933 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/02/24(日) 14:14:34 ID:gRbAhXh/
「最近コジロー先生カッコよくなったよねー」
とか言う同級生の会話を耳敏く聞いていて、
違和感をおぼえたきりのんが鎌崎までの道中でサヤに相談する夢を見た。
934 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/02/24(日) 14:16:01 ID:gRbAhXh/
以下その内容。
キリノ「別にそんなに変わってないよねえ?」
サヤ「いや、あたしはちょっとは分かるけど」
キリノ「えーどのへんがー?」
サヤ「…頼り甲斐が出てきたんじゃない?」
キリノ「つい今でも靴やズボンにガムべたべた付けててだらしないけど、あと、切符のお金まだ…」
サヤ「じゃあ、んーと、最近授業がマトモ」
キリノ「それって教師として当たり前のことなんじゃ…」
サヤ「何か素直に言う事聞いてくれるようになった気が…」
キリノ「昔っからバカ正直な人だったと思うよ?」
サヤ「若返った!!」
キリノ「さっき椅子に座る時”よっこいせ”みたいな感じでもう、うちのお父さんみたいだったけど」
サヤ「あーもう分かったから自分で探しなさい」
キリノ「ええ、何怒ってんのサヤ?」
この辺りで目が覚めた…
953 名前:934の夢の続きと俺の妄想(1/6)[sage] 投稿日:2008/02/24(日) 21:54:36 ID:NhNeX3Zj
ヒマだったので>>934の続きを勝手に考えてみた、鬼なげー。
―――――――――――――――――――――――――――――――始。
がたん、ごとん…がたん……
電車は揺れ続けている。
朝の早い時間なので、新たに乗って来る乗客もほとんどおらず、
相変わらずの貸し切り状態だ。
出発の頃は「みんなで小旅行!」と言うノリで大いに盛り上がっていた部員達も、
長い電車旅のうちにそのテンションは次第に下がり、初めは立っていたものが
今では2列丸まる空席と化したロングシートにそれぞれのグループで固まって座り、
軽いお喋りなんかをしながら到着までの時間を潰していた。
そんなわけで部長――千葉紀梨乃は一人、ひたすらにその時間を持て余していた。
つい先程には、親友サヤとの会話でけんもほろろに追い払われたばかり。
無理もない。「顧問の魅力は何処なんだろう?」と尋ねる本人が、
サヤの模範的な回答を悉くその観察眼で否定してしまうのだ。
全くよく見えていると言うのも考え物である。
ともあれ、一度燻ってしまった好奇心は尽きる事がない。
それは長い電車旅で鬱積したキリノの運動エネルギーと合さるかのように、
早くも次の対象に向けてリサーチを開始しようとしていた。
※ ※ ※ ※
「先生の…」
「カッコよくなった所、ですか?」
進行方向の、左側。ロングシートの真ん中あたりに座している
一見兄妹のような男女――すなわちユージと珠姫にまずその矛先は向けられた。
瞬間移動してくるキリノの動きにうろたえる事もなく、二人はその質問のテーマを取り敢えず要約する。
「そうそう!あたしじゃよく分からないから皆に聞いてみようってね!」
漲るキリノの眼力に少し気圧されたか、少し考え込んでしまった二人だが、
やがてユージの方が先に反応を見せ、その答えをタマに促す。
「そういえばタマちゃん、こないだの…」
「あっ、うん。この前道場に来た時の、キリノ部長とサヤ先輩の試合の時…
先生、見てないのにまるで見えてるみたいにお二人にアドバイスしてました」
”どこがカッコよくなったのか?”と言う質問に対しては
全く不十分と言えるその言葉足らずな不思議な回答に、キリノは首を傾げる。
