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シロイユキ最終章・復活のセラ

第2話「未来を掴む為に」(後半)


4.四天王との死闘


 『雫様、大変です!!例の氷の女神セラが攻め込んでまいりました!!』
 「ふぁ~あ・・・何よ、まだ5時前じゃない・・・まさかこんな朝っぱらからここに攻め込んで来たっていうの?」

 司令室の女性オペレーターからの緊急通信を受け、とても眠たそうに目を擦りながら、雫はベッドから身体を起こしたのだった。
 雫も、そして同じベッドで安らかな表情で眠っている絵梨も、一糸纏わぬ姿をしている。

 「まぁ奇襲を掛けるなら、夜明け前から明け方が鉄則だって言うけれど・・・敵の戦力はどれ位なの?」
 『それが・・・1人です!!あの女がたった1人でここまで・・・!!』
 「1人!?たった1人でここに攻め込んで来たって言うの!?」

 てっきり総攻撃を仕掛けてくる物だと思っていたので、雫は驚きを隠せなかった。

 『現在、氷の女神セラによって戦力の7割が壊滅、塔内部への侵入を許してしまっております!!こちらのシステムもハッキングされており、塔内部のトラップも作動しない状況です!!』
 「奴らがヤケになってここに総攻撃してくると思ったから、鈴の部隊をブリュンヒルデ本部に向かわせたというのに・・・まさかそれを予測してたとでも言うの・・・?」
 『既に四天王の笹崎様と須藤様が、氷の女神セラの迎撃に向かわれました!!』
 「仕方が無いわね。分かったわ。念の為に私も迎撃準備をしておくわ。」

 通信を切り、雫はう~ん、と身体を伸ばす。
 そしてキメラクイーンの幻装を身に纏い、眠っている絵梨を起こしたのだった。

 「絵梨、起きて。」
 「う・・・ん・・・雫お姉様・・・?」
 「敵が攻めてきたのよ。私を殺そうとする悪い敵よ?」
 「敵・・・雫お姉さまの敵・・・!?」

 途端に絵梨が、先程までの眠気を吹っ飛ばしてガバッと起き上がる。
 そんな絵梨に、雫がそっ・・・と優しく唇を重ねた。

 「ん・・・そうよ・・・だから今からそいつをやっつけないといけないの。」
 「雫お姉様、私はどうしたら・・・!?」
 「他の皆を起こしに行ってくれる?そうしたら皆と一緒に私の所まで来て頂戴。」
 「はい、分かりました、雫お姉様・・・!!」
 「それと・・・。」

 妖艶な笑みを浮かべながら、雫は絵梨の耳元で優しく囁いたのだった。

 「・・・皆で自殺する準備をするように伝えておいてくれる・・・?」
 「はい・・・雫お姉様のご要望とあらば、喜んで・・・!!」

 一方、エレベーターで最上階に向かうセラは、壁にもたれかかって腕組みをしながら、現在の階を示すランプを見つめ続けていたのだが。
 ランプが27階を示した所で、突然扉の向こうから凄まじい殺気を感じた瞬間、セラ目掛けてビームランスが飛んできたのだった。
 物凄い派手な音を立てて、ビームランスに貫かれたエレベーターが急停止してしまう。

 「はっはっはーーーーー!!手応え有りっ!!」
 「おいおい笹崎。俺の出番無しに終わらせるつもりかよ?」
 「悪いな須藤。セラ抹殺の手柄は俺が貰うぜ。」

 27階の大広間でセラを待ち伏せしていたのは、四天王の2人・・・笹崎と須藤。
 勝ち誇った表情で、笹崎はエレベーターに突き刺した巨大なビームランスを引っこ抜く。
 2人の目の前にあったのは、ビームランスに貫かれて大きな亀裂が走ってしまったエレベーターの扉。
 その扉に突然無数の閃光が走り、一瞬でバラバラになってしまった。

 「何だと!?」
 「奇襲をかけたつもりなのだろうが、そこまで殺気が丸出しではバレバレだ。阿呆共め。」

 驚く笹崎に向かって、セラは不敵な笑顔を浮かべてファルシオンソードで斬りかかる。
 だが笹崎もまた余裕の態度を崩さず、ビームランスでセラの斬撃を受け止めた。

 「てめぇが竹原を倒したっていう氷の女神セラかよ!?俺は四天王の1人・笹崎だ!!冥土の鬼に教えてやれ!!」
 「同じく四天王の1人・須藤!!ここが貴様の墓場になるのだ!!セラ!!」

