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アカイイト・アナザーストーリー

★最強の守護神


1.全国大会前夜


 「・・・それでね、祝勝パーティーにいきなり汀ちゃんが乱入してきてね、美咲ちゃんに宣戦布告してきたの。みさっち~、オサの仇を取ってやるからな~とか言って。」
 『汀ったら・・・他校の祝勝パーティーにしゃしゃり出てくるなんて、何考えてるのかしらね。』
 「うんうん、他の皆も先生も凄く驚いててね、ちょっとした騒ぎになったの。だけど美咲ちゃんは余裕の態度で汀ちゃんに応対してたよ。」

 桂はホテルの一室で、パジャマ姿でベッドに寝転がりながら、携帯電話で梢子と会話していた。
 そして桂の傍に寄り添うように、同じくパジャマ姿の美咲がベッドの上に座り込んで、そんな桂の様子を穏やかな表情で見つめている。

 『全国大会・・・私たちの分まで頑張ってね。応援してるから。』
 「うん。全力を尽くして頑張るよ。ところで梢子ちゃん。話は変わるんだけど・・・。」
 『何?どうしたの?桂。』
 「あのね・・・今日は柚明お姉ちゃんの添い寝の為に、わざわざ私の家まで泊まりに来てもらって、本当にごめんね。柚明お姉ちゃんったら、1人じゃ寂しくて眠れないとか言い出すから・・・」
 『・・・ああ、その事なの。別に添い寝くらいなら幾らでも付き合ってあげるから、気にしなくていいわよ。それにお礼として、姉さんの美味しい手料理をご馳走になってるんだし。』
 「本当にありがとね、梢子ちゃん・・・それじゃあ、もう夜遅いから・・・」
 『うん。お休みなさい、桂。』
 「お休みなさい、梢子ちゃん。また明日ね。」

 通話を切った桂は、大きなあくびをしながら携帯電話のアラームをセットして、枕元に置いた。
 あの卯奈坂での合宿が無事に終わり・・・季節が移り変わり、清々しい秋空の下で開かれた剣道の県大会。
 その決勝戦で桂の高校と青城女学院が激突し・・・桂は百子に敗北したものの、それから2勝2敗で大将戦までもつれ込み、壮絶な死闘の末に美咲が梢子を破り、桂の高校が青城女学院を下して全国大会出場を決めたのだ。

 そして会場のすぐ近くのビジネスホテルに滞在する事になり、桂は美咲と同じ部屋で寝泊りする事になったのだが・・・。

 「羽藤さん。もうこんな時間だし、そろそろ寝ましょうか。」
 「・・・それはいいんだけど・・・何でまたこんな事に・・・」

 自分に寄り添う美咲を見て、顔を赤らめる桂。
 そんな桂を見て、美咲はクスクスと小さく笑う。

 「あら?私と一緒のベッドで寝るのがそんなに嫌なの?」
 「いや、別に嫌じゃないんだけどね・・・やっぱり恥ずかしいというか・・・」
 「だって羽藤さん、毎日柚明さんと一緒のお布団で寝てるんでしょう?だったら今更恥ずかしがる事なんか無いじゃない。」 
 「ううぅ・・・それはそうなんだけど・・・」

 こんな時に限って剣道部一行だけでなく、一般の客の予約までもが殺到し、会場近辺のホテルの部屋を充分に確保出来なかった為、このままだと野宿しなければならない者が出てしまうという理由から、仕方が無く桂と美咲を含めた何人かが、シングルの部屋を2人で使う事になったのだ。
 顧問の先生は

 『どうせ女の子同士なんだから、恥ずかしがる事なんか何も無いでしょ』

 などと楽観的に考えていたのだが、桂は美咲と一緒のベッドで寝るという事が恥ずかしくて仕方が無かった。
 だが幾ら恥ずかしいからと言って、いつまでも寝ずに起きているわけにはいかない。そんな事をしようものなら間違いなく翌日の試合に差し支えるし、何より美容と健康に良くないのだ。
 なので美咲は未だに恥ずかしがる桂を無理矢理寝かせる為に、部屋の明かりを強引に落として桂に掛け布団を被せた。
 そして桂と一緒の布団の中に潜り込み、桂の体にしがみつく。

