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アオイシロ・アナザーストーリー

★梢子とナミの絆



1.偏見


 あの卯奈坂での合宿から数日後。
 梢子の家に、新たな家族が増えた。
 8年ぶりに戻ってきた夏夜と、行く当てが無いという事で梢子と共に来たナミ。
 新しい家族が増えた事で、小山内家は瞬く間に賑やかになっていた。
 夏夜もナミも、梢子との生活を心の底から楽しんでいた。

 ただ、夏夜は国から死亡認定を受けていた上に、本人であるという認証をしようにも本来取るべき8年分の歳を取っておらず、おまけにナミは戸籍そのものが存在しなかったせいで、一緒に住む為の役場での手続きが相当大変だったのだが。

 さらに夏夜に至っては年を取っていないせいで、

 『あの羽藤柚明の再来だ!!』

 という事で、それはもう日本中で物凄い騒ぎになった物だ。
 それでも無事に手続きが終わり、夏夜とナミは幸せそうに梢子との生活を満喫していた。

 だがそれも、長くは続かなかった。
 梢子が学校からの帰り道の公園で目撃した物・・・。
 それはナミが小~中学生と思われる男の子数人にいじめられている光景だった。

 「お前、親がいないんだってなあ!?」
 「お前のその白い髪が気持ち悪いんだよ!!」
 「化け物~化け物~ぎゃはははははは!!」

 こういう悪ガキというのは、日本中のどこに行っても見かける物だ。
 自分より弱い者、気に入らない者をいじめて悦びに浸る最低最悪な連中。今では社会問題となっており、テレビで特番まで組まれている。
 いじめられて不登校になり、最悪の場合は鬱病(うつびょう)、自殺にまで追い込まれてしまった子供たちも沢山いるという。
 彼等にとって、髪が白くて大人しい性格のナミは格好の「標的」なのだろう。
まさに梢子が1番忌み嫌う者たちだ。

 とっさに梢子は竹刀を手にナミを助けに向かった。
 ニヤニヤしながらナミをいじめる悪ガキたちに竹刀を突きつける。

 「あなたたち!!男の子がよってたかって女の子をこんな目に合わせて、恥ずかしいとは思わないの!?」
 「何だお前!!俺等の邪魔すんじゃねえよ!!」
 「この子は私の知り合いなの。これ以上傷つけるというのなら・・・ただでは済ませないわよ!?」

 竹刀を上段に構えた梢子を見て、悪ガキたちは慌てて一目散に逃げ出した。
 自分より弱い者をいじめて悦びに浸るが、自分より強い者には歯向かえない。まさに梢子が1番嫌いなタイプだ。
 何という最低最悪な連中なのか。どうして日本にはこういう連中が数多く存在するのか。何故いじめが無くならないのか。
 残酷な男ではあったが、それでも武人としての誇りと信念だけは失わなかった馬瓏琉の方が、まだマシなのではないかと梢子は思った。

 ため息をついて上段に構えた竹刀を下ろした梢子だったが、余程酷い目に遭ったのだろう。ナミは涙を流して泣いていた。
 体中に暴行を受けたような跡がある。
 ただならぬ光景に梢子は顔色を変えた。

 「ナミ!!大丈夫!?立てる!?」
 「梢子ちゃん・・・私、何も悪い事をしてないのに・・・ただ散歩してただけなのに・・・」
 「分かってる!!ナミは何も悪くは無い!!悪いのはあいつらよ!!」
 「梢子ちゃん・・・私は・・・この世にいてはいけない存在なのですか・・・?」
 「何よそれ・・・!!一体あいつらに何を言われたわけ!?」
 「私は化け物だって・・・私はうんこだって・・・私の白い髪が気に入らないって・・・私に死ねって・・・死ね・・・って・・・!!」

 それだけ訴えて、ナミは梢子に抱きついて号泣した。
 ただ散歩していただけなのにいきなり公園に連れ込まれ、理不尽な理由で酷い目に遭わされたのだ。
 今、ナミの心には相当深い傷が残っているはずだ。