 笹崎と鍔迫り合いをしているセラに、須藤が両手のビームクロウで斬りかかった。
 それをバックステップで避けるセラだが、須藤がそれさえも上回る速度でセラの背後に回り込む。

 「何・・・!?」
 「このイクシオンの幻装は、第2世代の幻装の中でも最速のスピードを誇るのだ!!貴様の動きなど止まって見えるわ!!」

 常人には捉え切れない高速の身のこなしで須藤を振り切ろうとするセラだが、須藤はそれさえも上回る物凄い速度でセラに追従する。

 「ヒョ~~~~~~ッ!!暗黒流蟷螂(とうろう)拳奥義!!蟷螂百手拳!!」

 放たれた無数の拳を、セラは辛うじて上空に飛んで避けるが、そこへ笹崎の渾身の一撃がセラに襲いかかった。

 「暗黒流蛇咬(じゃこう)拳奥義!!岩砕竜巻撃!!ぶしゅしゅしゅしゅしゅ!!」
 「ぬ・・・!!」

 物凄い勢いで身体を回転させながら繰り出した笹崎の一撃を、何とかファルシオンソードで受け止めるセラだが、あまりの威力に壁まで吹っ飛ばされてしまった。
 背中から壁に叩き付けられ、セラはその場にうずくまる。

 「このイフリートの幻装は、第2世代の幻装の中でも最強のパワーを誇るのだ!!貴様のその黄金の幻装の正体は知らぬが、この俺様の一撃を食らって無事で済む訳が無いわ!!」
 「俺のスピードで敵を翻弄し、体勢を崩した所で笹崎の一撃を食らわせる・・・これが我らの必勝戦法よ!!ヒョワーーーーーッ!!」

 うずくまるセラの姿を見て、勝ち誇った表情を見せる笹崎と須藤。
 パワーの笹崎、スピードの須藤。今までどんな敵が相手でも、互いの弱点を補い合う2人のコンビネーションで叩きのめしてきた。その自信が2人の表情に現れているのだ。
 だがそれでもセラは、余裕の笑みを崩さずに立ち上がる。

 「・・・成る程な・・・これが四天王とやらの実力か。理解した。」
 「そうよ理解したか!?俺達は竹原ごとき雑魚とは格が違うのだ!!シャーーーッ!!」
 「ああ、確かに理解した。そなたらは所詮わらわの敵ではないという事をな。」
 「何だと・・・!?」

 よく見るとセラは、笹崎の渾身の一撃がまるで効いていないようだ。
 あの黄金の幻装の防御力は、それ程の物だというのか・・・笹崎と須藤は警戒を顕わにする。

 「おい。そう言えば四天王と言っていたが、残り1人はどうしたのだ?」
 「東条の事かよ!?残念だが奴はここにはいないぜ!?今頃はブリュンヒルデ本部で暴れ回っている頃だろうよ!!」
 「やはり別働隊が動いていたのか。わらわの推測は当たっていたようだが・・・さて・・・。」

 それを見越した上で、セラは1人でこの塔まで攻め込んだ訳なのだが。
 大急ぎで撤退して本部の救援に向かうか、それとも大急ぎで雫を倒して戦いを終わらせるか。
 全力で飛ばせば、ここからなら10分も掛からずに救援に向かえる。
 ブリュンヒルデの者たちは、敵から第2世代の幻装を鹵獲しているし、念の為に式神も多数残しておいた。そう簡単にやられる事は無いだろうが・・・。

 「む・・・メール?」

 突然ファルシオンの幻装に送られた、一通のメール。
 それに目を通したセラは含み笑いをしながら、笹崎と須藤に向き直ったのだった。

 「・・・フフフ・・・生憎だったな。逆にその東条とやらが今日死ぬ事になるかも知れぬぞ?」
 「何だと・・・!?」
 「だがまぁ、これでわらわは安心して、若杉雫を討ち取る事に集中出来るという物よ。」
 「馬鹿め!!貴様如き、雫様の手を煩わせるまでも無いわぁっ!!ヒャーーーーーッ!!」