 「ひあああっ!?」
 「もう、羽藤さんったら往生際が悪いわよ?うふふ。」
 「だ、だって、私もまさかこんな事になるなんて思わなかったんだもん・・・。」

 美咲の柔らかくて温かい体の感触が、直に桂に伝わってくる。美咲の体からとてもいい匂いがする。
 まさに美咲が今、自分の目の前にいる・・・桂は正直言って緊張して眠れなかった。
 毎日柚明と一緒の布団で寝ている桂だったが、一緒に寝る相手が変わるとこうも緊張してしまう物なのか。
 そんな桂の心情を敏感に察知した美咲は・・・

 「・・・羽藤さん。」
 「へ?・・・むぐぐ・・・!?」

 桂の顔を自分の胸にうずめ、優しく頭を撫でてあげた。
 美咲の母性と優しさ、温もりが、直に桂に伝わってくる。

 「み・・・美咲ちゃん・・・」
 「・・・こうしていると、何だかとても安心出来るでしょう?」

 美咲の胸の柔らかさと温もり、そして自分の髪を優しく撫でる美咲の右手の感触が、何だか桂にはとても安心出来た。
 そう・・・まるで美咲に優しく包み込まれているかのような・・・。

 「・・・うん・・・。」

 普段からとても母性に満ち溢れた人だと桂は思っていたが、実際にこうやって美咲に抱かれていると、それがよりはっきりと理解出来る。
 何だか桂は、急に眠くなってきた。
 美咲の優しさに包まれて、心の底から安心したからなのか。

 「・・・ねえ・・・美咲ちゃん・・・」
 「なあに?」
 「美咲ちゃんって・・・何だか柚明お姉ちゃんみたい・・・」
 「そう・・・」
 「凄くふわふわで・・・優しくて・・・あったかいの・・・」

 やがて桂は静かな寝息を立てて、安らかな眠りについた。
 桂が眠ってからも、美咲は桂の顔を胸にうずめたまま、とても穏やかな笑顔で桂の頭を優しく撫で続ける。

 「・・・私も羽藤さん会えて、本当に良かったって思ってるわ。私だって羽藤さんのその純真な笑顔に、何度癒された事か・・・何度救われた事か・・・」
 「うみゅ~・・・」
 「ねえ、羽藤さん・・・私は、これからも貴方と仲良く・・・っ!?」

 ノゾミが具現化し、厳しい表情で外を睨みつける。
 美咲も慌てて起き上がり、ノゾミと同様に外を睨みつける。

 「ノゾミちゃん、気付いた?」
 「私を誰だと思ってるのよ。全く、こんな所にまで鬼が出て来るなんて・・・」
 「ええ。しかも、いかにも邪悪っぽい匂いがプンプンするわね。」
 「桂ったら、こんな時に何を呑気に寝てるのよ。ほら桂、起きなさい!!鬼が出たわよ!?」

 ノゾミは桂の頬を軽くひっぱたいたが、それでも桂は一向に起きる気配を見せない。
 いくら何でもおかしい・・・ノゾミはとっさにそう判断した。
 贄の血の使い方を完璧にマスターした今の桂なら、あれ程の邪悪さに満ちた鬼の気配くらい、眠っていても敏感に察知して瞬時に起き上がる事くらい、容易に出来るはずなのだ。

 「・・・ちょ、ちょっと・・・桂・・・?」
 「ノゾミちゃん、羽藤さんなら朝まで起きないわ。」
 「朝まで起きないって・・・美咲、貴方は一体桂に何を・・・」
 「緊張して眠れないようだったから『私が眠らせてあげた』のよ。」
 「はあ!?」 

 本来なら竹刀を入れる為の長細いケース。美咲はそこから竹刀ではなく木刀を取り出した。
 そんな事も知らず、桂は安らかな寝顔で静かな寝息を立てて眠っている。

 「眠れなかったら試合に差し支えるでしょう?それに夜更かしは美容に良くないのよ?」
 「美咲、ちょっと貴方・・・」
 「ノゾミちゃんは羽藤さんをお願いね。私は今から迎撃してくるわ。」

 美咲は先程とは一転した厳しい表情で、誰もいない静かな廊下を駆け抜け、外へと飛び出していく。
 ノゾミはあっけに取られた表情で、美咲が飛び出していった扉を呆然と眺めていた・・・。

