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アカイイト外伝・紡がれし心

第4話「絶望から希望へ」


5.夜空を駆ける蝶


 「皆・・・!!」

 桂と柚明の傍で、美羽は歯軋りしながらその戦いぶりを見つめていた。
 ノゾミはミカゲを相手に苦戦を強いられており、烏月とサクヤは相手が一般人故に殺してしまう訳にもいかず、峰打ちで気絶させるので精一杯だった。
 だがあまりにも数が多過ぎて、烏月もサクヤも少しずつ追い詰められてきている。

 美羽が美羽クローンと戦った時と同じだ。
 単体での戦闘能力は皆無だが、ミカゲによって操られているが故に痛みや恐怖を全く感じず、我が身を省みない特攻同然の攻撃を繰り出してくる。
 しかも美羽クローンの時とは違い、相手は一般人・・・殺してしまう訳にはいかないのだ。それに加えてあまりにも数が多過ぎる。
 烏月とサクヤにとって、これ程やりにくい相手はいないだろう。

 「がはっ・・・!!」
 「うふふ・・・あはははは・・・姉さまぁっ・・・!!」

 ミカゲの放った真紅の稲妻の直撃を受けて、派手に吹っ飛ばされるノゾミ。
 月光蝶を周囲に展開し、よろめきながらも立ち上がったノゾミに、ミカゲが物凄い笑顔でゆっくりと歩み寄っていく。
 その様子を、歯軋りしながら見つめている美羽。

 「ノゾミ・・・!!」
 「くそっ・・・このままでは皆が!!」
 「まだだ!!まだ諦めるんじゃないよ烏月!!」

 烏月とサクヤの周囲で沢山の人々が倒れていたが、その何倍もの数の人々が2人を取り囲んでいた。

 「烏月・・・サクヤさん・・・!!」

 桂と葛を守る為に・・・ノゾミが、烏月が、サクヤが傷ついていく。
 かと言って柚明が3人に加勢すれば、桂と葛への守りが手薄になってしまう。
 そして今のこの状況では救援は全く期待出来ない。警察や警備会社が駆けつけるにしても、祭りの警備で人員を割いている上にこの山奥では、かなりの時間が掛かってしまうだろう。

 「私のせいで皆が・・・このままでは皆が・・・!!」

 『ユグドラシル』の力を最大限に発揮させる為に、力の要である美羽の心を怒りと絶望に染め上げなければならない・・・その為にスミレはミカゲを差し向け、こうして桂たちを抹殺しようとしている。
 そして桂を守る為に、ノゾミも烏月もサクヤも傷ついている。

 「皆の命が・・・消えていく・・・!!」

 ミカゲが放った巨大な蛇に、身体を締め付けられるノゾミ。
 操られた人々の1人に顔面を殴られた烏月。羽交い絞めにされて必死に抵抗するサクヤ。
 皆が、桂と葛を守る為に傷ついていく。
 奈々と同じように、このままではスミレの思惑通り、桂たちの命も・・・。
 美羽の脳裏にフラッシュバックした、奈々がスミレの手で殺される光景。
 あんな思いをするのは、もう絶対に嫌だ。大切な人たちを、もう誰も死なせたくない。

 だから、美羽は戦う。
 大切な人たちを、今度こそこの手で守り抜く為に。
 奈々を失った、あの時の悲しみと絶望・・・もう二度と味わいたくないから。

 「そんな事は・・・させるもんかあああああああああああああああっ!!」

 その美羽の強く純粋な想いが、美羽の力を覚醒させた。
 美羽の身体が青く白く美しく光り輝き、背中から蝶の羽根が生える。
 その美しくも神々しい姿は、まさに蝶の化身だ。
 驚きの表情を見せる桂たちを尻目に、美羽は無数の月光蝶を展開する。