 目にも止まらぬ物凄い速度で、須藤は再びビームクロウでセラに斬りかかったのだが・・・。

 「この俺様のイクシオンの幻装のスピード・・・あ、あれ?」
 「どうした?どこを狙っておる?」

 いつの間にか背後に回り込んだセラが、妖艶な笑みを浮かべていたのだった。
 一体いつの間に・・・!?須藤は慌ててセラから間合いを離すが、それでもセラは物凄い速度で須藤の背後に何度も回り込む。

 「な・・・な・・・な・・・!?」
 「まさに井の中の蛙よのう。少し本気を出しただけでこのザマとはな。」
 「そ、そんな馬鹿な・・・!?」
 「わらわの昔の知り合いに星崎遥という者がいたのだが、奴はそなたの倍は速く動くぞ?」
 「ぎゃん!?」

 セラにデコピンされた須藤は、物凄い勢いで壁に叩き付けられたのだった。

 「おのれ、よくも須藤を!!ぬりゃあああああああ・・・あっ!?」
 「どうした?もっと力を入れぬか。」

 振り下ろされた笹崎の渾身の一撃を、セラは左腕のビームシールドで軽々と受け止めた。
 あまりの威力に床にヒビが入るが、肝心のセラ自身は全く微動だにせず、相変わらず妖艶な笑みを浮かべている。 

 「馬鹿な・・・俺のイフリートの幻装は、最強のパワーを・・・!!」
 「そなたは『力』の何たるかを、まるで理解しておらぬようだのう・・・ほれ。」
 「うおわあああああああああああああっ!?」

 同じようにセラにデコピンされた笹崎は、同じように物凄い勢いで壁に叩き付けられた。
 うずくまる笹崎に向かって、セラはゆっくりと歩み寄る。 

 「こ・・・こんな・・・馬鹿な・・・っ!!」
 「おい。若杉雫はこの塔の最上階にいる事に間違いは無いな?エレベーターはそなたに壊されてしまったから、あそこの階段から行くしかなさそうだが・・・」
 「お・・・お前・・・本気で雫様に楯突くつもりなのか・・・!?」
 「当たり前だ。その為にわざわざ来たのだからのう。」
 「だ、だが、貴様がどれ程の使い手だろうが、あのお方には到底勝てぬ!!あのお方は超能力者なのだ!!」
 「・・・ほう。」

 もはや笹崎と須藤に興味を失くしたと言わんばかりに、セラはゆっくりと階段に向かって歩き出したのだが・・・。
 背中を向けたセラに対して、笹崎と須藤が妖艶な笑みを浮かべながら斬りかかったのだった。

 「「馬鹿め!!敵に背中を向けるとは愚かな奴だ!!ヒャッハー!!」」
 「愚かなのはそなたらの方だ。折角命だけは助けてやろうと思っていた物を・・・。」

 溜め息をつきながら、セラが指をパチンと鳴らした次の瞬間。
 セラの周囲に大量の黄金の氷のアーゼが出現し、一斉に2人に襲い掛かった。

 「「あっ・・・あっあっあっ・・・あっあっあっあっあっあっあっ・・・(汗)!!」」
 「もう良い。ならば死ね。」
 「「・・・ああああっあっあっあいうえれおろぉっ!!」」

 そのまま全身を串刺しにされて動かなくなってしまった2人を無視して、セラは先程受け取ったメールに返信しながら階段を上っていったのだった。

 送信者:白野雪花
 件名:安心して下さい。
 本文:ブリュンヒルデ本部に若杉の者たちが攻めて来ましたが、私と小雪が敵を倒します。なのでお母様は安心して戦いに集中して下さい。

 件名:Re:安心して下さい。
 本文:情け容赦なく叩きのめしてしまえ。

5.対峙


 雫がいる最上階は、地上60階・・・笹崎にエレベーターをぶっ壊されたせいで、セラは残り33階を階段で登る羽目になってしまった。
 それでもセラは『適度な運動は美容と健康にいい』などと考えてながら、ゆっくりと階段を昇っていたのだが。
 全く息を切らす事無く、セラは遂に雫がいる最上階まで辿り着いた。
 威風堂々と扉を開けるセラの眼前に広がる光景は、大広間の玉座に足を組んで座している雫の姿・・・そして絵梨を含めた27人もの虚ろな瞳をした、薄着姿の少女や女性たちだ。

