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<p>白銀武様</p> <p>まず始めに、このような手紙を出すことをお許しください。<br /> 突然のことで、驚かれていると思います。<br /> あなたが敵の中枢に特攻をかけると言う噂は、私も耳にしております。<br /> それでもあなたは、その卓越した技術で、そのような死地からでさえも無事に生還してくるのでしょう。<br /> しかし此度、この私も戦線に赴くことと相成りました。<br /> もう二度と会えなくなるのではないか。そんな想いが募りに募り、我慢できずに筆を取った次第です。</p> <p>あなたと初めてお会いしたときのこと、今でもはっきりと覚えています。<br /> 知らぬことだったとは言え、あなたは私を呼び捨てました。<br /> 嬉しかった。こんな私にも、対等に接してくれる者がいたのだと思うと。<br /> 私があなたと一緒に過ごした時間は短いものでしたが、それでも私は、あなたに惹かれてゆきました。<br /> 舞い上がり、浮かれていたのでしょうか。あの時私は、あなたが背負っているものの大きさも知らず、<br /> 偉そうなことばかり申し上げてしまいました。それがあなたの重荷となることなど、露ほども考えもせずに。<br /> 思い起こすと、慙愧に絶えません。<br /> それでも、甚だ自分勝手で迷惑な話とは存じますが、私はあなたと巡り逢えた運命に、感謝の念を禁じ得ません。<br /> あの事件であなたと出逢わなければ、私は今でも、人形のような生を過ごしていたことでしょう。<br /> ただ無力を嘆くだけの存在だったことでしょう。<br /> そんな境遇から抜け出すきっかけをくれたあなたに、お礼がしたい。しかし、今の私には何もありません。<br /> ですので、此度の戦いを全力で駆け抜け、人類のために尽くすことを、お礼と代えさせてください。<br /> そうすることで、いつかあなたと再開したとき、胸を張っていられるのだと信じて。</p> <p>最後に<br /> あなたが大切な幼馴染を護るために闘っていることは聞き及んでおります。<br /> ですが、もはや溢れる想いを止めることなど出来ません。私の弱さをお許しください。<br /> 悠陽は、武様をお慕い申し上げております。</p> <p>さようなら。</p> <p>2001年12月31日<br /> 煌武院悠陽<br />  <br /> ***************************************************************<br /> 白銀 武様</p> <p>こうして手紙で自分の気持ちを伝えるのは難しいものだ。</p> <p>だが私の気持ちをそなたにどうしても伝えたく思い、こうして筆を取った次第なのだ。</p> <p>私はそなたから非常に多くのことを学ばせてもらった。<br /> 初めて会った時からそなたはこの世界を救おうと強い決意を持っておった。<br /> そなたは自分に厳しく、そして周りにも厳しい人間だった。<br /> だがそのおかげで今の私が、榊が、彩峰が、珠瀬が、鎧衣があるのだと思う<br /> みなそなたに引っ張られて成長していけたのだからな。</p> <p>そして、そなたは最も大きな試練にすら自分一人で立ち向かい打ち勝ったのだ。<br /> 私が傍にいて、助けてやりたいとも思ったが、たった一人で乗り越えたそなたを私は尊敬する。<br /> 衛士として、伊隅大尉や月読中尉をはじめ多くの優れた方々を見続けたが、それでもそなたは私の尊敬する目標であり続けた。<br /> 願わくば私もそなたにとっての尊敬する目標でありたいと思っている。</p> <p>そなたと出会ってから多くのことを学ばせてもらい、色々なものを貰ったが、<br /> 中でも最も嬉しかったのは姉上と出会えた事だ。<br /> 幾つかの偶然が重なったことではあるが、あの時あの場にいられたのは、そなたのおかげだと思っている。<br /> そして姉上の陰として育った私がたった一度でも姉上の為に戦えたことはなによりもかけがえの無い事だったと思う。<br /> もちろん、あの事件で命を落とした多くの者の事を考えると、<br /> このような事を言うのは不謹慎だから、そなたの胸だけに閉まっておいて欲しい。</p> <p>最後にそなたに伝えたいことがある。</p> <p>私はそなたを愛している。<br /> 例えそなたの愛が鑑にしか向いていないとしても。<br /> きっとそなたのことだから、そんなことにも気付かず私を支えてくれていたのだろうがな。</p> <p>そなたがいつか言っていた身近な目標とは、私にとっては、そなたと、そして鑑が無事基地に戻り<br /> この世界で二人で平和を味わってもらう事だ。</p> <p>この遺書を読んでいるという事は、私はもういないのだろう。<br /> しかし同時にそなたが生きていてくれる事を嬉しく思うぞ。<br /> そして出来ることなら少しでも私のことを、<br /> そしてこの戦いで亡くなった者の事を覚えておいて欲しい。</p> <p>鑑のことを今度は決して離すでないぞ。</p> <p>2001年12月31日</p> <p>御剣冥夜</p>
