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経済戦争 序章

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002834

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 にゃんにゃん共和国 天領。



 テラ領域の冒険騎士団による暴挙、などと書かれた紙が周囲に散らばってきた。



「戦争ですな」
「いよいよですか、いやー今回はいくら儲けられるやら」
「まったくです。テラ領域の連中のせいで被った損害はやつらに払わせなくては」
 人が死ぬというのに、ここにいる連中は笑いながら紙をめくっている。
死の商人、そんな言葉が頭をよぎる。
おそらくは彼らはセプテントリオンではないだろう。だが本質は同じだ。
人の生き死にでさえも、金に計算し、利益になるとあれば人の命など
最も軽く扱う。そのくせ自分の身は安全圏に置いているのだ。
 もうすでにテラ領域を支配したあとのビジネスチャンスにまで手を伸ばしている
連中すらいた。
 敵を売れ、味方を売れ、というような商人の顔だ。
自分の神ですら売り飛ばしたか?そう思わずにはいられない。
 顔をノートパソコンのモニタで隠しながら、戦争の金勘定をしている連中の
話に耳を傾ける。
もっとも周囲にはばかることなく話しているので、聞き耳をたてずとも
聞こえてくるのだが。
やれあの政治家は使えるだの、わずかな金で動く連中だから、だと
きいているだけで吐き気をもよおすようなセリフばかりだった。
公共の場でこれなのだから、人目につかないところでは何を話しているのだろう。
 金にあかせて買ったものの自慢話に映っている。



 矢上の一番よく知っている商人はサウドだが、彼とは似ても似つかない
連中がここの取引場を支配しているようだった。
 吐き気がする、と思ったが、所詮は自分も同じ穴の狢なのかとも思う。
思考はともあれ、やろうとしていることは大差ない。
 かるくため息をついて、モニタの内容に目を走らせる。
 ムダ話は、天領側の仕手にテラ領域から介入があった、という話になっている。
「それにしても、まいりましたな。」
「こちらの動きはバレてないと思いましたが、まあ早めに手を打ててよかったですよ」
「どちらにしても、テラの連中は信用がおけませんなぁ」
 どの口が言うのやら、と鼻で笑いそうになるがここはこらえる。
うっかり見とがめられて絡まれても厄介だ。
 漏れ聞こえてくる話では、天領側が仕手をやろうとしたのを
テラ領域にかぎつけられたという話で盛り上がっているようだった。
 そういえば…帝国側が仕手をしかけるという話題が出て、それを真に受けて行動した
ところがあったらしい。
 天領からしてみれば、理由はどうあれ仕手の妨害だ。誰がやったかはしらないが
身元がバレればただごとではないかもしれないな。と思う。
(いい隠れ蓑にはなったか)
 そうはいっても自分も危険なことには変わりない、適度なところで引きあげることにした。
手に入れた情報は少なかったが少なくとも収穫はあった。
 こちらの動きは相手には気づかれていないのだろう。
 情報操作もいいが、実際に彼らが何を見、何を聞いているのかを知るのも意味がある。
 おそらくは彼らは知らないだろう。
 戦争によって起こる悲劇も、それによって苦しむ人間の姿も。
 規律の乱れた兵士に襲われる女や、親を失った子がどんな目にあうか。
子を失う親の気持ちもその逆の気持ちも理解はしない。あるのは札束だけだ。
 ちらりと彼らをみて、と小さくこぶしを握る。
 みていろ、と心のなかで呟く。



 これは意地だ。意地でも、その地獄を見せようとした報いを受けさせてやる。



 モニタに移った矢上の瞳が一瞬だけ青く輝いた気がした。


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