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アカイイト新章・神の化身の少女

第4話「譲れない信念」(前半)


1.2人を繋ぐ「アカイイト」


 梢子がコハクたちと共に、ヘリコプターで地下祭壇へと向かっている頃。
 既に京介は『大いなる王』復活の為の儀式を着々と進めていた。
 床に描かれた魔方陣の中心に『大いなる王』が眠る棺が置かれ、その傍らで京介が必死に呪文を唱える。
 魔方陣から少し離れた場所で、渚が遥に寄り添いながら、不安そうな表情で京介の儀式を見守っている。

 「アンバー・カラカン・カラクラ・オークラン!!」

 京介の呪文の詠唱が進むに従って、魔方陣が放つ赤い光が徐々に強くなっていく。

 「カリクエル・オーバン・オーカス!!」

 赤い光がどんどん強くなる。そして京介の疲労の色もどんどん濃くなっていく。
 どうやら相当大掛かりな儀式のようで、京介の力を限界まで削っているようだ。

 「・・・はぁ・・・はぁ・・・さすがに僕1人の力では、ここまでが限界か・・・」
 「そうだな。だが富岡よ。だからこそ私と渚がここにいる。」
 「ふ・・・ふふふ・・・確かに君の言う通りだ。」
 「お前1人の力では儀式を完遂させるのは不可能だろうが、私と渚の『神の血』によるサポートがあれば話は別だ。」

 遥は強い決意を込めた瞳で渚を見つめる。
 渚は不安そうな表情を遥に見せるが、遥は何も心配はいらないと・・・そう告げるかのように、渚の身体を優しく抱き寄せる。

 「大丈夫だ、渚。お前に危害を加えるつもりは一切無い。少しだけお前の血を私にくれるだけでいいんだ。」
 「私の血を・・・姉さんに?」
 「私とお前が宿す『神の血』は、常人には刺激が強すぎて猛毒にもなりかねない代物だ。実際にお前も私も、献血を断られた事があっただろう?」
 「・・・そう言えば、そうだね。」

 それこそが、コハクがノゾミに『興味本位で渚の血を吸おうなどと思うな』と警告した理由なのだ。
 資格を持たぬ者が取り込めば、その身を滅ぼしかねない・・・それが渚と遥の『神の血』。

 「だが、お前と同じ『神の血』を宿し、お前の血縁者である私ならば、お前の『神の血』を力に変える事が出来る。」
 「それが、私をここに連れてきた理由なの?梢子さんを傷つけてまで・・・」
 「・・・そうだ。その為に、その為だけに、お前をここに連れてきたんだ。」
 「姉さん・・・」
 「私も富岡も、お前にそれ以上の事を強いるつもりは一切無い。だから安心してくれ。」

 抱き合ったまま、互いに見つめ合う渚と遥。
 いきなり姉に自分の血を吸わせる事になるという事態に渚は一瞬戸惑ったが、それでも渚は遥を信じる事にした。遥に力を与える事にした。
 まるで遥にキスをせがむかのように、静かに目を閉じて身体の力を抜く。
 遥もまた、渚の首筋を優しく撫で、ここから吸うという事を渚に伝える。

 「・・・それでは渚。頂くぞ。」
 「・・・うん。」
 「・・・ん・・・」

 渚の首筋をカッターナイフで切り裂き、そこから溢れる血を遥は大事そうに吸っていく。
 渚の『力』と『想い』が、遥の中に流れていく。
 梢子の『安姫の血』よりも、桂や柚明の『贄の血』よりも、強力な力を秘めている・・・その神聖な力故に、資格無き者が取り込めばその身を滅ぼしかねない、渚の『神の血』。
 それを遥は、確実に自らの『力』へと変えていく。遥の力を増幅させていく。

