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アカイイト外伝・紡がれし心

後日談「フェンシング高校選手権大会」(後半)


4.死闘・・・美羽VS雨音


 その後も大会は順調に進み、翌日の午後3時・・・悠峰学園と青城女学院が決勝戦で遂にぶつかる事になった。
 フィールドに上がる6人の選手たちに客席からの凄まじい声援が送られ、記者たちが一斉にカメラのフラッシュを浴びせる。
 既にフルーレ部門とサーブル部門の団体戦は全試合終了しており、悠峰学園は苦しみながらも両部門の決勝戦で青城女学院を破り、見事に優勝を飾っていた。

 残るは泣いても笑っても、エペ部門決勝戦の団体部門のみだ。
 勝って悠峰学園が団体戦部門の完全制覇を達成するのか、それとも青城女学院が意地を見せるのか。
 試合は先鋒戦、副将戦共に一進一退の互角の死闘が繰り広げられ、そして・・・

 「勝者、小瀬宏美!!5-3!!」
 「よおしっ!!」

 苦しみながらも辛うじて勝利を収めた宏美は、拳を握り締めて派手にガッツポーズをする。
 先鋒戦で敗北した悠峰学園だったが副将戦で宏美が勝利し、これで1勝1敗・・・どうにか大将の美羽に繋げ、優勝への望みを残す事が出来た。
 美羽と雨音・・・この試合に勝った方が、エペ部門団体戦の優勝を飾る事になる。

 「後は任せたわよ。美羽。」
 「ええ、任せて。宏美と優梨子の想いは絶対に無駄にしないから。」

 宏美とハイタッチした美羽は決意に満ちた表情でマスクを被り、フィールドに上がって対戦相手の雨音をじっ・・・と見据えた。
 互いに一礼し、スタートラインに立って剣を構える。
 その構えだけを見ても、雨音が相当な実力者だという事が美羽には敏感に伝わってきた。
 美羽は精神を研ぎ澄ませ、目の前の雨音だけに集中する。
 そして。

 「1本目・・・始め!!」

 その瞬間、雷迅の如き速さで繰り出される美羽の斬撃。
 これまで対戦してきたほとんどの選手が、この一撃に全く反応出来なかったのだが・・・

 「・・・はっ!!」
 「な・・・!?」

 いつの間にか最小限の動きで身体をずらしていた雨音が、まるでダンスでも踊っているかのような華麗な動きで美羽の斬撃を受け流し、的確に反撃を加えていた。
 その瞬間、雨音のポイント獲得を示す光が電光掲示板に点灯する。
 そしてこれが、美羽が今大会で奪われた初めてのポイントでもある。
 まさに電光石火。観客は一斉にどよめき、美羽と雨音に対して熱烈な声援を送っていた。

 「・・・今の雨音の動きは・・・」
 「野咲選手。早くスタートラインに戻りなさい。」
 「あ、はい。すいません。」

 審判に促され、美羽は慌ててスタートラインへと戻る。
 自分の渾身の一撃を華麗に受け流され、今大会で初めてポイントを奪われた美羽だったが、それでも全く動揺せずに雨音を見据えていた。
 頭の中で冷静に、雨音の今の動きを分析する。

 (・・・私の動きを超反応で避けたというよりも・・・『私が動く前に既に動いていた』・・・?)
 「2本目!!始め!!」
 (・・・試してみる価値はあるわね。)

 審判の合図と共に、美羽は再び雨音に先制攻撃を仕掛けた。
 今度はフェイントを掛けて、ワンテンポ遅らせて雨音に突きを繰り出してみる。
 だが、結果は同じ・・・雨音はまるで美羽の動きを予測していたかのように、いつの間にか最小限の動きで美羽の攻撃を受け流し、反撃を加えていた。
 またしても、雨音のポイント獲得を示す光が電光掲示板に灯される。
 青城女学院のベンチは大はしゃぎし、悠峰学園のベンチからは悲痛の叫びが聞こえる。

 「そんな・・・あの野咲さんでさえも歯が立たないなんて・・・雨音ちゃんは強過ぎますわ。」
 「優梨子。まだ美羽の負けが決まったわけじゃないでしょう?」
 「それは・・・そうなのですが・・・」
 「美羽がこのまま終わるはずがない・・・私はそう信じてる。だから今は美羽を信じて応援しよう。」

 何の迷いも無い力強い瞳で、意気消沈するチームメイトを励ます宏美。
 チームの誰もが意気消沈する中、ただ1人宏美だけは美羽の勝利を信じていた。
 宏美は美羽に声援を送り・・・その健気な姿に感化されたチームメイトや羽間口先生が、一斉に声を枯らして美羽を応援し始めた。
 美羽が皆の期待を背に戦っているというのに、それを応援せずにどうするというのだ。
 それを思い出し、チームの誰もが美羽の勝利を願い、美羽に必死に声援を送っていた。

