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アカイイト外伝・紡がれし心

最終話「光溢れる未来へ」(前半)


1.祈り


 今日は祭りの最終日という事で、経観塚の商店街は多くの人々で賑わっていた。
 地元の人間だけでなく遠方からも沢山の観光客が訪れ、誰もが祭りのクライマックスをその目で見届けようと活気溢れた表情をしている。
 だがそれ故に、問題行動を起こす者たちも多数存在する訳で・・・あちこちで騒ぎを起こす者たちを、警察や警備会社の者たちが忙しそうに取り押さえていた。
 良い意味でも悪い意味でも、今の経観塚は活気に溢れていると言っていいだろう。

 そんな経観塚の活気から離れ、桂は羽様の屋敷で美羽の無事を静かに祈り続けていた。
 羽様に住む多くの人々が祭りに参加しており、今の羽様は経観塚とは正反対で深い静寂に包まれている。
 羽様に残った桂たちだけが、経観塚の活気から完全に浮ついてしまっているのだ。
 まるでこの世界が、桂たち以外誰もいなくなってしまったのではないかと・・・そんな錯覚さえも引き起こしてしまいかねない程までに。 

 「羽藤さん、そろそろ夕食の準備が出来る頃ですわ。」

 相馬党から派遣された鬼切りの少女の1人が、居間で静かに祈り続ける桂を呼びにやって来た。
 柚明とサクヤが夕食を作っている台所から、とても香ばしい匂いが漂っている。
 桂たちだけでなく鬼切りの少女たち3人の分も作らないといけないという事で、今日の夕食は人数分まとめて作れるカレーにしたようだ。
 今までこの屋敷に泊めて貰ったお礼だという名目で、材料費は全額葛が負担したようだが。

 「・・・だけど・・・美羽ちゃんと烏月さんが・・・」
 「野咲さんと千羽さんを心配する羽藤さんのお気持ちは理解出来ますが・・・それでも羽藤さんがお身体を壊してしまわれたら何にもなりませんわ。」
 「・・・でも・・・」
 「戦いを終えた野咲さんが帰る場所を用意してあげたいから、だから野咲さんを信じてここで待つ・・・貴方はそう言って、ここに残る事にしたのでしょう?」

 柚明やノゾミと共に早急に経観塚を離れるよう烏月に薦められた桂だったが、それでも桂はここに残って美羽の帰りを待つ事を決意した。
 スミレとの戦いを終えて疲れ切った美羽が、安心して帰って来られる場所を用意してあげないといけない・・・それにどの道『ユグドラシル』が起動してしまえば、世界中のどこにいても結局は同じ事だからと。
 だから、桂は美羽を信じてここに残る事にしたのだが・・・それでも桂はどうしても美羽の事が心配で、不安になってしまう。
 不安で不安で、祈らずにはいられなくなってしまう程までに。

 下らない計画の為に真弓のクローンとして生み出され、大切な者を目の前で失い、身も心もボロボロになってしまった美羽。
 そして絶望から希望へと立ち直っても尚、美羽はスミレとの戦いに挑もうとしている。
 美羽にはもうこれ以上、辛い思いをして欲しくないのに。廃人寸前になってしまう程までに、辛い思いをしてきたというのに。
 どうしてこの世界は、美羽に対してここまで過酷な運命を強いてしまうのか・・・桂は言いようの無い理不尽さのような物を感じていた。

 「・・・死を誇らないで。死を恐れなさい。」
 「・・・え?」

 そんな桂に、鬼切りの少女が優しく語りかけてきた。

 「死ぬ覚悟で戦うのではなく、生きる覚悟を持って戦いなさい。自分の命を犠牲にしてでもとか、生き恥を晒したくないとか、そんな時代遅れな戯言は絶対に口にしたら駄目よ・・・野咲さんが私たちに言って下さった言葉ですわ。」
 「・・・美羽ちゃんが・・・そんな事を・・・」
 「だから野咲さんは、篠原さんと刺し違えるつもりは微塵も無い・・・絶対に生き残る覚悟で篠原さんと戦っているはずですわ。ですからあの人は必ず、生きてここに戻ってきますよ。」

