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アカイイト・アナザーストーリー

★光は風に・・・ノゾミの戦い


1.救われたノゾミ


 「桂!!私は自由になりたいのよ!!」

 ノゾミのこの言葉に、とっさに桂の身体が動いた。
 桂の捨て身の一撃によって、鏡が粉々に砕け散った。
 鏡を依代としていたミカゲは消滅したが、同じく鏡を依代としていたノゾミもまた、消滅しようとしていた。

 「あはははは・・・桂・・・あなた何を泣いているの・・・?」

 自分の為に泣いている桂を見て、ノゾミは心底呆れていた。
 ついさっきまで自分の命を狙っていた者が今にも死ぬ寸前だというのに、何を泣く必要があるのか。
 むしろここは喜ぶべき場面だろう。
 なのに何故、この娘は泣いているのか。

 「何か、何か依代に出来る物は無いの!?何か・・・!?」
 「いいのよ桂、何にだって依り付けるわけではないの・・・。最後にあなたのような人に会えただけでも、私は幸せだった・・・。」
 「そんな、何を言ってるのノゾミちゃん!!そんな簡単に諦めちゃ駄目だよ!!」
 「桂・・・」
 「私は最後まで諦めない・・・絶対にノゾミちゃんを助けてみせる!!」

 その瞬間、桂の携帯電話の着信音が鳴り響いた。


 ノゾミは藤原家の長女として生まれたが、双子であるというだけで忌み子とされ、10年以上も閉じ込められて軟禁生活を強いられてきた。
 その後いろいろあった末に混乱に乗じて軟禁生活から抜け出し、ようやく自由の身となる。
 だが元々病弱だったノゾミは既に死期が迫っており、しかも満足な食料も水も無いまま、たった1人で外の世界に飛び出した事で飢えにも苦しみ、さらに急激な環境の変化にノゾミの病弱な身体は対応する事が出来なかった。

 飢えと病気で衰弱し、死を待つだけだったノゾミだったが、たまたま通りかかった主の気まぐれで鬼となり、永遠の命を得る事が出来た。
 またそれだけではなく、主から邪眼の力まで授かった。
 主にとってノゾミを助けたのは本当にただの気まぐれでしか無かったのだが、ノゾミにとって主は命の恩人であり、絶対的な存在であった。
 だがそんなノゾミの想いとは裏腹に、主にとってノゾミは使い捨ての駒でしか無かったのだ。

 主はカグヤによって封印された際に、ノゾミに自分を助けさせるためにミカゲを創り出してノゾミの元に送り込んだ。
 ミカゲは自分が双子の妹であるとノゾミに思い込ませ、言葉巧みにノゾミを操り、利用し、働かせた。
 ここまでは全てミカゲの計画通りだった。
 しかしミカゲにとっての最大の誤算は、ノゾミが桂の血を吸おうとした時にノゾミと桂の記憶がシンクロしてしまった事だった。
 これによりノゾミの過去を知った桂は、鋭い洞察力でミカゲがノゾミの妹ではない事を見抜き、ミカゲに騙されているという事をノゾミに警告してしまった。
 反論するノゾミに、桂は何のためらいもなく告げた。

 「なら試させてもらっていいかな?」

 こうしてノゾミを言葉巧みに利用して主を蘇らせるというミカゲの計画は、全て水泡に帰してしまった。
 皮肉にも主の復活のために手中に収めようと思っていた桂によって、その計画が台無しにされてしまったのだ。
 互いの記憶のシンクロがきっかけとなって桂に心を許し始めたノゾミを、ミカゲはもう用済みだと判断した。
 そしてミカゲは、ノゾミへの鏡からの力の供給を断った。


 誰からも愛される事無く、忌み子として嫌われ、主やミカゲの操り人形にされた挙句に見限られ、死を迎えるはずだったノゾミ。
 だが桂の携帯電話のストラップに付いていたお守りを新たな依代とする事で、辛うじて消滅を免れた。
 そして桂は、自分の為に心の底から涙を流して泣いてくれた唯一の人間だった。
 この時からノゾミにとって桂は、贄の血を宿す者として命を狙う存在ではなくなり、逆に命を懸けて守るべき存在となったのだ。