2.裏庭での死闘


 「ほほほ・・・鬼切り部守天党・・・中々やりおるではないか。」
 「くっ・・・何て卑劣な・・・!!」

 誰もいない静まり返ったホテルの裏庭で、汀が1人の女性の鬼と戦っていた。
 いや・・・正確には、鬼によって操られている無数の少女たちと・・・と言ったほうが正しいかもしれない。
 少女たちは最近になってこの近辺で行方不明になり、警察に捜索願いが出されていた者たちばかりだった。
 とても虚ろな表情で、少女たちは常人離れした動き、そして巧みなコンビネーションで、少しずつ汀を追い詰めていく。

 別に汀の腕なら少女たちをひねり潰す事など造作も無い事なのだが、彼女たちは鬼ではなく人間・・・一般人なのだ。殺してしまう訳にはいかなかった。
 ならば少女たちを操っている張本人である鬼を倒せば済む事なのだが、無数の少女たちに囲まれて手出しが出来ない。

 少女たちは自分の命を犠牲にしてでも鬼を守るように暗示を掛けられているのか、汀の攻撃にも全く怯む様子を見せない。
 どれだけ叩き伏せられても、どれだけ傷つけられようとも、まるで痛みも恐怖も感じていないかのように、虚ろな表情で何度も汀に襲い掛かってくる。
 術に関しては素人の汀にとって、彼女たちは一番厄介な相手だった。

 「どうだ?わらわと『契り』を交わした娘たちの強さは?」
 「せめてオバァか柚明さんがいてくれれば、あの子たちの暗示を解いて貰えるんだけどなぁ・・・あたしは術に関しては駄目丸出しだし・・・一体どうしたものか・・・っ!!」
 「ほれほれ、もっと踊れ。わらわをもっと楽しませてみよ!!」
 「だけど、泣き言を言ってはいられない・・・!!あたしは鬼切り部守天党・・・!!ここはあたしが何とかしないと・・・!!」

 どれだけ痛めつけても、何度も起き上がってくる少女たち。
 鬼によって強化されているのか、彼女たちの身体能力も相当な物だ。
 人間は自分の潜在能力を、30%程度しか使う事が出来ないと言われている。無意識の内にリミットを設定し、力をセーブしているのだ。
 それは限界を超えた力によって、自らの肉体を破壊してしまう事を防ぐ為だ。

 だが目の前の鬼は、彼女たちの体が壊れてしまう事などお構いなしなのだ。
 例え彼女たちを酷使し、壊れてしまうような事になってしまっても、幾らでも代わりがいる・・・そう考えているからなのだろう。
 だからこの鬼は残りの70%の力を無理矢理引き出させ、使い捨ての特攻兵器の如く、汀に文字通り特攻させているのだ。

 限界を超えた少女たちの体が、ギシギシと悲鳴を上げる。
 だがそれでも少女たちは、苦しそうな表情を全く見せない。
 とても虚ろな表情で、自分の体が壊れる事などお構い無しに、汀を殺す事と鬼を守る事・・・ただそれだけに集中する。
 だが。

 「せめて一瞬・・・一瞬だけでも隙を作れれば・・・!!」

 こんな状況でも汀は、冷静さを失わずに頭の中で戦局を分析していた。
 これだけ数多くの少女たちに長時間暗示を掛け続けるには、相当な力を必要とするはず。
 つまり、今の鬼には『少女たちを操る以外の術』を掛けるだけの余裕が無い・・・つまりは無防備に近い状況のはずなのだ。

 以前、卯奈坂でノゾミが得意げに話していたのだが、この類の術は少しでも術者の精神集中が乱れてしまうと、意外とあっけなく解けてしまう物らしい。
 そう・・・一瞬でも隙を作り、鬼の精神集中を乱す事さえ出来れば・・・。
 汀がそんな事を考えながら、一旦少女たちから間合いを離したその時だ。

 「全く・・・折角羽藤さんに温かく包まれながら、ぬくぬくと気持ちよく眠ろうとしてたっていうのに・・・。」
 「な・・・!?」

 汀の前に、パジャマ姿の美咲が立ち塞がった。
 とても厳しい表情で威風堂々と、少女たちと鬼を見据えている。

 「みさっち!?」
 「苦戦してるみたいね。喜屋武さん。」
 「ちょっと・・・何でアンタがこんな所にいるわけ!?」
 「鬼の気配を感じ取ったから、駆けつけて来たんだけど・・・まさか喜屋武さんまでいたとは思わなかったわ。」