 戦いに無様に負けて生き残り、生き恥を晒す位なら潔い死を・・・もしくは自らの命と引き換えにしてでも敵を倒す・・・そういった『死の美学』を、美羽は時代遅れの戯言だとして嫌っているのだ。
 1つしか無い命、一度だけの人生。それを何故そんなに簡単に散らせなければならないのか。

 それに死んでしまえば、その者の親しい者たちを悲しませる事になってしまう。
 それを理解出来なければ、本当の意味で大切な人たちを守る事は出来ないのだと。
 その事を美羽は、新人鬼切りの少女たちに諭していたのだ。
 死を誇るな。死を恐れろ。死ぬ覚悟を持つな。生きる覚悟を持って戦えと。

 そんな美羽だからこそ、簡単に命を投げ出すような真似をするはずがない、必ず生きて戻ってくるはずだと・・・鬼切りの少女はそう信じて疑わなかった。
 だからこそ鬼切りの少女は、不安に心を支配されている桂に諭しているのだ。
 美羽の事を信じろと。美羽は必ず戻ってくると。
 そして美羽の事を飛び切りの笑顔で出迎える事こそが、今の桂に与えられた役目なのだと。

 「桂ちゃ~ん、晩御飯が出来たわよ~。」

 桂の下に、柚明の穏やかな声が届いた。
 どうやら夕食の準備が整ったようだ。香ばしいカレーの匂いが桂の食欲を刺激する。

 「さあ、行きましょう羽藤さん。野咲さんの無事を祈るのはいいですが、その前にしっかりと腹ごしらえをしなければ。戻ってきた野咲さんを、飛び切りの笑顔で出迎える為に。」
 「・・・うん・・・そうだよね・・・」
 「それに私も、いい加減お腹が空いてしまいましたわ。だから早く行きましょう。うふふ。」

 鬼切りの少女に手を引っ張られ、桂は皆が集まっている部屋へと向かっていく。
 そう・・・彼女の言う通りだ。美羽を信じて待つと決めた桂が、美羽の無事を信じる事が出来なくてどうするというのか。
 美羽は桂に約束したのだ。スミレを倒し、必ず生きてここに帰ってくると。
 死んでしまった奈々の分まで、絶対に幸せを掴まなければならないのだと。 
 だから美羽は必ず戻ってくる・・・スミレを倒して、桂たちの下に。

 (美羽ちゃん・・・私は美羽ちゃんの事を信じてるから・・・)

 自分の右手を優しく握る鬼切りの少女の右手を、桂はぎゅっと握り返したのだった。

2.神の力を継ぎし者


 「スミレ様の邪魔をする者は全て殺す・・・それが私の使命・・・」
 「くそっ・・・!!」

 美羽に雪奈を斬らせない為に、美羽とスミレから雪奈を引き離した烏月だったが、雪奈の猛攻の前に完全に防戦一方だった。
 雪奈が繰り出す無数の月光蝶の前に、中々反撃の糸口を掴めない。
 僅かな隙を突いて繰り出す斬撃も、障壁に阻まれて雪奈まで届かない。

 「大した物だ・・・柚明さんといい勝負かもしれないな・・・!!」
 「・・・・・。」
 「だが、それでも私は!!」

 それでも烏月は諦めない。維斗を構え直して雪奈を真っ直ぐに見据える。
 美羽の代わりに、自分が雪奈を斬る・・・美羽の心に余計な傷を付けさせはしない・・・烏月はそう心に誓ったのだ。
 美羽には、兄を殺してしまった自分と同じ苦しみを味合わせたくないから。