 「桂は私が絶対に守ってみせる。ええ、主さまなんかに渡さない。渡すもんですか。」

 ノゾミの真紅の瞳には、強い意志の光が宿っていた。

2.桂への想い故の争い


 「桂さん!!貴方は自分が何を言ってるのか分かっているのかい!?」

 翌日、ノゾミを保護したいという桂の提案を烏月は一蹴した。
 無理も無いだろう。ノゾミはつい最近まで桂の命を狙っていた存在なのだ。
 いくら桂が事情を話した所で、そう簡単に受け入れられるわけが無い。烏月とサクヤにとって、ノゾミは危険因子以外の何物でも無かった。
 意外にも柚明はノゾミに同情してあっさりと納得したのだが、それでも烏月とサクヤは納得しなかった。

 「柚明さんも柚明さんだ。確かに彼女の境遇には同情すべき点はあるが、それでも貴方だって彼女に痛い目に遭わされてるんだぞ!?」
 「珍しく意見が合うじゃないか。鬼切り役。」
 「あなたと一緒にしないで頂きたいな。サクヤさん。」

 ノゾミを厳しい目で睨む烏月とサクヤだったが、それでもノゾミもまた1歩も引かずに2人を睨み返す。
 元々強気の性格をしているというのもあるが、桂を守りたいというノゾミの想いもまた、全くの嘘偽りの無い本物だからだ。

 「私だって譲らないわ。私は桂とずっと一緒にいたいの。」
 「桂も柚明も馬鹿が付くほどのお人好しだからねえ。アタシはそれが心配なんだよ。」
 「そうね。あなたの言う通り桂は馬鹿でお人好しよ。だから私がずっとそばにいて守ってあげなきゃいけないのよ。」
 「だけどアンタを今すぐに信用しろと言われて、はいそうですかって言える訳無いだろう!?」
 「それならそれで別に構わないわよ?私は桂以外は全然眼中に無いから。」
 「何だって・・・もう一度言ってみな!?」

 壮絶な口喧嘩を展開するノゾミとサクヤの間に慌てて桂が割って入った。
 2人が自分の為に言い争いをしている事自体は嬉しいが、それでも桂は烏月とサクヤに、ノゾミの事を受け入れてもらいたいのだ。
 確かにノゾミが桂と柚明にした事を考えると、今すぐに和解しろというのも無理な話かもしれない。
 無理な話かもしれないが、それでも桂はノゾミを庇い続けた。

 「サクヤさんも烏月さんも、ノゾミちゃんをこれ以上傷つけるのはやめてよ!!」
 「桂さん。鬼の中にはね、自分が敵意を持つ者ではないと標的に思い込ませて、油断させるような奴もいるんだよ。」
 「ノゾミちゃんはそんなのじゃない!!だって私、ノゾミちゃんの記憶の中を覗いたんだもん!!」
 「・・・確かに私の目で『視た』限りでは、桂さんは彼女の邪眼に操られているわけではないようだが・・・」
 「そうでしょ!?烏月さんが『視た』んなら間違いないよね!?」
 「しかし、だからといって彼女を桂さんのそばに置くなど認められるはずが・・・!!」
 「だって、このままじゃノゾミちゃんが可哀想だよ!!」

 とうとう桂は泣き出してしまった。
 あまりにノゾミが不憫で可哀想で、我慢が出来なくなってしまったのだ。
 ノゾミの過去の辛い記憶が、ダイレクトで直接頭の中にどかんと入ってしまったのだから、無理も無い。
 泣き止まない桂を柚明は優しく抱き締める。
 ノゾミは嬉しかった。また桂が自分のために心の底から泣いてくれた。
 そしてノゾミは、桂を泣かせた烏月とサクヤに対して憤りを顕わにした。

 「あなたたち、桂を泣かせたわね!!」
 「その元凶は元はと言えばアンタとミカゲだよ!!全く、一体何がどうなっているんだい!?」
 「・・・確か、ノゾミと言ったな?もしお前がもう一度主に寝返るような事になったら・・・」

 烏月は維斗の先端をノゾミの喉元に突きつけた。
 ノゾミは全くひるむ事無く烏月を睨み返して、何の迷いも無く言い放った。

 「その時は容赦無くその刀で私を斬りなさいな。」
 「・・・・・。」

 そのまま睨み合う2人。ノゾミもまた1歩も引かなかった。
 どれ位睨み合っていたのだろうか。やがて烏月はため息をついて維斗を鞘に収めた。

 「・・・いいだろう。私が『視た』限りでは邪眼で桂さんを操っている訳では無いようだし、厄介な事にお前の信念は本物のようだ。それに私とて桂さんを泣かせるのは本意では無い。」
 「フン、最初から素直に認めればいいのよ。ていうか厄介は余計よ。」
 「だがもしお前が桂さんを裏切るような真似をすれば、桂さんが何を言おうが、私は情け容赦なくお前を斬る。それだけは忘れないでもらおう。」

