足音が聞こえる、この瓦礫と屍の世界でたった一つの足音が。
そいつは僕の向こう側、瓦礫の壁を挟んだ所まで肉薄していた。あっちもそれに気付いているらしい、足音は其処で止まったままだ。緊張が走る、生死をかけた堪らないほどの寒気がする。
轟音と共に瓦礫の壁は吹き飛んだ、砂煙が舞う。僕は破片に飛び移りながら上昇し辺り一面を見回した。けれども奴がいない。

 「甘いわ!」

僕の更に上空で金色の二つに結った髪が灰色の空に揺らめく、手に持ったステッキをそいつは僕の脳天に思いきり打ち付けた、僕は落下し地面に叩きつけられる。背中から落ちた、だが奴は休む間も与えずに追撃する。だが僕はそれが狙い目だった。
油断していた奴はステッキを下向きに構えた上空からの下突き体制で落下して来る。僕は寸前でそれを回避すると奴のステッキは地面に深く突き刺さってしまった。
得物が使えない敵など大したことはない、僕は正拳を繰り出す。だが奴は刺さったステッキを軸にして体を回転させて回し蹴りを食らわせる、不可視の速度で移動した奴は怯んだ僕の腹に奴は手を翳した。
奴の手からかなり圧縮された魔力の塊、それは花弁のようだった、が溢れ出し僕を吹き飛ばす。

 「ぐく…クソ…、殺すなら殺せ!僕は死ぬことなんか怖くない!」
 「最後まで意地を張るのね…けれどもそうでなくては張り合いがないのだわ。」

冷酷な青い瞳が僕を見下ろす、奴は再び手を翳した。身構える僕に奴は思いがけない言葉を投げかけた。

 「さるマエストロから秘法を奪いその名を轟かせた、大盗賊ジュン…お前はこれから私と契約をするのよ。」
 J「は…?」

契約?退魔士と『人ならざるもの』である僕が?退魔士ならば普通なら僕等は討滅すべき対象の筈だった。それなのに契約をする?僕はコイツが正気かどうか分からない。だが冷静に考えればこのままちっぽけな意地を貫いて死んでも僕の願いは叶わないかもしれない。

 J「分かったよ、大盗賊『魔眼』ジュンはお前と契約するよ、えーと…」
 「真紅よ、私と契約するということは時に同胞と敵対することになるかもしれない。それでもいいのね?」
 J「構わない、僕には叶えたい願いがあるんだ。そのためだったらこの手が血で濡れて臭いが取れなくなってもいい。」
 真紅「そう、ならば貴女は私の下僕ね。」

こうして嘗て大盗賊として名を馳せた僕は人間、それも退魔士のパートナーというよりも下っ端となった。
これから僕達の運命は大きく動き出す…。

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最終更新:2006年05月15日 20:32