 「な・・・美羽ちゃん・・・!?」
 「月光蝶よ!!夜空を駆け巡れぇっ!!」

 美羽が放った無数の月光蝶が一斉に蒼白の粒子を撒き散らし、それがミカゲたちに一斉に降り注いだ。
 それはさながら、蝶が燐粉を撒き散らすかの如く。
 その美しくも神々しい光景に、桂たちは思わず見惚れてしまっていた。
 そしてミカゲに操られた人々が次から次へと安らかな表情で深い眠りへと落ちていき、烏月とサクヤとノゾミの傷を瞬く間に癒し、ノゾミを締め付けていた巨大な蛇をも弱らせていく。

 誰もが驚きの表情を隠せない最中、美羽は皇牙を手にノゾミの救援に向かった。
 美羽の皇牙が蒼白の光を放ち、夜空を美しく照らし出す。

 「相馬剣聖流奥義!!雷光爆流破ぁっ!!」

 美羽の渾身の一撃が、ミカゲが召喚した蛇を一刀両断にしてしまった。
 真っ二つにされてしまった蛇が、真紅の粒子となって消えていく。
 何の迷いも無い強い決意を秘めた瞳で、美羽はミカゲをじっ・・・と見据えた。

 「・・・馬鹿・・・な・・・っ・・・!?」
 「私はもう、目の前で大切な人を誰も死なせはしない!!」
 「何を・・・世迷い事をっ・・・!!」
 「もうこれ以上・・・誰も死なせるもんかああああああああああああああっ!!」

 美羽の身体を包み込む蒼白の光が、さらに強くなっていく。
 その凄まじい純粋な聖なる力が、ミカゲに対して凄まじい圧力をかけた。
 ミカゲは悟った。まともに戦えば確実に美羽に消されると。
 今の自分の力では、美羽には絶対に勝てないと。

 「野咲美羽・・・この娘がどうなっても構わないというのですか・・・!?」

 ミカゲは自分の足元で倒れている一般人の少女を、とっさに起き上がらせて羽交い絞めにし、その鋭い爪を少女の喉元に食い込ませた。
 このまま抵抗すれば、この娘の喉を掻っ切ると・・・ミカゲは美羽を必死に脅す。
 だが美羽は怯まない。何も気にする事も無く、威風堂々と皇牙を構える。

 美羽は、この状況で少女を助け出せる技を知っている。
 千羽妙見流の究極奥義・・・人を斬らずに鬼だけを斬る絶技。
 美羽はその技を習得していない。だが美羽に流れる真弓の遺伝子が、はっきりと美羽にそれを伝えてくれているのだ。
 狙うはただ一点・・・ミカゲの胸元。 

 「相馬剣聖流奥義・・・天竜牙突槍・・・!!」 
 「馬鹿な・・・貴方は正気なのですか!?この娘ごと私を殺すというのですか!?」
 「・・・それに加えて・・・!!」
 「・・・っ!?」

 防御を無視した、極限なまでの『突き』。
 ミカゲに繰り出された美羽の皇牙から、一筋の蒼白の槍が放たれる。

 「・・・千羽妙見流奥義!!鬼切りぃっ!!」

 まさに、千羽妙見流と相馬剣聖流の融合。
 蒼白の槍が少女ごとミカゲを貫き・・・ミカゲだけが派手に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。

6.ミカゲの最期


 ずるずると、力無く壁にもたれかかるミカゲ。
 少女の身体を抱き止めた美羽を、ミカゲは驚愕の表情で見つめていた。
 烏月以上の剣士であり、柚明以上の術者でもある・・・まさに圧倒的な美羽の力。
 ミカゲがこれ程までの化け物に出会ったのは、まさに10年前の真弓以来だ。
 美羽は威風堂々と、何の迷いも無い力強い瞳で、ミカゲの事を見据えている。 