 「・・・っ・・・んぐ・・・」
 「姉さん・・・っ・・・」

 遥の身体を強く抱き締め、渚は遥に自らの血を・・・『力』と『想い』を分け与える。
 『アカイイト』の絆で結ばれ、渚と遥が繋がる。繋がっていく。
 そして渚の頭の中で、『何か』が駆け巡る。

 「ああっ・・・!?」
 「渚、どうした!?痛かったか!?」

 慌てて遥は渚の首筋から口を離し、心配そうに渚の様子を見守る。
 渚は身体を震わせながら遥の身体にしがみつく。

 「・・・ううっ・・・!!」
 「渚!?」

 全く想定していなかった事態に遥は戸惑うが、やがて渚の身体の震えが収まり、渚は再び遥と見つめ合う。
 その表情からは、先程までの戸惑いは一切感じられなかった。それが遥を逆に困惑させる。
 先程まで渚は、あんなに心配そうな表情をしていたというのに。

 「な・・・渚・・・?」
 「・・・姉さん。私の血を吸って。私の『力』と『想い』を姉さんの中に。」
 「いや、だから今現在、お前の血を頂いている所だが・・・」
 「うん・・・だからもっと吸って。もっと私を受け入れて。」
 「渚、お前いきなり何を・・・」
 「いいから。」

 渚は遥を抱き寄せ、早く自分の血を吸えと遥にせがむ。
 何故かいきなり積極的になった渚に遥は戸惑うが、すぐに気持ちを切り替え、再び渚の首筋に口付ける。

 「では・・・改めて頂こうか。」
 「・・・んっ・・・」

 渚の血を大事そうに取り込む遥。
 遥に自分の『力』と『想い』を託す渚。
 そうやって、2人はどれ位抱き合っていたのだろうか。
 やがて遥は渚の首筋から口を離し、血まみれの口を袖で拭う。
 渚の『力』と『想い』をその身に取り込んだ遥の表情は、とても輝きに満ち溢れていた。

 「・・・渚。もう充分だ。ありがとう。」
 「姉さん・・・本当にもういいの?」
 「ああ、これだけ貰えば充分だ。」
 「姉さん・・・全てが終わったら、私の下に帰ってきてくれるのよね?また私たち2人で幸せに暮らせるのよね?」

 とても心配そうに遥に問い詰める渚。
 何だか遥が、また遠くへ行ってしまいそうで・・・渚は不安で仕方が無かった。
 そんな渚を安心させる為に、遥は渚の身体を優しく抱き締める。

 「当たり前だ。私はその為にお前の血を貰ったんだ。」
 「姉さん・・・信じていいのね?」
 「お前との幸せの日々を再び掴み取る為に、私は今ここにいる・・・富岡。準備はいいな?」

 遥は決意に満ちた表情で、魔方陣の中心へと・・・『大いなる王』:が眠る棺へと歩み寄る。
 儀式による疲労が濃い京介だったが、渚の血を取り込んだ遥を見て、とても満足そうに再び立ち上がる。

 「ああ・・・上出来だ、上出来だよ、遥君。」
 「余計な事はいい。さっさと儀式を続けるぞ。」
 「ふふふ・・・そうだな・・・!!」

 京介が残った力を振り絞り、再び呪文を唱える。
 魔方陣の赤い光がどんどん強くなり・・・そして、棺が開く。

 「大いなる王よ!!今こそお目覚めの時!!私はこの時をどれ程待った事か・・・!!」

 遥が『大いなる王』が眠る棺の目前に迫る。

 「さあ遥君!!君の血を・・・渚君の『力』が込められた君の血を、今こそ大いなる王に!!」 
 「・・・いちいち騒々しい奴だ・・・。」
 「これで大いなる王は蘇る!!ふはは!!ふはははははははは!!」

2.渚と遥の下へ


 地下祭壇があるビルの内部では、既に京介が召喚した無数の魍魎たちが待ち構えていた。
 その数は、軽く数百匹は超えているだろう。ビルの内部が魍魎で埋め尽くされていた。
 梢子、コハク、そして守天党のメンバーは次々と魍魎を斬り捨てていく。
 だがいくら斬ってもきりが無い。倒しても次から次へと沸いて出てくる。 

