いつの間にか、月曜日の夕方になっていた。
それまでいろんなことがあった。ブリッジで傷んだ髪を金色に染めた女性にカエルのような顔だと馬鹿にされたり、掲示板でファッションの話に横槍いれても誰も反応してくれなかったり、鏡の前で一時間ほど自分の顔を見て、どの角度からの顔が一番格好いいのかを調べたり。
要するに、何もやることがなくて暇だった、ということだ。勉強は、一切していない。だって、受験するのは再来年だろ?まだ時間はある、楽勝だぜ。
12月も中旬に差し掛かり、最近はもっぱら日が落ちるのが早くなった気がする。6畳一間の部屋は、17時になるともう明かりをつけなければ何も見えないほどの暗さになり、先程まで差し込んでいた西からの夕焼けの光は、まるでそれが幻であったかのように、地の底の沈んでいったらしい。僕はカーテンを閉めようと椅子から立ち上がり、窓のほうに手を伸ばす。そこに、聞きなれない電話の着信音と振動が僕の鼓膜を突然たたき出した。目をやると、知らない電話番号が記されている。両親以外からの着信なんて何か月ぶりだろう。
おそらく今日からはじまる郵便局のバイトの人からだろう、と思い一度咳払いをしてから電話に出る。
「もしもし?」
女の声だ。落ち着きのない、若く、そして耳に響きやすい心地の良い声だった。
「も、もしもし」女性と話すのが久しぶりだからか、やけに鼓動が早く感じられた。
内容は、なんてことのない間違い電話だった。だけど、今の僕にはそれが、淡い恋のはじまりに感じられた。
第6章 終
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