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アカイイト新章・神の化身の少女

前章「絶望の果ての光」(後半)


6.絶望の果ての光


 「ネットの巨大掲示板を見るとよ・・・レックスコーヒーの事を『甘過ぎる』とか『練乳を入れるな』とか、随分と酷評している奴らが大勢いるんだが・・・」
 「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・!!」
 「最近の若者の味覚はどうなってやがるんだろうなぁ?この甘さこそが王者の風味だって事が、何で分からねぇんだろうなぁ?」
 「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・!!」

 自動販売機の近くのベンチに腰掛けて偉そうな態度で足を組みながら、隻眼の男はニヤニヤしながら、自分に敗北して片膝を付いている京介を睨み付けていた。
 そして隻眼の男のコートは、京介の攻撃によって傷だらけになってしまっている。
 強がってはいるが、それでも隻眼の男も京介の攻撃でダメージを受けているのだ。

 「別に恥じるこたぁねぇよ。この俺に邪眼を使わせた事・・・誇りに思いやがれ。」
 「くそっ・・・くそぉっ!!」

 京介はボロボロになりながらも、その瞳は闘志を失ってはいなかった。
 そして強い闘志の中から感じられる、深い絶望と悲しみ。そしてこの世界への怒りと憎しみ。
 そんな京介を見て、隻眼の男は理屈抜きに京介に感心し・・・京介に強い興味が沸いてきた。
 京介が鬼切り部と敵対しているらしいという事もあるが、それよりも隻眼の男が興味を持ったのは、京介から感じ取った強く深い負の感情だ。
 ただの人間が一体何をどうしたら、こんなにも凄まじい鬼の形相をする事が出来るのか。 

 「で・・・お前、鬼切り部となんかあったのかよ?」
 「・・・な・・・何・・・!?」
 「さっき言ってたじゃねぇか。僕の事を殺しにきたのかってよ。」
 「ふ、ふざけるなぁっ!!おおおおお前は鬼切り部じゃないってのかぁっ!?」
 「あぁ?俺をあんなクソみたいな組織と一緒にすんなタコ。殺すぞ。」

 レックスコーヒーをグビグビと一気飲みして、隻眼の男はふぅ~~~っ・・・と大きな溜め息を付く。

 「俺はお前に『鬼切り部だったらどうするよ?』って聞いただけであって、別に鬼切り部の一員だなんて一言も言ってねぇんだがなぁ。むしろ俺にとって鬼切り部は敵なんだが・・・。」
 「じゃ、じゃあ何で僕に戦いを挑んだりしたんだ!?」
 「そりゃあお前、決まってんだろうが。お前に興味が沸いたんだよ。」
 「な・・・興味が沸いたって・・・」
 「お前、中々面白ぇ奴だなぁ。何でそんなにも鬼のような形相をしてやがるんだ?あ?」

 予想外の出来事に、京介はあっけに取られてしまっている。
 目の前の隻眼の男が鬼切り部の刺客だと思っていたのだが、この男は逆に鬼切り部が敵だと言い切ったのだ。
 そして隻眼の男は、自分に興味が沸いたと・・・面白い奴だと。
 先程まで自分を殺そうとしていた男を相手に、変な先入観を持たない図抜けたこの態度。
 器が大きいと言うべきなのか・・・それとも傲慢で馬鹿だと言うべきなのか・・・。

 「・・・で、もう1度聞くぞ。お前、鬼切り部と何があった?」
 「・・・・・。」
 「お前はどうやら鬼切り部に追われているようだが・・・さっきも言った通り、俺はその鬼切り部と敵対している立場でなぁ。だからお前に何かあったのか、話だけなら聞いてやらなくもねぇぞ?」
 「・・・僕を・・・助けてくれるって言うのか・・・!?」
 「それはお前の話の内容次第だ。お前を助ける事が俺の野望達成に繋がるってんなら、お前に合力してやらなくもないぜ?」
 「・・・・・。」