 「あの子たち・・・ただでは済まさないわ!!」
 「梢子ちゃん・・・私・・・私・・・!!」
 「ナミ、取り敢えず家に帰りましょう!!夏姉さんもおじいちゃんも心配するだろうから!!」

 涙を流すナミをおんぶしながら、梢子は家へと向かっていく。
 許せない・・・!!許せない・・・!!ユ・ル・セ・ナ・イ・・・!!
 梢子の頭の中は今、悪ガキたちに対しての怒りで一杯だった。


2.力を振るう事の意味



 梢子は、仁之介と夏夜に全てを話した。
 全てを話した上で、梢子はナミを守るために、悪ガキたちを懲らしめる必要があるのではないかと力説した。
 だが夏夜は元警察官としての知識と冷静な判断で、梢子の高ぶる気持ちを抑え込んだ。

 「梢ちゃん、落ち着きなさい。梢ちゃんの気持ちは分かるけど、その子たちを懲らしめようなんて考えてはいけないわ。」
 「そんな、だってあいつらがナミに酷い事をす・・・」
 「いいから落ち着きなさい!!」

 取り乱す梢子の醜態を見かねた夏夜が、語気を強めて梢子を無理矢理黙らせた。
 自分に対して滅多に見せない夏夜の態度と迫力に、梢子は思わず黙り込んでしまった。
 さすがはコハクと汀に『剣鬼』と呼ばれていただけの事はある。

 「・・・はっきり言わせてもらうわね。梢ちゃんのやろうとしている事は『暴力』よ。暴力を暴力でやりかえしたとしても、何の解決もならないわ。」
 「じゃあどうしろっていうのよ!?このまま黙ってあいつらの事を見過ごせって言うの!?」

 梢子にとって、とても納得出来ない話だった。
 何しろ理不尽な暴力を仕掛けてきたのは向こうなのだ。それを懲らしめるのも暴力になるというのは、どうにも納得が出来なかった。
 だがそれでも、元警察官である夏夜の言葉には、梢子を力づくで納得させる説得力があった。
 夏夜が元警察官としてここまで言うのだから、梢子も納得せざるを得ないのだ。

 だが夏夜とて、ナミをこんな目に合わせた悪ガキたちを許せないという気持ちは梢子と同じだ。
 まさに夏夜の、元警察官としての知識と経験がフル稼働していた。
 剣道以外はヘタレで不器用で頼りない夏夜なのだが、今日の夏夜はとても頼もしく見えた。

 「だから梢ちゃん。合法的に彼らを懲らしめればいい。」
 「合法的って・・・そんな、一体どうやって・・・」
 「梢ちゃん、今からナミちゃんを連れて警察に行きましょう。被害届を出して、ナミちゃんの殴られた箇所のDNA鑑定をしてもらうの。」
 「DNA・・・鑑定・・・!?」
 「DNAというのは指紋と同じでね、全く同じ配列をしている人間というのは存在しないの。だからナミちゃんの傷から彼らと同系列のDNAが採取されたら、
それは逃れられない決定的な証拠になる。確実に彼らは警察に捕まる事になるわね。梢ちゃんの話だけを聞いた限りでは、彼らのやっている事は立派な犯罪だから。」

 夏夜がいなければ、きっと梢子は竹刀を持ってナミを連れて悪ガキたちの家に押し入り、問答無用で怒鳴り込んでいたに違いない。
 だがナミを守るためとはいえ、日本でそれをやってしまうと、状況によっては梢子が恐喝や傷害の罪に問われかねないのだ。
 何しろ子供の躾の為に平手打ちを1発食らわせただけの教師が、傷害の容疑で立件されるような時代だ。
 だからこそ夏夜はきちんとした手続きでもって、法に基づいたやり方でナミを守るべきだと主張しているのだ。

 車を運転しながら、夏夜は梢子の説教をしていた。
 ナミの事を思うあまりに冷静さを失い、頭に血が昇ってしまった梢子の醜態を。
『特練の飛車』として、剣道の先輩として、とても今の梢子の状態を黙って見過ごす事は出来なかったのだ。