 「それでも私は、貴方を倒す!!」

 その想いを胸に秘め、烏月は再び雪奈に斬りかかった。
 そして烏月と雪奈が死闘を繰り広げる最中、美羽とスミレもご神木の目の前で、壮絶な戦いを繰り広げていた。
 2人の剣が何度もぶつかり合い、2人の周囲に糸状の閃光が走る。

 「行け!!氷のアーゼ!!」

 一旦スミレから距離を取った美羽に、スミレの式神が襲い掛かった。
 氷の盾が無数の氷の刃に分離し、それが全方位から美羽に襲い掛かる。
 スミレは剣だけでなく、術に関しても相当な使い手のようだ。

 「この程度の攻撃で・・・!!」

 それでも美羽は怯まない。まるで背中にも目が付いているかの如く、美羽はスミレが放った氷の刃を全て皇牙で粉々に叩き伏せた。

 「中々やるじゃないか。美羽。」
 「そうやって余裕をかましていられるのも・・・今のうちだけよ!!」

 スミレが放つ金色の光弾を次々と皇牙で斬り捨てながら、美羽は一気にスミレとの距離を詰める。
 スミレを皇牙の間合いに捕らえた美羽。
 渾身の力を込めた一撃を、思い切り振り下ろす。

 「貰ったぁっ!!」

 だが、その瞬間・・・スミレの体が突然金色に輝いた。

 「な・・・!?」

 スミレがデスペラードを薙ぎ払った瞬間、一筋の金色の閃光が美羽に襲い掛かった。
 慌ててそれを皇牙で受け止める美羽だが、堪え切れずに吹っ飛ばされてしまう。

 「ぐっ・・・!!」

 どうにか体勢を立て直す美羽だったが、予想外のスミレの力に驚きを隠せなかった。
 全身を金色に輝かせたスミレが、威風堂々と美羽を見据えている。
 それはまるで、神が人間を見下すかのように。 

 「美羽。実は1つだけお前に言い忘れていた事があってな。」
 「・・・っ!?」
 「私はオリジナルである星崎栞だけではなく、源一郎の手によって朱雀皇女乃姫の戦闘データもプログラムされているのだよ。」
 「朱雀皇女乃姫の・・・!?」
 「この力こそが、私の身に流れる『神の血』の力・・・そしてこれが朱雀皇女乃姫の秘術の1つ、光翼鳥だ。」 

 スミレの周囲を、無数の金色の小鳥が舞っていた。
 美羽と柚明が行使する月光蝶と同じく、純粋な聖なる力。
 全身を金色に輝かせ、その美しくも神々しい今のスミレの姿は、まるで・・・

 「・・・神の・・・化身・・・!?」
 「そうだ。」

 自信に満ちた不敵な笑顔で、スミレは美羽に高々と宣言した。

 「この私こそが、朱雀皇女乃姫の力を受け継ぎし者・・・そして腐り切った人間どもを平定し、この世界を真の理想郷へと導く・・・神の化身だ!!」

 無数の光翼鳥が、全方位から一斉に美羽に襲い掛かる。
 慌てて美羽は月光蝶で相殺しようとするが、あまりの威力の前に完全に押されていた。
 青と金の力の奔流が美羽とスミレを包み込み、2人の周囲に火花が走る。

 「くっ・・・この威力は・・・っ!!」
 「どうした美羽?お前の力とはその程度なのか?」
 「私は負けない・・・負けられない!!」

 月光蝶を突き破った光翼鳥を辛うじて避けながら、美羽は渾身の一撃をスミレに放った。
 蒼白に輝く美羽の皇牙が、スミレに迫る。
 だが。

 「相馬剣聖流奥義!!雷光爆流破ぁっ!!」
 「ふふふ・・・甘いな!!美羽!!」

 金色に光り輝くスミレのデスペラードが、それを軽々と受け止めた。
 ギシギシとデスペラードが悲鳴を上げるが、それでもスミレは余裕の笑みを崩さない。
 それはまさしく、美羽とスミレの圧倒的なまでの実力差の証だ。
 神の化身と化したスミレの力は、完全に美羽を凌駕していた。
 それを敏感に感じ取り、美羽の表情に焦りが見え始める。 