 烏月はノゾミに背を向けた。
 言葉には出さないが、それは烏月がノゾミを信用した証だった。

 「・・・どこへ行くのかしら?私を放っておいていいの?」
 「お前の監視はサクヤさんと柚明さんがやってくれるだろう。生憎私には他にやるべき事があるんでね。お前の相手をしていられるほど暇じゃ無いんだ。」

 それだけ言い残して烏月は部屋を出て行った。
 烏月にノゾミを信用してもらえた事で桂は安心してしまったのか、柚明に抱き締められたまま腰を抜かしてしまった。
 これでノゾミが烏月に斬られるという最悪の事態は、どうにか避ける事が出来たのだ。
 だが、だからといってこれで全てが解決したというわけではない。

 「まあノゾミの奴が味方になったのは別にいいんだけどね・・・。まだ肝心な奴が残ってるだろ。」
 「主さまの事かしら?」
 「そうだ。奴も桂の血を狙ってるんだからね。」
 「だったら主さまと戦うのはこの私よ。」
 「どういう風の吹き回しだい?アンタのご主人様なんだろ?」
 「あの人はミカゲを使って私の事を騙して利用して、ゴミのように捨てたんだもの。この借りはきっちり返してあげないと気が済まないのよ。それに・・・」
 「それに?何だい?」
 「桂は私が守ると言ったはずよ。」

3.決別


 そして、遂にノゾミと主が戦う時が来た。
 白花に取り憑いていた主の分霊が白花の必死の抵抗も虚しく、遂に身体を乗っ取ってしまったのだ。
 そして主は柚明によって封じられている自らの肉体も蘇らせるために、桂の血と柚明の命を狙うために屋敷までやってきた。
 しかも最悪な事に、烏月とサクヤはこんな時に限って留守だった。

 「羽藤柚明よ。よくも今まで私を封じ続けてくれたな。だがそれも今日までだ。貴様を殺して私は今度こそ蘇る。」
 「主・・・大人しくこのまま眠り続けて頂けませんか?」
 「フン、ハシラというのはどいつもこいつも勝手だな。自分たちの都合によって寝ろだの起きろだの・・・少しは私の身にもなってもらいたいものだ。」
 「それは・・・申し訳無く思っています・・・ですが・・・」
 「貴様らの都合など最早私の知った事では無い。羽藤白花の肉体はこの通り私が頂き、そして封じの主である羽藤柚明も、贄の血をその身に宿す羽藤桂までもが私の目の前にいる。この好機、私はむざむざ逃すつもりは無いぞ。今ここで貴様らを殺して、私は完全に蘇るのだ。」

 だがそこへ、ノゾミが主の目の前に立ちはだかった。
 強い意志を秘めた瞳でノゾミは主をじっと見据える。

 「柚明、あなたは桂を守りなさい。主さまとは私が戦うわ。」
 「そんな、ノゾミちゃん1人で大丈夫なの!?」
 「最初に言ったはずよ。主さまを倒すのはこの私だって。それにあなたまで主さまと戦ったら、誰が桂を守るというの?」

 ノゾミの周囲に赤い霧が立ち込めた。
 主はノゾミの姿を見て驚きを隠せなかったが、すぐに臨戦態勢に入る。

 「貴様・・・鏡からの力の供給は断ったはずだ!!何故貴様が生きている!?」
 「桂が私を救ってくれたからですわ。主さま。」
 「・・・いかに贄の血をその身に宿す者とはいえ、そのような力まで持っていたとは・・・羽藤桂、いささか侮り過ぎたか・・・」

 ノゾミは桂の携帯電話のストラップについてるお守りを新たな依代にしているだけなのだが、主はその事に気づいていなかった。
 とはいえ、桂がノゾミの命を救ったというのもあながち嘘では無いのだが。

 「まあよいわ。今となっては貴様もミカゲも用済みだ。邪魔をするのであれば貴様を今度こそ始末するまでよ。」
 「桂は私が守る。ええ、あなたなんかに桂は渡さない。渡すもんですか。」
 「・・・羽藤桂に絆(ほだ)されたか。この愚か者が。」
 「私を捨てておいて何を言ってるんだか。」