 「・・・の・・・野咲美羽・・・貴方はどうして・・・そんなに希望に満ち溢れた瞳をして・・・いられるのですか・・・?」
 「・・・・・。」
 「貴方は篠原スミレによって・・・絶望の底に突き落とされたというのに・・・不知火奈々を失い・・・野咲雪奈に見捨てられ・・・一人ぼっちになってしまった貴方が・・・どうして・・・」
 「・・・絶望に打ちひしがれていた私の心を、桂が紡いでくれたからよ。」

 そう・・・桂がいてくれたから、美羽はこうして立ち直る事が出来た。
 桂が、ズタズタになってしまった美羽の心を紡いでくれたから。
 桂のお陰で、美羽の心は絶望から希望へと這い上がる事が出来た。
 いや、美羽だけではない・・・柚明も、烏月も、サクヤも、葛も、ノゾミも・・・誰もが桂の優しさと温もりに心を救われたのだ。

 オハシラサマとして10年間、孤独の寂しさに胸を締め付けられた柚明。
 自らの手で、大切な兄を斬ってしまった烏月。
 大切な人たちを、目の前で次々と失ってしまったサクヤ。
 壮絶なコドクの儀式に巻き込まれ、自らの血縁者たちをこの手で殺してしまった葛。
 両親から愛情を受ける事無く、虐待まがいの扱いをされたノゾミ。
 今ここにいる全員が、桂のお陰で心を救われたのだ。

 「・・・ふ・・・ふふふ・・・羽藤桂・・・本当に・・・忌々しい女・・・」
 「・・・ミカゲ・・・」
 「あの女さえいなければ・・・姉さまはずっと・・・私の傍に・・・いてくれたはずなのに・・・」

 主の復活の為に手中に収めようとしていた桂に、ノゾミを奪われてしまった・・・ミカゲにとってこんな皮肉な話は無いだろう。
 美羽の一撃によって、ミカゲは今にも浄化されて消え去ろうとしている。

 そんなミカゲの元に、桂が柚明に付き添われて歩み寄ってきた。
 桂にとっては、全ての元凶。10年前に不用意に彼女とノゾミの封印を解いてしまったせいで、全ての歯車が狂ってしまった。
 だからこそ桂は、ミカゲの最期をこの目でしっかりと見届けなければならないと思ったのだ。 
 目に涙を浮かべながら、それでも強い意志を秘めた瞳で、桂は美羽の隣でじっ・・・とミカゲを見据えている。

 「・・・今なら・・・分かる気がします・・・どうして姉さまが私ではなく・・・貴方を選んだのか・・・」
 「・・・ミカゲちゃん・・・」
 「私はもしかしたら・・・姉さまの事が・・・羨ましかったのかもしれません・・・貴方という温もりを手に入れた・・・姉さまの事が・・・」
 「・・・・・。」
 「ふふふ・・・本当に・・・忌々しい女・・・」

 桂はノゾミにとって、生まれて初めて自分の為に泣いてくれた存在だ。
 そしてノゾミは桂によって命を救われ、こうして桂の傍で新たな人生を歩もうとしている。
 これからのノゾミにはきっと、桂や柚明と笑いながら過ごす、穏やかで幸せな・・・それでいて刺激的な毎日が待ち受けているに違いない。

 それに比べたらミカゲは・・・主やスミレの道具として、誰にも愛情を注がれる事も無いまま、こうして美羽に敗れて消え去ろうとしている。
 せめて桂がこうしてミカゲの為に泣いてくれている事が、ミカゲにとって唯一の救い・・・いいや、桂に姉を奪われたミカゲにとっては、むしろ屈辱なのかもしれないが。

 「野咲美羽・・・明日の夕方5時・・・貴方は本当に篠原スミレの下に・・・行くのですか・・・?」
 「ええ。スミレは私が必ず倒す。それが今の私に出来る、奈々への精一杯の償いよ。」
 「・・・では貴方は・・・野咲雪奈を本当に・・・その手で殺せるのですか・・・?」
 「・・・・・。」 
 「ふふふ・・・せいぜい地獄で・・・見させて頂きますよ・・・絶望から希望へと這い上がった貴方が・・・篠原スミレと野咲雪奈を相手に・・・どこまで・・・やれるの・・・か・・・を・・・」