 「そなたが若杉のリーダー・・・若杉雫か。」
 「そうよ。貴方が報告があった氷の女神セラね?まさかたった1人でここまでやって来るなんて驚いたわ。」
 「半端な者に同行されても、足手まといになるだけだと思ったからのう。」
 「だけどね・・・笹崎と須藤の戦いぶりをモニターで観戦してたけど・・・貴方如きの実力じゃ、私には到底勝てやしないわ。」
 「・・・ほう。」

 互いに不敵な笑みを浮かべながら、睨み合う2人。
 2人の身体から目に見えない凄まじい剣気が放たれ、この大広間はピリピリとした緊張感に包まれていた。
 そんな2人の様子を、27人の少女や女性たちが虚ろな表情で見つめている。

 「・・・ねえ、見て見て。彼女たちは皆、私が妹として迎え入れた子たちなの。」

 突然雫は傍にいた絵梨を抱き寄せ、左手で胸を揉みながら唇を重ねた。
 絵梨は特に抵抗する事も無く、ただされるがままになっている。

 「あん・・・雫お姉様・・・」
 「この子たちはね、私の言う事なら何でも聞くの。私の一言でこの子たちは、人ごみの中で全裸になって、公衆の面前で愛し合う事さえも簡単にやってのけてくれるわ。」
 「はい・・・私達は皆、雫お姉様の人形でございます・・・。」
 「そう・・・この子たちは私の命令なら、どんな理不尽な命令だって聞く・・・今この場で自殺する事だって何のためらいも持たないのよ?」

 雫の言葉と同時に、その場にいた27人の少女や女性たちが、一斉にナイフを自らの首元にかざしたのだった。
 全く何のためらいも持たず、ただ虚ろな瞳で、雫からの命令を待っている。
 そう・・・雫からの命令が下りさえすれば、彼女たちは本当に何のためらいも無く、自らの喉をナイフで貫いてしまうだろう。

 「悪趣味な奴め。まぁわらわも人の事は言えぬのだがのう。」
 「あはははは!!どう!?凄いでしょう!?」

 目の前の異様な光景を、溜め息交じりで見つめるセラ。
 セラも1000年前に広子の心を支配した事はあるのだが、それでも分霊を使って広子の身体を一時的に借りていた位で、他に広子に自殺しろなどと命じるような酷い扱いは一切しなかったし、それなりに大切に扱ってきたつもりだ。
 それに比べたら目の前の雫は、何という悪趣味な女なのか。

 「と、言うわけでぇ、少しでも妙な真似をしたら、この子たちは自分で自分の喉下をナイフで刺しちゃうわよ。この子たちの命を助けて欲しかったら、その場を一歩も動かずに大人しくしてなさい。」

 それだけ告げて雫は大剣を手に立ち上がり、ゆっくりとセラの前に歩み寄る。
 雫からの「死になさい」という言葉を、虚ろな瞳で今か今かと待ち続ける少女たち。
 全く何のためらいも無く、首元に当てたナイフをぎゅっと握り締めている。
 セラが雫の大剣を避けようとすれば、間違いなく彼女たちは一斉に自殺するだろう。
 何のためらいもなく、雫の為ならば喜んで。
 だが、それでもセラは・・・この期に及んでも尚、まだ余裕の態度を崩していなかった。

 「・・・フフフ・・・そなたは本当に愚かな奴よのう。この者たちがどうなろうと別にわらわの知った事ではないわ。殺したければ早く死ねと命じるがいい。」
 「何ですって・・・!?」
 「だが、そなたを叩きのめす際に、この者たちにいちいち邪魔されるのも面倒だしのう。とっとと洗脳を解いてやるとするか。」
 「はあ!?貴方、何言って・・・」

 セラのファルシオンソードが、黄金の光を放ち始めた。
 雫が一歩も動くなと言ったので、言われた通りその場から一歩も動く事無く、ファルシオンソードを構え・・・

 「ほれ。」

 薙ぎ払う。
 放たれた円状の黄金の光が、一斉に少女や女性たちを貫き・・・次の瞬間、虚ろな瞳をしていた彼女たちの瞳に光が戻ったのだった。
 だが彼女たちが正気に戻ったという事は・・・逆に若杉の者たちや雫による惨劇を思い出してしまった事を意味する。
 彼女たちの多くが、頭を抱えながら涙を流して絶叫してしまっていた。

 「・・・あ・・・あああ・・・あああああ・・・!!」
 「ああああああああああああ!!嫌ああああああああああああああ!!」
 「悟さん!!悟さんがああああああ!!」

