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アカイイト新章・神の化身の少女

第4話「譲れない信念」(後半)


4.絆の力


 桂と柚明の『贄の血』を飲んだ梢子。
 渚の『神の血』を飲んだ遥。
 互いに『アカイイト』の絆で結ばれた者同士の戦いは、まさに壮絶を極めた。

 2人が繰り出す斬撃は、高速をさらに超越した・・・人間の限界を超越した『神速』。
 常人には決して捉える事の出来ない遥の神速の斬撃を、梢子は同じく神速の剣捌きで的確に受け止める。
 2人の周囲に糸状の閃光が走る。その戦いは完全に人間のレベルを超越していた。

 「私に何度挑もうとも無駄な事だ!!3度目の正直など、あると思うか!?」
 「3度目が無理なら、何度でも立ち向かうわ!!」
 「確かにお前の力は飛躍的に増大したようだ!!だがそれは私とて同じ事!!そしてお前の太刀筋は2度目の戦いで、既に見切っている!!」

 梢子の動きの先を読み、梢子の斬撃を的確に受け止め、そこへ生じた僅かな隙を見逃さない。
 フェンシング特有の、速く正確無比な一撃。

 「・・・そこだっ!!」

 遥の斬撃が梢子に迫る。
 だが、それは梢子が巧みに張り巡らせた罠。
 遥の斬撃のタイミングを読み、梢子は最小限の動きで遥の斬撃を避け、逆に遥にカウンターを浴びせる。

 「・・・はっ!!」
 「ぐっ・・・!!」

 どうにか梢子の一撃を受け止めた遥だが、梢子の追撃は終わらない。

 「・・・根方クロウ流・・・!!」
 「な・・・!?」
 「海石瑠!!」
 「何いっ!?」

 遥の首筋に神速で迫る、梢子の天照。
 とっさにアポロンで天照を受け止める遥だが、予想外の梢子の動きに驚きを隠せなかった。

 「馬鹿な・・・何故お前が根方クロウ流の絶技を・・・!?」

 決して模倣などというレベルではない。梢子が繰り出したのはまさしく正真正銘、根方クロウ流の究極奥義。その技のキレや威力は、オリジナルと比べても全く遜色が無かった。
 遥が渚の血を飲んでいなければ、今の一撃は確実に遥の首を捉えていただろう。
 だが、これだけでは終わらない。
 続いて梢子が繰り出すのは、百子の『桂馬』の如く縦横無尽な、変則的な動き。

 「な・・・何だ、この梢子の動きは・・・こいつ、急に太刀筋が・・・!!」
 「どりゃどりゃどりゃどりゃどりゃーーーーーーっ!!」
 「ええい、だがこの程度で!!」

 突然の梢子の太刀筋の変化に戸惑いながらも、遥はそれにどうにか対応していく。
 その変則的な動きのさらに先を読み、梢子の一瞬の隙を突こうとする。

 「そこおっ!!」
 「・・・はっ!!」

 しかし、またしても梢子の太刀筋が変わる。
 今度は綾代の、演舞のような流水の動き。
 まさに動から静。激から流。剛から柔。
 遥の斬撃を梢子は軽く受け流し、その隙に的確に一撃を加える。

 「・・・ちいっ!!」

 遥はどうにか梢子の斬撃を避け、一旦梢子から間合いを離す。

 「何なんだ、この梢子の動きは・・・太刀筋が次から次へと・・・!!」
 「・・・貫け・・・!!」
 「な・・・!?」
 「その一点を砕けーーーーーっ!!」

 今度は遥のライジングフォースまで繰り出した梢子。
 これもまた、決して模倣などというレベルでは無い。遥が以前梢子に繰り出したオリジナルと全く遜色の無い、正真正銘、本物のライジングフォースだ。
 まさしく徹底的に突貫力のみを追及した、極限までの『突き』。

 「馬鹿な・・・まさか、こんな事が・・・!!」

 自分の技であるが故に、遥は辛うじて太刀筋の先を読み、梢子の斬撃を受け止める事が出来た。
 だが、そこからさらに梢子の追撃が入る。
 ライジングフォースの突進の勢いを巧みに利用し、そのまま梢子は身体を回転させる。

