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「あぁ俺今日、午後から出張で部活出られんから。
 お前が仕切ってちゃんとやるんだぞ」

 ―――――へっ?ちょっ、ちょっとお!
 もうお昼だっていうのにそんな事急に言われても心の準備ってものが。
 …あたしらだってこれで結構、色々あるんだよ?

「えー、先生いないんすかぁ…」
「ん、まあ変に意気込まんでいいから、いつも通りにな?」

 まぁ、任されたからには頑張ってみますけどぉ…
 ……ん?これって信用されてる、の、かな?

「しょ、しょうがないなあ… ラジャっす!やってみますっ!」
「おう!頑張ってな、部長さん」

 ―――前から、試してみたい事はあったんだし。丁度いいや。

▽▽▽

「え~先生来ないのかよ~」
「そうだよー、でも、代わりにあたしがビシビシいくからねっ!」

 放課後、取り敢えず皆揃ったのでコジロー先生が来られない事情をあたしから説明。
 皆も、別に居ても居なくても変わらなくて、「えー」とか言いながらもいつもと同じみたい。
 うん、大丈夫。

「そいじゃあ、今日は折角コジロー先生が留守って事でえ…
 軽く素振りと切り返しでアップ済ませたら、実戦形式で紅白戦やってみよう!」
「「「えぇ~」」」

 …むぅ、やっぱりちょっと微妙な反応?
 先生いなくて、楽できそう~って顔してたサヤも少し訝しげに声をかけてくる。

「…ちょっ、ちょっと、キリノ?いいの?」
「なにが~?」
「コジロー先生居ないからって、無理にいつもと違う事しなくても…」
「えー、だめかなあ。皆もさ、お互いの実力がどれ位なのか知るいい機会じゃない?」
「うーん、でもなぁ…」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと考えてあるからさ!」

 ――――そう、考えはあるんだから。…5~6限目に、考えたんだけどね…
 実力に見合わせてくじびきで3on3になるようにチームを作って、タマちゃんには審判してもらって。
 緊張感持ってやる為に、基本的に一本勝負!引き分けはなし。
 勝った方のチームにはあたしん家のメンチカツ一個無料券ぷれぜんとっ!

「そんな感じで…どうかなあ?」

 あらかた説明し終わるとみんな納得してくれたようで、素振りと切り返し、開始ー。
 …あとは続けて、放課後に作った簡単なクジを。

「とゆーわけで、くじびきひいてね~」
「「「はぁーい」」」

▽▽▽

 滞りなくみんな引き終わると…りざるとっ。
 [Aチーム] ユージくん、あたし、ミヤミヤ。
 [Bチーム] さとりん、サヤ、ダンくん。
 審判、タマちゃん。

 ――――まあ、こんなもんかな?
 みんな大体いつも相手してる人と同じだし。
 かたや、なんだか始めてみるとわくわくしてるらしいサヤに話を振ってみる。

「あたしはサヤとかぁ、なんかいつもの練習と変わらないねえ」
「ふっふー、それはどうかな?オーダー変えてもいいんでしょ?…やるからには、勝ちに行くよっ!」

 …げ。それは考えてなかったよ…
 というかそこまでメンチカツが欲しいの?うちに来ればあげるのに~
 なんて、言ってる場合じゃなくて。向こうが勝ちに来るっていうなら、こっちも頑張って応えなきゃ、ねえ?

「と言う訳で、オーダーなんだけど…どうしよっかぁ」
「先輩が大将でいいんじゃないっすか?俺、先鋒いきますよ」
「ほっ、ほんとに?いいの?あたしが大賞で?」
「「(やっぱり、字が違う…)」」

 とんとん拍子にオーダーが決まり、こっちの先鋒はユージくん。向こうの先鋒は…サヤだ。
 ―――――勝負は流石に、ユージくんがあっという間に面を取ってしまって、まずAチーム一勝!幸先いいよぉ。

「んん~くやしぃ~、絶対キリノが一人目だと思ったのに…」
「サヤ先輩は、大振りし過ぎなければもっと強くなれると思いますよ」

 …感想戦だっ!うんうん、いいねえ。これこそ、あたしが待ち望んでた物だよ。
 続いて中堅戦。こっちはミヤミヤ、向こうは…さとりんかぁ。がんばれ、ミヤミヤ。

「…サトリ…あんた、本気でやろうっての…?」
「ひぃぃぃ…」

 ビビっててもやっぱり、剣道の動きが身体に染み付いてるんだねえ。
 ―――――返し胴でさとりんが一本取って、これで五分五分。

 んじゃ…っと、あたしの番だ。いざ!相手がダンくんでも、手は抜かないよ!ふっふっふ。

「いくよ、ダンくん!」
「勝負だぞぉ~、ぶちょう~」
「がんばって、ダンくぅーん~」

 がくっ…ミヤミヤ…あんたどっちの味方じゃ…
 なんて思ってたら、意外とダンくんの動きが速い。くのぉ!

「こてーっ!(べしっ)」

 あれ?入ってないの?…タマちゃんんん?

「ダメ。 …浅い、です…」

 ええぇ~って、あれ、マズッ…!!

「どぉぉぉ~!(バシッ!)」
「どうあり!一本!」

 ………え、あれ?
 ……うそ。あたし、負け?

 …剣道始めてまだ2ヶ月のダンくんに?負け、たの?