 目の前の男に対して疑心暗鬼になりかけた京介だったが、それでもこの男に話だけでもしてみたいと思った。
 そもそもこの男が京介を殺そうと思えば、先程の戦いで充分に殺す事が出来たはずだ。
 それにこの男は、鬼切り部に敵対する立場だと・・・京介にそう言い切った。

 それが嘘か真実かは分からないが、鬼切り部の立場なら真っ先に京介を殺す事を最優先したはずだ。だがこの男はそれをせずに、戦いで打ち負かした京介を『面白い奴だ』という理由で敢えて生かしたのだ。
 京介は烏月の祖父の陰謀により、全国の鬼切り部に『鬼と繋がっていた裏切り者』の烙印を押されてしまったのだから。実際に今日の昼頃に、京介は汀に命を狙われたのだ。

 「・・・僕は・・・つい最近まで・・・アンタが敵対している千羽党の術者だったんだ・・・。」
 「お前、本当に面白ぇ奴だなぁ。それが何で命を狙われる立場になっちまったんだよ?」
 「そんなの、逆に僕が教えて貰いたい位なんだよ!!」
 「・・・はぁ?」

 京介は、隻眼の男に全てを話した。
 自分が烏月にスカウトされて千羽党に入り、1カ月近くもの間、人々を守る為に必死に戦ってきたのだという事。
 だがある日突然、党首である烏月の祖父に呼び出されて、捏造された証拠資料を突きつけられて『鬼と繋がっている裏切り者』だと罵(ののし)られた事。

 それで千羽党どころか全国の鬼切り部に命を狙われる羽目になってしまい、銀行口座もクレジットカードも止められてしまい、僅かに残っていた現金も底を尽き、これまで警察に追われながらも幾多もの盗みを働いて、何とか食べ繋いでいたという事。
 そして・・・今日の昼に守天党に所属する女を追い払ったばかりだという事。

 「・・・で・・・お前は鬼切り部の連中をどうしたいんだよ?」
 「滅ぼしてやりたいさ!!これまで必死に働いてきた僕を陥れて裏切った、あの愚かな偽善者どもを!!・・・いいや、鬼切り部だけじゃない・・・こんなクソみたいな世界なんか、全て滅んでしまえばいいんだぁっ!!」
 「そうか・・・奇遇だなぁ・・・俺もこのクソみたいな世界を滅ぼしてやりてぇと思っていた所だ。この間も俺は千羽烏月とかいう小娘と戦ったんだが・・・」
 「烏月君と・・・それで、結果は・・・」
 「引き分けだよ。あの小娘、俺の思った以上に手強い奴だった。」
 「引き分けかよぉっ!!あんな奴、むごたらしく殺してやれば良かったんだぁっ!!」

 京介の言葉に、驚きを隠せない隻眼の男。
 理不尽な裏切りに遭ったとはいえ、かつての仲間に対してここまで言える、図抜けたその態度。
 隻眼の男は、ますます京介の事が気に入ったようだ。
 この男はある意味、人間どころか鬼さえも超越した領域にいる。それを隻眼の男は確信した。

 「ぷっ・・・ぶはははははは!!お前面白ぇよ!!本当に面白ぇよ!!」
 「な・・・何だよ・・・笑い事じゃ・・・」
 「いいぜ、お前の事が気に入った!!お前、俺と一緒に来いよ!!」
 「・・・へ?」
 「お前、この世界を滅ぼしたいとか言ってたよなぁ!!だったら俺と目指す道は同じだ!!」

 隻眼の男は立ち上がり、残っていたレックスコーヒーを一気に飲み干し、ペッドボトルを無造作に投げ捨てて立ち上がった。

 「小僧!!俺と一緒にこの腐った世界を滅ぼそうぜ!!」

 物凄く爽やかな笑顔で、隻眼の男はとんでもない事を言い切った・・・。
 そして、あっけに取られた京介に対し、そっ・・・と右手を差し出す。 

 「《剣》を手に入れ、瑠璃宮の門を開き、腐った人間どもに鉄槌を食らわせてやるんだよ!!その為にはお前の力が必要だ!!」
 「つ・・・《剣》!?瑠璃宮の門!?」
 「我が名は夷の王・馬瓏琉!!今日からお前は俺の部下だ!!俺について来い!!俺がお前にこの世界の終焉を見せてやる!!」
 「んな・・・!?」
 「お前の力を俺に貸せ!!お前が真に仕えるべきなのは鬼切り部のカスどもじゃねえ!!夷の王たるこの俺だ!!俺とお前の出会いは運命だったんだよ!!」