 「・・・守天応身流が舞の手・・・竜巻!!」

 梢子のなぎ払いを、遥は辛うじて避ける。
 次から次へと変化する太刀筋。そして先程梢子が繰り出した自分の技。
 遥は一連の梢子の動きを見て、確信した。

 「まさか梢子・・・お前は1度戦った相手の技を、全て自分の物にしているというのか!?」

 これこそが、桂と柚明の贄の血を飲んだ事によって、梢子の中で目覚めた『絆の力』。
 1度戦った相手の技をどんどん吸収し、瞬く間に自分の物にしてしまう。
 それも模倣などというレベルではなく、オリジナルと全く遜色の無いレベルで、しかもそれに梢子の剛直な太刀筋がブレンドされているのだ。
 こうなってしまったら、もう手が付けられない。
 今の梢子は、まさに全てを飲み込むブラックホールだ。

 「だあああああああああああっ!!」
 「今度は片手面・・・いや、虎噤み・・・!!」
 「二の太刀!!五月雨!!」
 「・・・ええいっ!!」

 右手の天照をアポロンで、左手の鬼払いを鞘で受け止めた遥。
 遥はとっさにバックステップし、一旦梢子から間合いを離す。 
 だが、梢子の猛攻は止まらない。
 鬼払いを腰にぶら下げ、天照を上段に構える。
 遥もまた、鞘を腰にぶら下げ、アポロンを構えて梢子の出方を待とうとするのだが・・・

 「・・・何だ・・・!?天照が光って・・・!?」
 「・・・オンワカ・シリメイ・シリベイ・ソワカ・・・オンワカ・シリメイ・シリベイ・ソワカ!!」
 「何いいいいいっ!?」 

 千羽妙見流奥義・縮地法。
 一瞬で梢子は、遥との間合いを詰める。
 そして天照が青く白く美しく輝き、遥に迫る。
 桂と柚明の『力』と『想い』を込めた渾身の一撃が、遥に襲い掛かる。

 「千羽妙見流奥義・・・魂削り!!」
 「くっ・・・ぐああっ・・・!!」

 とっさにアポロンで魂削りを受け止める遥。
 だがあまりの威力に、遥は完全に押されていた。

 「馬鹿な・・・こんな事が・・・!!」

 梢子の想いに応え、天照の光が、魂削りの威力が、どんどん強くなっていく。

 「これが贄の血の・・・いや、お前たち3人の・・・絆の力・・・!!」
 「だああああああああああああっ!!」 
 「ぐあっ・・・!!」

 遥のアポロンが、宙を舞う。
 乾いた音を立てて、アポロンが遥の足元に転がり落ちる。 
 丸腰になった遥に、さらに追撃を入れようとする梢子だったが・・・

 「梢子さん、もう止めてぇっ!!」

 渚が飛び出し、とっさに遥を庇った。
 慌てて剣を止める梢子。呆然自失の遥。
 梢子は、遥に勝ったのだ。

5.皆の想い


 「梢子さん・・・決着はつきました。あなたの勝ちです。」

 渚が目に涙を浮かべながら、梢子の前に立ちはだかり、必死に遥を庇う。

 「だからもう、これ以上無意味な戦いは止めて下さい!!」
 「渚・・・」
 「姉さんも!!もういいでしょう!?これ以上梢子さんと戦って何になるっていうの!?」

 梢子に敗北した遥はアポロンを鞘に収め、苦々しい表情でうつむいた。
 負けたことが悔しいという事もあるが、ようやく念願が叶った大いなる王・馬瓏琉への復讐の好機を、後一歩という所で梢子に阻止されたのだ。
 復讐の為に剣を振るってはいけない・・・その梢子の遥への強い想いが、遥の馬瓏琉への復讐心を凌駕したのだ。
 だが遥は、梢子に負けても尚、諦め切れないといった表情をしていた。

 「私は・・・父さんと母さんが馬瓏琉に殺されたあの日の事を・・・父さんと母さんが私と渚を守って死んでいったあの光景を、今でも忘れる事は出来ない・・・!!」
 「・・・姉さん・・・」
 「渚・・・お前はあまりのショックで正確に覚えていないだろうが・・・私は今でもはっきりと・・・」
 「・・・覚えているわ・・・。」
 「な・・・!?」