 「コハクさん、このままじゃ・・・!!」
 「フン・・・式神の質を落とし、数で押さえ込もうという魂胆か。」

 魍魎の戦闘能力自体は大した事は無いが、あまりにも数が多過ぎて先に進む事が出来ない。
 そう、この魍魎はただの壁。梢子たちを倒そうなどという考えで配備された物ではなく、儀式が終わるまでの、ただの時間稼ぎに過ぎないのだ。
 このまま魍魎と戦っていては無駄に体力と時間を消耗するだけだ。そう考えたコハクは決断した。

 「梢子。桂と柚明の『力』を宿したお主が行け。お主の道は、わしが切り開いてやる。」
 「コハクさん!!」
 「それに、遥を救えるのはお主しかおらぬのだろう?ならばお主が先に進むべきだ。こやつらはわしらが押さえ込んでやる。」

 コハクは吼丸を天に掲げる。
 その瞬間、コハクの背後に現れた巨大な式神。
 コハクの頼れる相棒であり、心を許せる友でもある・・・コハクと八郎の『力』と『想い』の結晶。

 「・・・オニワカ。ひねり潰せ。」
 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 オニワカが次々と魍魎を叩きのめしていく。梢子の通る道が開かれていく。
 ここまで来れば、もう戦略も何もあったものではない。まさに圧倒的な蹂躙だ。

 「梢子!!行け!!」
 「・・・はい!!コハクさん、ありがとうございます!!」

 オニワカによって開かれた道を、梢子は突き進む。
 それでも邪魔をしようとする魍魎たちを無理矢理突き破り、梢子は地下祭壇へと向かっていく。
 そんな梢子を追いかけようとする魍魎だが、その前にコハクが立ちはだかる。

 「残念だが、ここから先は通行止めだ・・・のう?オニワカ。」
 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 コハク、オニワカ、守天党のメンバーによって、魍魎が次から次へと叩きのめされていく。

 「クックック・・・お主ら如き雑兵では、例え何百匹いようともわしらを倒せんよ。」

 無数の魍魎をコハクたちに任せ、梢子は単身、地下祭壇へと突き進む。
 そして地下祭壇への道のりで待ち構えていた、2体の式神・・・ガルガンドラとヴァリカルマンダ。
 万が一魍魎の壁を突破された際の、最後の砦なのだろう。
 だが、桂と柚明の『力』と『想い』を取り込んだ今の梢子の相手をするのは、最早この2体では完全に力不足だった。

 ガルガンドラが強力なエネルギー弾を放つ。
 そしてヴァリカルマンダが滑空し、体当たりによる同時攻撃を行う。
 梢子がエネルギー弾を避けた、一瞬の隙を突くつもりなのだ。
 だが。

 「邪魔を、するなああああああああああああああああっ!!」

 梢子の天照が青く白く美しく輝く。
 そして自分に向かってくるエネルギー弾を、梢子は天照で真っ二つに切り裂いた。
 梢子の背後で、両断されたエネルギー弾が派手に爆発する。
 そのままの勢いで、梢子は突撃して来たヴァリカルマンダに斬りかかる。

 「だあああああああああああああああああああああああ!!」

 梢子の斬撃が、カウンターでヴァリカルマンダに直撃する。

 「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

 桂と柚明の贄の血を取り込んだ、梢子の強靭な身体能力による一撃をまともに受け、ヴァリカルマンダは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
 天照の神聖な力により、ヴァリカルマンダの身体が崩れていく。
 それでもヴァリカルマンダは最後の力を振り絞り、梢子にエネルギー弾を放つ。
 梢子は慌てる事なく、同じように天照でエネルギー弾を真っ二つに切り裂く。
 その一瞬の隙を突き、ガルガンドラは梢子に突撃するが、既に梢子は迎撃体制に入っていた。