 理不尽な理由で鬼切り部に裏切られ、警察にも犯罪者として扱われ、何もかも失ってしまった自分を、馬瓏琉と名乗るこの男は理屈抜きで真っ直ぐに、『お前の力が必要だ』と言ってくれた。それが京介には何よりも嬉しかった。
 それに馬瓏琉は、京介の話を最後まで真剣に聞いてくれて、最後まで自分の事を馬鹿にするような事は無く、それどころか変な先入観を持たずに共感までしてくれた。
 自分が目指す道は京介と同じなのだと。だから自分の傍にいろと。

 ついさっき会ったばかりの、しかも先程まで自分を殺そうとしていた京介に対して、王としての威風堂々とした態度で。
 おまけに『俺と一緒に世界を滅ぼそうぜ』などと・・・しかもその滅ぼす手段というのが、《剣》の力で瑠璃宮の門を開放するなどという、あまりにも馬鹿げた行為だ。

 やっぱりこの人は、馬鹿なのかもしれない。
 だが、だからこそ器が大きいと言うべきなのか。
 人の話を聞こうともせず、変な先入観で自分を迫害した鬼切り部の連中と違い、この人は人の話を最後まで真剣に聞いてくれて、理屈抜きで自分を必要としてくれた。 
 俺とお前の出会いは運命だ・・・確かにその通りかもしれない。
 この人こそが、自分が仕えるべき真の主なのだと・・・京介はそれを確信したのだ。

 「馬瓏琉・・・いいや、『大いなる王』よ。」

 京介は立ち上がり、馬瓏琉に対して跪く。

 「あぁ!?俺は夷の王だ!!俺に変なあだ名を付けてんじゃねぇ!!」
 「いいや、貴方は夷の王だなんて小さい器に収まる人じゃない・・・全ての頂点に君臨すべきお方・・・『大いなる王』だ。」 
 「・・・まあいい。別に悪くはねぇなぁ。好きに呼びやがれ。」
 「大いなる王よ・・・我が名は富岡京介。今日この時より貴方を唯一の主とし、全身全霊をもって貴方の為に尽くす事を誓います。」
 「おうよ。世界を滅ぼした暁には、真っ先にお前に真の理想郷を見せてやるからよ。楽しみにしてやがれ。」

 馬瓏琉の手を借りて、京介は立ち上がる。
 新たな主を見据える京介の表情は、とても清々しさに満ち溢れていた。
 鬼の脅威から人々を守る為に命懸けで戦ってきたというのに、千羽党の為に必死に尽くしてきたというのに、そんな自分を千羽党は裏切り者だと迫害した。
 その事で京介は絶望したが・・・そんな京介を馬瓏琉は必要だと言ってくれて、救いの光を与えてくれたのだ。

 だからこんなクソみたいな世界なんか、馬瓏琉と一緒に滅ぼしてしまえばいい。
 もしかしたら馬瓏琉は、自分の事を使い捨ての駒として利用しているだけなのかもしれないが、それでも別に構わない。
 この腐れ切った世界を滅ぼす事・・・それが京介の今の望みであり、馬瓏琉はそれを叶えてくれるというのだから。
 その為にこの人の為に精一杯尽くしてやろうと・・・京介はその決意を顕わにしていた。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 それから京介は馬瓏琉と共に卯良島に向かい、根方と一緒に儀式についての打ち合わせを済ませた上で、《剣》に関しては馬瓏琉に、生贄に関しては根方に全て任せる事にして、京介は儀式の下準備などを進める為に、数日間馬瓏琉の元を離れる事になった。
 だが・・・数日後に全ての準備を整えた上で、意気揚々と卯良島に戻ってきた京介が目撃した物は・・・首を飛ばされて無造作に墓を立てられ、土の中に埋められていた馬瓏琉の遺体だった。