 強い意志を秘めた瞳で、渚は遥を見据える。
 渚の表情からは、一片の迷いも感じられなかった。

 「私たちが中学3年生の頃に、お母さんが根方クロウ流に興味を持って・・・皆を連れて咲森寺に泊まって、根方さんに会いに行って・・・姉さんとお母さんが根方さんから剣術の指導を受けて・・・姉さんが根方さんに、まだ子供なのに大した物だって褒められて・・・」
 「渚・・・お前・・・」
 「その帰り道に、あの隻眼の陰陽師に襲われて・・・お母さんが必死に戦ってくれたけど、結局やられちゃって・・・あの人は私と姉さんにも襲い掛かってきて・・・お父さんが私たちを逃がしてくれたけど、胸を矛で貫かれて・・・」

 あまりにも渚が正確に答えるので、遥は驚いていた。
 渚は目に涙を浮かべながらも、身体を震わせながらも、それでも心だけは決して折れなかった。

 「それだけじゃない・・・高校1年生の頃に、私はレズだとか近親相姦とかで、クラスの皆に酷いいじめを受けた事があったよね?」
 「・・・渚・・・本当に思い出したのか・・・」
 「姉さんは私を必死で守ってくれて・・・それで私は停学処分になって・・・姉さんは退学処分を受けて・・・先に手を出したのは皆の方だって姉さんは主張してたけど・・・先生は全然・・・聞き入れてくれなくて・・・!!」

 渚は以前、梢子に言っていた。
 自分はいじめられた事による精神的なショックで、その時の記憶を無くしてしまったのだと・・・そう遥が言っていたのだと。
 だが今の渚は、失われていた記憶を・・・いや、自分の意思で心の奥底に封じていた記憶を、完全に取り戻していた。

 「さっき、姉さんが私の血を吸った時・・・私と姉さんが繋がった時・・・私の頭の中で何かが弾けて・・・それで全てを思い出したの。」
 「・・・そうか、お前があの時、突然様子がおかしくなったのは・・・」
 「私は自分で自分の都合のいいように、自分の記憶を勝手に改ざんしたのよ!!お父さんとお母さんが殺された事に耐えられなくて、交通事故で死んだ事にして・・・!!」

 ポロポロと、渚の目から大粒の涙が溢れ出てくる。

 「私が停学になって、姉さんが退学になった時もそう!!私が自分で学校を辞めて、姉さんも一緒に辞めたんだって・・・そういう風に勝手に記憶を改ざんして・・・姉さんも私に気を遣って、父さんと母さんが交通事故で死んだんだって、私が自分で学校を辞めたんだって、そういう事にしてくれて・・・!!」

 堪え切れなくなって、渚は遥の身体にしがみついた。
 渚の身体は震えていた。悲しくて残酷な記憶を思い出し、それでも折れそうな心を、遥の身体の温もりで必死に押さえ込んでいた。

 「私の心の弱さのせいで、姉さんには本当に迷惑を掛けてしまって・・・!!私のせいで・・・!!」
 「もういいんだ、渚。そんなに自分を責めるな。私は別に迷惑だなんて思っていない。」
 「でも・・・私は・・・!!」
 「お前だって辛かったんだろう?辛かったから、それを無かった事にしてしまいたいと・・・そう思ったんだろう?・・・自分の心が壊れてしまう前に。」
 「うん・・・うん・・・!!」
 「それは人間の防衛本能だ・・・何もおかしい事は無いんだ。」

 梢子もまた、渚の悲しみと苦しみを、痛い程理解出来た。
 梢子も9年前に夏夜が一度は根方に殺された時、夏夜を失った孤独の恐怖に耐えられなくて、その時の記憶を自ら閉ざしてしまったのだから。
 そして桂もまた、12年前に柚明が自分を守る為にオハシラサマになった時、柚明を失った孤独の恐怖に耐えられなくて、梢子と同じように柚明に関する記憶を自ら閉ざしてしまったのだから。

 だからこそ梢子は、渚が自分の記憶を勝手に都合のいいように改ざんしたという事に関して、少しも悪い事だとは思っていなかった。
 梢子も桂も、その苦しみを実際に体験しているのだから。
 いや、渚はきっと梢子や桂以上に苦しみ、酷い目に遭ってきたのだろう。

 「・・・ねえ、遥・・・。私ね、昼間に遥に負けた後に、経観塚の商店街まで足を運んで、ファルソックの社長さんに事情を話したの。遥が行方不明になったのは、ファルソックの人達に襲われたからだって。」
 「何だと・・・!?」
 「社長さんが社員全員の拳銃の使用履歴を調べてくれて、犯人はすぐに分かったわ。社長さんが警察に通報してくれたから、今頃は殺人未遂の容疑で逮捕されてると思う。」