 「・・・虎噤み!!」

 交錯する梢子とガルガンドラ。
 小さく溜め息をつき、鬼払いを腰にぶら下げる梢子。そして・・・

 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 鬼払いの神聖な力により、ガルガンドラの身体が崩れていく。
 だが、それでもガルガンドラとヴァリカルマンダは、戦いをやめようとしない。
 自分たちの主である京介を守る為、どれだけボロボロになろうとも、決して引かない。

 「・・・あなたたちは、本当に京介の事を大切に想っているのね。だけど・・・」

 だが、それでも。

 「それでも私にも、譲れない想いがあるのよ!!」

 渚を助ける為、遥の心を救う為、京介の野望を止める為、『大いなる王』の復活を阻止する為、  梢子はこんな所で引くわけにはいかないのだ。

 「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 「ギエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」

 ボロボロになりながらも、梢子に突撃するガルガンドラとヴァリカルマンダ。

 「・・・はっ!!」

 梢子は慌てる事なくその突撃を最小限の動きで避け、ガルガンドラとヴァリカルマンダに一撃を加える。
 式神であるこの2体にとって天照と鬼払いの神聖な力は、まさに天敵だ。
 しかも梢子が桂と柚明の贄の血を飲んだ事によって、その力はさらに増幅されていた。

 もう、ガルガンドラもヴァリカルマンダも限界だった。
 身体がどんどん崩れ去り、苦しそうな表情でその場に倒れ込む。
 そして、ガルガンドラもヴァリカルマンダも力尽き、その身体は光の粒子となって消えていった。

 「・・・先を急がないと・・・!!」

 梢子は天照を手に、地下祭壇へと急ぐ。
 入り口はもうすぐそこだ。そして梢子は確かに感じていた。
 この先に間違いなく、渚と遥、京介がいるという事を。

 「渚・・・遥・・・!!」

 そして梢子は地下祭壇への扉まで辿り着いた。
 高ぶる気持ちを落ち着かせ、1度ゆっくりと深呼吸してから、梢子は決意に満ちた表情で扉を開けた。

3.真相


 「王よ!!大いなる王よ!!今こそ貴方様のお目覚めの時!!」

 京介の言葉と同時に、『大いなる王』が眠る棺が開く。
 そこに横たわり、眠っている『大いなる王』。その姿を確認した遥は、とても厳しい表情になる。

 「・・・大いなる王・・・この時を待ちわびたぞ・・・!!」
 「さあ遥君!!渚君の『力』を宿した君の『神の血』を、今こそ大いなる王に!!」

 勝ち誇ったような表情で、京介は遥にせがむ。
 だが。

 「・・・富岡。1つ言い忘れていたが・・・お前ほど専門的ではないが、私にも多少は陰陽術の知識があってな。」
 「な・・・遥君、いきなり何を・・・」
 「お前には悪いが、魔方陣に少しばかり細工をさせて貰った。」
 「何だと!?」

 突然、魔方陣から放たれた赤い光が消え失せる。
 予想外の出来事に京介は驚きを隠せない。
 一体何が起こったのか。京介が必死に力を削ってまで『大いなる王』の復活の為の儀式を行ったというのに、それが完全に無駄になってしまったのだ。

 「こ・・・これは・・・!?」
 「礼を言わせてもらうぞ富岡。お前が力を貸してくれたお陰で、私は大いなる王への復讐を果たす事が出来そうだ。」 
 「な・・・馬鹿な・・・大いなる王への復讐だと!?」

 勝ち誇ったような表情で、遥はアポロンを『大いなる王』に突き刺そうとする。
 慌てて京介は遥に体当たりし、棺の扉を再び閉める。

 「くっ・・・儀式を終えたばかりだというのに、まだそんな力を残していたとは・・・!!」
 「遥君!!一体どういう事なんだ!?大いなる王への復讐とはどういう事だ!?」
 「言葉通りの意味だ。3年前に卯良島で私の両親を殺したのは・・・他でも無いこの男なのだからな!!」
 「な・・・何だと!?」