 「梢ちゃん。剣道というのは格闘技ではあるけど、その本質は己の肉体と精神を鍛錬し、充実した心身を創り上げる為の物よ。」
 「うん・・・。」
 「梢ちゃんのナミちゃんの事を想う気持ちは分かるけど、だからと言ってナミちゃんをいじめた子供たちに報復しようなんて、そんな考え方は良く無いわ。」
 「うん・・・。」
 「梢ちゃんのその竹刀は、人を傷つける為の物じゃない。己の心身を鍛え、大切な人を守る為の物でしょう?」
 「うん・・・。」
 「まして、梢ちゃんは剣道部の部長なんだから。みんなの模範とならなければならない存在なんだから。」
 「うん・・・。」
 「だからね、梢ちゃんには分かってほしいの。『力』を持ってそれを行使すれば、今度は自分が誰かを傷つける側に変わるという事を。」
 「うん・・・。」
 「特にヤスヒメサマの血を身体に宿す梢ちゃんの『力』は、とても強大だから。必要以上に相手を傷つけてしまうから。」

 それは、梢子も馬瓏琉との戦いで嫌という程思い知らされた。
 自分の右腕に宿った<<剣>>の力。魍魎たちを一瞬で灰にし、馬瓏琉の左目を潰し、自身も精神を食われかけた、暴力的な『力』。
 <<剣>>はクロウクルウを封じた際に浄化され、梢子の右腕は元に戻ったのだが、 あの生々しい感触は今も梢子の右腕に残っている。
 力を振るう事の意味。力を行使する事の怖さ。それを梢子は身に染みて思い知ったはずなのに。
 馬瓏琉を倒し、クロウクルウを再封印した事で、梢子の中にどこか奢りの心が芽生えていたのかもしれない。

 夏夜の説教は口調は優しかったが、それでも言っている事には有無を言わせない説得力と厳しさがあった。
 まして、『特練の飛車』である夏夜の言葉だ。
 ある意味、怒鳴り散らされるよりきつい物かもしれない。

 「夏姉さん・・・ナミ・・・ごめんね・・・私・・・」
 「梢ちゃん、分かってくれればそれでいいわ。いい勉強になったと思えばいい。」
 「だって私・・・ナミがあんな事をされて・・・」
 「ええ、彼らを許せないのは私も同じよ。だけど梢ちゃんがやろうとした事はもっと間違っている。それだけは忘れないでね。」
 「うん・・・うん・・・!!」
 「まあ、守天党から<<剣>>を盗んだ私に、こんな偉そうな事を言う資格は無いかもしれないけど・・・でも梢ちゃんには私と同じ過ちは犯してほしくないから。」

 やがて夏夜の車が警察署に到着した。
 かつて夏夜が務めていた警察署に。
 かつての同僚の姿を見た警察官が、夏夜に笑顔で挨拶する。
 同僚といっても彼らは夏夜より随分と年上なのだが、そもそも夏夜は本来取るべき8年分の歳を取っていないのだから仕方が無い。

 「さあ、梢ちゃん、ナミちゃん、行きましょう。そんなに時間はかからないから、すぐに終わるわ。」

 夏夜に案内されて、梢子とナミは警察署へと入っていった。


3.梢子とナミの絆



 まさに、あっけない幕切れだった。
 ナミの傷痕から採取されたDNAと、任意同行を求めた悪ガキたちのDNAが完全に一致したため、いとも簡単に悪ガキたちは傷害の容疑で逮捕されてしまった。
 悪ガキたちは取調べで容疑をあっさりと認めた。そして悪ガキたちの両親は、とても申し訳なさそうな表情でナミに謝罪したのだが、それでもナミの心に受けた傷は想像以上に深い物だった。
 無理も無いだろう。悪い事など何もしていないのに、ただ散歩していただけなのに、「気に入らない」という理不尽な理由で一方的に暴力を振るわれ、さらに「死ね」とまで言われたのだ。

 あの日以来、ナミはいじめられたショックで外出恐怖症になった。
 自分1人だけでは、家から1歩も外に出る事が出来なくなってしまった。
 辛うじて梢子や夏夜、仁之介と一緒なら外には出られるのだが、それでも長時間に及ぶ外出には耐える事が出来なかった。
 外に出るだけで恐怖に襲われ、体中にじんましんが発生し、梢子たちの身体を一秒たりとも離す事無く、しがみついて震えた。
 外にいる人間全てが自分に襲いかかってきそうで、怖くて怖くて仕方が無い。
 それ程、今のナミは重症なのだ。
 安姫の魂を身体に宿していた時の、愛らしくとも気高きナミの面影は、今はもう無い。

