かかとを潰した靴を履き、いよいよ家を出る。
冬の空気は澄みきっていて、夜空を見上げるとぽつりぽつりと星が輝いている。
その姿は、まるで自分はここにいると必死にアピールしているかのように、僕には思えた。
耳元をびゅうびゅうと吹き抜けていく夜風に、思わず飛ばされそうになる。
いや、飛ばされてしまったほうが、むしろ幸せかもしれない。
ひたひたと空しく街の空気を振動させる僕の足音。
その単調な演奏に聴き入っていると、
いつの間にかバイト先の郵便局の前に、僕の身体が、あった。
僕を待ち構えていた仕事は思っていたよりも楽なものだった。
重たい荷物を運ぶわけでもなく、ただただ郵便物の仕分けをするだけ。
何も考えず、手を決められたところに移動させるといった内容だ。
仕事場には手紙の行き来する音以外には、友達同士らしい3,4人のグループがたまに会話をするだけで、
コミュニケーションらしきものは皆無といっても良いくらいの静けさだった。
久しぶりに精神を集中させて作業をこなしていると、社員の方から30分の休憩の合図がだされた。
時計をちらりと見ると、その短い針は1の数字を指している。
午後11時に仕事がはじまったから、もう2時間も経ったのか。
ふぅ。
短くため息を吐き、椅子の背もたれに体重を乗せ辺りを見回す。
仕事中にも私語をしていたグループは、俺たちの輪に誰も入ってくるなといわんばかりに固まって
確変がどうだの、設定がきついだの、最新の台がすごいだの、要するにパチンコの話ばかりをしている。
なんてくだらないだ。もっと教養のある話はできないのか。
そのグループから少し離れたところには男が1人、ぽつんと座ってスマートフォンを指でつついている。
縁の丸いオーバル眼鏡を掛け、髪は寝癖で乱れていて、
英字がプリントされた安っぽいパーカーと、インディゴブルーのジーンズを履いている。
清潔感という三文字からは縁のない男だということが、自分にもはっきり見て取れた。
遠くのほうにある自動販売機の周辺にはコーヒーを片手に談笑している男女が3、4人。
さらにその近くの机には、大人っぽい雰囲気を醸し出した男が1人、資格か何かの勉強をしているようだった。
あとは何人か、ぽつぽつと散らばって行動していて、どうやらみんなで仲良くしようとする感じではないらしい。
自己紹介もほとんどなく、触れ合う機会を逸してしまった今となっては、もうこちらから声をかけにいくしかない。
だけど、当然そんな勇気があるわけもなく、手持無沙汰になってしまった僕は、
心の中でひそかにバイト仲間にあだ名をつけることにした。
まずパチンコの話ばかりしてるあの集団はパチンカーズ。
ひたすら携帯をいじっている根暗そうなあの子は眼鏡くんだ。
コーヒーをもって談笑しているあいつらは、そうだな、リア充とでも名付けよう。
そして資格の勉強をしてるあの落ち着いた年上っぽい人は、兄貴だ。
はぁ。
はやく休憩時間が終わらないかな。
後ろの背もたれが、ぎしぎしと、小さい音を出し始めた。
第7章 終
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