 もしかしたら彼女たちは、このまま雫の人形のままでいた方が幸せだったのかもしれない。
 辛い事を何も思い出す事無く、ただ雫の言葉と身体に夢中でいられたままの方が。
 だがセラはそれを理解した上で、敢えて彼女たちの呪縛を解いたのだ。

 セラは別に、彼女たちを助けたつもりなど毛頭無い。
 彼女たちに雫を倒すのを、いちいち邪魔されるのも面倒だと思っただけだ。
 辛い過去を乗り越え自分の意志で道を切り開くのか。それとも現実に耐えられずに自ら死を選択して楽になるのか、あるいは死んでしまった愛する人の下に行きたいと願うのか。
 セラはただ、彼女たちにそのきっかけを与えただけなのだ。これからどうするのかは全て彼女たち次第だ。セラがどうこう口出しするつもりは無い。
 生きたければ生きればいいし、死にたければ勝手に死ねばいい。

 「・・・泣いている場合ではないぞ!!頭を冷やして静まれ!!」
 「「「「・・・っ!?」」」」

 セラが放った冷気によって、彼女たちの周囲の気温が一気に氷点下近くにまで下がった。
 その冷気によって、泣き叫んで興奮した彼女たちの頭は一気に冷えたようだ。
 誰もが涙目になりながら、自分たちを雫の呪縛から解き放ったセラを見つめている。

 「わらわは氷の女神セラ。そなたらの目の前にいる若杉雫を叩きのめす為に馳せ参じた。戦いに巻き込まれて死にたくなければ、全員ただちにこの場から離れよ。」

 セラの言葉の意味を理解した彼女たちは、セラの戦いの邪魔にならないように、慌てて部屋から走り去っていったのだった。
 その誰もが、自分たちから大切な物を奪った雫を、怒りと憎しみの表情で睨みつけながら。
 その様子を雫が、何とも気に入らないといった表情で見つめている。

 「・・・貴方・・・舐めた真似をしてくれるじゃない・・・よくも私の可愛い妹たちを・・・!!」
 「別にあの者たちを助けたつもりはない。ただそなたを倒すのに邪魔だっただけだ。」
 「いいでしょう、ならば貴方を徹底的になぶり殺しにした後に、もう一度あの子たちを私の妹にしてあげるわ!!」

 大剣を構えた雫の全身から凄まじい蒼白のオーラが放たれ、雫の背中から蝶の羽根が生える。
 その凄まじい闘気の威力だけで、大広間の空気がビリビリと震え上がった。

 「・・・ほう、『贄の血』の力か。」
 「思い知らせてあげる!!私の為だけに特注で作らせた、この最新型の第3世代の幻装・・・キメラクイーンの幻装の力をね!!」
 「ならばそなたも思い知るがいい。わらわとファルシオンの幻装の力を・・・そしてあの娘たちのそなたへの怒りと憎しみをな。」
 「最強の神と呼ばれた貴方をこの手で殺す事で、この私が新たな神となる・・・!!そして貴方の代わりに私がこの世界を支配してやるのよ!!」
 「愚か者め。そなた如きが神を名乗るなど、思い上がりも甚だしいわ。」
 「私が貴方を天国にイカせてあげるわ!!あはははははははは!!」

 互いに妖艶な笑みを浮かべながら、セラと雫は互いの武器をぶつけ合う。
 この国の・・・いや、この世界の命運を賭けた壮絶な戦いが、今こうして始まったのだった。

6.現れた氷の姉妹


 時間を少し遡る。
 セラが笹崎や須藤と戦っている間、ブリュンヒルデ本部もまた、鈴が率いる若杉の軍勢を相手に壮絶な死闘を繰り広げていた。
 ブリュンヒルデの者たちが総攻撃を仕掛けてくるであろう事を予測した雫が、鈴に手薄になった本部を攻めるよう命じたのだが・・・実際には手薄どころか充実した戦力でもって、ブリュンヒルデに無様に迎撃されてしまっている始末だ。

 これまでのブリュンヒルデの者たちとは違うのは、彼らが竹原の部隊から鹵獲した第2世代の幻装を修理して使用しているという事・・・そしてセラが万が一の時の為に残した、多数の式神たちが多大な戦力になってくれているという事だ。
 若杉の軍勢相手にも一歩も引かず、一進一退の死闘を繰り広げている。