「ん?ん?どーゆーこと?」
自分が促したとは言え、その奇妙なやり取りに苦笑しつつ、
一足先にその事に思い当たったユージがフォローを入れる。
「疲れて倒れてるのに、ちゃんとお二人の動きとか、分かってるみたいだったんですよ。
普段からよっぽどよく観察してなきゃ、あんな事出来ないと思いますよ。…よね?タマちゃん」
「うん。先生、皆の事、よく見てくれてるんだなぁって…
剣道、教えてる時のお父さんみたいで、すごいなぁって思いました」
ユージのフォローと、それに合わせたタマの解説でようやく理解し、相槌をうつ。
成る程、あの時、ヘロヘロだった先生を二人が感心するように覗き込んでたのはその為だったんだ。
「ふ~ん…まだよく分かんないけど、”生徒をよく見てる”かぁ、なるほどね~、ありがとう」
そう言いながら二人の前を離れるキリノ。
”生徒をよく見ている”
そんな事は二人が今更確認する遥か以前から百も承知しているキリノにとって、
それは”最近カッコ良くなった”部分として十分な回答とは言えなかったが、
あまりしつこく話し過ぎてサヤの時のようにウンザリされてもしょうがない。
今はあの二人が先生の魅力を再確認したのだ、と言う程度に留めて置くのが良策だろう。
さて、次は。
※ ※ ※ ※
進行方向の、右側。分かれたグループの中では最も和気藹々としている3人組がいる。
一人は、制服を着ていなければ高校生とは思えない大人びた雰囲気を持つ女子高生。
一人は、わんこの耳のようになっている二つに分けた髪型と眼鏡が可愛い、同じく女子高生。
そしてもう一人は、どんぐり。
その集団へと、キリノは突撃を開始した。
「えっ、先生のどこがカッコよくなったか、ですか?」
呆気に取られる残り二人の半・保護者…ミヤミヤがまず口を開く。
突拍子もない質問に特にうろたえる様子も特にないと言う事は、多少は思いつくフシでもあるのだろうか?
ともあれそのギラギラした目を隠そうともせずキリノは続ける。
「そーそー、キリノート充実の為にも協力してね?」
しかし、ミヤ以外の二人は勿論のこと、ミヤミヤ自身の反応も芳しくはない。
長い髪の毛を指でくるくるさせながら、少し困ったような態度は保留したままで。
「う~ん、あたしも…最近特に変わったようには思いませんけど…」
「ねー?サヤとも話してたけど別にだよねえ?」
自分と全く同じ意見のミヤミヤに、
思わずサヤの時の反省も忘れて強い相槌を打ってしまう。
が、そこにもう一人…サトリが何かを思い出したように口を開く。
しかし、それもまたキリノの期待する答えではなかった。
「でも、そう言えばこの間、変に燃えてましたね」
「ああ、お腹痛いって早引けした時の?あれもいつもの発作だと思うんだけどな~」
その言葉――あれが”いつもの発作”とは。
普段の部長らしからぬ把握の曖昧さだな、と違和感を感じたのは、横で聞いていたミヤミヤだ。
確かにあの時だけの暴走ならばそれで良かったかも知れない。
だが、その後のあの、川添道場へ行くと決めた時の決意までもを含めて考えると。
キリノの質問に対する明確な答えにはならないかも知れないが、確かに違いはあったのだ。
その思いのままに言葉を紡ぐと、それに呼応するかのようにどんぐ…ダンも続く。
「だけど、なんだかその後も思い詰めてたじゃないですか」
「タマちゃん家行ったのだってそうだろぉ~」
反駁する意見に狼狽する様子もなく、キリノも答える、しかし。
「確かに、やる気にはなってたみたいだけど…」
それはずっと前からじゃん、とは続けられなかった。
仕方がない。キリノにとっては当然の事なのだ。自分の為にやる気を出した先生が、
やがて自らを取り戻して強くなり、指導者として、剣士として輝きを増してゆく――――
その全てが予定調和であり、必然に過ぎない。