 一体誰が王を・・・!!怒りに打ち震える京介だったが、幸いな事に馬瓏琉が死んでからそんなに時間が経っておらず、また魂は未だに肉体を離れてはいなかった。
 人は死んだ時にこの世に未練があると、成仏出来ずにこの世を彷徨う幽霊になると言われているが・・・まさしく馬瓏琉はその一歩手前だったのだ。

 それに頭は強い力で潰されてしまっているが、身体の方は大した損傷は無い。
 この状態なら自分の『力』で死体の腐敗を抑えれば、大掛かりな蘇生の術を行う事で馬瓏琉を生き返らせる事が出来る・・・だがその為には生半端では無い程の強力な触媒が必要だ。
 京介の身体に流れる『神の血』や、馬瓏琉が探していた《剣》に匹敵する程の、相当強力な力を秘めた触媒が。

 そこで京介はすぐに馬瓏琉に施術を施して遺体を保存し、強力な触媒を探す為の旅に出る事を決意する。
 その旅の果てに京介は遥と運命的な出会いを果たし・・・遥と渚がその身に特別に濃い『神の血』を宿している事を突き止める。
 そして2人は互いの利益の為に手を組み・・・渚を手に入れる為に経観塚を訪れる事になるのである・・・。

7.生きる証


 「そうさ・・・僕は渚君と遥君の『神の血』の力で、『大いなる王』を必ず蘇らせる!!例え僕の全てを犠牲にしてでもぉっ!!」

 京介が放つ無数の光弾が、柚明を徐々に追い詰めていた。
 あまりの威力、そして京介の凄まじい気迫と信念によって、柚明が展開した障壁に亀裂が入る。
 京介の、まるでこの世界の全てに絶望してしまったかのような、鬼のような形相。
 一体何をどうしたら、普通の人間がここまでの形相になってしまうのか。柚明は心の底から驚きを隠せなかった。

 「富岡さん・・・貴方は一体・・・!!」
 「その為に僕は君を倒す!!君が僕の障害になるというのであればぁっ!!」
 「くっ・・・障壁がっ・・・!!」

 派手な音を立てて、柚明の障壁が粉々に破壊される。 
 とっさに無数の光弾を避ける柚明だったが、京介のあまりの気迫故に全て避け切れる事は出来ずに、光弾の1つが柚明の左肩に直撃した。

 「がはっ・・・!!」

 左肩に響く激痛。それでも体勢を崩されながらも、どうにか倒れずに持ちこたえる。 

 「ぐっ・・・私はまだ・・・!!」
 「中々しぶとい・・・ここまでやっても倒れないとは・・・ならば!!」

 京介の杖の先端から、蒼白の光の刃が出現した。
 それはさながら、全てを切り裂くビームサーベルの如く。
 やはりギリギリの所で、柚明の実力は京介を上回っている。このまま持久戦になってしまえば柚明に立て直されて、戦況は不利になってしまうだろう。
 だから、勝機を逃さない・・・柚明が劣勢のこの状況で、一気に畳み掛けるしか無いのだ。

 「接近戦で君を、確実に殺す!!」
 「富岡さん・・・っ!!」
 「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 光の刃を手に、柚明に襲い掛かる京介。
 柚明もまた、とっさに月光蝶を収束させて京介の光の刃を受け止める。
 バチバチと、2人の周囲に蒼白の火花が走る。
 だが柚明は京介の気迫の前に、完全に押されていた。

 「僕は『大いなる王』の幸せの為なら、自分の命さえも惜しくはない!!」
 「大切な人の為に・・・全てを捧げる人生・・・!!」
 「そうさ!!僕は『大いなる王』の幸せの為に全てを捧げる!!12年前の君が、桂君の幸せの為に全てを主君に捧げたように!!」
 「そう・・・かつては私もそうでした・・・!!桂ちゃんの為に私は全てを主に捧げた!!」

