結果的に言うなれば……
鬼の召喚は、無事に成功した。
そう、鬼の召喚だけは無事に成功した。
鬼を召喚する為に地面に書かれた奇妙な方陣の真ん中に、黒い鬼が居る。
そして……その黒い鬼を中心に、血の海が広がっていた。
人の腕が足が頭が胴体が、血の海に転がっていた。
黒い鬼は、動き始めるとまず血の海に転がっている肉片を食べ始めるのだった。
腹が膨れたのか……黒い鬼は、分厚いコンクリートの壁を破壊し外へ向かうのであった。
某山の某祠には、人の形に近い石が山の守り神として祭られている。
守り神の名前は、部慈偉雫と言い余り知られてはいないが……
昔、この山が荒れていた荒山だった頃。
この石を守り神として祭った所……荒山が、緑溢れる山となったと言われている。
丁度、その祠の傍らにある小屋から、老婆が出てきて布巾と
水の入った昔ながらの木で作られたバケツを持ち祠の中へと入ってゆく。
祠の中に入った老婆は、目を真ん丸く見開いた。
其処に石はなく……石の代わりにいたのは……
『おう。ばぁさん。毎日毎日ありがとよ』
胡坐をかいて座る一本角の鬼。
老婆は、相変わらず目を真ん丸く見開いたままだが、だいぶ落ち着いてきたのか鬼に尋ねる。
「こ、此処にあった守り神様はどうしたのかぃ?」
『ん? だから、いったじゃねぇか。毎日毎日ありがとよってよぉ』
「あ、アンタが守り神かい!?」
『だから、そうだってんだろぅが』
驚いたように言う老婆に、少々苦笑気味にそう告げる鬼。
『さてと……おう、ばぁさん。本当に毎日ありがとよ。ばぁさんのおっかさんのおっかさんのおっかさん以前から
本当に、ご苦労さんだった……』
鬼は、老婆に向かって深々と頭を下げる。
そんな鬼を見て老婆は、慌てた様に頭を上げて欲しいと告げる。
鬼は、ゆっくりと頭を上げた後立ち上がった。
『さて、ちょいっと行かないといけねぇんだ』
「………守り神様を世話する一族として、これからどうしたらいいもんかねぇ?」
『さぁなぁ……孫の顔でも見に行くのなんていいんじゃねぇか?』
「それもいいかもしれんのぅ……もう何十年とあっておらんわ」
『だろう? 俺も、孫っても……孫の孫の孫の孫の……まぁ、長い年月経過してっと血ィ薄れてんだけどナァ
ソイツに会いに行かなきゃいけねぇんだ』
鬼は、少し恥ずかしそうに頬を掻く。
『でだ、ばぁさん……八乙女ってしってっか?』
「無論じゃ。ワシらは、それに列なる一族じゃて」
『じゃぁよ……今八乙女がいる場所の方角ってどっちだぁ?』
「………」
鬼の言葉に、老婆はスッと老婆から見て北。鬼からみて鬼の真後ろを指差した。
『おう。あんがとよ。用事終わったらまた戻ってくるぜ』
「期待せんでまっとるよ」
鬼は、クルリと踵を返すと木の床を力強く踏みしめ祠の屋根をぶち破り飛び出した。
そんな鬼を老婆は、何処か役目を終えた様なほっとした表情で見送るのだった。
「鬼ぃ石になりてぇ、遥か時ぃすごしぃ……
然るべき時ぃ目ぇ覚まさん…………きっと、今が然るべき時なんじゃろなぁ……」
老婆の呟きが、祠に響いて消えた。