 「怯むな!!一歩も引くな!!セラ様は必ず若杉雫を討ち取って下さる!!だから我らも希望を捨てず、戦いを終えたセラ様が安心して帰って来られる場所を守るのだ!!」
 「「「「「「おーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」

 隊長の掛け声によって部隊の士気が上昇し、凄まじい勢いでもって敵を地下施設の内部にまで攻め込ませない。
 敵から鹵獲した第2世代の幻装の圧倒的な性能に、ブリュンヒルデの者たちが助けられているのは勿論の事だが、何よりも「セラが必ず雫を倒してくれる」という希望が、一時は絶望に満ちていた彼らの心を奮い立たせてくれているのだ。

 「そらそらそら!!えい!!やあ!!とぉっ!!」
 「「「「「ひでぶっ!!」」」」」

 竹原から鹵獲したタイタンの幻装を身に纏い、陽平もまた奮戦する。
 彼が繰り出すビームサーベルによって、若杉の者たちは次々と打ち倒されていったのだが・・・。

 「本当、情けない連中よね。幾ら私達の幻装を奪われたからって、この程度の連中相手に無様にやられるなんて。」
 「な・・・お前は!?」
 「私は四天王最強の戦士にして、雫様の忠実なる奴隷・・・東条鈴よ。」

 奮戦を続ける陽平の前に、指揮官である鈴が直々に姿を現した。
 彼女の身体には、まるで天使を思わせるような、背中に翼を生やした美しい純白の幻装が身に付けられている。

 「四天王最強の戦士だと・・・!?こんな女が・・・!?」
 「女だからって甘く見てると痛い目を見るわよ?坊や。」
 「女だからって甘く見るわけねえだろうが!!俺は相手が女だろうと敵なら一切合切容赦しないんだよぉっ!!」

 ビームサーベルで斬りかかる陽平だったが、鈴はそれを上空に飛翔して難なく避けた。
 驚きを隠せない陽平に、鈴は剣を手に物凄い速度で上空から斬りかかる。
 そして斬りかかっては上空に逃げ、またさらに斬りかかるというヒットアンドアウェイ戦法を超高速で繰り返し、陽平を完全に圧倒するのだった。

 「あはははは!!あははははは!!あはははははははははは!!」
 「くそっ、何てスピードだ!!それにこの一撃の威力は・・・!!」
 「このラクシュミの幻装は第2世代の幻装の中で、飛行性能を有している唯一の代物・・・そして最もバランスが取れた性能を誇るのよ!!」
 「ぐああああああああああっ!!」
 「貴方が竹原から奪ったそのタイタンの幻装みたいに、防御しか能の無いカメみたいなノロマな幻装とは、性能がダンチなのよね!!あはははははは!!」

 最強の防御力を誇るはずのタイタンの幻装が、鈴の超高速の連打攻撃の前に次々と亀裂が走っていく。
 攻撃力、防御力、スピード、そして持ち味である飛行性能・・・それらが全て高いレベルで纏まっており、陽平を苦戦に陥れていた。
 また幻装の性能もそうだが、それを身に纏う鈴自身の戦闘能力も相当な物だ。
 四天王最強の戦士・・・その呼び名に偽りは無いようだ。

 「くそっ、タイタンの幻装が・・・!!」
 「しかし敵に回して改めて実感したけど、本当に硬い幻装よね。ウザいったらありゃしないわ。」
 「それでも絶対に諦めてたまるかよ・・・!!必ずセラが若杉雫を倒してくれる!!俺たちはそう信じているんだからな!!」
 「幾ら最強の神と呼ばれている氷の女神セラと言えども、雫様には到底勝てやしないわ。だってあのお方は超能力者なんですもの。」
 「超能力者だと・・・!?何を訳の分からない事を・・・っ!?」

 陽平が言いかけた、まさにその時だ。

 「「オーディンメイル・・・ブラストオフ!!」」

 突然上空からそんな声が聞こえたかと思った瞬間、一筋の閃光が戦場を貫いた。
 そして閃光の中心に華麗に舞い降りたのは・・・白銀の幻装を身に纏った小雪と雪花の姿。
 その場にいた誰もが、いきなりの出来事に驚きを隠せない。
 何しろ目の前にいたのは、これまで全く行方知らずになっていた『氷の姉妹』・・・小雪と雪花だったからだ。
 それが突然姿を現し、しかも正体不明の白銀の幻装を身に纏っている始末だ。