 突然現れた美咲に驚きを隠せない鬼だったが、すぐに気を取り直して美咲に向き直る。
 たかが増援が1人、別にどうという事は無い・・・この鬼はそう思っているのだ。
 だが美咲は無数の少女たちを前にしても、全く動じてはいなかった。

 「ほほほ・・・何だそなたは?わざわざ死にに来たのかえ?」
 「みさっち、気をつけろ!!彼女たちはあの女に操られているんだ!!」
 「ふうむ・・・そなた、中々の美しい女子(おなご)であるのぉ。よかろう、気に入った。そなたもわらわの『契り』によって、わらわの妹として迎え入れてやろうぞ。」

 鬼の言葉と同時に、少女たちが美咲に襲い掛かる。
 美咲は直立不動のまま、微動だにしない。

 「みさっち!!」

 絶叫する汀。だが次の瞬間。

 「な・・・!?」

 驚きのあまり、言葉が出ない汀。
 美咲の周囲を、無数の金色の小鳥が舞っていたのだ。
 小鳥たちは一斉に突撃し、少女たちの中に融けていく。
 次の瞬間、少女たちはとても安らかな表情になり、突然バタバタと倒れていった。
 汀によって傷つけられ、鬼によって限界まで体を酷使させられた、彼女たちのボロボロになった体も、一瞬にして癒されてしまったようだ。
 そのあまりの美しい光景に、汀は思わず見惚れてしまっていた。

 予想外の出来事に、鬼も動揺を隠せない。
 切り札を一発で破られて、鬼は先程までとは一転して、完全に追い詰められていた。
 そして鬼は、美咲が使った術に心当たりがあった。
 信じられないといった表情で、鬼は美咲から目を離せない。

 「馬鹿な・・・今の術は・・・光翼鳥・・・!?」
 「成る程・・・この間テレビのニュースでやってたけど・・・最近この辺りで多発している、少女たちの大量失踪事件の犯人は、貴方だったのね。」
 「何故お前があのお方の術を・・・い、いや・・・その金色の瞳・・・まさか・・・まさか貴方様は・・・!!」

 その瞬間、鬼はいきなり怯えた表情になって、美咲に対して土下座をした。
 全く予想もしなかった出来事に、唖然とする汀。

 「も・・・申し訳ありませんでした!!スザ・・・がはあっ!?」

 ズバァァァァァァン!!
 美咲の木刀から放たれた金色の衝撃波が、鬼の体を切り裂いた。
 鬼はそのまま吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられる。
 汀の位置からは見えないが、美咲は桂たちには一度も見せた事の無いような冷酷な表情で、鬼の事を見下している。

 「・・・今の私は松本美咲よ。それ以上でもそれ以下でも無いわ。」

 鬼は何故か美咲に対して、明らかに恐怖を抱いていた。
 そのまま驚愕の表情のまま、絶命した鬼。
 そして美咲は汀に向き直ると、いつも桂たちに見せるような穏やかな笑顔に戻り、汀の下に歩み寄った。

 「喜屋武さん、大丈夫?怪我は無い?」
 「・・・いや、アタシはみさっちのお陰で、この通り無傷だけど・・・」
 「そう・・・良かった。」
 「て言うか、みさっち・・・アンタ一体何者なの!?」
 「うふふ、内緒。」

 美咲は木刀を手にその場を去っていく。

 「明日・・・と言うか今日の試合・・・お手柔らかにね?喜屋武さん。」
 「あ、ああ・・・こちらこそ・・・。」
 「夜更かしは美容と健康に良くないのよ?喜屋武さんも早く寝て頂戴ね。それじゃ。」

 美咲は笑顔で汀に軽く手を振り、桂が眠る部屋へと戻っていく。
 その様子を汀は、呆然とした表情で見送るしか無かった。
 そんな汀の周囲で、先程まで鬼に操られていた無数の少女たちが、とても安らかな表情で眠っていた・・・。

3.桂の守り神


 桂と美咲の携帯電話のアラームが、けたたましく鳴り響く。
 その激しいメロディに導かれ、桂はゆっくりと目を覚ます。
 時刻は午前7時。既に日は昇り、外はとても明るくなっていた。