 梢子は鞄からノートを取り出し、遥に手渡した。
 羽様の屋敷でコハクと汀に見せた、あのノートを。
 梢子に促され、遥はノートを開いてみる。

 「・・・これは・・・寄せ書きか・・・!!」
 「ファルソックに立ち寄った後に商店街を回って、皆にも事情を話して、遥へのメッセージを書いて貰ったのよ。遥が経観塚の人達にとても慕われてるって、渚が言っていたのを思い出したから。皆が遥をどれだけ慕っているのかって事を、遥に分かって貰いたかったから。」

 ノートに書かれていたのは、経観塚の商店街の人達が遥に残したメッセージ。
 その全てが、遥を励ましたり応援したり・・・心から遥の事を心配し、遥への想いに満ち溢れた物だった。
 そして全員のメッセージに共通しているのが、復讐なんて馬鹿な真似はやめて早く帰って来いと・・・遥の帰りを待っていると、そう締めくくられている事だった。

 そのメッセージは、ノートの実に半分近くものページを埋め尽くしていた。
 それだけの量の寄せ書きを集める為に、梢子は商店街を必死に奔走したのだ。
 皆の想いを、遥に分かって欲しかったから。

 「ファルソックの社長さんもね、遥の復職の準備も進めてる最中だからって。」
 「梢子・・・お前、まさかこれを集める為に商店街を回って・・・」
 「夕方までに羽様に戻らないといけなかったから、大急ぎで回ったんだけどね。」
 「何故私なんかの為に、こんな事までするんだ!?私はお前を傷付けたんだぞ!?」
 「遥はね・・・何だか昔の夏姉さんにそっくりなのよ。だから放っておけなくて。」
 「な・・・!?」

 根方への復讐の為に《剣》を守天党から盗み出し、一度は『剣鬼カヤ』と化した夏夜。
 梢ちゃんの仇を討ちたい・・・その強い想い故に、夏夜は危うく道を踏み外しかけたのだ。
 結局は梢子が根方と馬瓏琉を倒し、夏夜を救ったお陰で、夏夜は後一歩という所で人として踏み留まり、今は自分やナミと共に幸せに暮らしているのだが、一歩間違えば夏夜は《剣》によって復讐心を増幅させられ、正真正銘の殺人鬼になってしまう所だったのだ。

 梢子は馬瓏琉とファルソックへの復讐に燃える遥に、かつての夏夜を重ねていたのだ。
 だから他人事だと思えず、梢子は遥を止めたくて、寄せ書きを集めるという行為をとったのだ。
 遥の手を、血で汚したくなかったから。
 遥のアポロンを、復讐の為に使ってほしくなかったから。

 「私も遥の気持ちは痛い程分かるわ。私だって夏姉さんを一度は殺した根方さんを、憎いって思った事もあったから。」
 「梢子・・・」
 「だけど遥。憎しみの心で剣を振るってはいけない。剣は人の心を体現する物。負の感情で剣を振るえば、心まで闇に染まってしまうから。かつて夏姉さんがそうなりかけたように。」
 「だから馬瓏琉を見逃せと、お前はそう言いたいのか!?」
 「復讐の為じゃない・・・大切な物を守る為に剣を振るえと、私はそう言っているのよ。」

 それが、梢子が遥に伝えたかった事。
 負の感情で剣を振るえば、心まで闇に染まってしまう。かつて夏夜がそうなりかけたように。
 だが、その逆もまた然り。
 何かを守りたいという純粋な想いで剣を振るえば、その心は強く研ぎ澄まされるのだ。

 「ねえ、遥・・・あなたは何の為に警備員になったの?何の為にフェンシングを習ったの?その時の気持ちも忘れちゃったの?」
 「そ・・・それは・・・!!」
 「渚や経観塚の人達・・・大切な物を守りたいって思ったからでしょう?」
 「・・・っ!!」
 「遥は、渚を照らす太陽になるんじゃなかったの?それなのにその手を血で染めて、憎しみに心を支配されてどうするのよ?」

 梢子に諭されて、経観塚の皆の寄せ書きを見て、遥は自分がやろうとしていた事の愚かさを、復讐の為に剣を振るうという事の意味を、ようやく思い知る事になった。
 涙を流しながら、遥は渚の身体を抱き締めた。