 12年前のあの日・・・桂を守る為に、柚明は自ら望んでオハシラサマになった。
 それで桂が幸せになるなら、自分はどうなっても構わないと・・・それこそ死ぬ事になっても構わないと・・・あの時の柚明は本気でそう思っていた。
 自分がいなくなったら桂はどうなるか・・・それを少しも考えようともせずに。

 「例え僕の全てを犠牲にしてでも、僕は『大いなる王』を蘇らせる!!」
 「あの時の私は、それが桂ちゃんの為になるんだと、本気でそう思い込んでいた!!」
 「それが今の僕の『覚悟』・・・そして何物にも代えられない、『生きる証』だぁっ!!」
 「だけど今は違う!!そうじゃない自分がいる!!」

 そう・・・今の柚明は、あの時の柚明とは違う。
 大切な人の為に全てを捧げる人生・・・確かに言葉だけなら、今の柚明もそれは変わらない。
 だが今の柚明にとっては、『全てを捧げる』という意味合いが昔とは違うのだ。

 「私はもう、無駄に命を散らしたりはしない!!私の命は私1人だけの物じゃないから!!」
 「な・・・!?」
 「あの頃の私は、その事を全く理解していなかった!!私の愚かな過ちのせいで、桂ちゃんを10年間も苦しめる事になってしまった!!」

 月光蝶を解除。
 京介の光の刃が、柚明の左肩に襲い掛かる。
 それを柚明はギリギリの所で直撃を避ける。柚明の左肩からほとばしる鮮血。
 勢い余って柚明に突進する形になってしまった京介の身体を、柚明はぎゅっと抱き締める。
 そこへ柚明の全身が、青く白く美しく光り輝く。背中から蝶の羽根が生える。
 その美しくも神々しい姿は、まさに蝶の化身だ。

 「くっ・・・何だこれは・・・振りほどけない・・・!?」
 「だから私は生きる!!桂ちゃんの為に犠牲になるんじゃない!!桂ちゃんの為に、私はこれからも生き続ける!!」

 柚明と京介の周囲を、無数の月光蝶が包み込んだ。

 「それが今の私の『覚悟』・・・そして何物にも代えられない、『生きる証』よ!!」
 「ぐああああああああああああああああああっ!!」

 凄まじい苦痛に絶叫する京介。柚明の『力』の奔流が、一斉に京介に襲い掛かる。
 やがて柚明の体を包み込んでいた青白いオーラと蝶の羽根は消え失せ・・・柚明の支えを失った京介の体が、どうっ・・・と地面に倒れ込んだ。

 「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・!!」

 左肩を自分の『力』で癒しながら、柚明は息を切らしながらも凛とした態度で、倒れている京介を見据えている。
 強敵だった。京介は間違いなく柚明をギリギリの所まで追い詰めていた。柚明が知っている者たちの中でも、間違いなく上位に相当する戦闘能力の持ち主だ。
 実力的には柚明が上回っていたが、それでも『気迫』は京介の方が上回っていた。
 だがそれでも柚明と京介の『覚悟』の差が、この戦いの勝敗を分けたのだ。

 大切な人の為なら、死んでもいいという京介の『覚悟』。
 大切な人の為に、これからも生き続けるんだという柚明の『覚悟』。
 自分の人生を捨てている京介と違い、柚明は桂の為に絶対に幸せを掴まなければならないという、強い信念を持っていた。それが柚明の勝利という結果に繋がったのだ。

 「な・・・何故だ、柚明君・・・何故君は、僕を殺さなかった・・・!?」
 「富岡さん・・・」
 「情けをかけるつもりなのか!?君は僕の事を侮辱しているのか!?」

 敵に情けをかけられるなど、京介にとって最大の屈辱だ。
 だが柚明は京介に情けをかけたつもりは無い。むしろこれ程までの強い気迫と信念を柚明にぶつけてきた京介に対して、心からの敬意を払っていた。

 それに今の京介は、まるで昔の柚明の姿を映し出しているかのようだ。
 桂の為に自らを犠牲にしようとしていた、あの頃の柚明と同じように・・・目の前の京介もまた、『大いなる王』の為に自らを犠牲にしようとしている。