 だが美羽は再び雨音の反撃を食らい、これで3-0。
 しっかり守ってカウンター3発・・・まさに雨音の洗練された『後手必殺』だ。
 美羽はここまでは雨音を相手にダンスでも踊らされているかのように、雨音の動きに完全に翻弄されてしまっていた。
 今、美羽が出場しているエペ部門は、『斬り』が認められているサーブル部門と違い、打突による斬撃でしか有効打だとみなされない。
 その為、斬り技を主体としている相馬剣聖流のほとんどの技が、エペ部門のルールに縛られて封印せざるを得ない状況になっていた。
 本来の実力を発揮出来ない・・・いや、美羽はそれを言い訳にするつもりは微塵も無い。

 確かにルール無用の単純な殺し合いなら、100%美羽が勝つだろう。
 今は葛の指示で学業を最優先しているとはいえ、美羽は曲がりなりにも鬼切り役・・・それに比べて雨音は腕が立つとはいえ、一介の女子高生でしか無いのだから。
 だが今の美羽は殺し合いをしているのではない。決められたルールを定められた『スポーツ』をしているのだ。
 それに純粋な剣を扱う『技術』だけなら、雨音は美羽にも匹敵する物を持っている。それだけは素直に称賛せざるを得ない。
 フェンシングだけでは有り得ない、雨音のこの柔軟かつ鋭い動き、そして洗練された『後の先』の太刀筋・・・これは・・・

 「雨音。どうやら貴方は鏡心流拳法の動きをフェンシングに取り入れているみたいね。」
 「・・・っ!?」

 まさか、あれだけの剣のやり取りだけで見破られてしまうとは・・・一瞬驚きの表情を見せた雨音だったが、すぐに気を取り直してオドオドしながらも、はっきりと告げた。

 「・・・あ、あの・・・私の家の近所に、その、鏡心流拳法の道場があって・・・その動きをフェンシングに・・・その・・・取り入れている物ですから・・・。」
 「やっぱりそうだったの。どこかで見覚えのある体捌きだとは思ってたのよね。」

 それは日本に古くから伝わる、伝統ある古武術の1つである。
 攻撃よりも防御に重点を置き、洗練された『後の先』によるカウンターを徹底的に磨き上げた流派・・・それが鏡心流拳法だ。
 雨音はこの鏡心流拳法の洗練された『後の先』の動きを、見事にフェンシングに取り入れる事に成功しているのだ。 

 「だけど雨音・・・フェンシングと古武術を融合させたのが、貴方だけだと思ったら大間違いよ。」

 美羽は何の迷いも無い力強い瞳でスタートラインに立ち、剣を構える。
 そして観客たちが一斉に声援を送る中、審判が4ラウンド目の開始を告げた。
 先程までと同じように美羽の動きを先読みし、最小限の動きで美羽の斬撃を受け流そうと・・・したのだが・・・

 「・・・へ・・・!?」

 いつの間にか美羽の剣が、雨音の胸にクリーンヒットしていた。
 全くのノーモーションで、美羽が一瞬にして雨音との間合いを詰めたのだ。

 「千羽妙見流奥義・・・縮地法。」
 「な・・・こんな・・・これは・・・!?」
 「貴方が私の動きを先読みするというのなら、先読みが追いつかない程の速度で攻撃を繰り出すまでの話よ。」
 「・・・っ!?」

 美羽は威風堂々とスタートラインに戻り、はっきりと雨音を見据えながら剣を構えた。

 「さあ・・・反撃開始と行きましょうか。」

5.決着


 5ラウンド目開始直後、またしても美羽の神速の一撃が雨音の胸にヒットする。
 美羽に流れる真弓の遺伝子が伝えてくれる、千羽妙見流の高速大幅移動術・・・縮地法。
 全くのノーモーションで一瞬にして間合いを詰められ、雨音は戸惑いを隠し切れなかった。
 美羽の動きを先読みしようにも、そこからの回避行動が全く間に合わないのだ。
 それ程までに美羽の動きは、雨音の反応速度を完全に凌駕していた。

 「今の動きはまさか・・・中国拳法の箭疾走(ぜんしっそう)・・・!?」
 「まあ、そうとも言うわね。私の流派では縮地法って呼んでるけど。」
 「確かに厄介な技ですけど・・・それでも全く見切れなかった訳じゃない・・・!!」

