を食べながら、思い出していたみたいだ。

「でも、ちょっと嬉しかったかな、うん」
「あたしは別に… あの時だって、あんたのメンチカツがあんまり美味しそうだったから」
「ツンデレ?」
「あんた、どこでそんな言葉覚えてきたのさ」
「うふふっ」

キリノはあたしの質問に答えもせずにニコニコしながら、
今度はおいしそうにエビフライを頬張っていた。
うん、キリノは、こうやって美味そうにお弁当を食べてるほうがいい。
あの時に、キリノは笑ってるほうがいいって思ったんだ。
そう、こんな風においしそうに……
って、キリノの表情に見とれていると。

「あっ、ちょっと待ってサヤ、ほっぺにごはん粒ついてるよ?」
「えっ、どこどこ?」
「待って待って… はいとれた。ぱくっ」

それを見ていた友達2人の口は、再びあんぐりと開かれる。
堪りかねた様子で、今度は長い髪の方が口を開き、もう一人もそれに合わせる。

「あんたら…本当仲良いよね…」
「なんか、見てるだけでお腹一杯になりそうだよ…」

懐かしい思い出に浸り、何か吹っ切れたあたしが押し付けがましくキリノにすがり付くと、
キリノも計ったようにそれに応えてくれる。

「でしょでしょ~!?」
「だよね、だよね~?」
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『あー…もぉホントに、ごちそうさま』

呆れ返る2人を横目に、あたし達の食事が終わったのは、お昼休みの終了ギリギリの事だった。


[終]