 「生き続けて下さい。富岡さん。貴方が大切にしているという『大いなる王』の為に。」
 「・・・なん・・・だと・・・!?」

 だからその間違いは、正さなければならない。
 京介には、かつての自分と同じ過ちを犯して欲しくないから。

 「私は生き続けます。生きて桂ちゃんと一緒に幸せを掴み取ります。それが桂ちゃんの幸せに繋がるのだし、何よりも私が死ねば桂ちゃんが悲しみますから。」
 「何を・・・何を馬鹿な事を・・・!!」
 「だから富岡さん。貴方も生き続けて下さい。『大いなる王』の復活を許す訳にはいかない・・・だけどそれでも貴方は生きて、幸せを掴んで下さい。」

 死ぬ覚悟ではなく、生きる覚悟を持てと・・・柚明は京介にそれを伝えたかったのだ。
 だがそれでも、柚明の言葉は京介には決して届かない。
 柚明は、京介の壮絶な過去を知らないから。
 京介が味わった、信じていた者に裏切られた苦しみ・・・それを柚明は知らないから。

 「ク・・・ククク・・・柚明君・・・君ともっと早く出会えていれば・・・僕もこんな事にはならなかったかもしれないな・・・」
 「富岡さん・・・」
 「だけどさ・・・もう何もかも手遅れなんだよ・・・僕には君にとっての桂君のような、心の支えになってくれる奴なんかいない・・・あの忌々しい千羽党の連中が、僕を裏切るから!!」
 「な・・・富岡さん、貴方は何を言って・・・!?」

 その時、遥に敗北した梢子の悲痛の叫びが響き渡った。
 慌てて柚明が振り向くと、梢子が泣きながら天照を構え、そして渚が遥に寄り添っている。

 「富岡!!聞いての通りだ!!これ以上の戦いは無意味だ!!撤退するぞ!!」
 「ううっ・・・ぬぐっ・・・!!」
 「・・・フン、情けない奴だ。あれだけ大口を叩いておきながら、羽藤柚明に敗れたのか。」
 「う、うるさいな!!試合には負けたが勝負には勝ったという奴だよ!!ヴァリカルマンダ!!ガルガンドラ!!」

 そう・・・柚明には敗北したが、それでも柚明の足止めには成功したのだ。遥が渚の身柄を確保した以上は、京介にとってこの戦いは勝利だと言える。
 ヴァリカルマンダに自分を、ガルガンドラに遥と渚を運ばせる。

 「柚明君・・・もし君が理不尽な理由で桂君に裏切られたら、その時は君だったらどうする?さっき僕に言った言葉を、同じように言う事が出来るのかい?」

 泣き崩れる梢子を介抱する柚明を、京介は上空から絶望と悲しみに満ちた瞳で見つめていた。

 「出来るわけが無いさ!!君だってそんな事になれば心が絶望に染まり、間違いなく全てを滅ぼしてやりたいって思うだろうさ!!君だって僕と同じ、心を持った人間なんだから!!」

 千羽党が自分を裏切った、あの日の出来事を思い出す。
 もしあの時、自分の傍に柚明がいてくれたら・・・京介は心の底からそう思う。
 柚明ならきっと、変な先入観を持たずに京介を守ってくれただろうから。
 そう・・・もっと早く、京介が柚明と知り合う事が出来ていたら・・・
 きっと京介は馬瓏琉と知り合う事も無く、違う道を歩んでいた事だろう。

 だが京介が柚明に言っていたように、もう何もかも手遅れなのだ。
 烏月の祖父の陰謀のせいで、京介は全国の鬼切り部はおろか、警察にまで追われる身になってしまい・・・絶望と悲しみによって心が闇に染まってしまったのだから。 

 「そうさ・・・僕は何としてでも『大いなる王』を蘇らせる・・・!!柚明君が言うような『生きる覚悟』なんかじゃない・・・!!例えこの身を犠牲にしてでも、僕はこの使命を完遂する!!」

 決意に満ちた瞳で、京介ははっきりと宣言した。

 「それが僕の・・・『生きる証』だ!!」