 ノゾミの赤い霧が主に襲い掛かる。
 だが主が生み出した赤い霧が、それらを全て飲み込んでしまった。

 「この程度の力で私を倒そうなど、片腹痛いわ。」
 「私は負けない!!負けられない!!」

 ノゾミが生み出した赤い蛇が主の首筋に噛み付いたが、主はそれを右手だけで無造作に引き剥がして握り潰した。

 「忘れたかノゾミよ。貴様を鬼にしたのはこの私だぞ?貴様に力を与えてやってのはこの私だぞ?」

 今度は主が生み出した赤い蛇がノゾミの身体を締め付ける。

 「あうっ・・・!!」
 「所詮、子は親には勝てない。そういう事だ。」
 「この程度で・・・いい気にならないで!!」

 ノゾミが生み出した赤い霧が、主が生み出した蛇を消し去った。

 「ほう、少しは腕を上げたようだな。」
 「主さま。桂は私に教えてくれました。何があろうとも絶対に最後まで諦めるなと。」
 「では、どうあがいても超えられない壁という物を思い知らせてやろう。」

 今度は無数の赤い蛇がノゾミの前に立ちはだかった。

 「桂は私の為に泣いてくれました。私の為に悲しんでくれました。そんな桂の傷つけようとする主さまを、私は絶対に許さない。」
 「ならば貴様にも1つ教えておいてやろう。どれだけ強い信念を持とうが、それを貫き通すだけの力が無ければ意味が無いのだ。」

 ノゾミはあっという間に無数の蛇に押しつぶされてしまった。

 「力無き信念ほど愚かな物は無い。所詮は圧倒的な力の前に潰されるのみだ。今の貴様のよ・・・」

 その瞬間、無数の蛇が一瞬で塵と化してしまった。

 「・・・何だと!?」

 ノゾミはまだ生きている。まだ立っている。息を切らしているが、まだ戦う力も意志も信念も失ってはいない。まだ心は折れていない。
 主は驚いていた。今の攻撃をノゾミが防げるはずが無い・・・そう思っていたのだ。
 そう、今までのノゾミならば防げなかっただろう。今の一撃で確実に死んでいただろう。
 だがミカゲの操り人形だった頃のノゾミと今のノゾミとでは、決定的に違う物があった。
 それは守るべき者、自分を支えてくれる者、自分を大切にしてくれる者・・・桂の存在だ。
 桂の為にノゾミは、こんな所で死ぬわけにはいかなかった。

 「主さま・・・私は・・・あなたには負けない・・・」
 「馬鹿な・・・貴様のどこにそんな力が・・・」
 「桂を傷つけようとするあなたに、私は負けるわけにはいかないのよ!!」

 ノゾミのその想いに応えるかのように、ノゾミの周囲を無数の蝶が舞っていた。

 「月光蝶だと!?羽藤柚明か!?」

 だが柚明は桂を守るために、動いていない。
 そう、蝶を生み出していたのは柚明ではない。ノゾミだった。
 予想外の出来事に主は驚いていた。

 「馬鹿な・・・まさか貴様が・・・!?」
 「私は桂を守る!!絶対に桂を死なせない!!あなたなんかに桂は渡さない!!」

 月光蝶の数がどんどん増していき、いつの間にか主を取り囲んでいた。
 鬼であるノゾミが出せるはずの無い、柚明が行使する物と全く同じ、青く白く美しく輝く蝶だった。
 主は赤い霧でノゾミの月光蝶を飲み込もうとした。
 だが逆にノゾミの月光蝶に赤い霧が飲み込まれてしまった。

 「何故だ・・・何故貴様にこんな力が・・・!?」 

 先程までとは完全に立場が逆転していた。
 桂を守りたい、桂を死なせたくない、桂とずっと一緒にいたい。ノゾミの願いは、ただそれだけだった。
 その強く純粋な偽りの無い想い故に、いつの間にかノゾミはオハシラサマである柚明と同質の、神聖な存在になっていたのだ。
 だから鬼でありながら、神聖な力である月光蝶を行使出来るようになったのだ。
 無論、想いだけで高度な術である月光蝶を行使できるはずが無い。先程も主が言っていたが、力無き想いなど何の意味も無いのだ。
 だがノゾミは人間だった頃から、元々月光蝶を行使出来るだけの、術者としての高い資質を備えていたのだ。
 その資質が、桂と記憶をシンクロさせ、桂を守る事を心に誓い、主に追い詰められた事で一気に開花したのだ。

 「何故貴様が月光蝶を使えるのだ!?」
 「そんなの私にも分からない。だけどそんな事はどうだっていい。私はただ桂とずっと一緒にいたい。私の願いはただそれだけだから!!」
 「小娘風情が・・・私を甘く見るなあっ!!」