 「小雪、ザコの皆さんは任せました。私は四天王の彼女を抑えます。」
 「うん。雪花お姉ちゃん、気をつけてね。」
 「ええ、小雪も。」

 2人は笑顔で頷き合い、そして次の瞬間小雪は目にも止まらぬ物凄い速度で、次々と若杉の兵士たちを剣で斬り捨てていったのだった。
 あっという間に、戦場に若杉の兵士の死体が次々と転がっていく。

 「な・・・な・・・な・・・!?」
 「四天王の最後の1人、東条鈴さん。貴方を今ここで討たせて頂きます。」
 「最後の1人ですって!?一体どういう事なのよ!?」

 セラと同じように背中から光の翼を生やした雪花が、上空の鈴に物凄い速度で斬りかかる。
 辛うじて鈴はそれを受け止め、2人は空中で鍔迫り合いの状態になる。
 そうしている間にも、小雪の手によって若杉の兵士たちが次々と死んでいった。

 「笹崎さんと須藤さんは死にましたよ。先程お母様からメールが届きました。」
 「な・・・あの2人が死んだ!?」
 「残る四天王は貴方だけです。貴方が死ねば若杉の戦力は壊滅したも同然でしょう。」
 「ふざけるのも大概にしなさいよ!!四天王最強の戦士であるこの私を、今ここで殺すですって!?」

 互いに高速で飛び回りながら剣をぶつけ合う鈴と雪花だったが、雪花の前に鈴は完全に防戦一方だった。
 剣の腕だけではなく、身に纏っている幻装の性能も違い過ぎる。
 予想もしなかった事態に、鈴は明らかに焦りの表情を見せていた。
 雪花の斬撃によって、ラクシュミの幻装に次から次へと亀裂が走っていく。

 「大体何なのよ貴方たちは!?今まで行方不明になってた癖に、何で今頃になってのこのこと現れたのよ!?」
 「貴方たちのような薄汚い人たちから、広子さんの墓標を守る為ですよ。」
 「何をふざけた事を・・・きゃああああああっ!!」

 雪花の一撃を食らい、鈴は陽平の目の前の地面に叩き付けられてしまった。
 そして汚物を見るような瞳で、ゆっくりと地上に舞い降りた雪花が、無様に地面に倒れ伏している鈴に剣を突きつける。
 鈴が身に纏うラクシュミの幻装が、雪花の攻撃を立て続けに受けた事でボロボロになってしまっていた。
 信じられないといった表情で、鈴は目の前の雪花を睨み付けている。

 「あ・・・有り得ない・・・四天王最強の戦士である、この私が・・・この第2世代最強のラクシュミの幻装が・・・こんな・・・馬鹿な・・・っ・・・!?」
 「所詮は井の中の蛙だったという事ですよ。これで終わりです。」
 「有り得ない・・・有り得ない・・・ありえなんじゃばらあっ!?」

 雪花の剣が、情け容赦なく鈴の左胸を貫く。即死だった。
 唖然とした表情で、目の前の凄惨な光景に固まってしまった陽平。
 そして生き残った若杉の兵たちは鈴の戦死を目の当たりにして、完全に戦意を喪失して逃げ出してしまったのだった。
 そんな彼らに見向きもせず、剣に付いた返り血を振り払い、小雪と雪花は広子が宿っていた槐の木へと歩き出す。

 そして戦いに勝利したはずのブリュンヒルデの者たちも、突然の小雪と雪花の出現、そして2人の態度に戸惑いを隠し切れずにいた。
 自分たちを守ってくれたのは間違いないようだが・・・しかし2人共自分たちに全く見向きもしてくれないのだ。
 誰もがその場から、一歩も動けずにいたのだが・・・。

 「ま・・・待ってくれ!!アンタたち、あの伝説の『氷の姉妹』の白野小雪と白野雪花なんだろう!?コハクおばさんがアンタらの事を俺たちによく話してくれていたんだ!!この国の危機を何度も救ってくれた英雄だって!!」

 たまりかねて陽平が、慌てて2人の元へと駆け出していったのだった。
 ボロボロのタイタンの幻装が何とも痛ましいが、それでも第2世代最強の防御力を誇るだけあって、陽平自身の傷はそれ程深くは無いようだ。