 診察に訪れた精神科医の医者からは、入院も1つの手段だと言われた。
 だがそれでも梢子たちは、自宅療養を選択した。
 今のナミにとってこの家だけが、唯一安らげる場所なのだから。

 「ナミ、焦らなくていいからね。今すぐに治そうなんて考えなくていいから。だからゆっくり治していきましょう。」
 「梢子ちゃん・・・離さないで下さいね・・・」

 ある休日の昼。梢子はリハビリのためにナミを外へと連れて行く。
 恐怖で折れそうな心を、ナミは梢子の身体の温もりで必死に支えようとする。
 ナミもまた、立ち直るために必死で頑張っているのだ。苦しみながらも必死になって、もがいているのだ。

 「今日はハックに行きましょうか。」
 「ハックとは何ですか?」
 「全国チェーンを展開してる、ハンバーガーを売ってるお店よ。安くてとても美味しいの。百子や保美もよく通ってるそうよ。」
 「百子ちゃんと、すみちゃんも・・・だったら・・・行ってみたいです・・・。」
 「うん・・・ここからすぐ近くにあるから。すぐに家に帰って来れるからね。」
 「は・・・はい・・・」
 「それに、何かあっても私がナミを守るから。だから怖がらなくてもいいのよ?」

 恐怖で震えながら、ナミは梢子にしがみついて必死に歩く。
 その通り道で、あの時の公園を通りかかる。
 今は誰もいない公園。だがナミはあの時の出来事を思い出し、怯えた表情を見せた。
 またあの時のように、誰かにいじめられるかもしれない。それを思うとナミは怖くて怖くて仕方が無かった。

 だけど今は梢子ちゃんがいる。梢子ちゃんが必ず私を守ってくれる。
 怖いけど、梢子ちゃんがいるから私は頑張れる。

 休日の昼間という事もあって、さすがに店内は相当混んでいたが、それでも梢子とナミはどうにか席を確保出来た。
 梢子が注文したハンバーガーとポテト、ジュースを見たナミは、とても興味深そうな顔をする。
 何しろハンバーガー自体が、生まれて初めて経験する物だ。

 だが、食べる時でさえもナミは恐怖に震え、梢子に寄り添って離れようとしない。
 自分達の周囲にいる、自分の事を物珍しそうに見つめる若者たちが、怖くて怖くて仕方が無いのだ。
 白い髪、白い肌。青い瞳。どこからどう見ても異世界の人間だ。注目を集めるのも無理も無いだろう。

 梢子は後悔していた。これだけ混雑するのだからナミが注目を集めるのは当たり前なのに、それに気付かなかった自分の心の狭さを恥じた。
 だがそれでもナミは必死で恐怖に耐えていた。
 梢子の優しさに応えるために。外出恐怖症から立ち直るために。

 「ナミ、ごめん。こんな単純な事にも気付かないなんて・・・私は本当に馬鹿だわ。」
 「梢子ちゃん、気にしないで下さい・・・私は頑張れますから・・・梢子ちゃんと一緒なら・・・」
 「ナミ・・・」
 「ところでこれは・・・どうやって食べるのですか・・・?」
 「ああ、包装紙をこうやって取り外してね・・・そのままガブリと食べるの。」
 「ガブリと・・・ですか・・・?」
 「ええ、ガブリと。」

 恐る恐る、ナミはハンバーガーを口にした。
 口の中に広がる肉の旨みに、ナミは驚きの表情を見せる。

 「あ・・・美味しいです・・・」
 「良かったわ、気に入ってもらえて。」

 周囲の視線に恐怖を感じながらも、ナミはどうにかハンバーガーを食べ終えた。
 こんな状況では味なんて分からないのではないかと梢子は危惧していたのだが、それでもナミは美味しいと必死に主張した。
 ナミも、梢子を安心させたくて必死なのだ。それに初めて食べたハンバーガーは本当に美味しかったのだから。
 だがしかし、心に深い傷を負ったナミの精神は、既に限界を超えていた。
 食べ終えた途端に、ナミは怯えた表情で梢子に訴えた。