 「くっ・・・!!」
 「活目するがいい!!これが『伝説の女剣士』と呼ばれた星崎栞の剣術だ!!」

 世界レベルのフェンシングの達人で、あの『当代最強の鬼切り役』と呼ばれた羽藤真弓と双璧を成す最強の剣士・・・そう鬼切り部から評価されている程の、星崎栞の圧倒的なまでの力。それがそっくりそのまま美羽に襲い掛かった。
 剛直さと精密さを兼ね備えたスミレの斬撃が、容赦無く美羽を追い詰めていく。

 「羽藤真弓の遺伝子を受け継ぐお前を倒す事で、私はこの日本において唯一無二の存在となる!!そしてこの私がこの腐り切った世界を粛清し、真の理想郷を作り出すのだ!!」
 「世界中の人々が常に誰かに監視されて、あらゆる自由が認められない世界・・・そんな世界で、本当に皆が幸せになれると思っているの!?」
 「常に誰かに監視されるという事は、逆に言えば世界中の誰もが絶対的な存在によって守られ、生活を保障されるという事だ!!」
 「そんな檻の中に閉じ込められた世界なんか、本当の平和な世界じゃ無いわよ!!」

 スミレの圧倒的な猛攻に押されながらも、美羽はスミレの思想に真っ向から反論していた。
 源一郎の傍らで、世界中の人間たちの愚かな姿を目の当たりにしてきたスミレ。
 世界中で多くの人間たちが下らない犯罪や争い事ばかり起こし、理不尽な理由で毎日のように沢山の人々が傷つき殺され、本当に救われなければならない人々が救われず、源一郎のような一部の愚かな人間たちが私腹を肥やし続ける。

 そんな今の腐り切った世の中にスミレは失望し、力尽くでも真の理想郷・・・『ディストピア』を作り出さなければならないと考えたのだ。
 そう・・・美羽が言うように、世界中の人間たちの全ての自由を奪い、管理という名の檻の中に閉じ込めようとも。

 世界中の人々が24時間体制で管理される世界・・・『ディストピア』。確かにそんな世の中なら世界中から犯罪や争い事を一掃し、世界中の誰もが飢えや貧困に苦しむ事も無く、平等に安定した生活を送る事が出来るだろう。
 確かにそれもまた、秩序に満ち溢れた平和な世界だと言えるのかもしれない。
 だが常に誰かの監視下に置かれて一切の自由が認められない世界が、本当に平和な世の中だと言えるのか。
 少なくとも美羽は、そんな世界を認めるつもりは無い。

 「私は認めない!!そんな偽りの平和な世界なんて!!」
 「そうでもしなければ今の腐り切った人間どもは、自らの手で滅びの道を歩む事になる!!」
 「そんな事!!」
 「お前とてこれまで身近で目の当たりにしてきたはずだ!!今の人間たちの身勝手で愚かな振る舞いをな!!」

 夜中に近所迷惑も顧みずに、爆音を響かせて公道を爆走する暴走族たち。
 ゲーム感覚で万引きをし、警察に捕まっても罪の意識を感じない子供たち。
 そんな子供たちを叱る事も無く、店が悪い、学校の教育が悪いなどと愚かな事を言い出すモンスターベアレントの親たち。
 他にも挙げれば切りが無い。弱い者を楽しそうにいじめる者、路上で平気でゴミをポイ捨てする者、マナーを守れない者、他人の迷惑も顧みない者、ルールも守れない者・・・
 ニュースで毎日のように報道されているし、美羽自身も彼らの愚かな姿を何度もその目で直接目撃して来た。