 「ん・・・」

 目を覚ました桂が最初に目にしたのは、どアップの美咲の顔だった。
 桂と一緒のベッドの中で寝転がりながら、至近距離から桂の顔をじーっと眺めている。

 「うふふ、おはよ。羽藤さん。」
 「うにゅ・・・美咲・・・ちゃん・・・?」

 しばらく寝ぼけてボーッとしていた桂だったが・・・

 「・・・って、ひああああっ!?」

 今にもキスしてしまいそうな程までに接近している美咲の顔を見て、桂は慌てて起き上がった。
 そんな桂の様子を見て、美咲はクスクスと小さく笑う。

 「その様子なら、どうやら充分に眠れたみたいね。」
 「美咲ちゃん・・・いつから起きてたの!?」
 「30分くらい前かしら?でも羽藤さんがあまりにも幸せそうな顔をしてたから、何だか私も幸せな気分になっちゃって、ずっと羽藤さんの顔を眺めてたわ。」
 「えええええ!?私、そんな変な顔してた!?」
 「別に変な顔じゃ無かったわよ?だって羽藤さん、あんなに可愛らしい寝顔だったんだもの。」
 「・・・もう、美咲ちゃんったら、恥ずかしいよぅ・・・」
 「うふふ・・・よいしょっと。」

 美咲も起き上がり、窓のカーテンを開ける。
 広々とした青空、清々しい朝日。今日もとてもいい天気だ。
 窓から外を眺めると、警察が慌しく動き回っている。

 「ん~、今日もいい天気だね~・・・って、一体何があったのかな?」

 桂も窓から外を眺めて、外の騒ぎに気付いたようだ。
 よく見るとテレビ局の人たちも何人か訪れており、生中継でもしているのか、テレビカメラの前でアナウンサーが実況をしている。
 美咲がテレビを付けると、そこに映っていたのは桂たちが泊まっているビジネスホテルの光景だった。
 まさに液晶画面に今、外にいる実況中の男性アナウンサーの姿が映っている。


 『・・・それで緒方さん、行方不明になった少女たち全員がホテルの裏庭で倒れていた件について、ホテルの関係者の方たちはどのような発言をしているのでしょうか?』
 『はい。従業員の方の誰もが、こんな事になってしまって正直戸惑っている、そもそも何故このホテルの前に少女たちが集団で倒れていたのか、全く心当たりが無いと語っていました。警察も現在、関係各所から事情聴取をしているのですが、少女たちは口を揃えて、いきなり女の人に背後から声を掛けられて、それから後の事がよく分からない、覚えていないと語っています。』
 『成る程・・・それにしても奇妙な事件ですよね。』
 『はい、ホテルの宿泊客の皆さんも、一様に戸惑いを隠せない様子のようで・・・』


 昨夜、美咲が倒した鬼に操られていた少女たちが、汀からの通報で警察に保護されたのだ。
 その実況見分の為に警察が忙しく動き回っており、テレビのニュースでもこの件に関して大きな騒ぎになっていた。
 だがニュースを見る限りでは、美咲が倒した鬼の死体は見つかっておらず、どうやら汀が後始末をしたようだ。

 「うわ・・・私たちが寝てる間に、何だか凄い事になってたみたいだね。」
 「何を呑気な事を言ってるのよ。桂が寝てる間に鬼が現れて、大変だったんだから。」
 「・・・へ?」

 桂は一瞬、ノゾミが何を言っているのか理解出来なかった。

 「だから、桂が寝てる間に鬼が出て、それでその鬼がこの事件の犯人だったのよ。桂もこの間インターネットのニュースで見たでしょ?少女たちの大量失踪事件があったって。」
 「・・・え?・・・えええ!?」
 「それで、美咲が鬼を倒して、汀が後始末をしたというわけよ。桂がそれはもうとても幸せそうな顔で爆睡してる間にね。」
 「・・・そ、そんな事があったの・・・!?」

 自分が眠っている間に凄い事が起こってて、しかもいつの間にか全てが終わっていたという事に、桂は驚きを隠せなかった。
 同時に桂は、そんな事が起こってる間に自分を守ってくれた美咲とノゾミに、心から感謝していた。
 今、こうして自分が無事でいられたのは、紛れも無く美咲とノゾミのお陰なのだから。