 怒りに満ちた表情で、遥は京介の背後の棺を睨みつける。
 遥はアポロンを構え、京介に突きつける。
 邪魔をするなら容赦はしない・・・そう言わんばかりに。

 「私は3年前、両親や渚と共に家族旅行で卯良島を訪れた。フェンシングの世界選手権の日本代表に選ばれていた母が、根方クロウ流に興味を持ってな・・・だが咲森寺の鈴木和尚を介して根方宗次と会う約束をし、卯良島に辿り着いたのはいいが、そこで私たちはその男に襲われ、両親は私と渚を守り、無惨にも殺されたのだ!!」
 「で、では遥君・・・君がファルソックの他に復讐したいと言っていた相手というのは・・・」
 「そうだ・・・大いなる王・・・その名は馬瓏琉!!」

 遥は高らかに宣言した。『大いなる王』の正体を。自分が憎悪を燃やす相手を。
 自分と渚の幸せの生活を、ぶち壊した相手を。

 「馬鹿な・・・君は最初から、大いなる王の正体に気付いていたというのか!?」
 「お前こそ私を仲間に誘った時に、私の素性に気付かなかったのか?馬瓏琉が私の両親を殺した相手だという事を知らなかったのか?」
 「ぼ、僕は、大いなる王とはあまり面識が無かったから・・・」
 「成る程な・・・まあ、そんな事はどうでもいい。そこをどけ富岡。邪魔をするならお前とて容赦はしない。」
 「だ、誰がどくものか!!大いなる王は僕にとって大恩あるお方なんだ!!」
 「ならば・・・力尽くでどいてもらうまでだ!!」

 遥のアポロンが京介に襲い掛かる。
 京介は慌てて障壁を張ろうとするが、いつの間にか遥にアポロンで殴られていた。

 「あ・・・あれ・・・?」

 どうっ・・・と倒れる京介。
 まさに神速。人間の限界を超越した、遥の凄まじい剣速。
 京介は遥の剣を、目で捉える事すら出来なかった。
 渚の『神の血』を飲み、『アカイイト』の絆で結ばれた今の遥の力は、これまでとは比較にならない程までになっていた。

 「命拾いしたな富岡。もしアポロンに刃がついていたら、お前は今の一撃で死んでいただろう。」
 「な・・・がはっ・・・!!」
 「お前が儀式で消耗し、馬瓏琉を守る棺の扉が開かれた時・・・その時を、最大の好機を、私はずっと狙っていた。私の留守中にお前が余計な事をしたせいで、計画は多少狂ってしまったが・・・まあ、それでも結果オーライと言うべきか。」

 遥のアポロンが、青く白く美しく光り輝く。まるで梢子の天照のように。

 「渚の『神の血』をこの身に取り込んだ今の私ならば、見ての通りアポロンに破邪の力を加える事が出来る。この力ならば、確実に馬瓏琉を完全に滅ぼす事が出来る。」
 「や・・・やめろ・・・やめてくれ・・・」
 「・・・そう、ここまでは計画通りに行くはずだった・・・お前が渚と出会うという、とんでもないイレギュラーさえ無ければな。」

 遥は振り向きもせずに、馬瓏琉が眠る棺を睨んだまま、扉を開けた梢子にそう告げた。
 梢子の姿を見た渚は、とても驚いた表情を見せる。

 「しょ・・・梢子さん・・・!?」
 「警告はしたはずだぞ、小山内梢子・・・余計な事に首を突っ込むなと。」
 「梢子さん・・・・どうして来たんですか・・・!?どうして・・・!?」