 「俺たちを助けてくれたのは礼を言う・・・だがアンタたち、この国がこんなとんでもない事態になってるっていうのに、何で今まで若杉の連中を放っておいたんだ!?アンタたちは今まで多くの人々を邪な連中から守ってくれたんだろう!?なのに何で・・・!?」
 「先程、彼女にも言いましたが・・・私たちはただ単に、広子さんの墓標を守りに来ただけです。別に貴方たちを助けたつもりはありませんよ。」
 「はあ!?そりゃ一体どういう・・・」
 「もう私たちは、この国の人々を守る為に戦うつもりは無い・・・この国がどうなろうと知った事ではないという事です。理解出来ましたか?」

 それだけ言い残して、小雪を連れて再び槐の木へと歩き出す雪花。
 陽平を一瞥する雪花の表情からは、人間たちに対する「失望」が滲み出ていた。
 一体この1000年もの間に、この2人に何があったのか・・・それを陽平が知る由も無いが、それでも陽平は納得が行かなかった。行くはずが無かった。 

 「・・・何だよそれ・・・理解出来ねえよ・・・何なんだよそれはよぉっ!!」
 「陽平君!!ちょっと待って、陽平君っ!!」
 「ざけんじゃねえぞコラァっ!!何なんだよそりゃ!?俺たちもこの国の人々も、若杉のせいでどれだけ苦しんできたと思ってんだ!?それなのに何なんだよアンタらはぁっ!?」

 ボロボロのサーペントの幻装を身に纏ったましろが、雪花の胸倉を掴む陽平の両手を何とか引き剥がそうとするが、ましろの細腕ではどうしようもない。

 「この3年間でどれだけ多くの人々が、若杉の連中に苦しめられたと思ってるんだ!?それだけの力を持ってるくせに、何で今までこの国の人々を救ってくれなかったんだ!?」
 「陽平君、もう止めて!!お願いだから!!」
 「セラだってなぁ、たった1人で若杉の本拠地に乗り込んで、今も必死に命懸けで戦ってくれているんだぞ!!この国の人々を若杉の圧政から守る為に!!」
 「陽平君、もう止めてってば!!」
 「それなのに何なんだよアンタらのその身勝手な態度は!?国中の人々が若杉に苦しめられてるのに、それを私たちには関係ありませんだとぉっ!?ざけんなよコラァっ!!」

 怒りの形相で雪花を睨みつける陽平だが、それでも雪花も一歩も引かずに陽平を見据える。
 身勝手な態度、ふざけるな・・・雪花をそう侮蔑する陽平だが、それは雪花とて人間たちに対して同じ気持ちを抱いているのだ。
 苛立ちを顕わにした表情で、雪花は陽平を乱暴に突き飛ばした。
 突き飛ばされた陽平は、無様に地面に尻餅をついてしまう。

 「うおわあっ!?」
 「貴方は私たちを身勝手と言いましたが・・・そういう貴方たち人間の方こそどうなんですか?」
 「はあ!?いきなり何を訳の分からない事を・・・!!」
 「この1000年もの間、私も小雪も今まで人間たちを守る為に、それこそ命懸けで必死に戦ってきたというのに・・・!!それなのに私と小雪に何故あんな酷い事を・・・!!」
 「・・・え・・・?アンタ、何を言って・・・」
 「・・・いえ、この話は今はやめておきましょう。貴方の言う通り、お母様が今も雫さんと戦っている最中なのですから。」

 それだけ言い残し、雪花は小雪と共に目の前の槐の木を見上げた。
 オハシラサマの使命を果たし終えた広子が、セラの力で天に還った槐の木からは、もう何の力も感じられない。今ここにあるのは、ただの抜け殻だ。
 まさしく広子の墓標・・・小雪も雪花も神妙な表情をしている。

 「雪花お姉ちゃん、広子は・・・」
 「ええ、きっとお母様が還したのでしょう。これで彼女もようやく報われたのですね。」
 「うん・・・1000年間本当にお疲れ様。あの世で幸せに暮らしてね、広子・・・。」
 「行きましょう、小雪。私たちの戦いはまだ終わっていませんから。」
 「そうだね。早くセラさんの加勢に行かないと。」

 2人で頷き合い、光の翼を展開する小雪と雪花。
 そして唖然とした表情の陽平たちを無視し、物凄い速度で上空へと飛翔したのだった・・・。