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笑いの祭典用SS

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祭典用SS 00-00265-01:矢上麗華


 6月初旬。しとしとと小雨の降る午後。
 僕はいつもと変わらず自室でPCをいじっていた。
 母がへ・・・特殊技能で沸かした冷たい麦茶を飲む。割と美味しい。最初の頃はちょっと引いたもんだが、父も母も平然と飲んでるのに僕だけ引いてるのはなんか、僕のほうがおかしいのかと恐る恐る口にしたら予想外に普通の味だったので、それ以降は普通に飲むようになった。
 というか「家庭の方針」としてうちでは店屋物の類の買い置きは無く、買い食いも禁止、家にあるコーヒー、紅茶なども基本カフェイン禁止なので、喉を潤すためには母が作りおいた麦茶か牛乳くらいしかなく仕方なく飲むようになった側面もある。

 そんなどうでもいいことをつらつらと考えていると呼び鈴の音。
 どうやら誰か来たらしい。今家族は皆外出中。面倒だから居留守を使おうかと思ったら
「こんにちはー。お届け物でーす」の声。
 そういえば母が出かけに郵便が来るから受け取るように言ってたっけ。
 僕は仕方なく玄関に出る。子猫型ロボットのヴィンセンテもついてくる。
 このロボにはいくつか機能がついていて居場所を知らせる発信機もついている。だから母がいない時はいつも僕にまとわりついてる。母がそういう風に設定してあるのだ。正直少しうっとうしいが世界はあまり平和ではなく母の心配もわかるので我慢している。
 そんなロボを引きつれドアを開けると少し厚めの封筒を持った運送屋のおじさんが立っていた。
「矢上太郎さんですか?」
「うん、そうや」
「サインか判子をおねがいします」
 無視された。ちょっと悲しい。きっとこのおじさんは関西弁を良く知らないのだろう。 そう自分に言いきかせて、悲しい気分は表情に出さすに判子を押して封筒を受け取る。

 帰っていく運送屋さんを見送りつつ封筒を見ると僕宛だ。送り主は缶。封筒にはSSNのロゴが印刷されていた。
 自室に帰り封を開けるとDVDと14x14の作文用紙。
 作文用紙を便箋代わりに使うなよ。とぼやきつつ読んでみる。

”背景、缶です!”

 初っ端から漢字間違えてるよ。無理して漢字使うから…さすが全能力-3。

”たろうくんはげんきですか? 缶はげんきです! おやつくれ!”
”きょうはれいかさんからのちゅうもんのDVDをおくってみた!なんとげんていばん!!”
”ざんねんながらげんていばんとくべつふろくにアルミちゃんせくしーフィギュアとかはついてないけどちゃんとみてね!”

 そんなフィギュアはいらん。と心の中で全力て拒否しつつ同封されたDVDを見てみる。
 DVDタイトルは「あなたと共にあるいて行く」
 確かナイトメア対策のDVDか。でもあまり興味はそそられないな。どうせなら『夢を生成するメカニズム』とか『夢で読み解く生命の秩序と多様性』とかなら見る気も起きるのに。
 そう考えて、見ることを拒否。DVDはベッドの上に放り出して再びPCに向かう・・・が、小うるさい存在を忘れていた。子猫型のロボだ。ロボは器用にベッドの上にジャンプ。
 DVDを銜えて僕の元に戻るとDVDをゴリゴリ僕に押し付けてくる。母の仕業だろう。これは見るまで許してもらえそうに無い。ロボットだから疲れることも飽きることも無いしね。見るまでゴリゴリされ続けるだろう。

 仕方なく僕はため息ひとつついて、DVDを受け取りPCにセット。再生。

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 気がついたら小雨は止み、外が暗くなり始めていた。
 最初は仕方なしに見ていたDVDだがいつの間にか真剣に見ていたようだ。

 ま、それなりに面白かったよ。って缶に返事でも書くか。
 僕はそう言いつつ、少し赤くなった目をロボから隠すように手紙を書くために机に向かった。

/*/

 後日、ロボで隠し撮りしたDVDを見て涙する息子の写真をによによしながら眺めている母の姿があったとか無かったとか。  


                         終わり。

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