 梢子は迷いの無い力強い瞳で、じっ・・・と遥を見据える。
 遥もまた、決意に満ちた表情で梢子に向き直る。

 「渚を助けに来たのと・・・遥の心を救いに来たのよ。」
 「私の心を救いに来ただと?」
 「遥・・・復讐なんて馬鹿な真似は・・・」
 「私の復讐の相手は馬瓏琉・・・お前にとっても因縁の相手だ。それでもお前は私の邪魔をするというのか?」

 梢子は一瞬驚いた表情になるが、それでも平静を取り戻して天照を正眼に構えた。

 「・・・そうだったの・・・でも、それでも私は遥を止める。」
 「お前が馬瓏琉を庇い立てする理由がどこにある?」
 「別に馬瓏琉を庇っているわけじゃないわ。あなたのその剣を、復讐の為に使わせる訳にはいかないのよ。」
 「部外者のお前には関係の無い話だ。私の邪魔をするな。」
 「あなたは以前言っていたわよね?私がどんな想いで根方さんと戦ったのかと・・・あの時は言いそびれたけど、今ここではっきりと答えさせて貰うわ。」

 梢子の瞳には、一片の迷いも無かった。
 自らの想いを、渚と遥にはっきりと告げた。

 「私が根方さんと戦ったのは、大切な人を守りたいと思ったからよ。確かに夏姉さんを一度は殺した根方さんへの恨みも、全く無いと言えば嘘になるけど・・・」

 そう・・・1年前に梢子が根方を相手に蜘蛛討ちを振るったのは、大切な人を守る為。
 そして、今もそれは変わらない。大切な人を守る為に、梢子は天照を振るうのだ。
 そんな梢子だからこそ、天照は梢子に力を貸してくれるのだ。
 梢子の太刀筋からは、一片の邪心も感じられないから。

 大切な人を守る為・・・その想いを、梢子は遥に分かって欲しかった。
 だから梢子は、自分がどんな想いで根方と戦ったのか・・・それを遥に伝えた。
 復讐の為にではなく、大切な人を守る為に、その剣を振るえと。
 だが、遥もまた、1歩も引かなかった。
 今こうして自分の目の前に、自分と渚の幸せを台無しにした男がいるのだ。そう簡単に引けるはずが無かった。

 「そうか・・・だが、今更引く事など出来るものか!!例えこの手を血で染めようとも!!」
 「遥・・・!!」
 「これまでの私ならば、お前にも勝機はあっただろう。私を止める事も出来ただろう。だが・・・」

 遥はアポロンを構え、高々と宣言した。

 「渚の『神の血』を取り込んだ今の私は、あの時とは比較にならんぞ!!」

 渚と『アカイイト』の絆で結ばれた遥。だが、それは梢子とて同じ事だ。
 今の梢子の身体には、桂と柚明の『力』が宿っているから。
 今の梢子の心には、桂と柚明の『想い』が宿っているから。
 だから梢子は決して怯まない。桂と柚明が、梢子をしっかりと支えてくれるから。

 「安心したわ。遥。それなら私も条件は同じだから。」
 「・・・そうか。羽藤桂と羽藤柚明のどちらか・・・いや、あるいは両方か。」
 「今の私もまた、あの時とは比べ物にならないわよ?」
 「あくまでも私の邪魔をするというのか。小山内梢子・・・いや、梢子。」
 「あなたが復讐の為に、その剣を振るうというのなら。」

 2人とも1歩も譲らない。1歩も引かない。
 お互いに、譲れない信念がある。
 ならば互いに剣士である以上、2人に出来るのは戦う事だけだ。
 戦って、相手の心を折る事だけだ。

 「だあああああああああああああっ!!」
 「はあああああああああああああっ!!」

 互いに向かって突撃する2人。そして互いの剣が、互いの想いがぶつかり合う。
 そして鍔迫り合いの状態のまま、遥は梢子にはっきりと告げた。

 「ならば梢子よ!!馬瓏琉の前に、まずは貴様から血の海に染まるがいい!!」