 それだけ言い残して、ミカゲはとても安らかな表情で、今度こそ本当に成仏して消滅した。
 ミカゲの魂が天へと導かれていくのを、美羽は確かにこの目で見届けた。
 決意を秘めた瞳で、美羽は皇牙を鞘に収める。

 「・・・分かってるわよ。雪奈お姉ちゃんがスミレの手先である以上・・・絶対に倒さなければならない相手だという事くらい・・・」

 雪奈は美羽の従姉などではない。それは源一郎が美羽に植えつけた、偽の記憶なのだ。
 そして雪奈はスミレによって人格プログラムを書き換えられ、スミレの忠実なる下僕に成り果ててしまっているのだ。
 それは美羽も頭では分かっている。だが源一郎に植え付けられた偽の記憶が、美羽の決意をどうしても鈍らせてしまう。

 だがスミレと敵対する以上、確実に雪奈は美羽の前に立ちはだかる事になるだろう。
 元オハシラサマとしての、強大な力を持つ術者として。
 そして己の命を犠牲にしてでも、雪奈は全力でスミレを守ろうとするはずだ。
 だから雪奈が、美羽の邪魔をするというのなら・・・

 「私が、雪奈お姉ちゃんをこの手で・・・!!」
 「いや、それは駄目だよ。美羽さん。」

 覚悟を決めようとした美羽の肩を、烏月が右手でポン、と叩いた。

 「仮に貴方が雪奈さんを斬ったとしても、確実に貴方の心に深い傷を残す事になるだろう。」
 「・・・それは・・・だけど・・・」
 「私は貴方に、私と同じ苦しみを味わって貰いたく無いんだよ。」

 烏月は大切な存在である兄を自らの手で殺してしまい、心の中に深い傷を残してしまった。 
 美羽が雪奈を斬ってしまえば、烏月と同じ苦しみを味わう事になりかねないのだ。
 経験者である烏月だからこそ、それがどれだけ辛い事なのか充分に分かる。
 だから烏月は、そんな事は絶対にさせない。
 美羽には、スミレとの戦いに集中して欲しいから。
 スミレを倒して、光溢れる未来を掴み取って欲しいから。

 「明日の夕方5時・・・私も美羽さんに同行させて貰おう。」
 「烏月・・・」
 「嫌とは言わせないよ。スミレさんの『ディストピア』は、何としてでも阻止しなければならないのだから。もう貴方1人だけの問題で済ませられるような事態では無いんだ。」
 「・・・うん・・・ありがとう、烏月。」
 「スミレさんは美羽さんに任せるよ。雪奈さんと戦うのはこの私だ。貴方の心に余計な傷を付けさせはしない。」

 強い決意を秘めた瞳で、烏月は美羽にはっきりと告げた。

 「・・・雪奈さんは・・・私が斬る。」

7.決戦


 それから美羽は桂たちと共に屋敷で一泊し、桂たちと共に朝食と昼食を食べ、桂たちと共に穏やかな時を過ごし、居間で瞑想して精神統一を図り・・・スミレによって傷つけられた、心の傷の回復に務めた。
 そして桂たちに見送られながら、美羽は烏月と共にご神木へと向かう。
 源一郎が邪神クジャだと偽った、紅蓮の女神・朱雀皇女乃姫が眠るご神木へと。
 まさか3回もこの地に足を運ぶ事になるとは、美羽も思っていなかったようだが。