 これは美羽が住む日下だけの出来事ではない・・・世界中で問題になっている事なのだ。
 確かにスミレの言うように、世界中の人間たちを徹底した管理下にでも置かなければ、どうにもならない所にまで来ているのかもしれない。
 だが、それでも。
 美羽の脳裏をかすめる、桂と奈々の純粋な笑顔。
 そういう愚かな人間たちばかりではないという事を、美羽は知っているのだ。

 「人間全てが、そんな下らない人たちばかりじゃない!!」
 「ならばこの腐り切った世界はどう説明する!?何故多くの命が理不尽な理由で失われる!?何故救われなければならない者たちが救われない!?何故粛清されなければならない者たちが粛清されないのだ!?」

 スミレの放った無数の光翼鳥が、一斉に美羽に襲い掛かる。
 それを美羽は障壁を張って受け止めるが、圧倒的な力の前に完全に押されていた。
 ギシギシと、美羽が張った障壁が悲鳴を上げる。

 「私は貴方ほど急ぎ過ぎもしなければ、この世界に絶望もしていない!!」
 「既に改革を起こさなければならない所まで来ているのだ!!この世界は!!」
 「違う!!そんな事は無い!!」
 「ならば何故この世界は、こんなにも理不尽なまでに腐り切っているのだぁっ!?」

 無数の光翼鳥によって、美羽の障壁が激しい音を果てて破壊された。
 体勢を崩した美羽が目撃したのは、スミレが召喚した一体の巨大な極楽鳥。
 雪奈が収集した朱雀皇女乃姫のデータを元に、スミレが作り出した式神だ。
 開かれた大きな口から、超圧縮された黄金の光弾が収束される。

 「思い知らせてやろう!!今のお前には、ひとかけらも希望など無いという事をな!!」
 「くっ・・・!!」
 「行け!!ファントムアクリア!!トライディザスター!!」

 ファントムアクリアから放たれた超威力の光弾が、情け容赦なく美羽に襲い掛かる。
 体勢を崩した美羽は驚愕の表情のまま、避け切れずに光弾の中に飲み込まれてしまった。
 激しい爆音を響かせて、ご神木周辺が爆風に包み込まれる。

 「ふふふ・・・ふはははは・・・はーーーーっはっはっはっはっはっは!!」

 勝利を確信し、スミレは美羽がいた場所を見つめながら高笑いしたのだった・・・。

3.ユグドラシル・起動


 「美羽さん・・・くっ・・・!!」
 「人の心配をしている場合ですか?千羽烏月。」

 ご神木の方角からいきなり爆音が響いた事で、烏月は美羽の心配をするのだが、そんな烏月に雪奈の月光蝶が情け容赦なく襲い掛かった。
 雪奈の圧倒的な力の前に追い詰められ、烏月は肩で息をしてした。
 いや・・・圧倒的というよりも、雪奈に烏月の動きを全て読まれているようだ。
 常に雪奈に先手を打たれ、烏月は完全に後手に回ってしまっている。  

 「貴方の中には、私のデータも入っているという事か・・・!!」
 「いいえ、貴方だけではありません。今の私には現存する鬼切り部の、全ての者たちのデータが入っています。」
 「くそっ・・・!!」
 「大人しく降伏し、スミレ様の傘下に入りなさい。あの方は無益な殺生を好みません。」
 「奈々さんを殺しておいて、よくそんな事を平気で言えた物だな!!」
 「世の中には必要悪という物があるのです。それが理解出来ないのですか?」
 「ふざけるなぁっ!!」

 維斗を構え直し、烏月は再び雪奈に斬りかかる。
 例え雪奈に自分のデータを全て分析されていようとも、烏月は決して諦めない。
 そして烏月は信じていた。美羽が必ずスミレを倒してくれると。
 あれだけの圧倒的な力を見せ付けた美羽が、そんなに簡単に負けるはずがないと。
 だから、美羽が烏月を信じてくれている以上、烏月も雪奈を倒す事を諦めない。

