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ピンポーン。
休日を満喫するコジローの部屋に、来訪者。

「こんちわっ!お掃除に来ましたよー」
「…誰がいつそんなもん頼んだ」
「まあまあ、いいじゃないっすか先生」

戸惑うコジローなどどこ吹く風で強引にあがり込むと、
テキパキとちらかった部屋を片付け、荷物を整理し、ホウキをかけるキリノ。
それが終わると、バケツに汲んだ水と雑巾で窓のといをふきふき。
その光景をまじまじ眺めながら、呟くコジロー。

「……まあお前は、いい奥さんになれるよ、うん。」
「なっ何言ってるんですか~もー、褒めても何も出ませんよ?ほい終わりっ、と…あらら」
「おっ、おい!」

持ち上げようとしたバケツが意外に重く、よろめくキリノ。
何やってるんだ持ってやるよ、とひょいっとバケツをキリノの手から奪うコジロー。

「あーもう、いいですって。返してくださいよー」
「こんなもん…って、おおおい、押すな!」

そのまま勝手口の方までダンスのような格好で移動したかと思うと。

(バシャッ!)

……コーラを飲んだらゲップが出るように。白いカラスなどいないように。
「漫画」で「バケツ」とくれば、「ずっこけて、バシャ」。
その定番の運命が、ご多分に漏れずこの二人にも降りかかった――ただそれだけの、事。
ともあれ僥倖にも汚水は勝手口のドアの下の僅かな隙間から、ほとんど流れ出てしまった。
なので部屋の被害は最小限ですんだ――一方で、それをまともに被った二人の体温を、しこたま奪い去って。

『…くしょん!』

「どうする?風呂…入るよな?」
「え、いいんすか、でも…先生のお風呂、追い焚きできないんじゃ」

何でそんな事まで知っとるんだ、と言いそうになるが、いいから先入れよ、と言うコジローに。
でもそれだと先生がカゼ引いちゃ、とまで言いかけた所で、キリノの頭上に電球が灯る。

「そうだ、一緒に入ればいいんすよ、うんうん、そうしましょう」
「ちょっと待て、それは…」

またも、コジローの逡巡などどこ吹く風でバスルームの内側にコジローを押し込み、浴槽の蛇口をひねると、
ドアの外でびしょびしょの服を脱ぎ始めるキリノ。コジローがおっ、おい、とドアを開けようとすると

「…まだ、開けちゃだめっすよ!も~セクハラっすか?先生」
「な、バカ…!」

…しょうがないな、と軽く溜息をつくと、こちらもびしょびしょの服を脱ぎ、
空のタオルホルダーの上に置いた所で――外からの声。

「脱ぎましたかぁ?」

おう、と返事をかえすと、ドアを開けて入って来る、どうやら下着姿…か、下手をすれば裸であるらしいキリノ。
その手は浴槽のお湯を一旦止め、シャワーに切り替えると。
じゃあお背中流しますねー、とタオルに石鹸をよくなじませ、徐にコジローの背中を丹念に流してゆく。

「…こっち向いたら、訴えますからね」
「おっ…おう」

何の気も無かったとしても、この状況できつい、と思わない男はいない。
ましてや相手は、憎からず思っているキリノなのだ。
コジローの理性の鬩ぎ合いは、最高潮に来ていた。

「はい、終わりましたよー」

後ろからそんな声がかかりタオルが差し出されると、それを受け取り胸、腹、足を適当に流し…、
ザーっと、シャワーで泡を流して浴槽に飛び込み、そしてそのままカーテンをひく。
カーテンの外では、キリノが身体を流し始めた。
浴槽の蛇口も出しているのでシャワーの出が悪く、なかなか苦戦しているようだ。
カーテン越しに覗き見られるシルエットでは、どうやらキリノは髪をおろしている。
それを茫洋と眺めていると、向こうから声がかかった。

「先生、エロい事考えてませんよね?」
「…っ、たりめーだ、馬鹿」

考えずにいられるか、と内心で呟くと、途端にカーテンの外に目を向けられなくなる。
ごしごし、とキリノが身体を擦る音と、シャワーのシャアアアア、と言う音だけが響く中、
湯舟に1分も浸かってない状態でコジローはもう、上せる寸前であった。
そして、やがてシャワーの音がやむと。

「んじゃっ、失礼しまーす」
「ちょっ、一緒に入るのか!?本当に?」
「当たり前でしょー、何の為にこんな事してるんだか」
「おっ、俺やっぱ出」

出ようとして、カーテンをめくると、そこには――くぁwせでdrftgyふじこ。
慌てて湯舟側に戻り、素数を数える。2、3、5、7、11、13、17、19、23……

「あっ、あははは、やだなぁーもう、セクハラっすよぉ~」
「ど、どっちがだよ!!?」
「んじゃ、入りま~~、すっ」

――左足から、ちゃぷん。
既に湯舟にLの字で全身を浸からせている自分の目の前を
キリノのふくらはぎ、太腿そして――お尻から背中にかけてが通過する。
そのまま、キリノの肩までが湯舟に浸かると、鼻先に濡れた髪が触れる。
その、とても自分の使ってるシャンプーと同じ物だとは思えないその芳しい香りに。
コジローの数える素数は3桁を軽く通過し、4桁へと差し掛かろうとしていた。991、997、1009、1013、1019、1021……

「はぁ~いいお湯っすねえ」
「そ、そうですね」
「何で敬語なんすかあ、センセ~?」

甘えるようなキリノの声にうっかり気を取られ、
いかん2897を飛ばした、次なんだっけ、とコジローが素数を数える思考を止めたが最後。
とたんに現実世界の触覚が甦る。両脚、胸板、お腹。全身に感じるキリノの重みとそしてその、程好くぷにぷにとした肉感。
コジローの理性フィルターがいよいよもってもう最後の障壁を破壊されようとしていた時。

「ふぅ、じゃああたしお先にあがりますねー」
「あっ、ああ……」

助かった、とコジローが胸をなでおろすと。
外から服借りますよー、と言う声が…聞こえた……気がし、た……

「先生ぅおーい?お風呂で寝ると身体に悪いよぉ?」
「お?う、あぁ…」

コジローのシャツとズボンを借り、着替え終わったキリノが、
しばらくのびていたコジローをお風呂場で発見したのが5分後。

「すまんな、キリノ…」
「??いえ?それより大丈夫っすかー?」

そのままキリノの用意してくれたバスタオルで身体を拭き、服を着け、
掃除が終わって帰ろうとするキリノを見送る。

「じゃあ先生、また明日ねー」
「ああ…またな……」

キリノが去るのを見えなくなるまで見送り、
憔悴し切った表情できれいになった部屋の布団に倒れ込む。

「つ…疲れた……」

そこまでで、コジローの休日が終わりを告げると。
一方その夜の千葉家では。

「キリノー?お風呂はいらないの?」
「ん~、先生のとこで入って来たからいいよぉ~」
「あらまあ、そりゃよかったわねえ、うふふ」

そのやり取りに、あたし人の事言えないけど、
おかーさんの倫理観も大概だねぇ、と一人ごちりつつ。
本棚から日記にしているノート――別名、キリノート――を開くと、一筆。
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○月×日
今日、先生とお風呂に入ったのに、ついに手を出して来なかった。
くっそー、あたしってそんなに色気ないのかなー?
明日からお茶といっしょに牛乳も飲もうっ!
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更にその翌日。
洗濯物の中から、キリノが脱ぎっぱなして行った下着を見つけたコジローが、
今度こそ熱を出してぶっ倒れ、学校をお休みしたのは――また別の話。(終)