 主は全身全霊の力でもって、巨大な蛇を生み出した。

 「負けるものか・・・この私が貴様などに!!」
 「私だって、あなたには負けない!!」
 「ノゾミィィィィィィィィ!!」
 「主さまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 巨大な蛇と無数の蝶がぶつかり合った。
 赤と青が混じった凄まじい閃光が、主とノゾミを飲み込む。
 やがて光が収まり、そこにいたのは満身創痍のノゾミと、主の分霊が消滅して穏やかな寝顔を見せている白花だった。
 ノゾミは、主に勝ったのだ。
 ノゾミの資質を見抜けなかった事・・・それが主の最大の敗因だった。

 「桂・・・約束通り・・・私は桂を・・・守った・・・わよ・・・」

 今にも倒れそうなノゾミを、桂は泣きながら慌てて抱き締めたのだった。

4.光は風に


 戦いは終った。
 白花に取り憑いていた主の分霊はノゾミに倒され、白花は元の優しい青年に戻った。
 そして意識を取り戻した白花は、柚明にオハシラサマの交代を申し出た。
 桂と白花が幸せに暮らす事を望む柚明は、当然それを断った。だが、

 「僕は主に借りを返したいんだ。それに桂の事となると周りが見えなくなるゆーねぇは、はっきり言ってオハシラサマ失格だと思うよ。」

 この白花の言葉を受け、結局柚明は白花とオハシラサマを交代する事を了承した。
 そして白花がオハシラサマとなった事で主の封印は維持され、柚明も元の人間に戻った。
 オハシラサマになる前の、行方不明になる前の、16歳の姿のままで。
 涙を流しながら抱き合う桂と柚明に、ノゾミはちょっとだけ嫉妬したのだった。

 あれから一週間が経った。
 夏休みが終った桂は、始業式に参加するために通っている女子高へと向かっていたのだが・・・。

 「・・・だから。」
 「うん?」
 「桂、桂ってば。あれは一体何なのよ!?」

 随分と長い間、ずっと鏡の中に封印されていたノゾミにとって、都会の光景は目にする物全てが珍しくて珍しくて仕方が無かった。
 あれは何!?これは何!?あれは何なの!?
 さっきからずっと桂はノゾミの息付く暇も無い程の、凄まじいまでの質問攻めに遭っていた。

 「ああ、あれは・・・って、電話、電話・・・。」

 桂は苦笑いしながら、携帯電話を手に取る。

 「もう、ノゾミちゃんったら、話しかける時は鈴を鳴らすか、電話って言ってよ。」
 「だって、面倒なんですもの。別にその『ケータイ』とかいう道具を使うフリなんてしなくてもいいじゃないの。」
 「そんな、普通の人にはノゾミちゃんの姿は見えないんだから、私が独り言を言いながら歩いてるみたいで、恥ずかしいよ~。」
 「私は恥ずかしくないもの。」
 「ううっ、私が恥をかくと、『どうしてあなたはいつもそうなの?私に恥をかかせないで頂戴』とか言うくせに~。」
 「それはそれ、これはこれ、だもの。大体、あなたが弁えていれば済む問題でしょう?」
 「うぅぅ・・・(泣)」

 言葉ではノゾミに文句を言う桂だったが、それでも桂は幸せを満喫していた。
 行方不明になっていた柚明が10年ぶりに戻ってきて、今では自分と同居している。
 そしてノゾミとの奇妙な同居生活も、桂にとっては楽しい物だった。
 柚明やノゾミとの同居生活は、桂にとって充実した日々だった。

 「桂?」

 幸せを満喫して黙り込む桂を見たノゾミは、ため息をついて携帯電話のストラップのお守りを鳴らした。

 「うわっ!!」
 「話したい時は、それを鳴らせばいいんでしょう?」
 「もう、ノゾミちゃんったら・・・。」

 ノゾミは生まれた時から幽閉生活を強いられ、ようやくそこから抜け出したと思ったら余命わずかだった。
 それを主に鬼にしてもらったと思ったら、実は主もまた自分の事を使い捨ての駒だとしか思っていなかった。
 そして散々働かされた挙句に、用済みになった途端にミカゲに始末されそうになった。
 だがそれでもノゾミは生きている。桂に命を助けられ、自由を手に入れ、今も桂のそばにいる。

 生まれて初めて心の底から、自分の為に泣いてくれた桂。
 そんな桂をノゾミはずっと守りたいと思った。
 あまりの桂のお人好しとドジ加減ぶりに心底呆れながらも、ノゾミは桂の守護神として桂を守り抜く事を心に決めた。

 ノゾミにとって桂は何物にも代えられない、何よりも大切なかけがえの無い存在なのだから・・・。