 「はあああああああああああああっ!!」
 「馬鹿の1つ覚えですね・・・いい加減覚えたらどうなのです?」

 烏月の渾身の一撃を、雪奈は障壁を張って受け止めた。

 「こんな事で・・・諦めてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 烏月と雪奈が壮絶な戦いを繰り広げている傍らで、スミレは美羽が飲み込まれた爆煙を、勝利を確信した不敵な笑顔で見つめていた。
 美羽を倒した・・・確かな手応えをスミレは掴んでいた。

 「私とした事が、少々やり過ぎてしまったかもしれないな。出来れば美羽の身体の一部くらいは残っていて貰いたい物だが・・・」

 美羽をオハシラサマにしなければならないのに、その美羽の死体まで満足に残らないのであれば意味が無い。
 かと言って幾らスミレと言えども、美羽は手加減が出来るほど甘い相手では無いのだが。
 全力で戦わなければ、殺されていたのはスミレの方だっただろう。

 「ピーッ。」
 「ん?どうした?ファントムアクリア。」
 「ピーーーーッ。」
 「・・・何?生体反応があるだと?ほう、あれだけの一撃を受けてまだ生きていたとは。さすがは羽藤真弓の力を継ぎし者と言った所か。」
 「ピーーーーーーッ。」
 「最悪の場合は、美羽クローンをオハシラサマにしようかと考えていた所だったのだがな。生きているのなら余計好都合だ。とは言え、あれだけの一撃を受けて無事でいられるはずが・・・」

 だが、その瞬間。
 美羽を包んでいる爆煙から放たれた、一筋の蒼白の閃光。

 「何!?」

 そこからファントムアクリアに迫る、夕空を駆け抜ける蒼白の光。
 全身を青く白く美しく光り輝かせ、まさしく蝶の化身と化した美羽が放った光弾が、ファントムアクリアを派手に吹っ飛ばした。

 「ギエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 「ファントムアクリア!!」

 苦しそうな奇声を上げながらファントムアクリアはご神木に叩きつけられ、うずくまる。
 そのままの勢いで美羽は爆風の中を駆け抜け、皇牙でスミレに斬りかかった。

 「スミレェェェェェェェェェェっ!!」
 「美羽・・・貴様・・・!!」

 皇牙とデスペラードがぶつかり合い、2人の周囲に青と金の火花がほとばしる。
 そのまま鍔迫り合いの状態のまま、睨み合う2人。
 先程までとは違い、2人のぶつかり合いは互角だった。

 「貴様のその力・・・『贄の血』の力を解放したのか・・・!!」

 一旦間合いを離し、スミレは美羽の力を警戒してデスペラードを構え直す。
 だがその時、2人の頭の中に懐かしい声が響いた。

 (この時を待っていたよ。みゆみゆが『贄の血』の力を覚醒させる、この時を。)
 「な・・・!?」

 信じられない、あり得ない・・・美羽もスミレも驚きの表情になる。

 「馬鹿な・・・奈々!?」
 (スミレ。貴方の思い通りにはさせない・・・そうですよね?朱雀様。)
 「・・・っ!?」

 夕陽に照らされた『ユグドラシル』の下で眠り続ける、紅蓮の女神・朱雀皇女乃姫。
 美羽の覚醒と呼応するかのように、1000年以上にも渡る長い眠りから・・・今、目覚めた。
 その瞬間、神々しくそびえ立つ『ユグドラシル』が淡く金色に輝く。
 決して眩しく不快な物ではない、とても温かくて優しくて、安らぎを感じる光。
 それはまるで、朱雀の母性を体現しているかのように。

 「こ・・・これは・・・!?」
 (みゆみゆの心を怒りと絶望に染め上げてオハシラサマにして、朱雀様の力と合わせて『ユグドラシル』を起動し、その力で各地の偽みゆみゆを媒介にして、世界中の人々を24時間体制で管理して『ディストピア』を作り出す・・・確かに壮大な計画だよね。合理的だし、よく考えてると思うよ。)

