~文化祭~

「じゃあ、ウチのクラスはシンデレラでいいわね?」
 文化委員の真紅は配布されたプリントに書き込みながら言う。
 私立薔薇乙女学園。
 この学園では三ヵ月後に文化祭を控えている。
 真紅達、三年生は演劇をやることに決まっている。
 今、ちょうどその演目がシンデレラに決まったとこである。
「配役も決めちゃうのだわ。一通り書くから待っててちょうだい」
 シンデレラ、王子、魔女、継母、姉…
 つらつらとお決まりの配役が並んでいく。
「こんなものね。シンデレラ役は投票で決めればいいと思うのだわ」
 補助として真紅の隣に立っていた雛苺が小さい紙を配る。

「それに適役だと思う人の名前を書くのー」
 表面上穏やかに、翠星石は燃えていた。
 ――シンデレラは翠星石がなるです!そして王子は蒼星石がなれば…!
 数分後、真紅がその紙を集め、開票する。
『真紅:7票。翠星石:4票。雛苺:10票。水銀燈:19票』
 ――4票だったですぅ…。
「シンデレラ役は水銀燈で決まりなのー」
 クラス中で小さく拍手が起こった。
 ――王子役は絶対、絶対、絶対に蒼星石がなっちゃうです…。はぁ…。
「…私、辞退するわぁ…」
 突然、水銀燈が呟いた。

「な、何でなのー?」
 雛苺が水銀燈に問う。
「だってシンデレラって主役でしょぉ?やーよ、そんな大役」
 水銀燈は苦笑しながら続けた。
「私は翠星石が適役だと思うわぁ、だって一応、掃除好きじゃなぁい?」
「シンデレラと掃除は関係あるのー?」
「あら、だって最初は掃除してるじゃなぁい?」
「それは好きでやってるわけじゃ、むぐっ…!?」
 鋭い突っ込みをする真紅の口を両手で塞ぎ、水銀燈は翠星石に目配せをする。
 ――す、水銀燈!
「ね、みんなどう?」
 怪しく光る瞳ににらまれては誰も反論しない。
「みんな、賛成みたいよぉ。決まりね?」
 みんなはただただ、固まっていた。

 この後も配役はすらすら決まり、主要人物は決まった。

 王子:蒼星石
 魔女:雛苺
 継母:真紅
 姉二人:金糸雀&水銀燈
 ナレーター:薔薇水晶
 家来:雪花綺晶

 翠星石の目論みどおり、蒼星石の王子役は満場一致だった。
 他のクラスメイトは大道具や衣裳、脇役をかって出た。

「水銀燈!」
 部活が終わり帰ろうとしていた水銀燈を翠星石が呼び止めた。
「なぁに?」
「こ、コレ!部活で焼いたクッキーです!やるです!」
 可愛くラッピングされたクッキーを翠星石は手渡した。
「べ、別に今日のコト、感謝してるわけじゃないですよ!ただ余ったから…」
「ありがたく受け取るわぁ。頑張ってね、シ・ン・デ・レ・ラ」
 最後にコツン、と額を人差し指で突いた。
「あ、当ったり前です!別に蒼星石が相手だから頑張るわけじゃないですよ!」
「僕がなんだって?」

 ひょっこりと水銀燈の後ろから蒼星石は姿を表した。
「ひゃあっ!蒼星石、いたですか!?」
 慌てて、翠星石は尋ねた。
「部活おわったから来てみればいないんだもの。探したよ」
「それはスマンです…さぁ!ちゃっちゃっと帰るです」
 待ってよ、と追い掛ける蒼星石も気にせず翠星石はズンズンと歩いていった。
「水銀燈、帰るのだわ」
「今行くわぁ」
 二人を笑顔で見送った水銀燈は真紅にそう答えた。


「さっき、水銀燈と何話してたの?」
 やっと普通のペースで歩き始めた翠星石に蒼星石は尋ねた。
「べ、別に何でもないですぅ!蒼星石は気にするなですぅ!」
 納得はいかないながらもこういう姉の姿は見慣れているので、ふーん、とだけ蒼星石は呟いた。
「そういえば、今日、水銀燈が言ったコトはビックリしたなぁ」
 ドキッ、と翠星石の心臓が跳ねた。
「な、何がです?」
「ほら、シンデレラの役は翠星石がいいって言ったろう?少し驚いた」
 なんとか動揺を隠して、翠星石は会話をしていた。
 ――蒼星石はどう思ってるのでしょう…?
「そ、そ、蒼星石は!」
 加速していく心臓を押さえ付けて翠星石は続けた。
「どう思ってるです?」

 きょとん、と翠星石の顔を少し眺め蒼星石は視線を戻した。
「うーん、そうだなぁ。翠星石は少し感情の起伏が激しいけど…」
 少し考えながら蒼星石は言い、
「シンデレラ役、あってる思うよ!」
 と、満面の笑みで翠星石に言った。
 その発言に顔を真っ赤に染めたが、下を向いて顔を隠して、ありがとです、と呟いた。


ちなみに
「この金糸雀が楽してズルして台本書くかしらー」
 と、絵本を見ながら言う金糸雀の姿があった。

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最終更新:2006年06月02日 18:56