 雨音は何の迷いも無い力強い瞳でスタートラインに戻り、臆する事無く剣を構えた。
 確かに美羽は、雨音の先読みを上回る速度で攻撃を仕掛けてくる。
 だが美羽の縮地法による体捌きは技の性質上、極めて直線的・・・攻撃の軌道その物は至極読み易い代物だ。
 先読みによる回避行動が間に合わないのなら、タイミングを合わせてカウンターを繰り出せば済むだけの話だ。
 そのタイミングは美羽が見せた2度の縮地法を実際に体感した上で、既に見切っている。

 6ラウンド目開始直後、またしても美羽の縮地法が雨音に迫る。
 雨音は冷静に美羽の動きに同調し、的確なタイミングで突きを繰り出すのだが・・・

 「な・・・!?」

 雨音の剣が美羽に届く一歩手前で、美羽が右足を踏ん張って急停止していた。
 強靭な足腰と絶妙な体のバランスを誇る美羽だからこそ、出来る芸当だ。
 美羽に届く事無く、雨音の剣があっけなく空振りしてしまう。
 そこから美羽は雨音の剣を弾き飛ばし、体勢を崩した雨音の胸に剣をヒットさせた。
 これで3-3の同点・・・美羽の怒涛の猛追撃を目の当たりにして、観客のボルテージは一気に最高潮になる。

 「そんな、箭疾走を途中で止めるなんて・・・何てデタラメな動きを・・・!!」
 「このまま勢いに乗らせて貰うわ。優勝するのは私たち悠峰学園よ。」
 「くっ・・・まだよ・・・まだ私は終われない・・・!!」

 7ラウンド目・・・美羽の縮地法に対抗する為に、これまで後の先によるカウンターを主体としていた雨音が、初めて自ら先制攻撃に出た。
 自ら美羽との間合いを詰める事で、美羽の縮地法を封じる為だ。
 縮地法さえ封じる事が出来れば、純粋な剣術だけなら雨音は美羽にも引けを取らない。
 だが雨音が強烈な突きを繰り出した瞬間。

 「・・・っ!?」

 美羽はそんな雨音の策を読んでいたかのように、雨音の一撃を華麗に受け流した。
 まるで雨音を相手に、華麗なるダンスでも踊っているかのように。
 それは先程まで、雨音が美羽に繰り出していたのと同じ動きだ。
 体勢を崩した雨音の胸に、美羽の剣がヒットする。
 これで4-3。いよいよ美羽のマッチポイントだ。

 「ぐっ・・・!!」

 先に縮地法を出されてしまっては、今の雨音では辛うじて目で捉える事は出来るものの、身体がそれに追いついてくれない。
 だから今の雨音が美羽に勝つには、縮地法を封じる為に自ら間合いを詰めるしかないのだが、美羽はそんな雨音の動きを先読みして即座に対応してくる。
 剣の腕は互角・・・そんな2人に差があるとすれば、身体能力と実戦経験だ。
 雨音の『後手必殺』を打ち破る縮地法という切り札を出され、雨音は完全に形勢をひっくり返されてしまった。

 「これでチェックメイトよ。雨音。」
 「私は・・・私はまだ・・・!!」
 「恥じる事は無いわ。私を本気にさせた事を誇りに思いなさい。」 

 8ラウンド目・・・美羽が繰り出した技は、相馬剣聖流奥義・天竜牙突槍。
 まさしく防御を無視した、極限なまでの『突き』。
 悠峰学園のチームメイトや羽間口先生、そして雨音への想いを込めた魂の一撃。
 雨音は辛うじて剣で受け止めるが、あまりの威力に完全に押されてしまっていた。 
 そして。

 「くっ・・・何て・・・威力・・・!!」
 「ぬああああああああああああああああああっ!!」
 「そんな・・・馬鹿なっ・・・ぐあああああっ!!」

 雨音のガードを無理矢理弾き飛ばし、美羽の剣が雨音の胸にヒットした。
 電光掲示板に、美羽の勝利を示す光が灯される。
 その瞬間、客席から美羽に対して凄まじい声援が送られた。

 「勝者、野咲美羽!!5-3!!」

 審判が美羽の勝利を告げた直後、凄まじい大歓声が会場を包み込み、悠峰学園のチームメイトたちが物凄い勢いで、一斉に美羽に抱き着いてきたのだった・・・。

6.戦いが終わって


 「お互いに、礼!!」
 「「ありがとうございました!!」」

 審判に促されて美羽と雨音は一礼し、がっしりと握手を交わした。
 観客もそんな2人に対して、惜しみない拍手を送る。
 まさにエペ部門団体戦の決勝戦に相応しい、素晴らしい戦いだった。
 そして前回の夏の大会では誰も太刀打ち出来なかった雨音を倒したという事で、美羽の下に多くの報道陣が殺到して一斉にカメラのフラッシュを浴びせ、立て続けに質問を浴びせた。