「やる気を出した先生」は、あくまで「ずっと前からやる気を出していた先生」であり、
それは変化ではないし、今更キリノにとって改めて気付く”カッコよさ”と言う類のものではない。
しかし敢えてそんな事を1から説明する理由も無いし、これもまた再確認なのだろう、と、その場は思うに留めた。
そうして互いの会話が途切れかかると、先の一回の発言を除き
ずっと押し黙って何かを考えていたどんぐ…ダンが
意を決したようにその重々しい口を開く。
「てゆうかキリノ部長は、先生のことす…」
そう言おうとした言葉が”先生”の、「せ」の音に差し掛かるか、差し掛からないかの刹那であろうか。
そこから先の言葉を全く遮るかのように、ミヤミヤの甘い声が電車中に響く。
「ダンくぅ~ん?見て見て、ホラ後ろ!外、もう海だよぉ~?!」
「おお~、キレイだなあ、ミヤミヤ~」
がたん、ごとん…がたん。
トンネルを抜けた電車は、気が付くといつの間にか本格的に海に差し掛かっていたのである。
4人は…いや、車内に居る室江高剣道部全員が、一斉に外に向けて目を見張る。
そんな視覚効果も手伝って、一気にテンションを回復させた部員たちの大きな歓声に、
少ないとは言え同乗する車内の他の乗客からは、冷たい視線が刺さる。
「おめぇら、静かにしろよー」
その視線をいち早く察知したコジローが全員に注意を促すと、
一丸となって沸いていた部員たちも少しの落ち着きを取り戻す。
そんな空気が暫く流れた、その後。
キリノは、先刻ダンの言い掛けた言葉に多少違和感を覚えつつも、
海を見る二人のそのアツアツぶりに圧されたか、無理に聞き直す事もせず席を立っていた。
「??? あ、はは、は…お邪魔しちゃったね…」
※ ※ ※ ※
「…はぁ。」
キリノが去った3人の席に、大きな溜息がひとつ。
「…あの人、どこまで分かってんのかなぁ…」
そんな、誰に聞かせるでもないボヤキ声の主は、ミヤミヤだ。
そして偶々耳に入って来た、その空虚な言葉の意味を辿り、暫く思考を重ねた後、目を白黒させるサトリ。
「ええっ、キリノ部長と先生ってそうなんですか!?でも教師と生徒…」
「何を今更言ってんのよ…」
もはや説明するのもタルい、とばかりに首肯のみを返すミヤに、慌てふためくサトリ。
そして、不遜な態度で先の行動をわびる…ダン。
「ごめんなぁ~ミヤミヤ。さっきのは俺が浅はかだったぜ~」
「ううん!ダンくんは男らしくてそれでいいのよ~?あたしこそ、邪魔しちゃってゴメンね…」
「いいのさマイハニ~」
一瞬にしてラブラブな空気を構築する二人の雰囲気に中てられながらも。
じゃあ、さっきのは栄花くんのスタンドプレーだったんだ…
と、ようやくサトリの思考が現実に追い付き掛けた頃、一つの疑問が浮かぶ。
「あはは…でも、本当にそうなんですか?ひょっとして誤解かも…」
そんなサトリのヌルい解釈は聞き飽きたとばかりに、ミヤミヤの黒い眼光がサトリを貫く。
「あんた…アレ見ても本当にそう思うわけ?」
退屈げに向けられた、その親指の指し示す先には…
※ ※ ※ ※
「コジロー先生~、もうちょっとで着きますねえ」
「ああ、もうすぐだな。ところでお前…さっきからサヤとか皆と何話してたんだよ?楽しそうに」
ミヤミヤ達の席を離れ、即座にキリノが向ったのは、当初に彼女が座っていたポジション…
すなわちロングシートのミヤグループの対角線側であり、顧問の隣の、海がよく見える席である。
そこにちょこん、と腰掛ける。キリノの背はそんなに低い方ではないが、
上背のあるコジローの横に座ると頭のてっぺんが肩に並ぶくらいだ。
聞き難そうなコジローの質問にも、明るい笑顔でありのままを答えるキリノ。
「なんか先生がカッコ良くなったって噂を聞いたんで、皆に聞いてたんですけど…」