 自信と希望に満ち溢れた声で、『ユグドラシル』から美羽とスミレの頭の中に響く奈々の声が、はっきりと宣言した。

 (だけどさ、スミレ・・・『その逆』の可能性は考えなかったのかな?)
 「な・・・『逆』だと!?」
 (そ。アンタじゃなくて『朱雀様が』ユグドラシルを掌握するという可能性をさ。)
 「・・・な・・・に・・・!?」

 全国各地に配置され、スミレの命令を待っている状態の100体もの美羽クローンたちが、『ユグドラシル』からの干渉を受けて一斉に機能を停止し、その場に倒れ込んだ。
 全国各地で、いきなり少女が倒れた事で通行人たちが大騒ぎになる。

 「ピィ・・・ッ・・・」

 そしてファントムアクリアもまた、光の粒子となって消えてしまった。

 「ファントムアクリアが・・・!?」
 (偽みゆみゆと偽アッキー・・・『ユグドラシル』とのリンク機能を持つ子たちは、全員朱雀様の手で機能停止に追い込んだよ。)
 「馬鹿な!?そこで眠っている朱雀皇女乃姫は、魂の無い抜け殻のはずだ!!私が調べた記録では、今の朱雀皇女乃姫は人間の娘に転生して・・・っ!?」

 言いかけて、スミレが辿り着いた1つの結論。
 驚愕の表情で、スミレは苦々しい表情でご神木を睨み付けていた。

 「まさか・・・『ユグドラシル』に残した肉体を、遠距離から遠隔操作したとでもいうのか・・・!?朱雀皇女乃姫・・・!!」
 (みゆみゆの力を借りる事で『ユグドラシル』を起動させ、その力をアンタの代わりに掌握する・・・そしてみゆみゆを媒介にする事で、『ユグドラシル』とリンクしている全国の偽みゆみゆたちを、一斉に機能停止に追い込む・・・これが朱雀様が企てていた計画だよん。)

 朱雀は覚醒した美羽を媒体にする事で、『ユグドラシル』の掌握を企てていたのだ。
 源一郎の野望やスミレの計画を阻止し、人々の自由を守る為に。
 仮に美羽をオハシラサマにされてしまっても、『ユグドラシル』に宿った美羽の力を逆に利用するまでの事。
 美羽がオハシラサマになろうがなかろうが、絶望に染まろうが希望に満ち溢れようが関係無い。
 どちらに転んでも、結局は朱雀の思い通りの結末になっていたという訳だ。   
 結局の所、スミレは朱雀の掌の上で踊らされていただけに過ぎなかったのだ。 

 (みゆみゆ。『ユグドラシル』は朱雀様が完全に掌握したから。だからみゆみゆは何も心配する事無く、思う存分スミレと戦って。)
 「奈々・・・!!」
 (他の誰でも無い・・・みゆみゆ自身の光溢れる未来の為に。)
 「・・・分かってる・・・分かってるよ、奈々・・・!!」

 朱雀の援護と奈々の励ましを受け、美羽はスミレを倒す。
 鬼切り部相馬党の鬼切り役としてではなく、野咲美羽という1人の女の子として。
 掴み取った平和の先にある、光溢れる未来を目指して。
 その為に美羽は皇牙を手に、これからも戦い続ける。
 今も、そしてこれからも。

 「私はこの皇牙で、私自身の未来を切り開く!!」
 「ふざけるなぁっ!!この人工生命体風情がぁっ!!」

 美羽とスミレが再び突撃し、2人の剣がぶつかり合う。
 蝶の化身と化した美羽と、神の化身と化したスミレ。
 『当代最強の鬼切り役』・羽藤真弓の遺伝子を受け継いだ美羽と、『伝説の女剣士』・星崎栞の遺伝子を受け継いだスミレ。
 互いに人間の限界を超えた2人の壮絶な戦いは、今まさに終幕を迎えようとしていた。