 「渚・・・済まなかった・・・私が馬鹿だった・・・お前の気持ちを何も考えないで、私は・・・!!」
 「そうよ、姉さんは馬鹿よ・・・私の事を半年間もほったらかしにして・・・!!」
 「それは・・・以前も言ったが、話すと長くなる。」
 「じゃあ家に帰ってから、事情をゆっくりと話してよ!!私たちの家に帰ってきてよ!!」
 「ああ・・・そうだな・・・」
 「姉さん・・・私はもう、姉さんの事を離さないから・・・!!姉さんが嫌だって言っても離してあげないから・・・!!」

 そっ・・・と、2人の唇が触れ合った。
 互いの想いを確かめ合うかのような、優しくて長いキス。
 梢子はそんな2人を悲しみの表情で見つめていた。

6.大いなる王


 無事に渚を助け出し、遥の心を救った梢子。
 だが、これで全てが終わった訳ではない。
 梢子は決意に満ちた瞳で、天照を手に棺へと向かっていく。
 大いなる王・・・馬瓏琉の復活を、完全に阻止する為に。

 「遥。私が馬瓏琉を天へと還すわ。桂と姉さんの血を飲んだ今の私なら、天照の神聖な力なら、きっとそれが出来ると思うから。」
 「梢子・・・お前・・・」
 「馬瓏琉が憎いからじゃない。私の大切な人達を守りたいから。その為に私は馬瓏琉を倒す。」

 梢子のその想いに応え、天照が青く白く美しく光り輝く。
 邪なる者を浄化する、天照の神聖な力。
 だが、それを見た京介が血相を変えて、棺の前に立ちはだかった。

 「させるものか・・・そんな事はさせるものか!!」
 「京介。あなたにとって馬瓏琉はとても大切な人なんでしょうけど・・・私にとってもまた、馬瓏琉は討つべき敵なのよ。これだけはどうしても譲れないわ。」
 「僕にだって譲れない想いがあるんだ!!大いなる王は僕を救って下さったお方なんだ!!」

 だから何としてでも、馬瓏琉を蘇らせる・・・その覚悟と決意に満ちた表情で、京介は棺を開ける。
 そこに眠っているのは、間違いなくコハクに殺されたはずの馬瓏琉。
 それを見た梢子は、とても厳しい表情になる。
 1年前のあの時・・・自分が邪眼を潰し、コハクが首を刎ねて、オニワカが頭部を踏み潰したはずなのに、馬瓏琉の遺体は何事も無かったかのように、綺麗な状態を保っているのだ。

 「だから・・・僕は大いなる王を何としてでも蘇らせる・・・例えこの身を犠牲にしてでも!!」
 「何ですって!?」
 「遥君には話していなかったけどね・・・僕の体にも渚君や遥君ほど特別に濃くは無いが、それでも『神の血』が宿っているんだよ!!」

 京介は隠し持っていたナイフを構えて・・・自らの胸に突き刺した。

 「がはあっ!!」
 「な・・・!?」

 どうっ・・・と床に倒れる京介。
 予想外の出来事に梢子は驚きを隠せない。
 渚と遥もまた、唖然とした表情で京介の自害を見つめていた。
 そんな事はお構い無しに、京介の『神の血』を吸った魔方陣が、再び赤い光を放ち始める。
 そう・・・京介は自分の命を触媒にして、馬瓏琉を蘇らせるつもりなのだ。

 「京介!!あなた、何故そこまでして馬瓏琉を・・・!!」
 「言った・・・だろう・・・僕にとってあのお方は・・・大恩あるお方だと・・・あのお方の為なら・・・僕は死ねる・・・!!」
 「何を・・・何を馬鹿な事を・・・!!」 

 魔方陣の光がどんどん強くなっていき、その光が棺の中に収束されていく。

 「僕の『神の血』は・・・渚君や遥君の物と比べたら・・・とても薄い物だけど・・・それでも・・・僕の命を加えれば・・・」

 棺から強い光が放たれる。
 やがて光が収まり、棺からゆっくりと起き上がる人影。
 それを見届けた京介は、とても満足そうな表情を見せた。

 「ああ・・・大いなる王よ・・・僕の大恩ある王よ・・・よかった・・・ようやく目覚めて・・・下さった・・・」
 「・・・お前は・・・そうか、あの時俺が助けてやった小僧か。つーか何だ?折角俺が助けてやったってのに、お前のその有り様はよ。」
 「これでもう・・・何も悔いは無い・・・僕・・・は・・・」