「はぁ~?誰だよそんな素晴らしい事を言ってくれちゃってんのは」
アゴに手をやり満更でもない様子のコジローに、
目を細め、猫口を大きく開けながら水筒のお茶をすすり、一言。
「でも喜んで下さい!うちの部では”ここがカッコよくなった!”って具体的な意見はゼロでしたっ!」
一気にがっくりと肩を落とすコジロー。
「…くっ。だが…人間は中身だぜ!今日はやるぞ俺は!」
「ズボンの裏にガムひっつけて熱く語られても説得力ないっすねー」
冷静にツッコミを入れるキリノと、それに合わせてテンションを上下動させるコジロー。
もう何年も一緒に暮らしているような夫婦同然の二人は、公共の場――電車中でもまた、夫婦であった。
「そうなんだよ、コレ、どうやったらとれるかなあ…?」
「コールドスプレー掛けてみました?」
「やってみたけどまだちょっとベトベトする…」
「もーしょうがないなあ、じゃあ向こうの学校着いたらあたしが洗濯機借りて洗っといてあげますよ」
「ごめんな…」
「まーいつもの事っすから」
軽妙なやり取りを続ける二人。
だが”いつもの事”と言うキリノの言葉は、
今まさに自分を変えようとしているコジローには少しトゲがある。
「…なんか普段からそんなだらしないっけ、俺…?」
さすがに気弱になり、尋ねる口調になる。
だがキリノにとっては、そんな変化も含めて”コジロー先生”であり、愛すべき対象でしかない。
そんな愛らしさに少し絆されたか、寄りかかる様にコジローの肩口のあたりに頭をくっつける。
「いやいや、先生はそんな感じでいいんっすよ、いつも通りで」
それは、全くの本音であると言えた。
コジローが誰にとってどれだけカッコ良くなったとしても、
それは自分にとっては”いつも通り”なんだと、今日はそれが確認できたから。
「お前は…さ。何をいつもそういう分かったような事を…」
根負けしたかのように、キリノの頭に掌をのせるコジロー。
そのままヨシヨシ、と頭を撫でられる間、えへへー、と俯くキリノ。
その近さは、電車内のそれを見る者全てにとって、「恋人同士」と言う形容以外に表現の術を持たない物だと言えた。
そして、当のその光景をまじまじと見つめる第三者――すなわちサトリにとってもまた。
※ ※ ※ ※
サトリ「………スイマセンデシタ………」
眼鏡の内に涙を浮かべて、こりゃ無理っす、あたしが鈍感でバカでした、
生まれて来てすいませんとばかりに謝るサトリに、あくまでも優しく諭すミヤミヤ。
「わかりゃーいいのよ。でも、アンタも暫く黙っときなさいよ?」
「うう、はい…でも、本当にいいんですか?」
その言葉に、サトリのくせに小生意気な事を聞くものだ、と思いはしたが。
いいも悪いもない。この部に居る以上、あの顧問と部長とは一蓮托生なのだ。
それに付き合う仲間が増えるのは、悲しい事ではない。
「いいのよ。こんな面白い物、下手にいじって壊しちゃったら元も子もないんだから。しかも2つも」
「……ふたつ、ですか?他にも何かあるんですか?」
もう一つは勿論、自分らの対岸におわす、もう一組のカップルなのだが…
うっかり口を滑らせた事に多少の反省はあるものの、ふと思いやる。
―――そう言えばサトリって、なんであたし等の所に居るんだろ??
本来なら、そのもう一組のお邪魔…コホン、引っ掻き回してるのが位置的には、正しいのではないか?
―――居辛い、のか。あそこには。
そう思ってしまったら、もう、次の言葉は一つしかなかった。
「…あー。ゴメン、3つだった」
「えっ、えっ、えええっ、3つも!?」
一挙に押し寄せる情報に思考回路をスパークさせているであろうサトリに、
またも優しく諭すように…念を押す、ミヤミヤ。
「…そ。だから、黙っとくのよ?」
最終更新:2008年04月20日 13:55