<p>白銀武様</p> <p>まず始めに、このような手紙を出すことをお許しください。<br /> 突然のことで、驚かれていると思います。<br /> あなたが敵の中枢に特攻をかけると言う噂は、私も耳にしております。<br /> それでもあなたは、その卓越した技術で、そのような死地からでさえも無事に生還してくるのでしょう。<br /> しかし此度、この私も戦線に赴くことと相成りました。<br /> もう二度と会えなくなるのではないか。そんな想いが募りに募り、我慢できずに筆を取った次第です。</p> <p>あなたと初めてお会いしたときのこと、今でもはっきりと覚えています。<br /> 知らぬことだったとは言え、あなたは私を呼び捨てました。<br /> 嬉しかった。こんな私にも、対等に接してくれる者がいたのだと思うと。<br /> 私があなたと一緒に過ごした時間は短いものでしたが、それでも私は、あなたに惹かれてゆきました。<br /> 舞い上がり、浮かれていたのでしょうか。あの時私は、あなたが背負っているものの大きさも知らず、<br /> 偉そうなことばかり申し上げてしまいました。それがあなたの重荷となることなど、露ほども考えもせずに。<br /> 思い起こすと、慙愧に絶えません。<br /> それでも、甚だ自分勝手で迷惑な話とは存じますが、私はあなたと巡り逢えた運命に、感謝の念を禁じ得ません。<br /> あの事件であなたと出逢わなければ、私は今でも、人形のような生を過ごしていたことでしょう。<br /> ただ無力を嘆くだけの存在だったことでしょう。<br /> そんな境遇から抜け出すきっかけをくれたあなたに、お礼がしたい。しかし、今の私には何もありません。<br /> ですので、此度の戦いを全力で駆け抜け、人類のために尽くすことを、お礼と代えさせてください。<br /> そうすることで、いつかあなたと再開したとき、胸を張っていられるのだと信じて。</p> <p>最後に<br /> あなたが大切な幼馴染を護るために闘っていることは聞き及んでおります。<br /> ですが、もはや溢れる想いを止めることなど出来ません。私の弱さをお許しください。<br /> 悠陽は、武様をお慕い申し上げております。</p> <p>さようなら。</p> <p>2001年12月31日<br /> 煌武院悠陽<br /><br /> ***************************************************************<br /> 白銀 武様</p> <p>こうして手紙で自分の気持ちを伝えるのは難しいものだ。</p> <p>だが私の気持ちをそなたにどうしても伝えたく思い、こうして筆を取った次第なのだ。</p> <p>私はそなたから非常に多くのことを学ばせてもらった。<br /> 初めて会った時からそなたはこの世界を救おうと強い決意を持っておった。<br /> そなたは自分に厳しく、そして周りにも厳しい人間だった。<br /> だがそのおかげで今の私が、榊が、彩峰が、珠瀬が、鎧衣があるのだと思う<br /> みなそなたに引っ張られて成長していけたのだからな。</p> <p>そして、そなたは最も大きな試練にすら自分一人で立ち向かい打ち勝ったのだ。<br /> 私が傍にいて、助けてやりたいとも思ったが、たった一人で乗り越えたそなたを私は尊敬する。<br /> 衛士として、伊隅大尉や月詠中尉をはじめ多くの優れた方々を見続けたが、それでもそなたは私の尊敬する目標であり続けた。<br /> 願わくば私もそなたにとっての尊敬する目標でありたいと思っている。</p> <p>そなたと出会ってから多くのことを学ばせてもらい、色々なものを貰ったが、<br /> 中でも最も嬉しかったのは姉上と出会えた事だ。<br /> 幾つかの偶然が重なったことではあるが、あの時あの場にいられたのは、そなたのおかげだと思っている。<br /> そして姉上の陰として育った私がたった一度でも姉上の為に戦えたことはなによりもかけがえの無い事だったと思う。<br /> もちろん、あの事件で命を落とした多くの者の事を考えると、<br /> このような事を言うのは不謹慎だから、そなたの胸だけに閉まっておいて欲しい。</p> <p>最後にそなたに伝えたいことがある。</p> <p>私はそなたを愛している。<br /> 例えそなたの愛が鑑にしか向いていないとしても。<br /> きっとそなたのことだから、そんなことにも気付かず私を支えてくれていたのだろうがな。</p> <p>そなたがいつか言っていた身近な目標とは、私にとっては、そなたと、そして鑑が無事基地に戻り<br /> この世界で二人で平和を味わってもらう事だ。</p> <p>この遺書を読んでいるという事は、私はもういないのだろう。<br /> しかし同時にそなたが生きていてくれる事を嬉しく思うぞ。<br /> そして出来ることなら少しでも私のことを、<br /> そしてこの戦いで亡くなった者の事を覚えておいて欲しい。</p> <p>鑑のことを今度は決して離すでないぞ。</p> <p>2001年12月31日</p> <p>御剣冥夜</p>

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