 「すいませーん!!大会運営の妨げになりますので、選手へのインタビューは表彰式が終わってからでお願いしまーすっ!!」

 そんな美羽の前に数人の係員が庇うように現れ、それでも美羽にICレコーダーを向けて無理矢理インタビューをしようとする報道陣も何人かいて、係員と報道陣との間で小競り合いになってしまっていた。
 その傍らで美羽と雨音は、とても穏やかな笑顔で見つめ合っている。
 敗れはしたものの今の雨音は、とても清々しい気分で満ち溢れていた。
 互いに悔いが残らないように死力を尽くして戦い抜いた・・・というのもあるが、何よりも前回の夏の大会では自分と渡り合える者が誰もいなかった中で、自分と互角以上の戦いが出来る者が現れた事が、雨音にはとても嬉しいのだ。

 「そ、その・・・さすがです、美羽さん・・・参りました。」
 「雨音も強かったわよ。それにとても楽しかった。ありがとう。」
 「わ、私も・・・凄く・・・楽しかったです・・・」

 相馬党の中には美羽が習っているフェンシングを『お遊びの剣』だと卑下する者もおり、実際に今更フェンシングを習う必要があるのかと美羽に疑問をぶつける者も何人かいる。
 だが鬼切り役としての血塗られた剣とは違い、戦いが終わった後に対戦相手と充実した笑顔で語り合える・・・そんなフェンシングだからこそ、美羽はとても楽しいと思っているのだ。
 何よりも競技用の剣を使って全身に防具を纏って戦うフェンシングなら、対戦相手を一切傷つける事無く、存分に剣をぶつけ合う事が出来るのだから。
 そして戦いが終わった後に、こうして互いを讃え合って友情を深め合う・・・それは鬼切り役としての鬼との戦いでは絶対に味わえない、とても素晴らしくて清々しい事なのだ。

 こうしてフェンシング高校選手権大会・女子エペ部門の団体戦は、決勝戦で悠峰学園が2勝1敗で青城女学院を下し、見事に優勝を決めた。
 既にフルーレ部門とサーブル部門の団体戦でも優勝している悠峰学園は、見事に団体戦の完全制覇を達成した事になる。
 個人戦部門では3部門全て青城女学院に優勝を奪われてしまったが、それでも3部門共に準優勝を達成したのだから、充分に賞賛に値する成績だろう。

 大会MVPには圧倒的な強さを見せ付けた美羽が選ばれ、優秀選手賞には宏美と雨音を含めた5人が選ばれた。
 賞状とメダルを手に表彰台で笑顔を見せる6人に、報道陣が一斉にカメラのフラッシュを浴びせたのだった。
 そして・・・ 

 「ただいま~。」
 「美羽ちゃん、お帰りなさいっ!!」

 むぎゅっ。
 翌日の昼に帰宅した美羽に、美鳥が物凄い勢いで抱き着いて来た。
 久しぶりに味わう美鳥の感触と温もりに、思わず美羽の表情が緩んでしまう。

 「もう、お母さんったら大袈裟なんだから・・・。」
 「大袈裟なんかじゃないわよ。ずっと美羽ちゃんと離れ離れになって、凄く寂しかったんだから。」

 うるうるした瞳で、美羽をじっ・・・と見つめる美鳥。
 美羽が泊りがけで大会に参加して4日間も留守にしていたので、その間ずっと1人ぼっちで寂しかったのだ。
 とはいえ全国の高校で既に冬休みに突入しており、正月明けまでフェンシング部の練習は休みなので、余程強大な鬼が現れない限りは、しばらくは美羽が家でのんびり出来る時間が増える事になる。
 なので寂しい想いをさせた分だけ、冬休みの期間中は出来るだけお母さんと一緒にいてあげようと、美羽はそんな事を考えていた。

 「おなか空いてるでしょ?もうすぐお昼ご飯が出来るから、ちょっと待っててね。」
 「うん。その間にシャワー浴びてくるね。」
 「今日は美羽ちゃんの優勝とMVPを記念して、少し豪勢にしてみたの。うふふ。」
 「・・・私もお母さんの手料理をずっと食べれなかったから・・・少し寂しかったかも。」
 「まあ♪」

 とても嬉しそうな笑顔で、浴室に入る美羽を見つめる美鳥。
 そんな美鳥の笑顔を見て、美羽は泊りがけの大会で疲れ切った心と身体が、随分と癒されたような気がしたのだった。