「………」
「…あの、キリノ部長?」
「うわっ!…あ、タマちゃん、ごめんね。」

 ぶんぶんぶんぶんぶん。
 ええい、しっかりしろ自分!…大体ダンくんに失礼過ぎるでしょが。

「ええいっ、しょうがないね、Bチーム、持ってけ、ドロボーっ!」
「「「わぁーい」」」

 ――――トホホ、あたしゃ何の為に大賞までやっておきながらこんな。

▽▽▽

「キリノ先輩…ダンくん、強くなったでしょ?」

 試合が終わって小休止。いつものようにお茶をすするあたしに、
 ユージくんは…まるで自分の事みたいに嬉しそうに話し掛けてくれる。
 うん、確かにダンくんは強くなってる…でも。 ああ、ダメだ。まだ吹っ切れないみたい。

「ほんとにねぇ…久々に、ナメクジの気分になっちゃったよぉ」
「そんな…次の試合は、やらないんですか?」
「そうだねぇ…でも、ちょっと待って…もうちょっとだけ、休憩…」
「そうですか…じゃっ、早く元気出してくださいね!」
「うん…ありがとね、ユージくん」

 ふぅ。…ユージくんが行った後、ふと道場を見渡してみると。

 …………遠くで、サヤがダンくんを竹内でつついてる。
 ………ミヤミヤは、それを嫌そうに…ああ、ブラックが出そうだよ?
 ……さとりんは、ミヤミヤからはみ出てるブラックオーラに怯えてる。
 …ユージくんは、素振りしてるタマちゃんとおしゃべり。

 その隅っこで、いつまでもウジウジしてる、あたし。
 休憩時間も、もう終わってるのに。

 ……いつもよりも、ずーっとまとまりのない、部活。

「こんなはずじゃ、なかったのになあ…?」

 なんだか…弱い考えしか浮かばないよ、コジローせんせぇ。
 思い出してみると、「いつも通りにな?」と念を押す先生の言葉がやけに重い。
 知らなかったけど…コジロー先生って、実は、すごい仕事してたんだねえ。
 居なくなって、”いつも通り”じゃなくなって、初めて実感する、先生の…偉大さ?
 ……たくもぉ、早く帰って来てよ!!なんて、八つ当たりで思った――――――そんな時に。

「ただいまーっ」

 聞き慣れた声が道場に響く。
 明るくて能天気な… でも、今、一番聞きたかった声。
 あたしが思わずあわてて駆け寄ると、皆もコジロー先生の所に集まる。

「せ、せんせぇ~、早いじゃないですか?どうしたの?
 まさかもう、要らないって言われちゃったとか…」
「ば、ばっかやろぉ!!会議が意外と早く終わったんだよ。
 んでホラ、ついでにミ○ドのドーナツ買って来てやったぞ? おら食え、食えー」
「「「「「うわぁーい」」」」」

 (……ちょっと、お腹より先に胸が一杯になっちゃうなぁ、あはは。)
 みんながミ○ドの箱からドーナツを奪い合ってる様子を横目に見ながら。
 そんなふうに思い、距離を置こうとすると。コジロー先生の方からお声がかかる。

「おいキリノ、ごくろーさん」
「せ、先生の方こそ、お疲れ様ですっ」
「俺がいなくても、ちゃんと部活できてただろうな?」

 その言葉を告げられると、時間が止まる。信用…してくれてたのに。なのに。
 …自分がどういう表情なのか、よく分からないままに。ただ、乾いた言葉を返す。

「あ、いやぁ…やっぱり、あたしじゃダメみたいで、あはは」
「おっ?どうした?なんか暗いな?…何があった?」

 …ちょっと、この気持ちを、どう伝えたものだろう?言葉に詰まるあたしを尻目に、
 口一杯にドーナツを頬張ったサヤが、みんなが、開口一番に喋りだす。

「えーっ?キリノの考えた紅白戦、面白かったじゃん!」
「そうっすよ!もう一回!今度は俺らが勝ちますよ!」
「何度やっても俺が勝つけどなぁ~ふっふっふ~」
「私、今度はダンくんと同じチームになりたいです」
「あの…あの…じゃぁ、私も、もういっかい…」
「…次は、あたしも出たいんですけど…」

 そんな、皆の言葉と共に…混乱と歓喜が同時にどっと押し寄せる。え?え?えー?
 勝手に考えて、勝手に落ち込んで…空回りで、なんかバカみたいで、本当にカッコ悪い自分。
 でも…皆は。コジロー先生は。

「紅白戦かぁ。面白い事やってたんだな、キリノ。おつかれさん。」

 短い言葉に込められた、今日のあたしを全部肯定してくれる、やさしい声。
 そして…

「「「もう一回!もう一回!」」」

 ――――…もぉっ、しょうがないなあ!!

「……ダンくん!?(びしっ!)」
「なっ、なんだよぉ~ぶちょぉ~」
「次は部長のメンツにかけて絶対、負けないからね!ふっふっふ」
「…おぉ!俺も負けねぇぞぉ~」

 ………うん!あたしは、こうでなくっちゃね!
 気が付くと、あたしの中で何かモヤモヤしてた物は…もう遥か遠くだった。

「おっしっ!んじゃ、食い終わってちょっと休んだら、紅白戦第二弾、行くぞぉ!」
「「「はい!」」」

 コジロー先生が号令をくだすと、
 試合に備えて腹ごなしに素振りをと、散って行くみんな。
 あたしは… コジロー先生の方を、ちらと見ると。視線が重なる。

「ん…なんだよ、キリノ?」
「ちょっと見直しましたよ、コジローせんせえ?」
「だから、何をだよ!?」
「内緒です、ふっふっふ」

 ―――――「先生ってすごいんだね」なんて、さすがに恥ずかしくて、今は言えないけどね。ふふふ。


[おわり]