 葛からの要請で援軍として駆けつけた相馬党の鬼切り3名が、桂たちを守る為に屋敷で警備体制を敷いている。
 全員が奈々と同じ、まだ駆け出しの新人鬼切りの少女たち・・・実戦経験が一度しか無く、スミレや雪奈を相手に戦えるだけの実力も持ち合わせていないという事で、こうして葛の指示で桂たちの護衛に回る事になったのだ。
 相馬党も他の党と同じように人手不足で、何よりも源一郎の死とスミレの裏切りによって党内は混乱しており、新人3人を援軍に寄越すのが精一杯だったようだ。

 桂は烏月から、柚明やノゾミと共に早急に街に帰る事を薦められたのだが、戦いを終えた美羽が身も心も癒せる場所を用意してあげなければいけないとして、ここに残って美羽の帰りを待つと主張して譲らなかった。
 残り100体残っているという美羽クローンがどこに潜んでいるか分からないし、どの道『ユグドラシル』が起動してしまえば、結局は世界中のどこにいても同じなのだから。
 だったら美羽を信じて帰りを待つと・・・桂は烏月にそう告げたのだ。

 「・・・来たな。約束の時間より少しばかり早いようだが。」

 夕方4時50分・・・美羽と烏月が、スミレと雪奈が待つご神木に辿り着いた。
 雪奈はとても幸せそうな表情で、スミレの身体にしがみついている。

 「よく来たな千羽烏月。予定していなかった来訪者ではあるが、歓迎しよう。」
 「貴方が篠原スミレ・・・相馬党の裏切り者か。」
 「裏切る?それは違うな。私は『ディストピア』実現の為に、最初から相馬党を利用していただけに過ぎないのだよ。と言うか、兄殺しのお前に裏切るとか言われるのは心外だが・・・ふふふ。」
 「・・・そうやって貴方は、美羽さんの心をズタズタに引き裂いたのか・・・!!」

 烏月は維斗を構え、とても厳しい表情でスミレを睨み付ける。
 対照的にスミレの表情は、まさに余裕その物だ。

 「美羽さんと朱雀皇女乃姫の力で『ディストピア』を実現させ、世界中の人々の全ての自由を奪い、24時間体制で管理しようなどと!!」
 「人間たちが自分たちの都合で動物を管理しているのと同じだ。」
 「貴方はこの世界の、神にでもなるつもりなのか!?」
 「そうだ。そうでもしなければ人間たちは近い将来、自らの手で滅びてしまうだろう。」

 スミレはこれまで源一郎の傍で、この世界の人間たちの無様な醜態を何度も何度も目の当たりにしてきた。
 殺人、強盗、強姦、窃盗、ひき逃げ、放火、恐喝、詐欺、脱税・・・毎日のように世界中で下らない事件ばかり報じられ、テレビのニュースで下らない内容の特集が毎日のように報道されている。

 夜中に爆音を響かせながら、公道を集団で爆走する暴走族たち。
 ゴルフ禁止の河川敷で、下らない言い訳を並べながら平然とゴルフをする中年の大人たち。
 ゲーム感覚で万引きをし、警察に捕まっても全く罪の意識を感じていない子供たち。
 全国の成人式で下らない騒ぎを起こし、注意されると逆ギレする若者たち。

 他にも挙げれば切りが無い。本当に腐った連中ばかりだと・・・今の人間たちにスミレは心の底から失望しているのだ。
 ある意味スミレは、桂以上に純真な心の持ち主なのかもしれない。
 純真であるが故に、スミレは人間たちの負の部分に誰よりも深く影響されてしまい、『ディストピア』による完全管理社会を目指すようになってしまった。

 もし、スミレを生み出したのが源一郎のような愚かな人間でなければ・・・スミレに愛情を与えてくれる存在がいてくれたら。
 きっとスミレは美羽と共に正義感溢れる鬼切り役として、力無き人々を守る為にその力を振るっていたかもしれないのに。
 何かの歯車が狂って、こんな事になってしまったのだ。 