 その時、桂の携帯電話の着信音が鳴り響いた。
 この着信音は柚明からだ。テレビのニュースを見て、桂の事が心配になって掛けてきたのだろう。

 「あ、もしもし、柚明お姉ちゃん?」
 『桂ちゃん!!今テレビのニュースで桂ちゃんが泊まってるホテルが映ってて、何だかとんでもない事件が起こってたみたいだけど、桂ちゃんもノゾミちゃんも大丈夫だった!?』
 「あのね、昨日の夜、私が寝てる間に鬼が出たらしいんだけどね。」
 『・・・え!?鬼が!?』
 「でね、でね、美咲ちゃんが鬼を退治してくれたらしいの。だからもう大丈夫だよ。」

 その瞬間、柚明の溜め息が聞こえた。
 携帯電話を通してでも、柚明がとても安心している事を桂は感じ取っていた。

 『・・・そう・・・美咲ちゃんが・・・良かったわ・・・』
 「私が寝てる間に起こった出来事だから、私にはよく分からないんだけど・・・でも美咲ちゃんのお陰で、本当にもう大丈夫だから。」
 『桂ちゃん、美咲ちゃんに代わってくれる?私の方からお礼を言いたいんだけど・・・』
 「あ、うん。ちょっと待っててね。・・・美咲ちゃん、柚明お姉ちゃんが美咲ちゃんにお礼を言いたいんだって。」

 桂から携帯電話を差し出された美咲は、とても穏やかな笑顔でそれを受け取った。

 「もしもし、柚明さんですか?松本です。」
 『美咲ちゃん、昨日の夜、桂ちゃんとノゾミちゃんを守ってくれたんですって?本当にありがとね。美咲ちゃんがいなかったら、今頃どうなっていたか・・・』
 「いえ、私がいなくても、きっと喜屋武さんが鬼を倒してくれていたと思います。それに私は羽藤さんに誓いましたから。」
 『誓ったって・・・何を?』
 「私の目の届く範囲で良ければ、私が必ず羽藤さんを守るって。」

 何の迷いも無い力強い瞳で、美咲ははっきりと柚明にそう告げた、

 『・・・美咲ちゃん・・・』
 「ですから私がいる限り羽藤さんには、下劣な鬼なんかに指1本触れさせはしませんから。羽藤さんは私にとって、かけがえのない友人ですから。」
 『本当に美咲ちゃんがいてくれて助かったわ。そのお礼と言っては何だけど、後で私の手料理をご馳走したいんだけど・・・都合がいい日が出来たら教えてくれる?』
 「そうですね・・・なら、今度の日曜日のお昼にでも・・・」
 『分かったわ。今度の日曜日のお昼ね?美咲ちゃんの為に全身全霊を込めて、美味しいご飯を作ってあげるからね。』
 「うふふ、それは楽しみですね。」
 『今日の試合・・・頑張ってね。応援してるから。』
 「はい、ありがとうございます。・・・それでは。」

 電話を切った美咲は、とても穏やかな笑顔で桂に携帯電話を返した。

 「羽藤さん。あのね、柚明さんが今度の日曜日に・・・」

 その瞬間。


 ぐりゅるるるるるるるるるるるるるるる


 桂の腹が勢い良く鳴り響いた・・・。
 一瞬、何が起こったのかとあっけにとられた美咲だったが、すぐに桂がお腹を空かせているのだという事を理解して、面白おかしく笑い出した。
 そんな美咲の様子に、桂は顔を赤らめて頬を膨らませる。

 「み、美咲ちゃん、そんなに笑わないでよぅ・・・」
 「もう1人の羽藤さんも目を覚ましたみたいね。」
 「だって、お腹が空いたんだから仕方が無いじゃないのよ~。」
 「なら、早く着替えて朝ご飯を食べに行きましょうか。」

 お腹を空かせたという事は、それだけ体調が万全だという事だ。
 よく分からないが、何だか桂は体中に力が漲っているのを感じていた。
 昨日までの疲れが、まるで嘘のように完全に取れている。
 この調子なら、今日は最高の状態で試合に臨めそうだ。

 「羽藤さんは、朝ご飯は和食派だったっけ?」
 「うん。美咲ちゃんは?」
 「私はいつも洋食よ。こういう時にバイキングって本当に便利よね。」
 「だよね~。好みが分かれて別々の店に行く必要が無いもんね。」

 そんな他愛ない会話を楽しみながら、桂と美咲は笑顔で食堂へと向かって行ったのだった・・・。