「早く家に帰りたいです・・・もう怖いです・・・!!」 

 店への滞在時間は20分。家から店までの往復にかかる時間は20分。
 たった40分程度の外出だったが、それでも以前に比べればマシになった方なのだ。
 何せ、最初の頃はたった10分間の外出で恐怖におののき、大声で叫び出した程だ。

 少しずつだが、確実にナミの症状は改善されている。
 焦らなくてもいい。何年かかったって構わない。少しずつナミの心を癒してやればいい。
 梢子は『ナミが治る』という、確かな手応えを感じていた。

 梢子の身体にしがみつきながら、ナミは家への帰路についていた。
 ナミは涙を流していた。あまりの恐怖に心が折れそうだった。
 それでも梢子が近くにいるからナミは頑張れた。
 梢子がそばにいてくれるから。
 だが、もし自分の前から突然梢子がいなくなってしまったら・・・。

 「梢子ちゃん・・・ずっと私のそばにいて下さい・・・私から離れないで下さい・・・」
 「何言ってるの?当たり前でしょう?私はずっとナミのそばにいるわ。」
 「私、不安なんです。いつか梢子ちゃんが私の前から姿を消してしまいそうで・・・」
 「安心しなさい。そんな事は絶対にありえないから。」

 ナミの身体が震えていた。そろそろナミの我慢も限界だろうか。
 そう感じた梢子はナミをお姫様抱っこした。そして小走りでナミを家まで連れて行く。

 「梢子ちゃん・・・もし私がずっと、いつまでもこのままの状態だったら・・・私は梢子ちゃんの枷になってしまいます・・・」
 「ナミ。私たち、まだそんな関係かしら?」
 「でも・・・私は・・・」
 「ナミの外出恐怖症は必ず治るわ。少しずつだけど確実に外に出られる時間が長くなっているじゃない。」
 「そうでしょうか・・・本当にそうでしょうか・・・」
 「そうよ。それに、もし万が一治らなかったとしても・・・その時は・・・」
 「その時は?」
 「その時は、私が一生ナミの面倒を見てあげるから。絶対にナミを見捨てたりしないから。」
 「梢子ちゃん・・・」

 そして家にたどり着いた梢子は、お姫様抱っこしていたナミを地面に降ろす。
 ナミの息は荒くなっていた。もうナミは限界だった。禁断症状の一歩手前だ。
 ナミがわめき出す前に、慌てて梢子は玄関の鍵を開ける。

 「ナミ、そんなに慌てなくていいから。」
 「ううう・・・ううああ・・・!!」

 身体を震わせながらナミは家に入り、嗚咽する。
 つらかっただろう。大変だっただろう。よくここまで頑張った物だ。
 梢子はナミを安心させるためにぎゅっと抱きしめた。そして・・・

 「ナミ。」
 「え?」
 「好きよ。」
 「・・・・・!?」

 唇と唇が触れ合った。
 最初は驚いたナミだったが、すぐに梢子の優しくて温かい唇の感触に安心し、身を委ねる。
 そして、ナミの身体の震えが止まった。

 「私は絶対にナミを見捨てない。今のはその証よ。」
 「梢子ちゃん・・・梢子ちゃん・・・!!」
 「私はずっとナミのそばにいるから。・・・ね?」
 「はい・・・!!梢子ちゃん・・・大好きです・・・だからずっと私と一緒にいて下さい・・・!!」

 少しずつ改善されてはいるものの、ナミの外出恐怖症がいつになったら治るのか、全く見通しが経たない。
 だがそれでも、もし一生治らなかったとしても、その時は自分がナミの支えになってやればいい。自分がナミの面倒を見てやればいい。
 ナミにとっての梢子がそうであるように、梢子にとってもナミは他の誰よりも大好きな、かけがえの無い存在なのだから。

 その想いと覚悟をナミに伝えるために、梢子は再びナミと唇を重ねた。