 それだけ言い残し、京介は死んだ。
 馬瓏琉への精一杯の想いを託しながら。
 そんな京介の事など完全に無視して、馬瓏琉は大きく伸びをして、そして梢子に向き直った。

 「何だよ、死んじまったのかよ。まあ、そんな事よりだ・・・久しぶりだなぁ。小山内梢子。」
 「馬瓏琉・・・!!」
 「おうよ。」
 「どうして・・・どうして、あなたがまた!!」
 「見て分からねえのか?生き返ったんだよ。蘇ったんだよ。」

 ニヤニヤしながら、馬瓏琉は龍戟を召喚して身構える。
 梢子もまた、天照を正眼に構える。
 天照の輝きが、馬瓏琉の強烈な邪気に感応して、より一層強くなる。
 天照が、梢子に警告を発しているのだ。
 目の前の馬瓏琉は1年前とは比較にならない、とても危険な存在だという事を。

 それを梢子も敏感に感じ取り、天照を持つ両手に力を込める。
 だが。

 「馬瓏琉ーーーーーーーー!!」

 そこへ遥が怒りの形相で馬瓏琉に斬りかかった。
 慌てる事無く、馬瓏琉は龍戟でアポロンを受け止める。 

 「・・・おっと。」
 「貴様は3年前、星崎栞(しおり)を瑠璃宮の門への生贄に捧げたのか!?」
 「星崎栞・・・ほう、お前まさか、あの時のガキかよ。確か星崎遥とか言ったか?しばらく見ない間に見違えたな。随分と女らしくなったじゃねえか。」
 「私の質問に答えろ!!馬瓏琉!!」
 「ああ、殺した。俺が殺してやった。それでもって瑠璃宮の門への生贄にしてやったさ。」
 「くっ・・・貴様ぁ!!」
 「だがあの女は、天照の血筋にしては薄かったな。お陰で門を開くには不十分だった。」

 馬瓏琉は遥を弾き飛ばし、龍戟で遥に斬撃を浴びせる。

 「・・・ちいっ!!」

 とっさに遥はアポロンでそれを受け止め、一旦間合いを離して身構える。

 「そうそう、確かあの女もそんな構えだったよなぁ。」
 「馬瓏琉!!父さんと母さんの仇、今こそ討たせて貰うぞ!!」

 アポロンが青く白く美しく輝き、馬瓏琉に襲い掛かる。

 「はあああああああああああっ!!」
 「な・・・魂削り!?それも詠唱無しで!?」

 驚く梢子など歯牙にもかけず、遥のアポロンと馬瓏琉の龍激がぶつかり合う。
 アポロンの神聖な力と龍激の邪悪な力がぶつかり合い、2人の周囲に火花が走る。
 構えこそ違うが、遥が繰り出しているのは紛れも無く、千羽妙見流奥義・魂削り。
 それも決して模倣と呼べるレベルではない。その威力は梢子や烏月の物と比べても、全く遜色が無い代物だった。
 だが、それでも馬瓏琉には通用しない。

 「中々器用な真似をするじゃねえか。だが・・・その程度かよ!!」
 「くそっ・・・!!」

 そのまま鍔迫り合いの状態のまま、2人は睨み合う。
 だが余裕の表情の馬瓏琉と違い、遥は完全に押されていた。

 「だああああああああああああっ!!」

 そこへ梢子が、両手が塞がっている馬瓏琉に斬りかかる。
 馬瓏琉に迫る天照。だが、それでも馬瓏琉は余裕の態度を崩さない。

 「いでよ!!氷のアーゼ!!」
 「な・・・!?」

 突然現れた氷の壁が、梢子の天照を受け止める。
 さらに馬瓏琉は遥を弾き飛ばし、龍激をなぎ払う。

 「おらよ!!」

 どうにかそれを避けた梢子と遥だったが、完全に馬瓏琉を相手に押されていた。
 そのあまりの強さに、2人は焦りを隠せない。

 「強い・・・!!1年前と動きが全然違う・・・!!」
 「何だ何だぁ!?2人がかりでこの程度かよ!?てんで話になりゃしねぇなぁ!!」

 舌なめずりして、馬瓏琉はニヤニヤしながら龍激を構える。

 「折角こうして再会出来たんだからよ!!もっと俺の事を楽しませろや!! ええ!?小山内梢子!!星崎遥ぁ!!」 」

 狂喜乱舞の笑顔で、馬瓏琉は梢子と遥に襲い掛かった。