 「美羽。お前はまさにその為だけに生み出された存在なのだ。『ユグドラシル』の力の要として、朱雀皇女乃姫と共に人間たちを粛清する為にな。」
 「・・・・・。」
 「それがお前の天命・・・お前の存在意義なのだ。いい加減それを受け入れるのだな。」
 「・・・私の存在意義は、誰にも決めさせはしない。私の存在意義は私が決める。」

 皇牙を鞘から抜き、美羽は威風堂々とスミレに突きつけた。
 昨日までのような絶望に満ちた表情とは違う・・・希望に満ち溢れた力強い瞳で。
 そんな美羽の瞳に、スミレは何とも不機嫌そうな表情を見せる。

 「やれやれ、折角手間暇かけてお前を絶望のどん底に突き落としたというのに・・・昨日までの間に、一体お前に何があったのだ?」
 「桂が私の心を紡いでくれたのよ。だから私は烏月と共に、こうして今ここにいる。」
 「・・・そうか。ミカゲの寄り代が壊れたから気になってはいたのだが・・・ミカゲを倒したのはお前なのだな?そしてお前は羽藤桂と出会い、心を救われたのか。」
 「奈々を殺した貴方を、私は絶対に許さない・・・貴方が憎いっていう気持ちがある事も、私は否定しない。」

 美羽がスミレを憎む・・・それもまた、まさにスミレの計画通りに過ぎないのだ。
 『ユグドラシル』の力を最大限に発揮する為には、力の要である美羽の心を怒りと絶望で満たさなければならないのだから。
 だが、それでも。

 「それでも私は、怒りや憎しみの心で戦ったりはしない・・・大切な人たちを守る為に、そして私自身の未来を掴み取る為に、その為に私は貴方と戦う!!」
 「口上は達者だな。私を倒し、正義の味方でも気取るつもりか?」
 「私は最初から、正義の味方気取りで鬼切り役になったつもりは無いわ!!」
 「ふふふ・・・そうだな。お前はそういう奴だったよな。」

 美羽が相馬党の鬼切り役になったのは、雪奈を助け出す為。
 その為に、その為だけに、美羽は鬼切り役として鬼と戦う道を選んだのだ。
 そしてこれからは、大切な人たちを守る為に・・・そして美羽自身の光溢れる未来を掴み取る為に、美羽はこれからも皇牙を手に戦い続ける。
 昔も今も・・・そしてこれからも。

 「ならばお前を苦しませて絶望を味あわせた上で殺し、死体を『ユグドラシル』に埋め込むまでだ。本当ならば生かしたままオハシラサマにしたかったのだが・・・致し方あるまい。」
 「貴方の下らない計画を阻止し、私は私自身の幸せを掴んでみせる!!」
 「いい覚悟だ!!それでこそ潰しがいがあるという物!!」

 雪奈がスミレを守る為に、月光蝶を蒼白の剣に収束させて美羽に斬りかかろうとする。
 だがその間に烏月が割り込み、雪奈の剣を維斗で受け止めた。
 そのまま美羽とスミレから引き離す為に、烏月は雪奈に猛攻を仕掛ける。

 「貴方の相手は、この私だぁっ!!」
 「スミレ様・・・!!」
 「はあああああああああああああああああああああっ!!」

 傍らで烏月と雪奈が凄まじい戦いを繰り広げる中・・・美羽とスミレは互いに睨み合い・・・

 「私は負けない!!生きて必ず桂の下に帰ってみせる!!」
 「いいだろう!!絶望から希望へと這い上がったお前に敬意を表し、この私の全身全霊の力で相手をしてやろう!!」
 「野咲美羽!!霊剣皇牙!!」
 「篠原スミレ!!魔剣デスペラード!!」

 互いの剣(たましい)の名を告げ、美羽とスミレは互いに剣を構える。
 そして。

 「目標を!!」
 「いざ尋常に!!」
 「駆逐する!!」
 「勝負!!」 

 美羽とスミレは互いに突撃し・・・2人の剣が火花を散らしてぶつかり合った。